米津玄師「vivi」の歌詞を考察
悲しくて飲み込んだ言葉
ずっと後についてきた
苛立って投げ出した言葉
きっともう帰ることはない
言葉ってそうですよね。
言えなかった言葉って、ずーっと引っ掛かります。あの時こう思ってたのに、こう伝えたかったのにって後から後から思って、ずっとついてきます。
苛立って勢い余ってつい言ってしまうこと、時にはわざと相手を傷つけたくて酷いことを言ってしまうこともあるけれど、言葉にして投げつけてしまったら、それはもう取り消せない。謝って許してくれたとしても、酷いことを言ってしまう前には決して戻れないのです。
言葉にすると嘘くさくなって
形にするとあやふやになって
丁度のものはひとつもなくて
不甲斐ないや
言葉にしても贈り物にしても、気持ちを伝えたいのに、自分の気持ちを正確に伝える事は出来ない。
この後出てきますが、二人は離れ離れになります。おそらくその事を伝えたいのだと思います。「君が好きだけど物理的に離れて遠くへ行こうとする僕の気持ち」は、たぶんどうやって表現しても女性には理解してもらえないでしょうね。
愛してるよ、ビビ
明日になれば
バイバイしなくちゃいけない僕だ
灰になりそうな
まどろむ街を
あなたと共に置いていくのさ
愛してるよ、ビビ
凄く簡潔な愛の言葉です。でもその後にすぐに「明日になればバイバイ」と続きます。そうすると、すごく悲しいお別れの挨拶に聞こえます。「愛してるよ」っていう別れの言葉。例えば死にゆくときの別れの挨拶としては相応しいと感じます。つまり僕はもう二度とビビに会うことは無いと思っているのでしょう。
「バイバイしなくちゃいけない」という言い回しが独特です。しなくちゃいけないんです。バイバイしたい訳ではない、バイバイさせられるという様なニュアンスがあります。では「誰に(何に)バイバイさせられるのか?」という疑問が湧きます。
次に「あなたと共に置いていくのさ」と言っています。まどろむ町、つまり微睡むほどの退屈な町。灰になりそうという言葉も、朽ちていくイメージが湧きます。そんな町を置いていくのです。あなたと共に。
おそらくその町のことも嫌いではないのでしょう。あくまで町も「置いていく」のです。捨てるわけでも、逃げだすわけでも無く、僕が前にすすむから、町はそこに置き去りになるのです。
あなたへと渡す手紙のため
いろいろと思い出した
どれだって美しいけれども
一つも書くことなどないんだ
でもどうして、言葉にしたくなって
鉛みたいな嘘に変えてまで
行方のない鳥になってまで
汚してしまうのか
最後の手紙、お別れの手紙を書こうとしているのでしょうね。
書くことなんてないけれど、言葉にしたくなる。
恐らくビビを愛していた自分、愛していた時を形に残したい、そして伝えたいんだと思います。
けれど言葉にすると「鉛みたいな嘘」になり「行方のない鳥」になってしまいます。鉛色といえば灰色で、心に鉛があるといえば重苦しい気持ちのことを言います。楽しく美しい思い出も、手紙に書いたとたん重苦しく鈍った色の嘘になってしまう、行方のない鳥の様にふわふわとどこかへ消えてしまう、そう感じています。そうしてそのことを「汚してしまう」と表現しています。
つまり、僕はビビとの思い出を神聖化しているのだと思います。二人で過ごした輝かしく美しい日々。それは凡庸な言葉では決して語れない、人とは共有できないほどの記憶。それを言葉にすること、手紙に書くことで「汚れる」、つまり人が想像するような普通の楽しい思い出になってしまうと感じるのだと思います。
愛してるよ、ビビ
明日になれば
今日の僕らは死んでしまうさ
こんな話など
忘れておくれ
言いたいことは一つもないさ
今日の「僕ら」は明日になったら死んでしまう。明日の「僕ら」は今日とは別の「僕ら」なのです。なんて刹那的。今日の「僕ら」には今しかなくて、未来のこと、明日のことですら信じられないのです。
明日には僕にはビビより気になる物事ができるかもしれないし、ビビの気持ちも離れてしまうかもしれない。ビビのことを愛しているけど、根本的には信じていないのです。そして僕自身のことも信じていない。何も信じていないから、確かなのは今いる「今日の僕ら」だけなのです。
「こんな話など忘れておくれ 」ということはビビにもそれを伝えたということですね。酷い話ですよね、一方的に僕の気持ちを押し付けられるビビは、恐らくただ辛い気持ちになると思います。愛してるから尚更です。挙句の果てに「言いたいことは一つもない」ときました。ビビとしては僕の気持ちを理解したいはずです。なんでも教えて欲しい、そして自分のことも二人の未来も信じて欲しいと思うでしょう。でも「僕」はそうしてくれません。「忘れてくれ」「なんでもないよ」というのです。
溶け出した琥珀の色
落ちていく気球と飛ぶカリブー
足のないブロンズと
踊りを踊った閑古鳥
忙しなく鳴るニュース
「街から子供が消えていく」
泣いてるようにも歌を歌う
魚が静かに僕を見る
どうにもならない心でも
あなたと歩いてきたんだ
この辺はさっぱりわかりませんでしたが、YOUTUBEのコメントなどを読んで「3.11の震災を示唆している」とありました。
なるほど、忙しなくスマホを鳴らすニュース、ひっちゃかめっちゃかで、あり得ないことが起こる日々…震災と言われると納得です。
そんな中で心はどうにもならないですよね。前を向けと言われても前を向けないし、死んだ人のために頑張ろうと思える時もあれば、一緒に死んでしまいたかったと思うことも一度ではないでしょう。そんなどうにもならない気持ちで過ごす日々を、ビビと一緒だから乗り越えられたのかもしれません。
それでは二人の日々を神格化してしまうのも納得です。そして、未来を信じられないことも理解ができます。
震災は突然起きました。昨日まで共に笑っていた友人が亡くなったり、津波で家も職場も学校も流されたり、原発で避難区域に入り生まれ育った家に二度と帰れなくなった人も居ます。それだけの変化が、一瞬で訪れたのです。「僕」の悲観的な思考はそこから来たのでしょうね。もう何も信じられないし、何も信じないと決めてしまったのかもしれません。
愛してるよ、ビビ
明日になれば
バイバイしなくちゃいけない僕だ
灰になりそうな
まどろむ街を
あなたと共に置いていくのさ
愛してる、けれども明日には「バイバイしなくちゃいけない」。
例えば親の引っ越しについて行かざるを得ない子どもは「バイバイしなくちゃいけない」と表現するでしょう。けれども僕は愛する女性がいる少なくとも青年以上の年齢に思えます。そうすると仕事の都合で遠くに行かなくてはいけないのでしょうか。でもそれなら一緒に連れて行くこともできるし、遠距離でもバイバイする必要はないはずです。
バイバイしなくちゃいけない、と思っているのは僕自身です。町を置いて都会に行く事情があるのでしょう。でもビビを連れて行くことも待ってもらうこともできない。バイバイしなくちゃいけないんです。僕は不安なのです。先の見えない未来を信じるのが怖いのです。
言葉を吐いて
体に触れて
それでも何も言えない僕だ
愛してるよ、ビビ
愛してるよ、ビビ
さよならだけが僕らの愛だ
言葉を吐く。言葉は普通吐くとは言わないですよね。吐くのは嘘です。嘘吐きと書いてうそつきと読みます。「好きだよ」「離れたくない」などビビに言う言葉はどれも嘘と言えないにしても、本当の気持ちから離れてしまうのです。
体に触れて、抱きしめてキスをして体を繋げても、何も言えない。何も言えないとは、確かな事、本当の気持ちが何も言えないということだと思います。だって、未来のことも、自分自身のことも信じられないのですから。
「愛してるよビビ」
本当に伝えられるのは、この愛しているという別れの言葉だけです。愛しているのは本当なんでしょうね。でも置いていくのです。なぜなら「さよならだけが僕らの愛」だからです。
今日の僕らは完璧だけど、明日の僕らはもう別人です。ましては未来の二人はどうなっているのでしょう。僕らは他の人とは違って特別で、今日の僕らですら、二度と取り戻せない神聖で美しいものなのです。だからこそ、連れて行くことも待っていてもらうこともできない。二人の愛を完璧に残すためには、ここで終わりにするしかないのです。
若さが辛い…! 中二病じゃないけど、若いときってこういう事を言いがちじゃないですか?0か100かで考える。All or Nothig。手に入らないなら努力するだけ無駄だとか、復讐のために死んでしまいたいとか、どうせ死ぬのになぜ生まれてきたのかとか。それも若さだと思います。
ずっと自分の気持ちが変わらないと誓うことも出来ないし、相手を信じることもできない。そんな猜疑心が強く諦めが早い僕は、完璧主義なのです。
二人の関係を汚したくないならば、終わりするしかない。そして傷つきたくないのです。ビビの気持ちなど知った事ではなくて、自分を守るために「バイバイしなくちゃいけない」などと「仕方ない」みたいな態度で別れを選択しているのです。なんという若さ。なんというエゴ。
色々書きましたが、私はこの歌が好きです。このアルバムで一番好きです。この歌を聴くと、高校生の自分と、高校生の時の恋人のことを思い出します。若い頃はこうだったな…と思います。私なぞ若い頃は震災体験してないんですけどね。
追記:YOUTUBEの画像を見たら、「僕」が人ではない、ロボットのような生物でした。ということは「バイバイしなくちゃいけない」のは能動的ではなく、受動的な「バイバイさせられる」理由があるのかもしれません。「さよならだけが僕らの愛」なのも、(種族的な問題で?)決して結ばれない事が分かっているからかもしれませんね。つまり若い(痛い)思い出を抱えているのは私だけっていうオチかも!


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