<社説>進む自衛隊離れ 装備より人の充実こそ

2023年5月29日 07時23分
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 防衛費を関連予算を含めて国内総生産(GDP)比2%程度にするための財源確保特別措置法案が衆院を通過し、参院で審議入りした。「倍増ありき」の防衛論議が加速する一方、要となる若者の自衛隊離れが深刻さを増す。
 「専守防衛」に徹し、実効性のある防衛力を構築するには、敵基地攻撃が可能な装備の充実よりも自衛隊離れに歯止めをかける組織改革が先決ではないか。
 岸田文雄政権は新しい国家安全保障戦略に基づき、防衛省に自衛隊の「人的基盤の強化」に関する有識者検討会を設置。予算倍増による軍備拡張を支える人材確保策の検討を進めている。今夏に中間報告を浜田靖一防衛相に提言し、採用や待遇、職場改善などの具体策づくりに生かす、という。
 陸海空合わせた自衛隊の総員は現在約二十三万人。任務遂行に必要な定員に対する充足率は九割を超えるが、若手の初級隊員に限れば八割弱にとどまり、防衛最前線の部隊ほど人手不足は厳しい。
 自衛官の応募者数は二〇二一年度までの十年間で26%減少した。少子化に加え、苛酷な職場環境、集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法で参戦の現実味が増したことなどが背景にあろう。
 若者の採用難に加え、自衛隊の人手不足に拍車をかけるのが、中途退職者の急増だ。二一年度は十年前から一・七倍増の五千七百人余に上った。一万三千人余の入隊を確保しながら、年間に43%が離隊する事態は異常である。
 しかも中途退職の九割は階級下位の「曹」「士」が占める。多くは若手隊員たちだ。若者の自衛隊離れに早急に手を打たねば、組織の存立自体も危うくなる。
 中途退職がなぜ多発するか。まずは現場で悩む隊員たちの本音を聞き取り、内に潜む構造的な問題を掘り起こさねばならない。
 劣悪な職場環境の典型として指摘されるのがパワハラ、セクハラなどのハラスメント体質だ。有識者検討会もハラスメント対策を軸とする働き方改革に主眼を置く。人権が尊重され、士気高く働きがいのある自衛隊に変えることができれば、若者離れに歯止めをかける一歩となるに違いない。
 防衛力の根幹をなす人的基盤を固め直す過程で、適正な防衛態勢の規模もおのずから見えてくるはずだ。予算の「倍増ありき」で防衛論議を急いではならない。

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