「知らない人ばかり」が並ぶ参院比例名簿の理由。立憲と国民は組合員だけの有名人で自民は箱根駅伝型
来る参院選で改選50人枠を要する比例代表。皆様は主要政党の名簿をご覧になりますか? 恐らく多くが見ても「誰?」状態でしょう。
著名人を並べたらもっと集票できそうなものなのに何故「誰?」ばかりなのでしょうか。今回は与野党第一党の自民・立憲と支持率好調な国民民主で分析してみました。
候補者は日頃のご愛顧への感謝の印
立憲民主と国民民主はともに日本最大の労組全国中央組織である日本労働組合総連合会(連合)の支援を受けています。いわば応援団兼集票組織。支援は衆参を問いません。参院比例代表は、いわば日頃のご愛顧への感謝の印として傘下の組織内候補を国会に送り込んでいるのです。だから党としても絶対に落とせません。
組織内候補は、該当組合員だけの知名度こそ高い一方で何ら関係ない有権者は「誰?」となるから多くにとって「知らない人ばかり」の名簿です。実際に見てみましょう。
「絶対に落とせない」組織内候補6人に立憲は注力
まずは立憲民主党。比例議席はだいたい8人ぐらい。19年の結果は以下の通りです。順位は候補者名の多さ。「当」は19年当選。(カッコ)内は当選回数。今回は出ない候補のみ「★不出馬」と記します。
1位 岸真紀子 当(1) 市職員出身。「自治労」組織内候補
2位 水岡俊一 当(3) 中学校教諭出身。「日教組」組織内候補
3位 小沢雅仁 当(1) 郵便局員出身。「JP労組」組織内候補
4位 吉川沙織 当(3) NTT社員出身。「情報労連」組織内候補
5位 森屋隆 当(1) 京王グループのバス運転手出身。「私鉄総連」組織内候補
6位 川田龍平 当(3) 元薬害エイズ訴訟原告。東京選挙区→比例区で当選3回
7位 石川大我 当(1) 性的少数者支援法人代表理事。
8位 須藤元気 当(1) 格闘家。後に離党後、衆院補選出馬で自動失職。25年は国民民主で出馬予定なので立憲候補としては「★不出馬」
このようにみごとなまでに1~5位までが労組の組織内候補。タレント候補と呼べるのは須藤氏ぐらい。川田氏は著名人で当選実績もありますが、それでも下位当選です。
加えて今回は「JAM=ものづくり産業労働組合」組織内候補として新人の郡山玲氏(自動車部品メーカー社員出身)が加わります。JAMの候補は19年は国民民主から出て落選し、立憲へと移動した形。約8枠のうち計6人の組織内候補が「絶対に落とせない」対象です。そこに注力。
ただ「知らない人ばかり」の名簿だと候補者名投票がふくらまないというジレンマは当然あるので他の集票力のありそうな方も名簿に掲載してもいます。今回だと
白真勲 22年比例で落選。過去当(3)。宗教団体などの支援団体を持つ。
森裕子 22年新潟選挙区で落選。 過去当3
の2人あたりが実績を評価されて立候補。ただ全国的な知名度があるかというと疑問符が付きそうです。
元来はコテコテの労組候補の当選死守こそミッションであった国民民主
次に国民民主党。過去は3議席程度でした。19年の結果は次の通り。
1位 田村麻美 当(1) 総合スーパー出身。「UAゼンセン」組織内候補
2位 礒崎哲史 当(2) 日産自動車社員出身。「自動車総連」組織内候補
3位 浜野喜史 当(2) 関西電力社員出身。「電力総連」組織内候補
4位 石上俊雄 落(★不出馬) 東芝社員出身。「電機連合」組織内候補
5位 田中久弥 落(★不出馬) 「JAM」組織内候補
と何と「絶対に落とせない」組織内候補5人のうち2人も落としてしまいました。今回は電機連合が新人の平戸航太氏(日立製作所社員出身)で雪辱を期すつもりです。「JAM」組織内候補は前述のように立憲で出馬。
このように元来はコテコテの労組候補の当選死守こそミッションであったところ、24年総選挙で同党が旋風を巻き起こして支持率が上がったため「もっといけるはず」と今回ドーンと組織外の候補を発掘しました。
「山尾ショック」が起きた理由
ただ過去の例から丸きりの新人だと1ケタ少ないほど全然集票できないとわかっているため、一定の支持基盤を持つ国会議員経験のある足立康史氏(元維新)、須藤元気氏(元立憲)、薬師寺道代氏(元自民)そして山尾志桜里氏をスカウトしたのです。
これはこれで合理的は判断であったはずなのに支持者からたいそう評判が悪くて山尾氏が公認を見送られた「山尾ショック」は周知の通り。
著名人候補の煽りを食って落選するのを嫌う支援組織
こうした方々でなく当選者数が増えそうな党勢ならば全国に知られた著名人を誘えば1人か2人はOKしてくれそうなもの。名簿も映えるし……ともなかなかいきません。仮に受けてくれた著名人がいて、その方自体は当選しても煽りを食って落選するのを組織内候補および支援組織は非常に嫌います。2人分以上を集めればwin-winとはいえ、さほどの実績を残した政治家未経験(当選当時)の著名人は参院比例区だと2001年の舛添要一氏の158万8262票ぐらいしかないのです。
自民は伝統的支持母体とメディカル系の支援
これが自民党となると少々様相は異なります。ただし「知らない人ばかり」の名簿になるとの結果は同じだからなかなかうまくいかないものです。
だいたい18議席ほど見込めます。今回の名簿で観察すると以下のようです。「新」は現職の後継者で、その場合の順位は支援団体が同じ現職が19年に得たものとなります。「繰」は19年に落選したものの当選者に欠員が生じたため繰り上げ当選した者。
まず最上位2枠は「特定枠」。1票の格差是正で合区された「鳥取・島根」と「徳島・高知」選挙区は改選1議席。なので選挙区に出られない側の候補を救済すべく利用するのです。結果として3位以下が非拘束名簿式内で競います。
1位 特定枠
2位 特定枠
3位 犬童周作 新 総務官僚出身。現職の後継で「全国郵便局長会」支援
4位 山田太郎 当(2) 特定の支援団体を持たない
5位 和田政宗 当(2) 「神道政治連盟」の支援など
6位 佐藤正久 当(3) 自衛官出身。「自衛隊協力3団体」の支援など
7位 見坂茂範 新 国交官僚出身。現職の後継で「全国建設業協会」支援
8位 橋本聖子 当(5) 宗教団体の支援など
9位 東野秀樹 新 農協会長理事。現職の後継で「全国農政連」支援
10位 有村治子 当(4) 「日本遺族会」「神道政治連盟」など支援
11位 宮窪大作 新 商工連本部長。現職の後継で「全国商工政治連盟」支援
12位 石田昌宏 当(2) 元看護連盟役員。「日本看護連盟」支援
13位 ★不出馬
14位 本田顕子 当(1) 薬剤師。「日本薬剤師連盟」支援
15位 ★不出馬
16位 釜萢敏 新 医師。現職の後継で「日本医師連盟」支援
17位 宮崎雅夫 当(1) 農水官僚。「全国土地改良政治連盟」支援
18位 山東昭子 当(8) 元タレントながら参院議長まで務めた超ベテラン
19位 赤池誠章 当(2) 元専修学校長。「全国専修学校各種学校総連合会」など支援
20位 比嘉奈津美 繰(1)歯科医師。「日本歯科医師連盟」「日本歯科技工士連盟」支援)
21位 中田宏 繰(1) 衆院4期。「日本臨床検査技師連盟」など支援
22位 田中昌史 繰(1) 理学療法士。「日本理学療法士連盟」支援
上位(3位から)は「全国郵便局長会」「全国建設業協会」「全国農政連」(JA)といった自民の伝統的支持母体の支援候補が並びます。中下位(10位以降)は「日本看護連盟」「日本薬剤師連盟」「日本医師連盟」「日本歯科医師連盟」「日本臨床検査技師連盟」「日本理学療法士連盟」などメディカル系がしのぎを削る構図。
特定の団体に頼らない候補は?
では前回の候補者が当選ならず、繰り上げ補充にも届かなかった、ないしは全くの新人を以下に。
阿部恭久 新 前職が19年落選。「全日本遊技産業政治連盟」支援
畦元将吾 新 診療放射線技師。「日本診療放射線技師会」「日本臨床検査技師連盟」支援
斉藤正行 新 介護事業会社入社。「全国介護事業者連盟」支援
繁本護 新 国交官僚。「全国ときわ会連合会=JR・バス交通懇話会」支援
杉田水脈 新 元衆院議員3期。多くの宗教団体が支援
長尾敬 新 元衆院議員3期。「日本作業療法士連盟」支援
中田フィッシュ 新 プロダンサー。人気お笑い芸人の弟
やはり多くが支援団体を持っています。
特定の団体に頼らない候補は山田太郎氏、山東昭子氏、中田フィッシュ氏ぐらい。一般に名が知れているのも山東氏以外は「ヒゲの隊長」こと佐藤正久氏、五輪メダリストの橋本聖子氏、コロナ禍でひんぱんにメディアへ登場した釜萢敏氏、元横浜市長でもある中田宏氏および有名ではある杉田水脈氏ぐらい。
支援団体を競わせて票を掘り起こすタイプ
自民は組織内候補を何としても当選させようとする立憲・国民と異なって多数の支援団体を競わせて票を掘り起こすタイプです。特に当落線上の15~20位あたりはまさに箱根駅伝のシード権争いを彷彿とさせる激しさ。
選挙期間中も含めて比例候補はガンガン街頭演説するというより、ひたすら組織固めを行います。支援者集会の会場は異様な熱気に包まれて大盛り上がり。でも関係ない有権者にはやはり「誰?」状態のままです。