第51怪 元怪人差別
事務員と思しき年配の女性に編入の事実を告げると、高等部の来賓室へ案内される。
部屋の中には見知った学生が一人いた。長い金髪をポニーテールにした女性、セシリアだ。やっぱり彼女も合格していたのか。
以前と同様、すごい形相で睨まれてしまう。完璧に毛嫌いされてしまったってわけか。大方俺が怪人であることを聞いたんだろうよ。この手の反応は俺に対しては日常茶飯事だ。驚くことでは断じてない。
禿頭にスーツを着た巨漢の男が、俺を不快そうに見ながら、
「来たようだな。卑しくも下等な怪人モドキがどうやって我が校の栄誉ある試験を突破したのかはわからんが、儂は貴様をこれっぽっちも認めてはいない! 我が校の生徒に少しでも妙なことをしてみろ! すぐにでも『準人間』の取り消しの申請をしてやる!」
予想をまったく裏切らない発言をする。
そもそも、ここはヒーロー養成所。いわば最も怪人を憎み、侮蔑するヒーローを育てる組織。特に【慶皇館大学付属】は国際的にもトップクラスの
「そうですか。せいぜい、気を付けますよ」
心にもない台詞を吐くと、
「貴様、何だ、その態度は!」
隣の小太りの坊ちゃん刈りの男が怒声を上げる。
「びーびーと一々、大声を上げるの、止めてもらえないですかね? 耳がキンキンする」
俺のこの言葉に、
「粛清!」
小太りの坊ちゃん刈りの男がそう叫ぶと、腰から抜いた特殊警棒で俺を殴りつけてくる。
それを左手で鷲掴みにする。
耐久力が上がり過ぎていて、真面にあたっても傷一つづかないだろうが、こんなヒーローくずれのクズどもの攻撃を真面に受けるなど、冗談じゃない。
「は、離せ!」
「はいはい」
警棒から左手を離すと、勝手に後方に吹っ飛んでしまう。
「貴様、暴力を振るったな!」
スーツを着た禿頭の巨漢がニタァと笑みを浮かべながら、俺に人差し指を固定して糾弾してくる。
こうなったか。この調子だと、端から俺をこの学園に入学させる気はサラサラあるまい。
もしかしたら、英雄同盟にでも頼まれて俺を入学させてから即時捕縛しようとでもしたのかもな。今の俺は『準人間』であり、形式上は人間と大差ない。ただし、それも俺が他の人間たちに危害を加えなかったからという条件がつく。俺が暴力的行為を振るえば、その時点で俺は怪人に逆戻りってわけだ。
俺の怪人の再審査には、エルドラがからんでいる。英雄同盟もいつものようにゴリ押しはできない。だからこのような一見、回りくどい方法を取ったんだろうさ。
「セシリア様も見ていましたよね⁉」
あーあ、そうかい。この女もグルってわけか。アルベルトと同じエルドラ人というだけで、信じそうしになったが、エルドラも所詮は人間。俺たち怪人とは違う。
いや、もしかしたら、エルドラにはめられたのかもな。俺はこの度再審査を受けてしまっている。元怪人であることは知られているんだ。この点エルドラは此度、英雄同盟に加入した。英雄同盟と俺を実験動物にでもすることにつき内密に交渉をしていても大しておかし話しではない。
まあいいさ。そうであるならば、エルドラからオヤジと弟や妹たちを助け出すだけだ。
少し前の俺ならば、絶望して諦めていたかもしれない。だが、もう俺にそんな気はこれっぽっちもない。敵になるなら、エルドラだろうと戦い抜いてやる。
「……」
なぜか、目を大きく見開いて微動だにしないセシリアに、
「それで? 俺は退学ってことでいいか?」
どのみち、結論が既に出ている以上、怪人の俺がどう騒ぎ立てようと、意味はない。俺の退学は既定路線だ。ここは、一旦引いて対策を立てるべきだろうよ。
「もちろん、貴様は退学――」
禿頭にスーツを着た巨漢の男がそう叫ぼうとしたとき、
「退学のわけがないよね!」
以前、俺の実技試験で担当したボブカットの女性試験官が隣の部屋から姿を見せる。
「ミウ先生、この怪人はこの儂を侮辱し、
さも不快そうに吐き捨てる禿頭の巨漢に、
「そうです! 怪人の分際で神から選ばれたこの私に暴力を振るいました! ねえ、そうですよね、セシリア様⁉」
隣にいるセシリアに、小太り坊ちゃん刈りの男、
「セリシア君、そこんとこ、どうなの?」
ミウがセリシアに眼球だけを向けて問いかけると、
「その
俺にとって意外極まりない返答をする。
「セリシア様⁉ どういうおつもりですか!?」
「どうもこうも、確かに
「はあ? こいつは怪人ですよ! 我らヒーローの敵だ!」
禿頭の巨漢が俺を指さして声を荒げる。別にこいつの思想がおかしいわけじゃない。むしろ、こいつはこの学園の教員としてはスタンダードの態度だろうさ。それだけ、ヒーローと怪人との溝は埋められないほど深い。
「私は何度も言ったよね? 再審査で彼の怪人性は否定されていると」
「しかし、それは――」
「君らの特殊な思想信条など知ったこっちゃない! ただ、彼の入学は、試験対策委員会の総意で決まり、【慶皇館大学】の教授会で満場一致で承認を得た事項! たかが高校の一学年主任ごときが口を挟むことじゃねぇんだよ!」
片目を細めてミウが威圧するとビクッと身体を硬直するが、
「こいつは怪人だぞ! 運営は正気か!」
金切り声を上げて正気を問う。
ミウの顔にいくつもの血管が浮き上がり、真っ赤に紅潮していくが、何度も深呼吸して顔を反らしてブツブツ呟く。
「もういい。私がクラスに案内するよ。二人ともついてくるように」
一方的に俺たちに促してくる。
「ミウ先生、こんな勝手が許されると――」
「いいか――いったはずだ! これは学園運営の決定だと! 不満があるなら、君らの進退をかけて異議申し立てをしなよ! もっとも、大事になって困るのは君らの方だ!
君らは無抵抗な学生を警棒で殴りかかった! 学園側がどんな判断をするのか、君らの残念な想像力で十分に考えるんだね!」
ミウは禿頭の巨漢と
俺たちもそのあとに続く。
「よかったのか?」
「言いも何も、これは学園の決定。何人もそれを覆すことはできない。あんな木っ端ヒーローなら猶更だよ。でも、この件で学園での君の今の立場はもうわかったと思う。今後も似たような扱いを君は受けると思う」
「元より、覚悟の上さ」
俺が元怪人と知られた以上、この手の理不尽は想定内だ。むしろ、一発退場にならなかったことを喜ぶべきだろうさ。
「それを聞いて安心した。
ミウは立ち止まると、俺に向き直ると右手を向けてくるので、
「ああ」
握り返したのだった。
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