博士新卒の初任給が、日本で最も高い会社を目指します
このnoteで伝えたいことは、タイトルに記した通りだ。日本の若者が科学者や研究者に憧れ、安心してその道を選べる社会をつくるための第一歩を踏み出せることを、とても嬉しく思う。
今日の日経新聞で、当社の博士新卒の初任給引き上げに関するニュースをご覧になっただろうか?
博士修了者の初任給、4割増の43万円台に VCのビヨンド:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC178A20X10C25A2000000/
今年に入ってから、ユニクロやソニーグループ、東京海上日動といった大手企業が初任給の引き上げを次々と発表している。しかし、Beyond Next Venturesはそれとは異なるアプローチを取ることにした。
私たちは、博士新卒に限定して、初任給を大きく引き上げる。具体的には、新卒のベンチャーキャピタリスト職として採用する、博士課程修了者の初任給を月額437,500円、年俸ベースで700万円に引き上げる。
単に高い報酬を提示して話題を集めたいわけではない。
僕が今回、色々なリスク承知で、人柱になってでも、本気で目指しているのは、日本社会全体が博士を「特別な存在」として正しく評価し、科学者や研究者に憧れる若者の不安を払拭することだ。博士進学を考える学生が、経済的な理由でその道を諦めることのない社会をつくりたい。
今回の発表をきっかけに、僕はBeyond Next Venturesだけでなく、大手企業や博士人材を新卒で採用するあらゆる組織が、博士の能力を適正に評価し、ふさわしい報酬体系を整えていく機運を高められたらと、考えている。
今、日本の博士課程に進もうとする学生の多くが「博士を取っても報われないのではないか」という不安を抱えている。
優秀な人ほど選択肢が広い。そんな中、3年間の博士課程でのハードな研究生活と、博士新卒の低い給与水準を天秤にかけたとき、「見合わない」と感じるのは当然のことだ。
海外では、博士号を取得すれば給与が上がるのが常識だ。しかし、日本では博士新卒の給与水準が、学部卒の新卒が2〜5年働いた程度の水準にとどまっている。これは、「博士になっても大して給料は上がらない」という社会からのメッセージに他ならない。
今回の年俸700万円は、日本における新卒博士の初任給として、現時点で一般に公表されている中では、最も高い水準となる。
当社の調査結果を後ほど述べるが、もし「うちはそれ以上の給与を博士新卒に支払っている」という企業があれば、ぜひ積極的に公表して欲しい。そして単に新卒給与だけではなく、博士新卒の給与が特別であることも明記して欲しい。
僕はそれを知った上で、さらに企業努力を重ね、日本で最も博士新卒の初任給が高い会社であり続けることを目指したいと思う。
今回の発表が刺激となり、日本の大手企業もBeyond Next Venturesと同等、あるいはそれ以上の報酬で博士新卒を迎えるようになれば、博士人材のキャリアの選択肢は大きく広がる。
そうなれば、日本社会全体が博士をもっと必要とし、博士の価値を正当に評価する文化が根付くはず。これこそが、今回の初任給引き上げの真の狙いであり、僕が考えるBeyond Next Venturesが果たしたい社会的な役割だ。
他国との差が著しい、博士進学希望者「2%」の背景
現在、日本における高校生の博士進学希望率はわずか2%。アメリカ15%、中国19%、韓国6%と比較しても、日本の「希望格差」は深刻だ。
“例えば、高校生の職業意識の特徴は「安定志向、生活重視」であり、教育進路についても「大学院博士まで」を望む生徒は2%にとどまる。米国の15%、中国の19%、韓国の6%に大きく後れをとる。”
僕はこの数字を見て、危機感を抱かずにはいられない。博士進学を希望する若者が進学をためらう要因を取り除くことが、日本の未来を支える上で不可欠だ。
博士課程進学を断念する理由は、大きく分けて以下の3つに集約される。
1.経済的負担
・学費や生活費の負担が大きく、研究に専念しづらい
・奨学金や研究助成が不足し、安定収入を得るまでの期間が長い
・返済義務のある奨学金への抵抗感
2.キャリアの不確実性
・博士号取得後の就職先やキャリアパスが不透明
・博士の価値が社会に十分認知されておらず、企業の受け入れ体制が未整備
・研究機関のポスト競争が激しく、安定した職に就きにくい
3.閉鎖的なコミュニティ
・研究室外でキャリア相談ができる機会が少ない
・企業インターンや異分野交流のハードルが高い
・大学の派閥構造により、新たなチャレンジを阻害される
この現状を変えなければ、日本の未来を支える研究者が減り続けてしまう。それを食い止めるために、僕は、博士進学を選択することが「リスク」ではなく、「希望」になる社会を本気で創りたいと思っている。
何としてでも変えなきゃならない。僕は、このまま自分たちの未来が消えていっている事を黙って見ていられない。
世界における博士の待遇と、日本の惨状
世界に目を向けると、博士号取得者の待遇は日本とは大きく異なる。
たとえばアメリカでは、工学系の博士号取得者が民間企業に就職した場合、平均年収は15万ドル(約1,600万円)を超えるとの報告がある。
博士号取得者のキャリアパスは明確であり、企業に就職した場合と大学などの学術機関に残った場合とで、年間数万ドル規模の収入差が生じることも統計で示されている。そのため、多くの博士号取得者は高い報酬を求め、企業の研究職など民間セクターに流れる。
ドイツでも工学分野の博士新卒の初年度年収は6万〜7万ユーロ(約900万〜1,000万円)とされ、その後のキャリアアップで8万ユーロ(約1,200万円)以上を狙えるケースも珍しくない。
こうした高待遇の背景には、博士が持つ専門知識だけでなく、リーダーシップや高度なコミュニケーション能力、問題解決力といったトランスファラブルスキルが、正当に評価されていることもある。
一方、日本では博士号取得者が企業で高い給与を得る仕組みが未整備のままだ。
もちろん、海外との物価水準の違いを考慮する必要はある。しかし、物価水準の差(例えば日本を1とすると米国は1.5〜2倍)を考慮してもなお日本の博士新卒の給与は相対的に低水準にとどまっている。
また現状では、多くの大手企業が博士新卒を修士卒とほぼ同等の初任給で採用し、年収500万〜600万円台にとどまる。さらに、国立大学などのポストドクター職では年収300万円台に甘んじる例も多く、海外(米国では同800〜1,000万円)との格差は歴然としている。
結果として、日本の若者の博士課程に進学する意欲が削がれ、日本の博士進学希望率は先進国の中でも最下位水準となり、博士に進学せず民間企業に就職するか、優秀な研究者が海外流出する要因となっている。このままでは、ますます日本の研究開発力は大幅に低下し、国際競争力の喪失につながりかねない。
今こそ、博士人材を正当に評価し、報酬面でも世界標準に近づける仕組みを構築しなければならない。博士が安心してキャリアを築ける環境を整備することが、日本の未来にとって不可欠だと思う。
博士人材や研究者は、日本の未来を切り開く存在
博士課程に進むことは、多くのリスクを伴う。長い年月を研究に費やす一方で、経済的な負担やキャリアの不透明さに直面するのが現状だ。しかし、資源に乏しい日本において、未来を切り開くのは、日本の科学技術を前進させる博士号取得者に他ならない。
僕は、彼らこそが日本社会のリーダーとして活躍できるよう、環境を整備しなければならないと思っている。
博士課程進学者を増やし、日本全体の研究開発力を底上げするには、まず博士人材を特別待遇する覚悟が必要ではないか。博士号取得者が経済的に安定し、その専門性を存分に活かせる環境を構築することこそが、今、日本が解決に向けて最優先で取り組むべき課題だ。
Beyond Next Venturesでは、新卒博士の待遇改善に本腰を入れ、その第一歩を踏み出した。この取り組みが、日本の博士人材を正当に評価する流れを生み出し、次世代の研究者たちが安心して挑戦できる社会へと、つながることを強く願っている。
日本で最も博士初任給が高い会社を目指して
Beyond Next Venturesは、冒頭に書いた通り、2025年以降の新卒採用から博士課程修了者の初任給を年俸700万円に設定する。
この水準は、当社独自の調査によると、現在公表されている日系企業の博士新卒の初任給としては最高水準であり、当社調べによると、現時点では当社が日本で一番高い水準だ。
比較対象として、博士新卒の待遇が比較的高いとされる日系企業を網羅的にリサーチし、2020〜2025年に公表された公式HP情報のみを基に、博士新卒の年俸上位企業を以下にまとめた。
※年俸非開示の場合、公表されている基本給を基に推定年俸を月給×16ヶ月で試算した。
博士新卒の年俸(公表・推定データ)
DMG森精機(機械) 公表年俸 ¥6,825,000 (月給¥475,000)
アステラス製薬(製薬) 推定年俸 ¥6,505,600 (月給¥406,600)
AGC株式会社(化学) 推定年俸 ¥5,868,672 (月給¥366,792)
日本電気株式会社(電機) 推定年俸 ¥5,780,800 (月給¥361,300)
三井化学(化学) 推定年俸 ¥5,632,000 (月給¥352,000)
武田薬品工業(製薬) 推定年俸 ¥5,600,000 (月給¥350,000)
DMG森精機株式会社 2026年新卒採用
アステラス製薬株式会社 2026年度新卒入社募集要項
AGC株式会社 2026年新卒採用サイト
日本電気株式会社 2026 年新卒採用 募集要項
三井化学株式会社 26卒向け総合職新卒採用
武田薬品工業株式会社 26年卒 待遇・福利厚生
また、政府が公開している統計データによると、日本の博士新卒者の平均初任給は以下の通りだ。
博士新卒事務員: 推定年俸438.4万円(月給 約27.4万円)
博士新卒技術者: 推定年俸470.4万円(月給 約29.4万円)
博士新卒研究員: 推定年俸468.8万円(月給 約29.3万円)
博士新卒大学助教:推定年俸520.0万円(月給 約32.5万円)
e-Stat政府統計の総合窓口 表2初任給関係職種の職種別事業所数等及び平均初任給月額
もし「うちの会社の博士初任給のほうが更に高い」という企業があれば、ぜひ情報を共有していただきたい。こうした情報が積極的に公表されることで、博士を目指す若者の指針となり、日本の博士人材の待遇改善につながると考えている。我々もそれらをベンチマークにし、更なる報酬改善を続けてゆくつもりだ。
僕は本趣旨に賛同する各社と、日本の博士人材が正当に評価される未来を、一緒に実現したいと思っている。
博士人材は単なる専門家ではない
先日、経済産業省が主催する「博士人材の活躍促進に向けた検討会」にゲストとして招かれ、博士号取得者が民間企業でどのように活躍できるのか、について議論した。
当社で働く3名の新卒博士メンバーの事例を紹介したが、彼らはそれぞれの専門性を活かし、日本やインドのディープテックスタートアップ投資に大きく貢献している。
例えば、
・医療機器の事業化や投資を主導するメンバー
・バイオテクノロジーの知見を活かし、創薬スタートアップの事業化を担うメンバー
・専門知識を活かしてインドでインパクト投資を担当するメンバー
またディープテックスタートアップのエコシステム作り等、それぞれが専門分野を超えた広範な業務に携わり、博士人材の可能性を体現している。
博士人材は専門知識だけでなく、トランスファラブルスキル(博士課程で身に付けた汎用的な業務能力)を備えている。
彼らと一緒に働く中で、適切な環境と報酬を提供すれば、研究開発だけでなく、ビジネスの最前線でも博士人材が活躍できることを強く実感している。
経済産業省が公表した「博士人材受け入れのためのガイドブック(ドラフト)」では、博士人材を企業が受け入れ、活躍してもらうための具体策が提案されている。その中でも、特に重要なポイントは以下の3つだ。
1.初任給の適切な設定:博士の専門性を尊重した報酬体系の構築
2.研究開発型キャリアパスの整備:博士がスキルを最大限活かせるキャリアモデルの提供
3.専門性を活かしたプロジェクトへのアサイン:博士の専門知識を社会課題解決に直接結びつける仕組み
博士人材を将来の日本を背負うリーダーに
今回の取り組みのゴールは、単に目立つために高い初任給を設定することではない。博士課程進学者が経済的な不安を抱えることなく研究に没頭し、日本の未来を支える研究者として活躍できる土壌を整えることにある。
博士課程を目指す若者が、経済的・心理的な負担を感じることなく、純粋に「研究者になりたい」と自然に思える社会をつくる。その結果、日本の研究力が向上することで多くの研究成果やイノベーションが創出され、日本がもっと国際社会に貢献できると信じている。
僕は、この取り組みを通じて日本の博士進学率が向上することを強く願っている。時間は掛かるかも知れないが世界に伍する水準まで引き上げてゆきたい。そして、この動きを広げるために、同じ志を持つ人や企業・組織と連携し、社会全体で博士人材を適正に評価し、待遇を改善してゆきたいと考えている。
もしこの記事に共感してくださる方がいれば、ぜひご連絡いただきたい。僕と一緒に博士人材の未来を共に考え、行動してくれる仲間を強く求めている。日本の未来を創る博士人材を共に応援し、科学技術立国としての力を一緒に高めてゆく仲間が増えることを心から願っている。
X:伊藤毅 Tsuyoshi Ito | BeyondNextVentures🚀🇯🇵🇮🇳
また、Beyond Next VenturesのPodcastでは博士号を持つ経営者との対談を配信しているので、ぜひ聴いてください。
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