第52怪 初めての教室での授業

 セシリアは、ツムジちゃんたちと同じ1-Aであり、ミウがAクラスに入るように指示すると、やはり、俺を睨みながらも教室に入っていく。

 ミウの発言からどうやら優秀な準にA~Eまでクラス分けされているようだ。もちろん、元怪人の俺は最低のEクラス。まあ、怪人でなかったとしても、俺は編入試験で魔術系の記述は全然ダメだったし、最後の模擬戦では試験官を殺しかけた。あれで相当減点されたんだと思う。合格しただけ奇跡という他ない。

 とはいえ、この学園での順位など俺にとってさして意味があるわけではない。それよりも、この学園での図書館を中心とする施設には自由に出入り可能なようだし、それだけ十分すぎるほど意味がある。

 1-Eの教室につく。教室に入るように指示されたので中に入ると教室内の視線が俺に集中する。

 視線の種類には心当たりがある。それはあの日、怪人認定されてからずっと今まで向けられてきたもの。おそらく、こいつらは知っているんだろう。

「新しいクラスメイトの朽木永司くちきえいじ君です。皆仲良くするように」

 担任と思しきセミロングの女教師がそんなおざなりの紹介をすると、唯一空席であった真ん中の列の最後尾に座るように指示すると、ホームルームを再開する。やたら淡泊な奴だが、今の俺にはその方が助かるってもんだ。目立っていい事は何一つないからな。

 

 授業が始まる。一時限目は数学、二時限目が国語、三時限目が英語だったわけだが、マジで俺ってどうしちまったんだろうな。既に学んだ事があるように、容易に理解できてしまっていた。

 ただ、四時間目以降の魔術の授業についてはやっぱり、からっきし。というより、俺の理解している魔術と違いすぎて、授業の内容が全く参考にならない。

 魔術の系統魔術と非系統魔術を一括りにしてしまっているし、系統魔術も詠唱が中心であり、あくまで詠唱をどう効率よく運用できるのかに尽きる。

もっとも不可解だったのが、非系統魔術の詠唱が必要とする記述。魔導大国エルドラのみが、【身体強化】について無詠唱の秘術を独占しているという話しだった。

 あの魔導書では、秘術どころか【身体強化】、【物質強化】、【自己治癒】などの非系統魔術は、そもそも詠唱など不要だ。理論的にいっても、自己の魔力を使用せずに他者の恩恵に頼る理由も不明だ。ある意味、この非系統魔術は究極の非効率。それが授業で習った内容だった。

 系統魔術の詠唱も、漠然とした異界の生物に力を借りる形式がほとんどだ。ただでさえ支配マスタークラスと比較して、詠唱を行う借用バロウクラスはその効果が著しく低くなる傾向にあるんだ。それをここまで非効率的な詠唱を行えば効果などほとんどないし、下手をすれば暴発したり、呪われたりする危険性すらある。

 つまりだ。この授業の内容はなぜ詠唱が必要なのかという最も大切なものことを無視して論理構成されている。

 故に、一般に奴らがいう魔術の到達点とは、人外と契約してその力を一部使用すること。その存在が強ければ強いほど、その恩恵は契約者たる人間に帰属する。

 確かに、ツムジちゃんのようにジンと契約した途端、力が跳ね上がる事もある。だからこれは一つの真実といっても過言ではあるまい。

 一方でそれは魔術の本質ではない。俺たちが言う魔術とは、異界から力を貸すに足りる人外たちに詠唱というツールを使い魔力を捧げることにより、超常の奇跡を発現させる行為だ。異界という隔絶した場所からこの現世に力を振るえるもののみが、その魔術の源たりえる。

 この定義からすれば、ジンやルナエル、イフリートたちは異界の住人ではなく、この人が住む世界アースの住人だ。したがってそもそも論としてこの定義の人外には当てはまらない。

 そして、魔術の奥義はこの人外との契約ではなく支配。異界の住人をこの地に呼び寄せた上で屈服させ、その魂を支配し強制受肉させる。その異界の住人の特性の全てを行使可能という点で、詠唱魔術とは隔絶した力を保有しえる。

 このように最も基本的な中核たる発想が誤っているのだ。

 もっとも、だからと言ってこの学園での授業の内容が無意味となるわけではない。俺には、召喚系の上位互換である【全ての理を暴くものアポカリプス】という固有魔術と全てを詳らかにする【鑑定】の魔術がある。

 ならば、不完全な詠唱の魔術を鑑定して正式な詠唱として取得し、それの魔術を生贄に【全ての理を暴くものアポカリプス】により、本体を強制的にこの地に呼び寄せる。それが可能となるのだ。

 特にこの学園には不完全ながら魔術で溢れている。俺にとって絶好の環境だ。


「もうすぐ、第一訓練所での午後の実習だよ」

 隣の席の桃色の髪をハーフアップにした女に声をかけられる。

「ああ、ありがとう」

 咄嗟に話しかけられて面食らって返答する。

「私は九条雫くじょうしずく。よろしくね」

 俺に挨拶してくるので。

「……よろしく」

 躊躇いがちに俺も軽く頷いて挨拶を返した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る