あふれる特攻隊YouTube動画 AIで写真が…“創作遺書”の疑いも

「魂の叫びに涙が止まらない」
「特攻隊員の写真を動画にして動かしてみた!」

戦後80年のことし。YouTubeなどには特攻隊を題材にした動画が急増しています。

生成AIを使って、当時の白黒写真をカラー化して動かしたものが見られるほか、遺書そのものの「創作」や書き換えが疑われるケースまで確認されています。

戦争の記憶や教訓が伝わるなどといった声もある一方、遺族などから困惑の声も上がっています。

2年間で再生回数1億超え

太平洋戦争末期、旧日本軍が編成した特攻隊。

戦闘機や魚雷などに乗り込み、敵艦に体当たりする特攻兵器による攻撃です。

若者を中心に6000人以上が命を落としたとされています。

旧陸軍特別攻撃隊について伝える1944年のニュース映像

その特攻隊を題材にした動画がYouTubeやTikTokなどで、去年ごろから増加していることがわかりました。

NHKが分析したところ、ことしの終戦の日、8月15日までの2年間で1000本を超え、再生回数は合わせて1億回以上に上っています。

特攻隊員の「遺書」に関するものが最も多く、少なくとも740本確認されました。

生成AIで特攻隊員が…

YouTubeで「特攻隊 映像化」と検索した結果

なかでも急増しているのが、生成AIを使った動画です。

少なくとも270本確認され、再生回数は4400万回を超えていました。

特攻隊員の白黒の集合写真などをカラーにして色鮮やかに再現し、隊員を動かしたり、笑顔にしたりする、これらの動画。

生成AIの技術を活用したもので、「青春を犠牲にした特攻隊員たちの笑顔がよみがえる」「神風特攻隊をよみがえらせてみました」などといったタイトルがつけられています。

コメント欄には「AIの技術は、こういうことにたくさん活用してほしい」「加工技術でリアルさがよみがえった」などの声が多く寄せられています。

誰がどんな目的で公開したのか。こうしたチャンネルの1つを運営する男性が取材に応じました。

なぜ特攻隊の写真を 運営者は

戦争や特攻隊員、さらに歴史的な写真を生成AIで動画にし、チャンネルで紹介している荒木魁仁さん(26)。

去年から古い家族写真などを動画にする事業を始めました。

今のAI技術でどこまでできるのか、伝えたいという思いがあると言います。

ドリームピクチャー 荒木魁仁さん
「モノクロの静止画をAIで映像化することによって、生命力や臨場感を与えることができる。まばたきや表情の変化といった小さな動きを加えるだけで、その人物が記録上の存在から、実際に生きていた1人の人間なんだなと感じてもらえると思っています」

「戦争の写真は、過去の歴史を風化させてはいけないという思いで映像化し、公開しています。教科書や資料だけでは伝わりにくい人間的な側面を、私と同じような若い世代にも身近に感じてもらえると考えています」

17歳で戦死 「少年飛行兵」の写真が…

そのなかで「子犬を抱いた少年飛行兵」と呼ばれるこちらの写真は、複数の動画で使われていました。

子犬を抱いているのは、当時17歳の荒木幸雄さんです。

鹿児島県南さつま市にあった旧陸軍の「万世飛行場」から飛び立ち、撮影の翌日、特攻作戦で戦死しました。

生成AIで「少年兵」の写真を動かしているYouTube動画

「万世飛行場」は、沖縄で激しい地上戦となる中、終戦までの4か月間使われた陸軍最後の特攻基地です。

ここから多くの若者が出撃しました。201人が命を落としたとされています。

跡地に作られた「万世特攻平和祈念館」には、出撃前に撮影されたとされる特攻隊員の写真や、隊員たちが生前に残した手紙が展示されています。その多くは遺族から寄贈されたものです。

「万世特攻平和祈念館」でガイドや資料の保管を担当する、管理事務員の小屋敷茂さんは、こうした動画がネット上に拡散することで、史実に基づかない誤った情報が既成事実化し、広まってしまうのではないかと懸念しています。

小屋敷茂さん
「遺族や亡くなった人に対して大変失礼なことで、史実と違う情報の発信は控えてほしい。ネットで見て勘違いされると、史実とは異なるものになっていくと思います。遠慮してもらいたい」

遺族は何を思うのか

特攻隊員の遺族は、どう受け止めるのか。

加覧幸男さんは19歳だった1945年4月、万世飛行場から特攻隊員として出撃しました。

弟の加覧優さん(81=鹿児島市)によりますと、18歳年の離れた兄の幸男さんは8人兄弟の次男で、母親から「しっかりした次男だった」と聞いていたといいます。

遺族は祈念館が設立された際、幸男さんの遺影や遺書を寄贈し、毎年、慰霊祭に参列しています。

特攻隊に関する動画がYouTubeなどにあふれている現状について聞くと。

加覧優さん
「(特攻隊員は)ほとんど生きて帰ることなく、亡くなっているからね。墓参りに行っても、兄の遺骨はないんです。物語じゃないから、現実に戦争というもの、特攻隊の立場で去っていた訳でしょ。カラーにしてみたり、笑顔を作ってみたり、そういうのはよくないよね」

「そのようなことをして何の意味があるのだろうか。遺影や手紙は見せ物ではない。商売にして売り物にするものでもないので、そのままにしておいてほしい」

YouTubeでは、特攻隊員がことばを発したり、架空の特攻隊員の写真をAIで作ったりした動画も広がっています。

また、私たちが取材したチャンネルでは、実際には存在しない赤ん坊を当時17歳だった荒木幸雄さんら特攻隊員に抱かせる動画を公開していました。

運営する荒木魁仁さんに、遺族の反応を伝えたところ、次のような答えがかえってきました。

ドリームピクチャー 荒木魁仁さん
「動画は若くして亡くなった特攻隊員の方々に、もし生きていたら出会っていたかもしれないわが子を抱かせてあげたいという思いで制作しました。かなえられなかった人生をAIの力で捧げたいという、私なりの鎮魂の思いを込めました」

「動画の制作意図がうまく伝えられていなかった。ご遺族の方から違うのでは、ということがあれば、修正や削除などの対応も必要だと考えています。納得していただける形で制作していかないといけないと思いました」

また、別のチャンネルを運営する男性も。

別のチャンネルを運営する男性
「特攻隊員の親族の方から依頼をいただき、ものすごく喜ばれた経験があったので投稿していました。実際の歴史と相違のあるものが広がってしまうのはよくないとも感じていて、映像化するとき、自然な映像になるように心がけていましたが、考えが甘かった、至らなかった点があるのかもしれません。動画を見直して精査していきたいと思います」

遺書の紹介 半数は出典不明

特攻隊を題材にした動画で、さらに多くみられているのが「遺書」に関するものです。

少なくとも740本あり、再生回数はあわせて6200万回以上。その半数の370本は、隊員の名前や出典が明記されていませんでした。

なかには、遺書の創作や書き換えが疑われるものも複数ありました。

「創作」指摘される遺書は

110万回以上再生されているこちらの動画。

母親に宛てたとされるもので、「涙が止まらない」などといったコメントが寄せられています。

「18歳回天特攻隊員の遺書」と題する動画には「私はあと3時間で祖国のために散っていきます」などとすることばが次々と動画に表示されます。

ところが、この「遺書」は戦後、創作の疑いが指摘されたものでした。

人間魚雷とも言われた「回天」は、搭乗員が操縦して敵艦に体当たりする特攻兵器です。

太平洋戦争末期、搭乗員106人が犠牲になりました。

回天の訓練基地があった山口県で、回天の歴史を長年、在野の立場で研究してきた山本英輔さんによると、この「遺書」とされる文章は、元海軍士官の男性の講演録をもとに30年前から出回っているということです。

元搭乗員などでつくる団体「全国回天会」は、講演で語られたことと実際の作戦の内容に矛盾があるなどとして、2000年に抹消を求めたということです。

山本英輔さん
「戦争に対する主張や批判は、すべて史実に基づいて行われるべきです。(遺書とされるものは)回天搭乗員の方が本物ではないと断言しているものです。拡散すると、当時の人たちの思いを踏みにじってしまうことになるので、やめてほしいと強く思っています」

書き換えられた内容は

さらに、実在する遺書の内容の書き換えが疑われるケースもありました。

佐藤さんの写真(周南市回天記念館)

当時26歳だった佐藤章さんは、1944年11月に出撃し、西太平洋のウルシー海域で戦死しました。

佐藤さんは、妻の「まりゑさん」にあてた手紙を残しています。

山口県周南市の「回天記念館」に展示されている手紙には「俺にとっては日本一の妻であった」「小生はどこにおろうとも君の身辺を守っている」などと記されています。

一方、YouTubeでは、「マリコ」という妻にあてた神風特攻隊員の遺書とされるものが、70万回以上再生されています。

この「遺書」とされる内容は、佐藤さんの手紙に似通っている点が多くあり、そもそも神風特攻隊と回天を混同しているとみられます。

回天研究者の山本さんによりますと、回天の元搭乗員などが戦後、遺書をまとめた書籍には「マリコ」という妻にあてた手紙はなく、佐藤が残した手紙を改変したものではないかと指摘しています。

たとえば「小生はどこにおろうとも、君の身辺を守っている」という記述は、「君がどこで何をしていても靖国から見守っているよ」と変わっています。

「回天記念館」で講話などを行う岩崎達也さんは「戦争の記憶や教訓が正しく伝わらない」と危機感を抱いています。

岩崎達也さん
「本人が残されたものではない、改変が疑われるものは、後世に残された人が読んだときにその方の本心が伝わらない、誤った認識をしてしまうものだと考えています。回天記念館としては、所蔵された遺書などをもとに正しい内容を伝えていきたいです」

NHKは特攻隊員の遺書を題材にした動画を公開する複数のチャンネルに取材を試みましたが、返答はありませんでした。

「あいまい」にしたまま過ぎた80年

こうした動画が散見される現状について、専門家はどう見ているのか。

日本の近代史に詳しく、特攻隊についての著作もある埼玉大学の一ノ瀬俊也教授に聞きました。

埼玉大学 一ノ瀬俊也教授
「戦後の日本社会はずっと、特攻がなぜ始められなくてはならなかったのか、歴史にどういう影響を与えたのかなどについて深く考えてこなかった。責任や若い人たちの死の意味について、あいまいにしたまま80年がたってしまった」

「志願ではなく命令で行った人もいるなど、特攻の全体像が伝わらずに感動物語になってしまっているところが問題です。ただ、こうしたコンテンツ化は映画や小説、ドラマなどで何十年も前から行われていて、目新しいことではありません。ウェブ上でのコンテンツ化の流れは止められないのではないでしょうか」

そのうえで、遺書の改変などについては。

埼玉大学 一ノ瀬俊也教授
「史実を改変した物語が、YouTubeなどであたかも事実であるかのように受け止められてしまうのは、歴史学の立場からはよくないことだと思います。一方で、エンタメ化されたコンテンツのなかで、フィクションと歴史の境目をどこまではっきりさせるか、真実性の線引きについては、とても難しい問題があると感じています」

「戦争というものを学ぶということは、現在の私たちの生きているこの国や社会の成り立ちを学ぶことであり、現状をよりクリアに、リアルに理解することができる。戦後80年がたって、日本社会にとって特攻とは何だったのか、戦争全体をどう捉えるかということを考え直す段階にきているのではないかと思います」

(鹿児島局・児玉梨里、山口局・淺津賢吾、機動展開プロジェクト・籏智広太)

あわせて読みたい

スペシャルコンテンツ