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雇用と失業は20年間でどう変わってきたのかな

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アベノミクスの最大の成果は雇用を作ったことだって言うと、いろんな文句をつける人たちがいます。社会の動向を気にしていれば、雇用状況が劇的に改善したのを体感してると思うんですが、気にしていないんですかね。僕は大学生の就職状況の説明を受けてたから、民主党政権の前くらいから状況はものすごく悪くなって、それが第二次安倍政権で急激によくなったなあという実感はあります。

麻生政権の終わり頃に完全失業率が5%を超えました。最高に達したのが、ちょうど政権交代の時に当たる2009年7月の5.5%です。これは高い。もっとも、高いと言ってもほとんどの人は職を得ていたんですよね。被雇用者はその時点でも5100万人います。だから、雇用の悪化をあんまり感じない人も多かったのかもしれません。

とはいえ、2000年代後半からブラック企業が話題になっていたので、職についてはいてもブラックな職場に悩んでいた人も多かったのではないでしょうか。デフレは雇用を減らすだけじゃなくて、そのために労働者の力が相対的に弱くなって、ブラック企業が蔓延ります。

民主党政権はその完全失業率が最悪の状況で生まれました。その意味では初めからハンディがあったわけですが、でもデフレを放置しちゃって、経済状況を悪化させたんですよね。ハローワークにたくさんの人が列をなしているのにろくに仕事はなかったっていう回想はネットでいくらでも見つかります。職を探していた人は大変な目にあっていたわけです。

雇用の変化を振り返った分析はいくらでもあるんですが、この際だから自分で描いてみることにしました。データは以下の労働政策研究・研修機構が公開しているものを使いました。

まず、全体の傾向をざっと見るために、ちょっと長めに1985年からの完全失業率と有効求人倍率を見ます。

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赤: 完全失業率(左軸、単位は%) 青: 有効求人倍率(右軸、単位は%) 点線の間が民主党政権

2000年前後に有効求人倍率が1を切ってるのが、就職氷河期です。それから、いったん持ち直したのに、麻生政権の時に急激に悪化して民主党政権です。これを見ると、民主党政権で改善し始めて安倍政権時にもその勢いが続いていただけのようにも思えます。

完全失業率と就業者数を一緒に描いたらこんな感じ。

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赤: 完全失業率(右軸) 青: 男性就業者数(左軸、単位は万人) 緑: 女性就業者数(左軸、単位は万人)

大雑把には氷河期から民主党政権まで男性の就業者数はそんなに変わらなくて、女性はずっと増えてるようです。

2005年以降に絞って、完全失業率と就業者数を描くとこんな感じ。

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赤: 完全失業率(右軸、%) 青: 全就業者数(左軸、万人)
すみません、横軸の0.5は半年です。でもデータは一年平均なので気にしないで。

民主党政権時代は失業率が下がってるわりには就業者数がそこまで増えてないような気がします。これが何を意味しているかは、労働力人口を見るとある程度わかります。

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青: 就業者数(左軸、万人) 赤: 労働力人口(右軸、万人)

労働力人口は就業者数と求職者数を足したもので、働いてる人と働く気があるのに働けない人です。この差が完全失業者数。完全失業者数を労働力人口で割ると完全失業率。だから、完全失業率が下がるのは就業者が増える場合だけではなくて、就業者数が変わらずに労働力人口が減っても下がるんです。そうすると、麻生政権から民主党政権までは就業者数が増えてないのに、民主党政権で失業率が改善したように見えるのは、実は求職者が減ったせいだというのがわかります。これは就職を諦めてしまった人が相当数いたことを意味しています。

ただし、民主党政権の最後の年は労働者人口も就業者数も増え始めているようではある。

安倍政権後に就業者数は500万人くらい増えています。10%近く増えたわけです。労働力人口も400万人弱増えていて、その差の分だけ完全失業者が減ったことになります。安倍政権で雇用状況が改善したって言うと、団塊世代が退職して職ができただけだって反論する人たちがいますが、それだと就業者数は変わらないんですよ。安倍政権以降の13年間で就業者数そのものが10%近く増えたのだから、純粋に雇用が増えたんです。

新型コロナでパターンが変わりましたが、まだ就業者が増えてはいます。でも、増え方は鈍った。経済政策が変わったからか、コロナの影響かはわかりません。就業者数が増えても完全失業率が2.5%くらいからなかなか下がらないのは労働力人口が増え続けてるからで、つまり以前は就職を諦めていた人たちが職を求めているわけです。あるいは定年後の高齢者や主婦のようにそれまでは職がなかった人たちも職を求めている。どういう人が多いかは年齢別データをちゃんと見ればいいんですが、それはまたいずれやると思います。

増えたって言っても非正規雇用ばかりだっていう反論もよく受けます。正規雇用と非正規の変化を描いてみるとこんな感じ。

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青: 正規雇用(左軸、万人) 赤: 非正規雇用(右軸、万人)

麻生政権の前くらいから正規雇用は減って、非正規雇用が増えています。民主党政権時代も正規雇用は全く増えませんでした。だから、民主党政権時代の完全失業率低下を支えていたのは、就職を諦めた人が増えて労働力人口が減ったことと非正規雇用が増えたことです。民主党政権末期に労働力人口が増えたのも、非正規雇用が増えただけです。

それが、2014年から正規雇用が急激に増えていて、確かに非正規も増えてるけど、同じくらいのペースで正規雇用が増えています。安倍政権以降に増えたのは非正規ばかりだという主張は誤りで、むしろ民主党政権時代に非正規ばかりが増えたんですね。安倍政権以降は正規雇用が着実に増えている。雇用全体が増えて、正規雇用も増えているわけです。

男女別の同じグラフも描いてみます。

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男性。青: 正規雇用(左軸、万人) 赤: 非正規雇用(右軸、万人)
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女性。青: 正規雇用(左軸、万人) 赤: 非正規雇用(右軸、万人)

男女とも正規雇用は増えてるけど、男性は正規・非正規とも頭打ちで女性が増え続けてるのが目を惹きます。しかも、最近は女性の非正規は変わらずに正規雇用が増えています。女性の社会進出にはまだまだ余地があるということなのでしょう。

結論です。民主党政権は確かにそれ以前の自民党政権の負の遺産を引き継いだハンディはあったけど、でも雇用に関してはなんにも改善できなかったんですよ。デフレに誘導したから当たり前なんですが。デフレは雇用をなくします。民主党政権時代に完全失業率が下がり続けたのは、雇用が改善したからじゃなくて、就職を諦めた人がたくさんいたのと非正規雇用ばかりが増えたからです。民主党政権の終わりに雇用が増えたのも非正規雇用ですよ。

それに対して安倍政権以降は雇用が増えて、それまで就職を諦めていた人たちや就職を考えていなかった人たちも職を求めるようになり、就業者が増えました。正規雇用もちゃんと増えたし、とりわけ女性の正規雇用が増えました。

今はまだ安倍政権時代の名残りで雇用が増えてますが、どうも新型コロナ以降は就業者数の増え方が鈍ったようです。個人的には今の経済政策では早晩雇用状況が悪化すると心配してますが、どうでしょうね。

というわけで、すごく大雑把に雇用の変化を見てみました。同じような分析の前例はネットでいくつも見つかりますが、自分でグラフを描いてみるのはだいじですね。でも、素人の分析だから、間違いがあるかもしれません。ご指摘いただければ幸いです。

なお、小ネタですが、図は全部Julia(PyPlot)で描きました。

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