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終点・ノンストップ ②

「……なんや、うち嫌われるような事したっけ?」


「いやいや……ただ立場上いっちばん顔合わせちゃいけない相手っすから警戒しているだけっす」


―――――合宿が終わったせいか、さきにコンタクトを取って来たのはロウゼキさんの方からだった。

そこは流石にベテラン、上手い調子で隠れていたつもりだったがすぐに隠れ家を暴かれてしまった。


……そして、こうしてアンサーたち3人組の身の安全を守る代わりに再会の約束を結び付けられてしまったわけになる。


「この前は何で逃げたん? 折角の再会だったのに寂しいわぁ」


「そりゃまあ、自分は“これ”っすから」


そういって両手を広げ、今の自分の格好を見せる。

明らかな魔法少女としての姿、しかし私にその手の適性がないことはお姉ちゃんと交流の深かったロウゼキさんなら知っている事だろう。


「……自分は野良、それも例の錠剤の服薬者っす。 あなたとは相いれないっすよ」


「やめてほしいなぁって思うんやけど、どない?」


「無理っすね、目的は分かっているでしょうに」


「……お姉さんの事はうちらに任せてほしいって言っても」


「無理っすね、今の魔法局は信用できないっす」


「――――へぇ?」


一瞬、私とロウゼキさんの間に凍り付くような沈黙が張り詰める。

肌を刺すどころかそのまま射抜き殺すような闘気に冷や汗が止まらない、何度もお姉ちゃんと一緒にあった事がある人だが、こうして「敵」として目の前に立つのは初めてだ。

今すぐにだって逃げ出してしまいたい、いつもにこやかな表情を張り付けている彼女が見せる無表情はそれほどの恐怖を覚えるものだ。


「…………ま、魔法局の中には間者が潜んでる可能性があるっす! ロウゼキさんだって、本当は気付いているんじゃないっすか!?」


「……ほんに頭が回るなぁ花子ちゃんは」


ロウゼキさんがため息を溢す、それはつまり肯定と受けとって良いのだろう。

やはり彼女自身もこの事件に思うところはあったらしい。


「こ、この件は正式に発表とか、できないんすか?」


「出来たらええんやけどなぁ、今話しても余計な混乱を招くだけ、相手にも警戒させてしまうしなぁ」


こうして会話を続けているだけで動悸が止まらない、喉が乾く。

今の私は口先で自分の寿命を数分伸ばしているだけだ、ロウゼキさんがその気になれば瞬きの間に自分は土を舐めているだろう。


「や、やる気っすか? それなら場所は変えるっすよ、ここは人ん家っすからね!」


「うちかて友達の妹虐める趣味はないなぁ、けど……このまま魔法少女を続ける気なら、うちも見逃してはいられんよ?」


「………………」


「今はアンサーはんを守るお仕事があるから場所も変えられんしなぁ。 分かってると思うけど忠告、まがい物の魔法少女は……」


「そんなもの知った上で自分は魔法少女やっているっす」


自分達インスタントには相応のデメリットが伴っている。

本物よりも性能が低ければ杖も破損する危険が残っている、それを除いてもまだ未明の副作用もあるだろう。

だがそれを飲み込んでもなお、自分は魔法少女として戦う覚悟をした。


「お父さんとお母さんにも悪い事してるとは思ってるし、ロウゼキさんも心配してくれてありがとうっす。 けど、自分は自分のやり方で真相を探してみるっすよ」


「…………花子ちゃん」


「……でないと、お姉ちゃんは戻ってこないような気がするんす」



――――――――…………

――――……

――…



『ハァーハッハッハ! やるじゃねえか花子、あの子供ババア言いくるめやがってよ!』


「いやー、生きた心地しなかったすよ……正直見逃されたのは奇跡みたいなもんじゃないっすかね」


ロウゼキさんの説得を躱し、逃げるようにやって来た河川敷。

雨をしのげる高架下のスペースにベニヤ板などで巧みに作られたこの住居が自分の隠れ家兼現在住所だ。

5人の知恵を絞れば子供一人でもなんとか形になるものだと我ながら感動を覚える、だがそれも暖かい今の季節だけだろう。


「……冬になる前にはさっさと解決したいんすけどね、この事件も」


『そうね~、そのために錠剤の貯蔵は大丈夫?』


「うーん……心もとなくなってきたっすね」


懐から取り出した小瓶には半分にも満たない数の錠剤が収まっている。

今まで出会ったインスタントから狩り上げた変身用の錠剤、つまり自分が変身できる残りストックを示している。

ギャラクシオンから回収した量は大きいが、最近は目新しい獲物も居ないせいで錠剤の供給も少ない。


「……これからは節約っすね、確実に本丸には近づいてきているっす。 やっぱりこっちに来てよかった」


ヴィーラ、パニオット、ギャラクシオン、その裏には必ずこの事件の黒幕が隠れている。

この東北に来てからブルームスターという頼もしい仲間も増えた、これならきっと――――


「――――登録、不明――――魔女、ではない――――」


「…………え?」


あまりにも自然なまま背後に現れた気配に思わず間抜けな声が漏れた。

振り返るとすぐ目の前には黒い外套を羽織った魔法少女が1人。


その少女が振りかぶる手には黒く塗りつぶされた大型のナイフが握られていた。


「不確定要素―――――排除―――――」


そしてあまりにためらいもなく、そのナイフは私目掛けて振り下ろされた。

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