X(旧:Twitter)でコロナ禍の医療現場の状況や感染対策について発信する一方で、無数の誹謗中傷を受けてきた埼玉医科大総合医療センターの岡秀昭教授(50)。
「不毛な誹謗中傷との戦いを有毛に変える」と宣言して誹謗中傷の投稿者たちを訴え、彼らからの慰謝料で増毛したという岡氏に、開示請求や訴訟の手続き、中傷者たちの素性や共通項、増毛を思い立った背景などについて、話を聞いた。(全2回の2回目/1回目から続く)
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「被害者が泣き寝入りするしかない」誹謗中傷被害後に直面した“壁”
――SNS上での誹謗中傷や脅迫に対して、警察から「自衛してください」と言われたそうですが、なにをどうしたらですよね。
岡秀昭(以下、岡) 「どうやって自衛するんですか」と聞いたら、「Xのアカウントを消すとか、消したくないなら匿名でやってください」と。家へ帰ってから、じわじわと腹が立ってきましたよ。われわれ医者が「もっと重い患者を診ていて忙しいから、あなたは治療しません」と言ったら大問題になるのに。
――結局、警察は動かなかった?
岡 警察が動いてくれるのは、こちらが相手を特定した後なんです。匿名アカウントによる誹謗中傷があっても、その相手を探すための「発信者情報開示請求」は、警察はやってくれない。「ご自身で弁護士を立ててやってください」と。自分で費用をかけて相手を突き止めないと、刑事事件にすらならない。この国のシステムは、おかしいと思いましたよ。
「金銭的に無理」誹謗中傷で訴訟を起こすことの難しさ
――開示請求には、かなりの費用と時間がかかると聞きます。
岡 まず、X社などに情報開示を求める裁判を起こすだけで、弁護士への着手金と成功報酬で数十万円かかります。それで開示されるのは、IPアドレスや電話番号、メールアドレス。そこからさらに携帯会社に照会をかけたりして、個人を特定していく。
1人を特定して、損害賠償請求の裁判に持ち込むまで、うまくいっても1年近くかかる。費用も、1人あたり80万円から100万円近くになりますね。
――慰謝料の相場って。
岡 侮辱罪だと、1投稿あたり10万から20万円程度が相場ですね。弁護士費用を差し引いたら、完全に赤字。被害者が泣き寝入りするしかない構造になっているんです。普通の人が、1回か2回の誹謗中傷で訴訟を起こそうと思っても、金銭的に無理ですよ。
――先生の場合は黒字に?
岡 幸いというか、不幸中の幸いというか、被害が膨大だったので、一度に10件、20件とまとめて開示請求をしました。そうすると弁護士費用をスケールメリットで抑えられる。それでも、今のところ収支はトントンか、少し足が出ないくらい。でも、儲けるためにやっているわけではないので。