第54怪 初めての実技演習

 ほどなく、大吾も戻ってきた。

 取り巻き達の全員が、怒り心頭という感じだ。おそらく、ワンドが見つからなかったんだろうさ。


「実習に遅れるとはどういう了見だ!?」

「佐渡教官、申し訳ない。俺たちのワンドがなくなっていた」


 大吾が静かにそう告げると、取り巻き達は優等生グループを睨みつける。どうやら、彼らは優等生グループがやったと思っているようだ。一方、優等生グループは、大吾たちなどアウトオブ眼中だ。


「ふん! 遅れてきたに加えて、まさかワンドまでなくすか。本当に度し難いな。貴様らは、今日の授業は見学だ。大人しく端で見ていろ!」

「ふざけんな――」


 取り巻きが怒声を上げるが、大吾が右手でそれを制する。


「わかった。教官、迷惑をかける」


 深く、一礼する。

 佐渡教官は鼻を鳴らすと、グルリと生徒たちを見渡すと、


「いいか。貴様ら、もっと危機感を持て。この学園に合格すれば、万事、卒業まで安泰というわけでは断じてない。半年に一度の試験により、上のクラスに上がるものもいれば、落ちるものもいる。お前らEクラスは落第、即退学だ。それを忘れるな」


 強い口調で言い放つ。

 そうかい。どのみち、俺は少しでもマイナスの要因があれば退学だろうけどもな。


「今日は我らにとって基礎の魔法、【火球ファイアーボール】の修練だ。一度でもいいからあの的に当てろ。当てれば今日の授業は終了だ」


 騒めく生徒たち。無理もない。的までの距離は、編入試験の魔術実演試験の軽く倍はある。

 あの的まで届くことが前提条件。そしてその的の特定箇所を正確に打ち抜けるのかが加点要因ってところか。

 ま、仮にもここはジパング屈指のヒーロー養成所だ。全員届きはするだろう。的もかなり大きいから、半数以上は合格できるんじゃないのか。

 的に当てれば授業が終了するらしいし、とっとと当てて図書館にでもいくとしよう。色々調べることが多々あるしな。そう思っていたら、


「あーあ、そうだ。朽木永司くちきえいじ、貴様は不要だ。自信喪失を危惧しての学校側の処置だから、貴様に不利益は一切ない」


 教官佐渡は俺を見ようともせずに、一方的に指示を出してくる。

学生たちから、嘲笑が飛び交う。もちろん、俺に対してだ。普通に考えれば、元怪人の俺がそう強いわけもない。当然の判断だ。


「了解。で、俺はどうすれば?」


不利益が一切ないなら、それはむしろ、好都合というものだ。同じクラスといっても、こいつらはライバル。こいつらよりも評価が低ければ俺は退学となる。俺もこの学園を卒業しなければならない理由がある。そのライバルに、こちらの手の内を見せるのも馬鹿馬鹿しい。


「エイジ、貴様は実際に見て、このクラスのレベルを把握しろ! そこで笑っている貴様らもだ! 次の授業からは三人でチームを組んでもらう! 無論、今後の実習の評価点はそのチームで決定する。しっかり今日の授業でチームメイトを探すんだな!」


 大声で捲し立てると、クラスの連中から笑みが消えた。

 佐渡教官の言い方からして、チームの面子は学校側ではなく、生徒が自主的に選ぶ可能性が高い。ならば、チーム分けで自身の進退が決まると言っても過言ではない。他者のアピールのためにも、不甲斐ない結果は出せないし、それはそうだろう。

 俺はどう考えても残りもの。選択肢など微塵もないだろうが、ライバルたちの動向を把握することは必須だ。じっくり観察させてもらう。


「では、出席番号順に始めろ!」


 佐渡の指示で1番の男子生徒が所定の位置までいくと【火球ファイアーボール】の詠唱を開始する。


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