第56怪 言語魔術の発動の仕方
ようやく全員が終わり、俺と佐渡教官だけが残される。
「俺ももう終わりでいいですか?」
「
佐渡教官が両腕を組みつつ、神妙な口調で尋ねてくる。
「どうって言われましても……」
「私は父がエルドラ出身だ。エルドラ異母兄から、お前がどういう存在かは聞いている。この私に謙遜も誤魔化しも必要ない。思ったように話してくれていい」
エルドラ出身でしかも、異母兄から俺について聞いたか。十中八九、あのエルドラの村、【金澤村】の関係者だ。どうりで、佐渡教員の言動からは俺に対する侮蔑や敵意というものが感じられなかった。嘘を言っても、面倒な事になるだけかもな。
「この学園では随分、非効率的なことをしているだなと」
これが俺の正直な感想だ。ルーン語で発動して得られる恩恵などそう大きいわけではない。ルーン文字が母国語以上に扱えるような特殊事情がある者以外に拘る意味はあまりない。そんな事に労力を使用するよりも、魔力を上手く調節できるようになった方が遥かに有用だと思う。
「非効率的? どこがそう思った?」
眉根部を寄せながら、尋ねてくる佐渡教官。
「わざわざ、できもしないルーン文字を使用していることですよ。真面に飛ばせないくらいなら、母国語でやりゃあいいのにと思っただけです」
「今、母国語でやればいい、そういったのか?」
俺の返答に目を見開き、呆気にとられた表情で俺にそう問うてくる。
「そりゃまあ、魔術の発動は言語よりも魔力の操作の方が遥かに重要ですし」
「ルーン語以外で魔術を発動してくれ」
佐渡は俺の前までくると強く口調で声を張り上げる。
「はあ……」
その鬼気迫る様子に若干圧倒されながらも、所定の位置に着く。
「揺らめき輝く青き炎よ、我に力を」
各分節に魔力を込めながらも、詠唱をする。直後、俺の眼前に出現した蒼炎の球体が爆風を上げて的へと驀進しその中心に直撃すると青色の炎を上げて燃やし尽くす。
「……」
佐渡教官は茫然と眺めていたが、
「あれはお前の固有魔術か?」
「いえ、ただの【
「それは俺にも使えるということか?」
「え? そりゃあ使えるでしょうね」
「次は私がやる。頼む! 教えてくれ!」
目を血走らせて俺にそう懇願してくる佐渡に、
「は、はあ、いいですけど……」
若干引き気味に頷く。
本当に母国語での魔術の発動を知らないってのか。いや、流石にそれはないか。多分、試されているんだろうさ。要するに、これも実習のうちということだ。
ま、なるようになるさ。
「呪文は、『揺らめき輝く青き炎よ、我に力を』です。ただし、ルーン語との違いは、『揺らめき輝く青き炎よ』の倍の魔力を『我に力を』に加えて唱えることです」
ルーン語はこんな調節をしなくても、一定以上の魔力をルーン文字に込めれば発動する。ルーン語で魔力を調節すると、威力と精度のブースト効果が付与されるわけ。
母国語はまず、このルーン文字に込める魔力を微妙に調節しなければ発動自体がしない。ただし、その魔力の量が適切ならば、限りなくルーン語に近づくこともできる。
「呪文に魔力を込める?」
「言葉に魔力を込めるんですよ。基本はルーン語での発動の時と同じです。ただ、その際のコツは言葉に魔力を乗せる感じです」
杖を的に向けて佐渡教官は瞼を閉じる。そして――。
「揺らめき輝く青き炎よ、我に力を」
たどたどしい言葉で詠唱をするが、うんともすんとも言わない。当然だ――。
「そもそも言葉に魔力が乗っていません」
「それはどういう感覚なんだ。どうしてもイメージがわかない」
イメージか。今までごく自然にやってしまっていたからな。確かに改めて考えてみるも面白いかも。
「腹の底の熱を感じたら、円を描くように引き出していきます。それを口に持っていき、言語化する際に吹き付ける。そんなイメージですかね」
改めて意識するとこんな感じだろうさ。
「魔力を口に持って行って、言語を意識して吹き付けるか感じか……」
再度、佐渡教官は瞼を閉じると、左の掌を的に向ける。
「揺らめき輝く青き炎よ、我に力を」
蒼炎が出現する。しかし、明後日の方向へと向かって天井に衝突してしまった。
あーあ、言葉に魔力の込める事には成功したが、今度は魔力の調節に失敗してしまったようだ。これが母国語の難点だ。魔力の調節に失敗すると威力や照準に著しく乱れてしまう。
「……きた」
小さく呟く佐渡教官。おそらく落胆でもしているんだろう。
「今のは魔力の調節がいまいちでしたね。でも、あと数回試みれば――」
「できたぁぁーーー!」
俺の言葉を遮って、佐渡教官は両拳を握って獣のように叫ぶ。両眼から涙を流しながら、吠えるその姿に、呆気に取られていると、
「うおおぉぉぉ!」
獣のような奇声を上げつつ、的に向かって再び魔術を放ち始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます