前の話
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「じゃあですね、これからもベジタリアン代表としてニシダさんには頑張っていただくという方向で。」
「いや、頑張らないよ。何で俺みたいな奴がベジタリアン代表なんだよ」
「え?、いやオレンジのペンキ撒き散らして下さいよ〜。落合南長崎に」
「いや俺がそういう活動をしたとしても誰もベジタリアンだと思わないから」
「あ、まあそうですね。そんな形じゃあね。じゃあエンディングいきましょうか〜」
そう言ったサーヤさんの声に、カメラの切られる音が続いた。
「あっち〜‥」
そう言ってリモコンを手に取り、設定温度を18度まで下げる。
「温暖化加速魔がよ」
いつもの様に軽口を叩いてくる相方。その向こうで笑っているマネたく、やまじ。
「いや、誰がだよ。もっと他に要因あるから。」
「でも実際ニシダの体温で平均気温2度くらい上げてる所あるからな」
ニヤニヤとこちらを見ながらそうイジってくるのはチャンネル「ララチューン」の構成作家であり、ゲーマーであり、そしてーーーーー
芸人・ニシダの想い人である、ライプニッツ。
「っ…、いや、俺の体温で地球があったまっちゃうなら俺高熱原体過ぎるだろ。微熱とかそういうのじゃ無いって。」
時折、その全てを見透かしている様なライプの目つきにたじろいでしまう事がある。 いつもならもっとワードが出ている様な場面でも、脱脂綿を詰まらせた様に言葉が出ずに、その官能的とも言える表情に見つめられるとどうにも居た堪れない気持ちになる。
これまでの人生でそう言った思いをした事が無いわけでもないが、ここまでの拗らせ方は初めてなのである。
「はあ…。俺、恋しちゃったのかな…」
思わずソファーでスマホをスワイプする手を止めてそう呟いてしまう。
「ん?ごめん、ニシダ今なんか言った?」
ライプニッツはそのまん丸の栗の様な瞳を上げ、細く白い首を傾げてこちらに視線をやってくる。
こっちがどんな気かも知らずに。
思わず自分の内壁の部分に張り付く、じっとりとした淡い想いを吐き出してしまいそうになったが、堪えた。
「いいや。…何も。」
「ああ、そう。」
そう言ってライプニッツは隣に腰掛けてきた。
脆く壊れてしまいそうなくらい綺麗な身体が急に近づいた事で、少しぎょっとした。
自分が近くにいていいのだろうか。壊してしまうのではないか。そう言った少し後ろめたい気持ちもあったのかもしれない。
「ニシダが何考えてるか分からんけどさ、、俺、ニシダが何か思い悩む事とかあったら聞くから。なんてったって仕事仲間やしな。」
そう言ってその細い手でぽんぽん、と背中を優しく叩かれた。
仲の良い友人同士なら日常茶飯事であるはずのスキンシップに、思わずドギマギしてしまう自分がいた。
心臓が跳ね、血液が巡るのが良くわかる。
「じゃあ、俺帰るわ。またな。」
「ーーーーー、お前のせいだよ、バカ。」
そう呟き、自分もまた帰路へ着いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!