ロシア人ミルブロガーが運営するRYBARは「ウクライナ軍の無人機攻撃に対する効果のない対策=モバイル通信の遮断が防空部隊からも通信手段を奪っている」「そもそも軍の指揮統制が商用メッセンジャーや民間向けアプリにどうして依存しているのか?」と指摘して改善を訴えた。
参考:“Кинжалы”, баллистика, дроны: ПВО обезвредила 589 российских целей, есть попадания в 13 локациях
参考:Завод Bayraktar у Києві потрапив під удар росіян
参考:Удар россиян по кораблю ВМС: уже 2 погибших, еще несколько – пропали без вести
ロシア軍の防空体制の不備が続けば被害や問題はもっと大きく可能性がある
ウクライナとロシアの長距離攻撃能力には当初「絶対的な差」が存在し、ロシア軍は28日夜も弾道ミサイル×11発、巡航ミサイル×20発、様々なShahedタイプの無人機×563機を発射し、ウクライナ軍参謀本部は「大半を無力化したもののミサイルと無人機の着弾が13ヶ所で報告され、撃墜した無人機の残骸が26ヶ所に落下した」と発表し、わざわざ撃墜した無人機の残骸の落下に言及するということは「人口密集地に落下して被害が出た」と強く示唆している。
さらにウクライナメディア=Межаは「キーウ郊外に建設されていたBAYKAR工場にミサイルもしくは無人機が2発着弾した」「完成していた生産施設に深刻な被害が生じた」と報じ、この被害を報告したリヴィウ市議会議は「この工場に対する攻撃は初めてではない」「過去6ヶ月間の間に4回も攻撃を受けた」「BAYKAR工場の生産施設はほぼ完成し、主要なスタッフの訓練を完了して生産準備が進んでいた」と報告して注目を集めているが、後方地域に対する長距離攻撃能力の格差は急速に縮まりつつあり、ロシアメディアは平静を装っても情報空間のロシア人コミュニティではウクライナ軍の無人機攻撃に対する懸念と批判が増加中だ。
ロシア人ミルブロガーの中でも影響力が大きいRYBARは26日「ウクライナ軍による無人機攻撃が始まった頃、危険を市民に知らせる手段が多数生まれ専用アプリまで登場したが、現在では賢い誰が無人機攻撃の開始と共にモバイル通信を遮断することを決めた」「このような状況で無人機の脅威をどのように通報し、その脅威を一般市民にどうやって警告するのか?アプリもTelegramもインターネット経由で作動している」と述べて、国内の防空体制について以下のように述べている。
“興味深いのは機動射撃部隊の通信も遮断されてる点で、なぜならロシア軍の通信環境は控えめに言っても「紛失を恐れて未設定の中国製無線機を金庫に封印しているなもの」だからだ。さらに国防省の話はさらに愉快だ。機動射撃部隊は保護する対象の地域から移動することを制限されている。これは上の報告や空薬莢の回収に便利で、民間人を射撃音で驚かせることもない。しかし無人機は撃墜したとしても残骸の落下で大きな被害を生じさせることがある。どんなイニシアチブも考えなしに実行すれば全てが台無しだ”
“結局のところモバイル通信の遮断は民間人だけでなく国内の防空体制にも問題を引き起こしているのだ。通信を遮断するアイデアを考案した人間を「無人機を撃墜する妨げになっている」と批判することも可能だが、もっと基本的な疑問を投げかけたい。戦いが4年目に突入しているにも関わらす軍の指揮統制が商用メッセンジャーや民間向けアプリに依存しているのか?ロシア軍の通信問題は特別軍事作戦が開始された当初から明らかになっていたが、未だに「未設定の中国製無線機を金庫に封印している状況」に根本的な改善が見られない”
“機動射撃部隊にモバイル通信以外の通信手段や状況確認の方法がないのは彼らの責任ではない。包括的な情報共有システムを積極的に導入し、衛星通信機器を増強することを願っている。自助努力を何も行わず通信問題が発生しても軍の専門部署ではなく民間通信会社の責任を問うのは間違っている”
RYBARは29日にも同じテーマを取り上げ「もうモバイル通信の遮断は無意味だ」「ウクライナ軍の無人機はロシア国内のモバイル通信に依存せずサマラやオレンブルクに到達している」と訴えた。
“再びうんざりするほ聞き飽きた話題を取り上げる。サランスクの住民によればもう2週間近くインターネットが使えないか、もし通信が出来ても恐ろしいほど速度が遅く、その原因について地元当局は何も語らない。モルドヴィア共和国の指導部は「この問題は自分たちの管轄外だ」と言い訳するか「無人機の脅威」を嘆くかのどちらかだが、この地域への無人機侵入はそれほど頻繁ではない。この2週間で無人機警報が発令されたのは数回のみだ”
“国内の至るところでモバイル通信の遮断が発生し、当局が「ウクライナは国内のモバイル通信を無人機の制御に使用している」と言い訳するのはもはや口癖になっている。確かにウクライナ軍の無人機の中から露通信業者のSIMが発見され、こうした措置には一定の意義があったものの現在は違う。当局者は未だにモバイル通信を遮断しているが、ウクライナ軍の無人機はサマラやオレンブルクに到達している。これは何故なのか?、ウクライナ軍はモバイル通信が遮断される新しい状況に適応したからだ”
“ウクライナ軍はロシア国内のモバイル通信が利用できるルートで無人機を飛ばすの止め、予め指定された座標に向けて無人機を低空飛行させ、最終目標までのルート上にある都市を大きく迂回させるようになった。そのためモバイル通信を遮断しても殆ど効果がなく、攻撃を阻止するには火器やミサイルによる直接的な制圧しかない状況だ。逆説的に聞こえるかもしれないが、現在の方針に盲目的に従って苦しんでいるのはウクライナ軍ではなくロシア軍の方で、商用メッセンジャーで情報を共有している我が軍の兵士、特に防空部隊や孤立してしまった一般市民だ”
“どんなイニシアチブでも盲目的に従うのではなく頭を使って状況を合理的に評価することが大切で、製油所に対する防衛も同様だ。クリミアでは厳格な措置を緩和することで状況が改善したため、他の地域でも慎重かつ合理的な判断が下されることに期待している”

出典:Efrem Lukatsky
RYBARの言及には他のロシア人ミルブロガーも無言の同調(当該投稿の引用)を示しているが、ウクライナ軍も無人機の制御に「露通信業者のSIM=ロシア国内のモバイル通信」を活用していた点、現在はモバイル通信の遮断に適応している点、ロシア軍の指揮統制や情報共有に使用する通信環境が酷い点、防空部隊の通信手段や状況確認の方法がモバイル通信に依存している点、それにも関わらず無人機の脅威を理由にモバイル通信を遮断している点が非常に興味深い。
ウクライナ軍の問題は国内や海外メディアが取り上げるので比較的簡単にアクセスできるが、ロシア軍の問題は表に出てこないためRYBARの言及はとても新鮮に映り、ウクライナは無人機攻撃の約60%を占める自爆型無人機=FP-1(最大到達距離1,600km)を1日で約100機、1ヶ月で約3,000機も生産しているため、ロシア軍の防空体制の不備が続けば被害や問題はもっと大きく可能性がある。

出典:ЦАПЛІЄНКО_UKRAINE FIGHTS
因みにあるロシア人(Старше Эдды)は「製油所の報道を禁止し『全て上手く行っている』と装っている」「そうすれば法を遵守する市民は安心して眠り、製油所から立ち上る火柱を祝日の花火と思い込むだろう」「なぜなら緊急事態を知らせるロシアのメッセンジャーには都合の悪い情報が一切表示されないからだ」「善良な市民が問題に気づくのは実家へパンケーキを食べに行く際、ガソリンスタンドで車に給油できなくなった時だけだ」と指摘したことがあるため、ロシア当局がモバイル通信を遮断する理由には「無人機攻撃による被害状況を拡散させないため」という意図もあるのかもしれない。
追記:ロシア海軍の黒海艦隊はウクライナ軍の無人挺や無人機の攻撃で大損害を被ってきたが、ロシア国防省は29日「無人挺を使用しドナウ川河口でウクライナ海軍の偵察艦シンフェロポリを撃沈した」と発表して攻撃の様子を収めた映像を公開、ウクライナ海軍も「攻撃は事実だ」「乗組員2人が死亡して数人が行方不明になっている」と述べたものの、攻撃を受けたシンフェロポリが沈没したかどうかについては「まだ確認されていない」と主張した。

出典:Минобороны России
この攻撃は無人挺運用で遅れを取っていたロシア軍が「いつまでも現状に甘んじていることはない」と示唆した格好で、戦いは常に一方的ではなく状況に適応した方が優位性を獲得する。
関連記事:ロシア人コミュニティ、燃える製油所の報道を禁止して問題ないと装うな
※アイキャッチ画像の出典:Минобороны России
















少し「頭の体操」をするために逆張りしてみたいのですが、中国やロシアなどが強いのは一定程度、言論を統制しているからでは?という意見を見てなるほどと思いました。
自由な言論や情報は素晴らしいと言われますが、実際、西側の言論は自由なお陰で陰謀論が跋扈し、つまらない人種議論、ジェンダー議論で分断だけが再現なく増幅されていく地獄絵図です。
情報が全て自由であるということは、いい面もありますが悪い面も同じくらいあるのではないかと思うんですよね。
まあだからと言って中国やロシアで暮らしたいかと言われれば絶対嫌ですが。
中露は言論だけではなく、上層部が言えば即座に、
全てに下部が対応する。そのスピード感は非常に早い
良くも悪くも上層部の能力に依存しているわけです
民主主義国家は複雑なプロセスを「保身」の為作り上げ
技術革新もあいまって、もはや誰も全貌を俯瞰できない
どちらが良いとか悪いは歴史が証明するのでしょう
まあいい面も悪い面もあるのは間違いないですが…
分権が最小限な垂直型組織は全体命令をしやすい一方で、無能が隠蔽しやすい環境になってしまうのが最大の問題でしょう
監査のない古臭い企業のようにもなりうるし、そうなったら改善もできず衰退一方になりやすい。故に帝国の官僚機構は衰退する。
権威主義は如何にトップが管理職に目を張り巡らし統率を取り、如何に中間管理職の士気維持と育成ができるかが自由民主主義以上にハードルになります。
追記
だからこそ権威外に自らを置き、第三者の目として監査の機能をするアクターが権威主義にとっては理想的なので、おそらく政権側からしたらRybarのようなアクターは歓迎のはずです。
ただ権威主義は金銭のかわりに権威が価値の最上位であり、限られた権威の席を奪い合うため猜疑がつきません。その果てがソ連後期等の東側の染み付いた上への不信と、それでもさらなる悪化を恐れるという消極的賛同です。
正義や金といった自由主義のわかりやすい指標とはまさに価値観が異なりますので、権威主義の命令権が自由主義からするとアクターの制御がしやすそうに見えたとしても、その性質上特に総合的な内部情報が腐敗によって劣りやすいと思います。
まあ管理インターネット時代はまた違う価値観が生まれるのは東西同じだと思うので中国とか今の東側は違うかもですね。
いい感じにバランスをとってくれれば全然言論統制してくれて
いいんだけどな。
中国ロシアと欧米の真ん中くらいならちょうどいいだろう。
何故か人類には極端なことしかできないようなので実現は
出来ないだろうけど。
(ロマンはありますが)兵器のスペックだけで語っても戦争は仕方がないわけで、適応していく能力が求められるのを改めて感じますね。
『ヒグマの対応に苦戦している』日本目線で考えてみると、日本は絶望的に適応力ないかもなあと最近思いました…
追記です。
BBCが、ドンバスで取材を行った動画がありますので、ご興味のある方がいらっしゃれば。
ドブロピリヤで、対ドローンのネットが映っています。
(0:32)ドローン探知機→ドローンライブ映像逆探知→ドローン搭載弾頭の特定(RPG)→ドローンジャミング起動、このプロセスも興味深いなと。
(5:53)ここでの負傷の約4分の1は銃で撃たれた傷です。そのほとんどがドローンに撃たれた傷です。
(6:00)この救急医療拠点では、これまでにないほどの数の重症者に対応しています
ドローンによる被害、やはりとんでもないですね。
最前線の野戦病院のようですが、男性医師だらけというのも興味深いなと(女性は1人映っているように見えます)。
(2025/08/28 故郷と最後の別れか……住民は避難、重傷兵多数 ウクライナ・ドンバスでBBC取材 Youtube)
前線とはいえ野戦病院まで戻って来れたのなら幸運な方ですね。(生存性バイアスの絵を思い出す)
まあ、難しいところですよね。それで通信遮断を解除したらまたモバイル回線に乗ってくるだろうし。
結局部隊の通信システムが整っていないのが最大の問題なのでしょう。
どうにもロシアの上層部にはトンデモナイあほが居るとしか思えん・・・もはやウクライナのスパイを疑うレベルの。
まあ戦争なんてそんなもんかもね。
どちらより馬鹿でないかの勝負だ。
無能かどうかってより予算と資源の(前線との)取り合いで負けるのが大きいのでは
蜘蛛の巣作戦からここ2か月ぐらいでロシア国内への攻撃が苛烈になってきたけど、それまでは露内地への攻撃はほとんどなかったわけだし
ロシアは前線において優勢で、後背地への攻撃でもリードしていた。しかし受け手に回ると意外に脆いーこれは権威主義国家の弱点と見てもよいのでしょうか。
差し迫った前線に比べ内政に近い国内の被害に対する改革はより進みにくい。対応が硬直し、市民の怒りが敵よりも政府に向く。権威の恥となるような問題であるほど隠蔽が優先されて改善されない。
年3万6000機投入可能なFP-1すらロシア領攻撃の6割程度と言うことはロシア領攻撃に投入してるミサイル・ドローンの全体総数は6万発/機という事
最初はクレムリンにドローン一機ぶつかっただけで騒がれてましたが今となっては中国のサラミ戦略よろしくロシア国土攻撃も毎日の日常となってしまいましたね……
アメリカすらspaceXに依存している
もはや軍は商用サービスを上回る手段を持たないと言うべき
しっかし、ヒットマーク大量でおもろい
どちらが先にやったがなどもはや語る意味を持たず、爆撃という高いコストを払わずに敵国のインフラ破壊ができる戦争の行く末が恐ろしい。ひたすらお互い貧乏になって戦後復興もくそも無くなりそう
あちらを立てればこちらが立たずと。
この問題は日本も考えなきゃいけないでしょうね
適応をしない・できなくなった側が不利になるという典型なのでしょうね
一事が万事かどうかはわかりませんが、ロシア側が慢心してるのかもしれません