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SCP財団反ミーム部門の必需品:記憶補強剤について

財団の便利アイテムの一つに「記憶補強剤」というものがあります。

これはその名のとおり、服用者の記憶の補強する薬剤です。忘却・記憶消去の影響を防止し、認識を保持し続ける効果をもたらすことから、情報伝達や認識を阻害する異常な反ミームへの有効な対抗策として活用されています。

そんな反ミーム部門の必需品である記憶補強材について、初学者の観点から用語の解説や考察を試みます。

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サムネ画像の全体。

記憶補強剤について

概要

記憶補強材について、反ミーム部門の長であるマリオン・ホイーラーは次のように紹介しています。

さて、反ミームへの対抗手段ですが、私たちは記憶処理剤とは異なる、それ無しには覚えておくことのできない事柄を覚えていなければならない人向けの薬剤、記憶補強剤(Mnestics)を有しています。クラスはWからX、Y、Zまで。"記憶法(mnemonic)"という言葉同様にギリシャ語由来の命名です。最初のMは発音しません。

反ミーム部門は存在しない:055についてお話しましょう

記憶補強剤は、記憶や認識の保持をもたらす薬剤であり、記憶処理剤の反対の性質を有するものです。命名はmnemonic(ニーモニック。記憶法、つまり「記憶を補助するもの」)と同様に、ギリシャ語由来のものです。

記憶補強により、服用者は反ミームに対する抵抗力を獲得します。その効力は時間の経過により失われていくため、反ミームオブジェクトを担当する財団職員は、記憶補強剤の定期的な服用が必須となります。(ただし、Zクラスを除く。)

W、X、Y、Zの4種類があり、それぞれ効果や特性が異なります。後述のとおり、Wが最も効き目が軽く、おそらくX、Y、Zの順で効果が強力になります。

余談ですが、ギリシャ神話には、記憶の女神「Mnemosyne(ムネーモシュネー)」が登場します。上述したmnemonicは綴りが似ていることから、言語的な関連や派生関係があるものと考えられます。
黄泉の国には、忘却を司る「レーテーの川」の他に「ムネーモシュネーの川」が存在しており、その水を飲んだ人々は、全てを記憶して全知の領域に達するとされています。

なお、神話上の存在であるはずのムネーモシュネーは、後に記憶補強剤と密接な関係があることが判明します。
概要は、この記事の最後にある補遺.SCP-5997「記憶増強剤の川」を参照してください。

副作用

「この薬品(注:Wクラス記憶補強剤)に副作用はあるのかね?」O5-8は尋ねた。
「吐き気、膵臓ガンのリスクの劇的な増加、」マリオンは言った。「それから、酷く夢見が悪くなりますわ。」

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やはりというべきか、人間の記憶力や認識力に直接作用するという性質上、記憶補強剤は体に良いものではないようです。

効き目が弱く、継続服用に適しているとされるWクラスですら、少なからず健康に悪影響を及ぼしていることから、記憶補強の効果が強力になるほど、服用者に対して深刻な副作用をもたらすことが想像できます。

製造

記憶補強剤に関して、財団の反ミーム部門創設者であるリン・マーネスは、マリオンに以下のようなことを語っています。

1976は彼が部門を創始した年だった。伝説的な一週間の中で彼は全体像をブレインストームし、科学理論を叩き上げ、選りすぐられた三人の助手の助けを借りて最初の記憶補強薬剤を精製した。

反ミーム部門は存在しない:忘れられない、それがあなた

記憶補強剤は、1976年の反ミーム部門の設立に伴い開発されたものとされています。しかし、その経緯を考慮すると、実際は反ミーム部門の前身であるアンシンカブルズが同様の薬剤を開発し、実務に活用していたと考えるのが自然です。

余談ですが、1976年は、反ミーム部門の前身であるアンシンカブルズがSCP-3125「逃亡者」と遭遇し、反ミーム部門が再建された年であるとされていますが、その他にも要注意団体「失神交響楽」がカーク・ロンウッド高校(SCP-332)やノース・ヒルクレトス高校(SCP-7676)を中心とする大規模な認識災害インシデントを引き起こしたり、要注意団体「プロメテウス研究所」がテレキル合金のリリースを計画していた年(オリンピアンの終焉ハブ)であるなど、様々な事件や思惑が交錯する激動の一年であったと言うことができます。

Wクラス

Wクラス記憶補強剤。効き目が最も弱く、継続的な使用に適しています。1日につき2錠服用します。

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Wクラスは、最も効き目が弱い代わりに、日常的な服用に適した記憶補強剤です。錠剤タイプであり、六角形型で緑色をしているとのこと。

なお、緑色はSCP-3125「逃亡者」に関連した色です。また、SCP-3125を信奉するよう注意団体「第五教会」のトレードマークである「スターストーン」は、緑色の石であるとされています。もしかしたら、SCP-3125との因縁を指し示す、何らかの暗喩なのかもしれません。

第五教会の特徴については、以下の別記事にて紹介していますので、よろしければご覧ください。

Xクラス(クラスX)

クラスX記憶補強薬は開発失敗に終わった永久寿命薬です。Xは最大███年に渡って精神と肉体の両方を若返らせますが、効果は一時的なものであり、数時間のスパンで消失します。また効果が消失するに従い、抑圧されていた時間影響は一挙に再発現し、対象の生理機能へ有害な”跳ね返り”効果を及ぼします。Xはヒトを30日の期間に渡って安全に若返らせることが可能ですが、服用量の増加に伴い跳ね返り効果の危険性も増加し、16-18月を越える遡行は知られている限りにおいて致命的です。

ヒトに対するXの記憶回復効果は上述の副作用と呼ぶべきものです。しかしながら、副作用の顕著な有用性から、現在においては本薬剤の主要な用途として知られています。反ミーム部門職員は少量のXを定期的に服用し、直近の記憶の鮮明化ないし回復を行います。これは記憶破壊実体が関与した事象を財団職員が正確に想起することを促す措置です。

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クラスXは、元来は永久寿命薬として開発されていたものを、記憶保持に転用した薬剤です。精神と肉体を若返らせ、その副作用として記憶回復効果をもたらします。

心身に劇的に作用するその性質上、多量の接種は深刻なリスクを伴いますが、反ミーム部門においては、異常な反ミームにより失われた記憶の鮮明化や認識の保持を目的として、少量の定期服用が行われています。

服用方法は注射であり、「忘れられない、それがあなた」では黄金の液体と描写されています。また、「忘れられない、それがあなた」を彷彿とさせる対抗概念部門のtail「超現実思考者」でも、「黄金色の液体」と描写されています。

Yクラス

Yクラスについては、反ミーム部門ハブにおいては存在が語られるのみであり、性質等の詳細は不明ですが、ハブ外の報告書のいくつか(特にJPオブジェクトが多い)で登場しています。

前述の対抗概念部門のtail「超現実思考者」にも登場し、登場人物によると「初めてそれを試す新人は皆、冷や汗をかくことになる」とのこと。

Zクラス(クラスZ)

クラスZ記憶補強剤は生化学的記憶強化の最終手段だ。クラスZは対象の忘却能力を恒久的に破壊する。結果として得られるのは、完全な映像記憶と任意強度の反ミーム妨害に対する完全な耐性だ。

反ミーム部門は存在しない:あなたの最後の初日

クラスZは、最強の記憶補強剤です。服用者の忘却能力を恒久的に破壊し、その結果として、反ミームに対する完全な耐性を獲得します。
それだけに心身への負荷は致命的で、服用者は膨大な情報量により精神を圧迫され続け、脳などの生理系を損傷し、数時間以内に死亡してしまいます。

人間の感覚器官は日常的に膨大な量の情報を取り込み、脳はその殆ど全てを瞬時に廃棄するように適応している。たとえ短い時間であっても、情報を保存するように脳の挙動を改変するのは極めて危険な行為だ。

反ミーム部門は存在しない:あなたの最後の初日

まさに、反ミームに対する命がけの最後の手段です。

クラスZは、注射により服用します。服用者に致命的な副作用をもたらす特性上、極めて厳重に管理されており、パッケージには無数の警告図や三段階認証手順が施されており、分厚い医療警告書が付録しています。

終わりに

記憶補強剤について解説しました。

ごった煮な書き方になってしまいましたが、読み進める上での理解の一助になれば幸いですし、認識違いや他の解釈等がありましたら教えていただけますと嬉しいです。

補遺.SCP-2517「これが私がキノコの上に神を見た時」

SCP-2517は、第五主義者が宗教的儀式に用いている幻覚性キノコです。SCPの世界において、幻覚剤はありのままの世界を見せる認知増強剤としての側面を有していますが、このオブジェクトも服用すると「見えないもの」が見えるようになります。

服用者はミーム・反ミームに対する強力な抵抗を獲得し、反ミームオブジェクトの知覚だけでなく、全知かつ偏在する見えざる神(SCP-3125)さえも認識できるようになります。

財団の反ミーム対抗策が記憶補強剤であるとすれば、SCP-2517はその第五主義者版であるということができます。

補遺.SCP-5997「記憶増強剤の川」

反ミームへの対抗策として必要不可欠な記憶補強剤ですが、財団にとっても謎が多い物質のようで、その起源は不明とされていました。

調査の結果、何らかの異常存在の関与が確認できたことから、財団はその起源・現象をSCP-5997に指定し、さらなる調査が進められています。

考えてみれば、記憶処理剤の原料が、ウツボ(SCP-3000)やDクラス(SCP-2419)、怪しげなマッシュルーム(SCP-7891-KO-EX)など、多数のオブジェクトに由来しているように、そのカウンターである記憶補強剤が異常存在に由来していたとしても、特段不思議なことではないのかもしれません。

ライセンス

クリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承3.0ライセンスに従います。

タイトル: 超現実思考者 原語版タイトル: Matterminded 訳者: (user deleted) 原語版作者: Taffeta ソース: http://scp-jp.wikidot.com/matterminded 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/matterminded ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-5997 - 記憶増強剤の川 原語版タイトル: SCP-5997 - The River of Mnemosyne 訳者: opasta 原語版作者: swordlover87 ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-5997 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-5997 ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: あなたの最後の初日 原語版タイトル: Your Last First Day 訳者: (user deleted) 原語版作者: qntm ソース: http://scp-jp.wikidot.com/your-last-first-day 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/your-last-first-day ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: 忘れられない、それがあなた 原語版タイトル: Unforgettable, That's What You Are 訳者: (user deleted) 原語版作者: qntm ソース: http://scp-jp.wikidot.com/unforgettable-that-s-what-you-are 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/unforgettable-that-s-what-you-are ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: 055についてお話しましょう 原語版タイトル: We Need To Talk About Fifty-Five 訳者: ukarayakara 原語版作者: qntm ソース: http://scp-jp.wikidot.com/we-need-to-talk-about-fifty-five 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/we-need-to-talk-about-fifty-five ライセンス: CC BY-SA 3.0



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コメント

2
MNM
MNM

記事制作お疲れ様です!👍
今回もとっても分かりやすくてめっちゃ読みやすかったです!最近布教して反ミーム部門読み始めた友人にこの記事勧めたいと思います!
あとそのまとめられる情報力と文才がめっちゃ羨ましいです……🫠

くだらない話にはなりますが、つい先日動画で見た「医者が言う罹りたくない病気TOP3」の中に膵臓癌があり、めちゃくちゃ痛いらしくて思わず「は、反ミーム部門の皆ぁ〜😭」となっていたところです。
悪夢も見るし膵臓癌のリスクも高い、色々やべー補強剤を服用しながら勤務なんてしてマリオンは倒れないんだろうか?とかよく妄想してます

反ミーム部門に対しての記事がくっそ少ないので、こうやって記事にしてくれる方がとても有難い存在です😭🙏
毎度ながら、書いて下さりありがとうございます😭
これからも応援してます!!!

色無 緑
色無 緑

ありがとうございます!
記事中で言及しましたSCP-5997「記憶増強剤の川」を読んであれこれ考えているうちに、そう言えば記憶補強剤の説明ってあまりないなと思って纏めてみました。
SCP-5997は分かりにくい内容なのですが、記憶補強剤というテーマ上、反ミーム部門との関連も示唆されていますので、ご興味がありましたら、そちらもぜひご覧ください。
引き続きよろしくお願いいたします!

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SCP財団反ミーム部門の必需品:記憶補強剤について|色無 緑
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