終点・ノンストップ ④
「いくヨ、バンク」
『モッキュウ!』
すでにテディの中に納まっているバンクに呼びかける。
あくまで敵魔法少女から銃口は外さない、距離こそあるがこの程度なら一瞬の隙で詰められる魔法少女などいくらでもいる。
「ちょっと、なに勝手に決めてんデス……う、ぐぅ……!」
「我慢するなヨ、かなり深手みたいだしサ。 これ使いナ」
「これって……絆創膏?」
後ろ手でポーチから取り出した特別品の絆創膏を投げ渡す。
バンクの力で引き出した特別品だ、治癒魔法を持つ魔法少女ほどではないが応急処置としては抜群の性能を持っている。
合宿以降、残金に余裕が現れ次第こうして引き出した小物をストックしている。 ランダム性の高い効果も事前に検証済みなので安心して使える……はずだ。
「……さて、それじゃ一応聞いておこうカナ。 所属と魔法少女名、聞かせてヨ?」
「――――魔女、トワイライト―――――あなたは―――――魔法少女、ゴルドロス―――――」
「まあ知ってるだろうネ、このまま大人しく投降する気はあるカナ」
「ない―――――それより、予想以上に早い到着―――――なにか、仕掛けが―――――?」
「……教える必要はないカナ」
ブルームスターに連絡貰って探してみたら案の定、なんてわざわざ教えてやる必要もないだろう。
魔力の気配を追うなら得意分野、すでにブルームスター本人にも場所は伝えてあるのですぐにでも追って来るだろう。
「―――――どの道、長居は難しい―――――お父さんに怒られる―――――」
「お父さん? 待てヨ、もしかしてそいつが今回の黒幕……」
「―――――あなたも、私を追いかける余裕が――――――あるの―――――?」
「……ちっ! けど、タダで逃がすには割が合わないカナ!」
後ろには重症の魔法少女が1人、この場に残して追いかける訳にもいかない。
せいぜいできるのは片手のマシンガンを撃ち放つぐらいだ、軽い引鉄を目いっぱいに引くと銃身が唸りを上げて数百発の弾丸を吐き出す。
「―――――仕留め損ねたのは、私の不手際―――――その首は、預ける―――――」
トワイライトがマントを翻して身を隠す、するとマントは重力に逆らい空中でぴたりと停止し、次いで襲い掛かる銃弾をその薄身で全て防ぎきる。
やがて弾倉が枯れたのを確認したかのようにはらりと落ちたマントの向こうには、既にトワイライトの姿はなかった。
「……逃がしたカナ、ごめんねバンク。 追いかけるのは後回しだヨ」
『モキュー』
「あっ、“お前いつも乱射ばっかで芸がないな”って鳴き声だったヨ今の! こんの生意気な……」
「あのぉー……そろそろこっちもちゃんとした治療が……欲しい、デス……」
「アァー! ごめんごめん、忘れてたヨ!」
――――――――…………
――――……
――…
「……ドクターがいないのが痛いネ、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だとも、我練習したのだ。 東京のあの日からな……!」
「頼むよシルヴァ、最悪傷口焼いて止血か……」
「だから大丈夫だってば! 落ち着きなヨ、ブルーム!」
まだ血の気の回っていないぼんやりとした視界を開くと、段ボールの上に寝かせられた私を取り囲む3人の姿が見えてくる。
熱を失っている腹部に当てられる薄っすらと温かい熱、怠い首を動かしてみれば私の腹部に紙を当てて魔力を注ぐシルヴァの姿が見えた。
「……ここ、は……どこ、っすか……?」
「HEY、ハナコ。 あまり動かない方がいいヨ、命がどうこうって怪我じゃないけど今治療中だからサ、下手に動くと変な形に治っちゃうカナ」
「プ、プレッシャーを掛けないでぇ……!」
「ゴルドロス、その辺りにしといてくれ」
……私を見下ろしているのはブルームスター、ゴルドロス、シルヴァの3人だ。
周囲を見渡すと、そこは先程までと同じ河川敷であることがわかる。
そうだ、私達は謎の魔法少女に襲われて、それから……
「……っ、タツミさん……っ!」
『コラ待て花子、起きるな!』
『タツミちゃんは平気だから~、ただボッコボコにやられて落ち込んでるだけよ~』
『そりゃ事実やけどオドレそれ言うかい……』
思わず起き上がろうとして、頭に響くセキさんたちの声に制止される。
ただその中にタツミさんの声だけがない、やはりトワイライトとの一戦が堪えたのだろうか。
「花子ちゃん、意識はあるか? 傷は痛むか?」
「ぶ、ブルームさん……ははは、面目ないっす……この2人は……?」
「一応魔法局の所属だけど信用していい……んだよな、ゴルドロスは今さらだけどシルヴァも」
「我も元は野良、事情があるのならばとやかく言わぬとも!」
「私は元からダブルスパイみたいなものだからネ、ブルームスターが信じる相手なら私も信用するヨ」
「ははは……魔法局も、案外ずさんっすねぇ……」
腹筋に力を入れると傷がまだずきずき痛むが、つい笑いがこぼれてしまう。
あれだけ警戒していたはずなのに肝心の魔法少女がこれとは、管理者の苦労が偲ばれる。
「……それよりも、我も傷の具合までは分からない、全力は尽くすが内蔵まで傷ついていたらどうなるか分からぬぞ」
「ソダネ、だったらやっぱり一旦病院に……」
「そ、それは駄目っす! 自分は今、あづっ……!」
「こら、無理に動くな! とはいっても怪我が怪我だ、流石に無謀は認められないぞ」
「……自分今保険証もお金もないっすよ、病院に行こうものならどうなることか……!」
「思ったより世知辛い悩みだな……」
ただでさえロウゼキさん相手にあれだけ啖呵を切ったのだ、休息なんて取っている暇もない。
万が一にもロウゼキさんに情報が洩れればそれ見た事かと強制送還されてしまう。
「……ふむ、それならうちで預かっていいカナ?」
「………………えっ?」