第50怪 初登校

 遂に登校日となる。

 考えてみたら、俺は怪人認定された小学低学年から碌に学校に通っていない。義務教育を卒業してからは学校というものに全く関わりはない。

 本来、今も高校に通い続けているエミの方が俺よりもずっと【慶皇館大学付属】で学園生活を送ることに適任なのだ。

 この点、エミは過去に怪人認定されていたが、このジパングで英明絵美えいめいえみという仮名で、人間として生活している。別にエミだけじゃない。俺だって倉木栄治くらきえいじという偽名をもって二重生活を行っていたし。怪人として捕縛されたら、即隔離で囚人のような著しい制限された生活を強いられる。当然とるべき対策だ。

 俺も倉木栄治くらきえいじとして中学を卒業するまでは、一応通ってはいたが、実際にはお慰み程度にすぎない。そんな俺が仮にも超がつく一流校で学園生活などそもそもできるものかは、疑問が残る。

 だから、今も高校生であるエミの方が俺よりも、よほど適任なわけだが、全員がヒーローになってしまっては、白夜を裏から動かすものがいなくなり、不都合となる。それ故にエミは今までの生活を続けることとなった。

 ここで、再審査は本来、ある意味逃げた怪人を再度捕縛するための英雄同盟の方策の一つ。故に、再審査が認められることなどほとんどなく、再審査に出頭したものはほぼ例外なく収容所送りとされている。

 当然だ。もし再審査が認められるということは、過去の英雄同盟と行政の重大な過ちを認める事に他ならないから。

 もっとも、何事にも例外は存在する。その例外が認められるケースは大きく二つ。

 一つ目、その者が国家や英雄同盟に一定の有用性があり、都合のよい使い捨ての駒の確保を目的とするとき。

 二つ目、利害関係のある第三者の強い主張によるとき。

 無論、俺たちの再審査が認められたのは、明らかに後者であり、今回の騒動が根底にある。

 此度、尾部勉三おぶべんぞうがエルドラの王族を襲撃したことは、ジパング政府と英雄同盟の明らかな失態。両組織ともエルドラ政府に大きな借りを作った。エルドラはこのことを上手く利用した。

 エルドラは俺とエミ達、白夜の数人のメンバーが怪人でない事を強く主張して、再審査の実行を求めた。もし、再審査が認められなければ、エルドラは尾部勉三おぶべんぞうの件を明るみした上で、俺たちの検査の不備を求めて国際英雄同盟に提訴するだろう。もし、国際英雄同盟で再審査が認められれば、ジパングの支部は大きなダメージを負う。だから、俺たちに対してはしっかりとした再審査を実施したわけだ。

 要するに今回の処理はあくまで例外的なものであり、一度怪人認定された俺たちの怪人の扱いなど通常はゴミクズのようなものだ。

「早く帰ってきて欲しいぞ……」

 イヴが俺の上着を掴みながら、俯き気味に消え入りそうな声で彼女の要望を述べる。

 最初は、【白月】から通勤をする予定だった。だが、此度、【白月】にいた俺たちが再審査で過去に怪人であったことが英雄同盟やジパングに知られてしまった。このままでは【白月】に監査が入るのは必定。そこで、オヤジたちは一時的にエルドラ人の村である【金澤村】に避難することになる。【金澤村】はエルドラ王族の別荘地だが、ジパングという国家の土地であることには変わりない。したがって、ジパングの警察権や英雄同盟ジパング支部の監査の対象となる。

 しかし、今回そのジパングの魔導省、副大臣の尾部勉三おぶべんぞうの襲撃を受けてしまった。エルドラはこの点を強く非難して、この【金澤村】に対する監査をする際には、国際警察機構の監査員と同伴でのみで実施することを約束させた。

 怪人の監査機関も所詮お役所仕事。下手にエルドラ王族の領地に強制監査をして何も見つからなかったら、大問題となる。おまけに国際警察機構まで同伴して仮に空振りに終わったら、その信用性は失墜する。お役人がそんな危険を冒すわけもない。今このジパングで怪人が身を隠すのに【金澤村】が最も安全というわけだ。

 そんなこんなで結局、イヴとロトは俺とともに、【慶皇館大学付属】の作る都市に住む事になる。

 むろん、住居はエルドラが紹介してくれたマンションであり、俺が怪人であることから狙われる危険性も考慮して、それなりのセキュリティーがしっかりしたところを借りている。

 無論、あくまでエルドラに家賃を借りているだけで、ダンジョン攻略したらしっかり返済しなければならないわけだが。

 一応、イヴの世話はロトに、警護はセイに任せている。ほら、普段着をきると、二人ともただの人間にしか見えないし。

「ロト、イヴを頼むぞ」

「任せるのかしら!」

 満面の笑みで親指を立ててくるロト。今やイヴとロトは姉妹同然のようになっており、心底二人とも楽しそうだ。

「セイ、こいつらを頼む」

「エージ様、かしこまりました」

 恭しく一礼するセイ。

「じゃあ、行ってくるよ、イヴ、ロトと一緒にいい子にしてるんだ。いいね?」

「うん……わかったのだ」

 再度俺に顔を埋めてくるイヴを抱きしめて後頭部をそっと撫でる。

 後ろ髪が引かれる思いで俺は【慶皇館大学付属】の高等部の校舎に向けて歩き出す。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る