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タコピーとWBC ――「配信主導」と「画面」としてのテレビ

まつもとあつしジャーナリスト・研究者
アニメ「タコピーの原罪」公式サイト|TBSテレビ https://www.tbs.co.jp/anime/takopi_project/ より引用

 コンテンツの視聴環境が大きく変化していることを示す出来事が続いています。8月26日にNetflixが来年3月開催のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)について、日本国内における全試合の独占配信権を獲得したと発表。一方、その内容から地上波放送が難しいとされたアニメ『タコピーの原罪』は、テレビ局自らが配信のみを視聴ウィンドウとして選択し、国内外で高い評価を獲得しました。

◆ネットフリックス 来年の野球のWBC 国内独占放送権獲得と発表 | NHK | #WBC(野球) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250826/k10014903831000.html(8/26)

◆『タコピーの原罪』がアニメ史上最高の評価、世界最大級の映像情報サイトIMDbで | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン) https://forbesjapan.com/articles/detail/81282 (8/14)

もちろん、この二つのコンテンツの性質(有料/無料)や視聴者層(一般層/コア層)は全く異なります。しかし、この両極端とも言える事例が、奇しくも同じ『配信主導』というメディアの大きな構造変化を指し示しています

WBCとAbemaの成功が示す「スポーツ配信」のパワー

 WBCについてはNetflixが配信のみならず放送権も獲得したことで、地上波での無料視聴機会が失われることが確実視されています。共催者であった読売新聞社は8月27日、「大変残念に思います」との声明を発表しました。以下は声明文からの抜粋ですが、相当強力な(強引な)ディールがあったことが窺われます。

前回2023年のWBC1次ラウンド東京プールの試合中継は、WBCIが当社を通じ、国内の複数の民間放送局及び海外の配信事業者に放送・配信権を付与し、地上波の番組での生中継が実現されました。しかし、本大会では、WBCIが当社を通さずに直接Netflixに対し、東京プールを含む全試合について、日本国内での放送・配信権を付与しました。

 2022年のサッカーW杯では、テレビ放送が一部の試合に限られていたのに対し、Abemaは全64試合を網羅した点が多くの視聴者に支持され、大会期間中の1週間の視聴者数は3,000万人を突破したと発表されています。放送という選択肢がある中で、より魅力的な視聴体験を提供した配信が選ばれたこのケースも、メディアの主役交代を示す象徴的な出来事となりました。

 配信事業者にとって、WBCやW杯のような「一期一会」のリアルタイム大型イベントは、独占配信をフックに新たな会員を大きく増やす絶好の機会となっているのです。

配信のみの『タコピーの原罪』が示した可能性

 スポーツやライブの中継など、リアルタイムの盛り上がりがフックになるコンテンツに対して、テレビアニメ(毎週最新話が放送されるシリーズアニメ)はテレビ放送が持つ「1週間のインターバル」を生かしたSNSでの継続的な話題喚起が強みになっています。Netflixのような配信サービスでよく採られる「一気見(ビンジウォッチ)」では、このインターバルがなく、SNSでの盛り上がりに欠け、配信独占タイトルは成功しづらいとされてきました。しかし『タコピーの原罪』は、配信のみでありながら数多くの配信サービスで1週間ごとに1話を公開する手法を取り、この課題を乗り越えたように見えます。

『タコピーの原罪』公式サイト配信情報をもとに筆者作成。ありとあらゆる配信サービスが網羅されている。
『タコピーの原罪』公式サイト配信情報をもとに筆者作成。ありとあらゆる配信サービスが網羅されている。

 独占配信契約に拘らず配信範囲を最大限拡げたことが公式サイトの情報からもわかります。そして配信のみをウィンドウとしたことで原作の衝撃的な展開や描写を尊重した表現が可能となり、国内外のファンから大きな支持を集めることに成功し、毎週の更新に合わせてSNS上での考察や感想が爆発的に盛り上がるという、テレビ放送が得意としてきた熱狂のサイクルを、委員会幹事であるテレビ局自らが配信プラットフォームのみで再現してみせたことも印象的です。『タコピーの原罪』の成功は、アニメ配信の一つの節目になったと言えるでしょう。

「画面」としてのテレビを巡る綱引き

 これら一連の出来事の根底には、私たちの生活と視聴行動の変化があります。博報堂の調査によれば、メディア総接触時間のうちスマートフォンの利用時間が151.7分と、テレビのリアルタイム放送視聴(134.7分)を初めて上回り、最大のシェアを占めました。

 しかし、より注目すべきはテレビという「画面」の使われ方の変化です。同調査では、テレビ画面でTVerなどの見逃し配信や、YouTube、Netflixといった配信コンテンツを視聴する人が約5割に達しており、もはや「テレビを見る=放送を見る」という等式は成り立ちません。

博報堂 メディア環境研究所 「メディア定点調査2025」時系列分析  https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/117303/ より引用
博報堂 メディア環境研究所 「メディア定点調査2025」時系列分析 https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/117303/ より引用

 可処分時間の奪い合いは、スマホとテレビというデバイス間だけでなく、テレビ画面の主導権を巡る「放送事業者 vs 配信事業者」の競争という新たな局面に入っています。

 配信側はリアルタイム大型イベント中継などの独占コンテンツで新たな視聴者を獲得し、放送側はTVerなどをきっかけとした毎週話更新コンテンツを通じて「画面」の奪還を図る。それぞれのプレイヤーが、視聴者の行動変容を洞察し、新たな届け方を模索している只中に私たちはいるのです。

今週の注目ニュース(2025/8/24~2025/8/31)

※更新時間などの関係で先週紹介できなかったものも含むことがあります。また日付は原則として降順です。一部会員登録が必要なサイトが含まれることがあります。

◆西新宿にアニメ特化の音響制作スタジオ イマジカグループが設立 http://animationbusiness.info/archives/16893 (8/30)

→記事中でも紹介されていますが、周辺にはufotableやCloverWorksなどの有力スタジオが進出しています。西新宿エリアがアニメコンテンツ制作やビジネスの集積地となりつつあります。

◆TVer大場洋士社長「広告に期待、25年度は2倍成長目指す」 - 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC257UM0V20C25A7000000/ (8/29)

→テレビという「画面」を巡る綱引きの放送側の鍵を握るのは、日本においてはTVer。一方で広告売上には限界もあるはずで、「広告」後の成長戦略も気になるところです。

◆ラノベ出版・アニメ製作のオーバーラップ 東証グロース市場上場へ http://animationbusiness.info/archives/16889 (8/29)

→メディアファクトリーからの独立から10年以上を経て上場。株式会社ポケモンの支援も大きかったと思います。

◆映画監督の押井守さん アニメ業界目指す若者にエール 高知|NHK 高知県のニュース https://www3.nhk.or.jp/lnews/kochi/20250828/8010024512.html (8/28)

→「アニメ業界の仕事はアニメーターだけでなく様々な職種の人たちがアニメの現場を支えている」という押井監督の言葉はその通りです。地方でその仕事を創出するには、下請け制作だけでは難しいという点をどうするか?

◆『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』がNetflixの「史上最多視聴記録」を更新 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン) https://forbesjapan.com/articles/detail/81596 (8/27)

→「シングアロング(応援上映)」版の劇場上映、サウンドトラックのビルボードトップ10入りなど記録を次々に打ち立てています。韓国エンタメが日本アニメの強みとなっている要素を体得しつつある、とも言える動きです。

アニマックス、キッズステーションを吸収合併 法人としてのキッズステーションは解散へ | gamebiz https://gamebiz.jp/news/411432 (8/27)

→配信に主戦場が移る中、放送の存在意義をどこに見いだすか(筆者はあると考えています)、事業や編成の最適化など模索が続きます。

◆【発表】「世界を変える30歳未満」30人 「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2025」に選ばれたのは? | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン) https://forbesjapan.com/articles/detail/81496 (8/25)

→星街すいせいさんが表紙を飾り、人気テレビアニメでの起用が続くアニメーターのけろりらさん、短編アニメーション "THE COLLISION"で注目を集める3Dアニメーターの梨さんも選出。書店では品薄となっています。

※2025/08/31 18:09 導入文を調整しました。

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ありがとうございます。
ジャーナリスト・研究者

専修大学文学部ジャーナリズム学科特任教授。IT系スタートアップ・出版社・広告代理店、アニメ事業会社などを経て現職。実務経験を活かしながら、IT・アニメなどのトレンドや社会・経済との関係をビジネスの視点から解き明かす。ITmediaにて「アニメのミライ」連載中。デジタルコンテンツ関連の著書多数。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士(プロデューサーコース)・東京大学大学院情報学環社会情報学修士 http://atsushi-matsumoto.jp/

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