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祭りの場所はここか ⑦

「あ゛ー、疲れた……」


「我もぉ……」


「それは皆同じですよ、よく答えていた方です」


ようやく終わった舞台の裏側で、組み立て椅子にぐったり背を預けて空を仰ぐ。

次から次へと浴びせ掛けられる観客の熱気にやられた、夏だというのにみんな元気なものだ。


しかし、そうか。 俺のそばにはいつもラピリス達がいたからいまいち実感がわかなかったが、魔法少女というものはあそこまで人気があったのか。


「……良かったな」


「何がです?」


「魔法少女の風評がさ、魔女騒動で世間からどう見られているかと思った案外平気そうじゃん」


「どうだろうネ、今日ここにきているのは熱心なファンばかりだヨ。 それにグッズの売り上げも確実に落ちているからネ」


「そ、そっかぁ……」


魔法少女のグッズ、今ならちょっとしたおもちゃ屋にでも行けばよく見る代物だ。

杖や衣装を模した女児向けのなりきりグッズから、魔法少女をイメージした日用品までより取り見取り。

実際にブルームスターの関連グッズを見かけた時の気持ちは何とも筆舌に尽くしがたい。


「ちなみにブルームスターは非公式魔法少女だからネ、グッズも魔法局非公認のものばかりだヨ」


「知ってるよ、ただの竹ぼうきが1万円で売られていたりな」


他にもブロマイドやらマフラーやら、野良の魔法少女商戦はかなり熾烈であくどいものになっている。

実際にグッズの出来が悪すぎて炎上した会社の話なんてハクから何度聞いた事だろうか。


「ちなみに、本日イベント後のグッズでもブルームスターのものは出ていないのでご安心を」


「何を安心すりゃいいんだそれ……興味本位で聞くけど、売り上げが一番高いのは?」


「シルヴァですね、実用性が高いので」


「あー……なるほど」


ゴルドロスならモデルガンやぬいぐるみ、ラピリスなら模造刀や衣装に鉢金、それに比べてシルヴァはペンやノートとグッズ展開が優しいし使い勝手が良い、納得の売り上げだ。


「それとゴルドロスの売上金は半分ほどアメリカに送られます、今回で修繕費の5%は返済が完了しましたね」


「お前本当アメリカで何して日本に送られてきたんだ……?」


「あ、アハハ……企業秘密でお願いシマス……」


そしてグッズの売り上げは、本人に数%還元される。 命張って活躍しているのだから当たり前だが、さらにここに魔法局から支払われる給料も入るのだから魔法少女の年収は素晴らしい額になる。

……それを差し引いて5%の返済額、全体総額については精神衛生上聞かない方が良いのかもしれない。


「そ、それよりこの後の話だヨ! ちょっと休憩したら本堂の警備に入るからネ、ちゃんとわかっているのカナ!?」


「忘れてないよ、輝鏡ちゃんが舞を見せるんだろ?」


「……はい、その予定ですね」


先ほどゴルドロスが舞台上で話していた内容を思い出す。

たしか神に奉ずる神楽だったか、魔物登場から神様信仰の精神を取り戻しつつある日本ではウケはいいだろう。


「……我は一足先に結界を確かめてくる」


「俺もついていくよ、なるべく1人で行動しない方がいい」


「ええ、お願いします」


「寄り道しちゃダメだヨ、何かあったら大声で人を呼ぶようにネ」


「ツッコまないからな」



――――――――…………

――――……

――…


「あー! 魔法少女だ!」


「ヤッバ、本物じゃん! てか写真撮ろ一緒にさ!」


「魔法少女さん、りんご飴はどうだい。 お代? いらんいらん!」


「サインくださーい!」


「……遅々として進まぬ!」


「こりゃケチらず羽箒使うべきだったな……」


俺たちがいた舞台から目当ての本堂までは歩いて数分の距離だが、少し進むたびにこうも囲まれちゃちっともたどり着けない。

隣のシルヴァは既にわたがしやらりんご飴やら押し付けられていっぱいいっぱいだ、こういう時にゴルドロスがいたら荷物を考えなくていいのだが肝心な時にいない。


「シルヴァ、半分持つぞ。 大丈夫か?」


「へ、平気だとも。 この程度ぉ……」


強がってはいるがイベントの疲れと暑さでだいぶやられているようだ、この後の事を考えるとこれ以上は無茶させられない。


「仕方ないな。 ごめん皆、ちょっと離れてくれ!」


周囲に注意を払い、服の裾から取り出した羽を箒に換えて飛び乗る。

魔力の消費を抑えたいなんて考えた俺が甘かった、先にシルヴァが潰れちゃ元も子もない。

急ぎ箒の上にシルヴァを両腕で抱きかかえて持ち上げ、一息に本殿の方へと飛び抜ける。


……後ろの方から聞こえてくる黄色い悲鳴とシャッター音はこの際気にしないようにしよう。

明日にはこの姿がSNSに上げられるのかな。


「は、はわわわわ……!?」


《あーあー愛と友情のお姫様抱っこですよ、そりゃもうバズりにバズりますねこりゃ》


「お前は何を言っているんだ……」


そして元より目と鼻の先、空路を使えばさらにあっという間だ。

本殿を取り囲む警備員たちに軽く会釈をしてから敷地に降り立つ。 後ろの方では追っかけて来た群衆が屈強な警備員たちによって押しとどめられていた。


「ここは通さないわよぉーん! さ、魔法少女ちゃん達はお先に行って!」


「げ、男島のおっさん……」


「おじさ……い、いや! 助かるぞ見知らぬ警備員よ! 礼を言おう!」


つい名前が零れた俺とは違い、はっと口を押さえてキャラを取り繕うシルヴァ。 こういうところは流石だ。


「……盟友ぅ、ああいうのはその、駄目だぞ?」


「え? ああ、悪い悪い、急ぎたかったからな。 乱暴だったか?」


シルヴァとしては見た目同年代の女の子に抱えられるのはプライドが傷ついてしまっただろうか。

確かにシルヴァ自身も飛行手段はないわけじゃない、少しシルヴァの気持ちも汲むべきだった。


「いや、そういう訳じゃ……もぅ」


「ごめんごめん、それより本殿の警備だろ? どこのチェックが必要なんだ?」


「えっと、まず向こうの柱の……」


「……まったく、子供同士で何とはしたない」


小さく、しかし確かに聞こえるほどの音量で厭味ったらしい声が聞こえて来た。

声が聞こえて来た渡り廊下の方を見ると、そこには高そうな着物に身を包んだ目じりのキツイ女性が立っていた。

眉間には深い皴が寄ったその顔つきは見るものを威圧する雰囲気がある、しかしその女性の面影は何というか……


「……盟友。 あの人、輝鏡ちゃんのお母さん」


「ああ、なるほど……」


シルヴァの囁きで合点がいった、道理で面影もある。

しかしあの近寄りがたい雰囲気は輝鏡ちゃんとは大違いだ。 いや、あるいは身内には優しいのかもしれないが。

……なんとなく後ろ髪を引かれるものを覚えながら、俺たちはその女性を何も言わずに送った。

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