クシム(東証スタンダード)のプレスリリース(2025年7月30日)。
同社の2024年10月期における会計監査人であったUHY東京監査法人に対して、質問状を送付したとのことです。
「2025年7月15日に提出された株式会社ネクスグループの半期報告書において、UHY東京監査法人が監査人として「適正意見」を表明したことに関し、監査基準、公認会計士法、公認会計士規則違反及び倫理規則違反の問題が存在する可能性があることから、2025年7月29日付けで質問状を送付しました。」
日本公認会計士協会にも、同趣旨の照会状を送付したそうです。
(UHY東京監査法人は、今年4月に、2024 年 10 月期について、意見不表明の監査報告書を出しています(→当サイトの関連記事)。その直後の株主総会で、経営者が代わっています(→当サイトの関連記事)。6月には、後任の会計監査人(一時会計監査人)に監査法人アリアが選任され(→当サイトの関連記事、その2)、7月に、2025年10月期半期報告書が提出されています。)
今回のプレスリリースによれば、前経営陣のときに譲渡された子会社を、最終的にネクスグループが取得したそうです。クシムの現在の経営者は、その取引自体を問題にしています。
送付したという照会状の一部。
「【本質問の背景】
1. 株式会社クシム(以下「当社」といいます。)の旧経営陣は、2025年2月3日付で、カイカフィナンシャルホールディングス株式会社に対する529百万円の債務(以下「本件債務」といいます。)の弁済のため、債権者が保有するZEDホールディングス株式会社(以下「ZEDホールディングス」といいます。)の株式全部(以下「本件株式」といいます。)を代物弁済により譲渡することを決議し、同日、実行しました。さらに、カイカフィナンシャルホールディングス株式会社(以下「カイカFHD」といいます。)は、同日、本件株式を、株式会社ネクスグループ(以下「ネクスグループ」といいます。)に譲渡し、その旨の開示を行いました(以下、上記取引を「本件取引」といいます)。
2. しかしながら、当社は、本件取引は会社法467条に基づく株主総会の特別決議を欠き、重大な法令違反行為であり無効であると認識しています。現に、本件取引を決議した旧経営陣は裁判所の決定により権利義務取締役としての地位を失いました。
3. その後、貴法人は、安河内明氏及び谷田修一氏を指定社員として、当社の2024年10月期における当社の連結財務諸表及び財務諸表について「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況が存在している」として意見を表明しない旨を記載した監査報告書を提出しました。そして、貴法人は、当該監査報告書において、意見を表明しない理由として本件取引が行われたこと、本件取引の違法性が認められたことにより、仮取締役の就任が就任したこと、当社の管理部門の従業員が不在であることを挙げています(当社第29期有価証券報告書〔119頁〕)。
4. その後、貴法人は、安河内明氏及び谷田修一氏を指定社員として、ネクスグループの第42期中間連結財務諸表に関し、適正意見を表明した監査報告書を提出されました(半期報告書〔22頁〕)。しかしながら、当社としては、本件取引は会社法467条に基づく株主総会の特別決議を欠き、重大な法令違反行為であり無効であると認識していることは上記のとおりです。そのため、当社としては、貴法人には、ネクスグループの第42期中間連結財務諸表について、十分かつ適切な証拠を入手していないにもかかわらず、また、財務諸表に関する合理的な基礎を得ていないにもかかわらず、監査意見が表明されたという疑義があると考えております。
5. さらに、特筆すべき点として、貴法人は、このZEDホールディングスおよびその傘下子会社の違法な譲渡(代物弁済)とされる行為が発生した直後、当社の監査契約から一方的に辞任するという対応を取っております。当該辞任は、本件取引という違法行為への対応を放棄したものであって、違法行為への対応を定めた日本公認会計士協会の倫理規則に照らして極めて問題があると考えております。」
これは、監査法人や会計士協会に対する一種の通報ともいえますが、それを、公開するというのは、非常に珍しいといえそうです。UHY東京に揺さぶりをかけることにより、同監査法人の監査先の会社も揺さぶろうとしているようにもみえます。
監査法人にとっては、ガバナンスがしっかりしていない会社(あるいはあやしい勢力に狙われた会社)と契約することのリスクが現れてしまった例でしょうか。
クシムに再び不正アクセス疑惑――現職代表の指示で弁護士が資料に接触試行(Yahoo)
「7月29日にネクスグループは、同社連結子会社が管理する非公開の重要資料に対し、外部から不適切なアクセスが試みられていたことを発表した。アクセスを試みたのは、クシムの現代表取締役である田原弘貴氏が代理人に指定したOMM法律事務所所属の弁護士であり、ネクスグループはこれを『重大な問題』と指摘している。」
「クシムを巡っては、2024年11月に当時取締役であった田原氏が倉元製作所<5216>の渡邉敏行氏らと組んで株主提案を行い、その結果、2024年4月末の臨時株主総会で田原氏自身が代表取締役に就任した経緯がある。旧経営陣は、この一連の手法を「ウルフパック的だ」と強く批判。また、田原氏自身も売却済みの子会社を取り戻す意向を繰り返し表明しており、今回の不正アクセスもその一環としてネクスグループは警戒しているのであろう。
さらに今回関与が指摘されているOMM法律事務所は、過去に三ッ星<5820>の経営権争いにおいても助言役を務めていた。この案件は「ウルフパック」的として問題視され、買収を仕掛けた側が証券取引等監視委員会(SESC)から課徴金処分を受けたが、その処分は乗っ取りが成立した2年後に下されている。結果的に、買収者側は課徴金95万円を支払い、経営権の奪取に成功している。「ルールを逸脱しても、得られるリターンがペナルティを上回るなら躊躇しない」――そんな価値観を持つ勢力にとって、日本の資本市場は格好の標的となっている現実が垣間見える。」
当社子会社の非公開資料への外部アクセスに関するお知らせ(2025年7月29日)(ネクスグループ)
「つきましては、今後の調査の結果、当該アクセスリクエストが法令その他の諸規程等に照らして不適切であると判断した場合は、当該弁護士、田原氏又はその両名に対して法的手続等を行うことを検討しております。」