北米

2025.08.29 09:00

「60万人」の中国人留学生を歓迎、トランプ米大統領が方針転換 発言には矛盾も

米国のドナルド・トランプ大統領。2025年8月13日撮影(Andrew Harnik/Getty Images)

米国のドナルド・トランプ大統領。2025年8月13日撮影(Andrew Harnik/Getty Images)

ドナルド・トランプ米大統領は、60万人の中国人留学生に米国の大学で学ぶことを許可すると表明した。これまで中国人留学生に対するビザ(査証)発給要件を厳格化するとしていた同大統領は、方針を大転換したことになる。

米AP通信によると、トランプ大統領は首都ワシントンで韓国の李在明大統領と会談した際、「60万人」の中国人留学生を受け入れると発言した。だが、60万人という数字は、2023~24年に米国に留学した中国人留学生の2倍以上の規模だ。

トランプ大統領は翌日の閣議でもこの発言を繰り返し、中国人留学生が米国の大学の財政を支えていると述べた。その上で、「私は(中国の)習近平国家主席に、同国の留学生をわが国に受け入れることを光栄に思うと伝えた」と語った。

5月に国務省が発表した方針を大転換

これほど多くの中国人留学生に米国の大学への入学を許可するという大統領の姿勢は、これまでの政権の立場からの大きな転換となる。

マルコ・ルビオ米国務長官は5月、「トランプ大統領の指揮の下、国務省は国土安全保障省と協力し、中国共産党とつながりのある学生や機密性の高い学術分野に携わる学生を含む中国人留学生のビザを積極的に取り消す」と発表していた。さらに、中国と香港からのすべてのビザ申請者に対する審査を厳格化するため、基準を見直すとしていた。

トランプ大統領の数字は実際の中国人留学生数の2倍超

トランプ大統領が挙げた60万人という数字は、米国際教育研究所(IIE)が最近確認した中国人留学生数の2倍以上に当たる。IIEの統計によると、2023~24年に米国に留学した中国人は27万7398人で、新型コロナウイルス流行前の2019~20年に最大を記録した37万2532人を大幅に下回っていた。近年、米中関係の悪化や中国の若年人口の減少、トランプ大統領の最初の任期中に課された規制の影響で、中国人留学生数は減少傾向にある。

トランプ政権のビザ政策は先行きが不透明なことから、中国人学生が米国以外の留学先を選択する事例も増えている。例えば、香港の大学で学ぶ地元出身者以外の学生の75%は中国本土の出身だ。今年は前年に比べ、中国本土からの学生が48%増加した。

さらに、英語圏の国と比べて学費がはるかに安い日本では、中国人が留学生全体の40%弱を占めている。日本に留学する中国人大学院生の多くは、学位を取得するのに十分な日本語能力を備えている。

留学生が減少すれば米国の経済や雇用に打撃も

米国際教育者協会(NAFSA)は、学生のソーシャルメディア(SNS)アカウントに対する監視強化やビザ制度の変更などによる外国人留学生の大幅な減少により、米国は今秋、最大で70億ドル(約1兆円)の損失を被る可能性があると示唆した。

米国の国土安全保障省と国務省のデータによると、今年新たに米国で学ぶ外国人留学生は30~40%減少しており、留学生全体では15%程度減るものとみられている。NAFSAは、留学生の減少によって米国内の6万人以上の雇用が失われる恐れがあると指摘した。同協会のデータによると、外国人留学生は2023~24年に米経済に438億ドル(約6兆4000億円)をもたらし、37万8000人以上の雇用を支えた。

ハワード・ラトニック米商務長官はインタビューの中でトランプ大統領の今回の発言を擁護し、外国人留学生は米国の高等教育に大きく貢献しており、留学生がもたらす資金がなければ米国の大学の15%が閉鎖される可能性があると指摘した。

forbes.com 原文) 

翻訳・編集=安藤清香

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2025.08.25 11:00

「自分らしさ」への果てしない進化の先に。ブレイキン世界王者・湯浅亜実に宿る「覚悟」。

「技術による先進」を掲げるAudiは、常に革新的な視点でモビリティの未来を切り拓いてきた。その姿勢は、自らの分野で新たな価値を創造し続ける次世代リーダーたちと深く共鳴する。その証として、パリオリンピックでブレイキン競技初の金メダルを獲得したダンサー・湯浅亜実に、30 UNDER 30 Audi特別賞を贈る。

完璧を追求しながらも、あえてその先にある「不完全さの美学」を探求する彼女の哲学。技術革新と人間らしさの融合を目指すプレミアムモビリティブランド、AudiのDNAとも通じる、独自性への飽くなき探求とは。


Prologue|輪郭が浮かび上がるまで

2年間をかけて習得した技を、迷うことなく捨てる。

これは、パリオリンピック・ブレイキン競技で金メダルを獲得した湯浅亜実の日常だ。技術的には完璧に身につけた動きでも、「かっこよくない」と判断すれば容赦なく"封印"する。

その判断基準は、審査員の採点表には明記されていない。基準は、それぞれの心のなかにある。

「手や足の角度とか、うごく速さとか、ひとつひとつ、多分ですけど、わたしは人よりもすごくこだわっていると思います」

スマートフォンで動画を撮って細かく分析する。0.1秒の動きの違い、わずか数度の角度の差にまで神経を研ぎ澄ませる。

しかし最終的に求めるのは、技術的な完璧さではない。「完璧じゃないのがかっこよかったりするから困るんですよ(笑)」

果てしない探求の過程を、そう笑い飛ばす湯浅が追求する美学は、従来のスポーツの価値観の延長線上にはないところにある。

テクノロジーが急速に進化し、あらゆる分野で「効率化」が叫ばれる時代において、湯浅の哲学は一つの問いでもある。真の革新とは、完璧を目指すことなのか。それとも、完璧を超えた先にある「自分だけの表現」を見つけることなのか。

Only One|まだ探し続けているもの

「自分のスタイルですか? うーん……自分らしく踊ることはいつも心がけてはいるんですけど、その"自分らしさ"が形になった瞬間っていうのは明確にはなくて。今でも探してる状態かもしれません」

世界の頂点に立った今でも、湯浅は自分のスタイルにたどり着いていない、と言う。この終わりなき探求こそが、彼女の独自性の源泉なのかもしれない。

ブレイキンの審査は、テクニック(技術性)、オリジナリティ(独創性)、エグゼキューション(実行力)、ミュージカリティ(音楽性)、バラエティ(多様性)といった複数の観点から評価される。しかし、これらの要素は数値で定量化できるものではなく、審査員の主観的な印象に大きく左右される。この特性が、ダンサーたちの表現の多様性を生んでいる。

「自分のスタイルをやってても勝てる時もあれば負ける時もある。だったら自分の好きなことをやって、勝ち負けは考えないようになりました」

勝負の結果よりも自己表現の純粋性を重んじる、この言葉に湯浅らしさが凝縮されている。

湯浅の表現において印象的なのは、音楽との一体感だ。ビートに合わせて流れるような動きから、時には時間を止めたような印象的な余白を作り出す。「一日休むと狂う」という彼女の言葉が示すように、この精度は日々の妥協ない練習によってのみ磨かれたものだ。

湯浅の部屋には、手書きのノートが置かれている。「できるようにしたいこととか、こなさないといけないことのリストを書いています。あと、そのとき考えていたこととか。10年前のをうっかり見てしまって、ぎゃー!!!と悲鳴をあげてノートを放りなげたこともあります(笑)」

デジタル全盛の時代に、アナログな手法で自分自身と向き合い続ける。自分が信じるやり方で、妥協なく技術を磨きつづける。その積み重ねが、自分だけの表現になる。

Breakthrough|負けて見つけた革新への道筋

湯浅のキャリアで最大の転換点となったのは、2017年から18年にかけての出来事だった。世界大会で連続優勝を重ねていた時期に、純粋な表現の喜びを見失ってしまったのだ。

「今までは楽しく、こういう動きをしたい! って感じるままにやってきたのに、次も勝たなきゃいけないと考えてしまって、負けない踊りをしなくちゃいけない気持ちになった」

そして、オリンピック出場がかかった重要な大会で、まさかの早期敗退。しかし、この挫折が湯浅を本来の自分に引き戻した。

「そこでバーンって、なにか吹っ切れて。楽しさがまた戻りました」

この体験から、湯浅は"勝利への執着"と"純粋な表現の喜び"の関係を見直した。「ブレイキングは楽しいからやってるっていうのが、自分の中で一番大事にしないといけないラインだったんです」

勝負の世界にありながら、常に「楽しさ」を軸に据えることが湯浅の哲学。彼女なりの革新への道筋だった。

Impact|強い覚悟が、心を動かす

インタビューのなかで「湯浅さんがいう、楽しさを表現することが、どうして人の心を動かすのだと思いますか?」と質問したが、なかなか答えが見つからず、湯浅は困惑した。

「何に関しても覚悟を持ってる人、覚悟のある動きやアート、作品が心を動かすし、私自身の心も動かされるんだと思います」

湯浅からこんなメッセージが届いたのは、インタビューを終えたその日の夜だった。「覚悟」。それは彼女が人や作品に感動する時の核心であり、同時に自分自身が大切にしている価値観。

小学校5年生でブレイキンを始めた湯浅は、やがて、自宅から電車で約2時間の、神奈川県の溝の口を拠点にブレイキンの練習を続ける。そこは日本トップクラスのダンサーが集まる、ひとつの聖地だった。

理由はわからないけれど、かっこいい。先輩ダンサーたちが練習する姿に、そのときはまだ言語化できない何かを感じていた。それが「覚悟」だったのだと、今になって湯浅は理解している。

あの人たちのようにかっこいいダンサーになりたい。その憧れこそが、湯浅自身の「覚悟」となり、遠い溝の口まで通い続ける原動力となった。そこでアザだらけになりながら鍛錬を続けることができたのも、その覚悟があったからだ。

湯浅は言う。「完璧な技術よりも、その人の想いが込められた動きの方が心に残る」と。そして続ける。「でも技術があるから、動きに想いを込めることができるんです」

Driving Together|絆を育むドライブの思い出

今回、湯浅が対面したのはAudiの最新セダン「A5 TFSI quattro」だった。流れるようなボディラインを前に、彼女は「シンプルなのに惹きつけられる。そういう魅力って本物だと思う」と語った。

「装飾で誤魔化すんじゃなくて、本質で勝負している感じ」

本質で勝負すること。それは、溝の口で出会った先輩ダンサーたちから学んだアプローチでもあった。ストイックに技術を磨き、自己表現を追求する彼らの背中を見て、湯浅もまた本質で勝負することの価値を学んだ。

A5の居住空間について話が及ぶと、湯浅の表情がやわらいだ。「チームバトルとかで名古屋とか大阪まで、みんなで一緒に行くの、楽しいんですよねー!」

練習に夢中になるあまり終電の時間を過ぎてしまうことがしばしばあった高校時代。そんな時は決まって、埼玉の自宅から母親が車で迎えに来てくれた。「ドライブってすごい喋るじゃないですか」片道2時間の道のりで交わされた会話が、技術だけでは語れないブレイキンへの想いを育んでいた。

「リフレッシュしたいときは、自然のある所に行きたいって思うんです。そういうときは海や山に行きます」と語る湯浅。そして何より、「今度は自分が運転して、お母さんをドライブに連れて行ってあげたい」と家族への感謝も口にする。

高校時代に支えてくれた母親に、今度は自分が快適な時間を提供したい。日常を忘れて自然のなかでリフレッシュしたい。スポーティさと快適性を併せ持つA5 TFSI quattro なら、そんな想いを叶える理想的な相棒となりそうだ。

To Perfection and Beyond|自分を突き動かすもの

「これからやっていきたいこと……常に、常にある感じです。今はこの技を練習したいとか、これを完成させたいとか」

湯浅にとって挑戦は日常そのものだ。この飽くなき探求心の源泉はと問うと、湯浅の答えはシンプルだった。

「好きだからですね。好きだし、楽しいから」

技術を磨き、革新を追求しながらも、根底にあるのは純粋なブレイキンへの愛情だ。

ブレイキンは経済的に厳しい環境の中で生まれ育った文化であり、特別な道具や設備がなくても表現できるアートとして発展してきた。都市部の困難な環境にいる若者たちの創造性から生まれたこの文化には、表現することの純粋な喜びが宿っている。ある、経済的に恵まれない国を訪れたときのことを湯浅は振り返る。

「ブレイキンで遊んでいる子たちに出会ったんです。その子たちのダンスは、とても純粋な踊る喜びに満ちていて、見ているわたしがすごいエナジーをもらったんですよ。今後は、大会への出場だけでなく、そんな国を巡って自分からもブレイキンでエネルギーを送りたいです」

完璧を目指しながらも、完璧を超えた先にある「自分らしさ」を追求し続ける湯浅亜実。

「挑戦って苦しいものじゃない。自分が好きでやっているなら、楽しい挑戦の方がほとんど」

Audiが掲げる「技術による先進」と深く共鳴する湯浅の哲学。技術の革新を追求しながら、人間らしく楽しみ、喜びを受けとり、そして伝えていく。その覚悟が、彼女を世界の頂点へと押し上げた原動力なのかもしれない。

湯浅亜実という表現者の核心には、覚悟に裏打ちされた揺るぎない情熱が宿っている。

Audi A5
詳細はこちら

Audi A5 TFSI quattro。2.0L TFSIエンジン+48Vマイルドハイブリッド、quattro四輪駆動、7速Sトロニック搭載。最高出力265ps/最大トルク370Nm、0-100km/h加速5.8秒の性能を誇る。バーチャルコックピット、MMIナビゲーションシステム、アウディプレセンスなど先進装備を標準搭載。長距離ドライブでも快適性と安全性を確保する。
Audi A5 TFSI quattro。2.0L TFSIエンジン+48Vマイルドハイブリッド、quattro四輪駆動、7速Sトロニック搭載。最高出力265ps/最大トルク370Nm、0-100km/h加速5.8秒の性能を誇る。バーチャルコックピット、MMIナビゲーションシステム、アウディプレセンスなど先進装備を標準搭載。長距離ドライブでも快適性と安全性を確保する。

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ゆあさ・あみ◎1998年生まれ。ブレイキンダンサー(Bガール)。小学校5年生の時からブレイキンを始める。2024年パリオリンピックでブレイキン競技初の金メダルを獲得。世界大会での優勝経験も多数持つ、日本を代表する表現者の一人。

Promoted by Audi / interview & text by Tsuzumi Aoyama / photographs by Hiromitsu Yasui / styling by Shinichi Mita / hair&make up by Chisato Kou / props by Naoki Yamanokuchi/ wardrobe courtesy of Chika Kisada

教育

2025.07.23 13:00

トランプ政権下で進む学生の「米国離れ」、英大学に出願した米国人が過去最多

英オックスフォード大学(Shutterstock.comn)

英オックスフォード大学(Shutterstock.comn)

英国の大学に出願した米国人の数が今年、過去最高を記録した。この背景には、外国人留学生への攻撃や研究費の削減、大学学長への圧力、一流大学に対する取り締まりのほか、多様性・公平性・包摂性(DEI)政策の見直しなど、米国のドナルド・トランプ政権による高等教育への介入がある。こうした政権の圧力の明らかな「効果」の1つは、高校卒業後の学業の継続を英国の大学に求める米国人の数が著しく増加したことだ。

英大学入学事務局(UCAS)によると、6月30日の締め切りまでに、米国人から提出された2025年度の大学入学願書は前年比約14%増の7930件に上った。これは2006年に集計を開始して以来、最多となる。

UCASは、全英で統一された共通の大学出願システムだ。米国の大学共通出願システムのコモンアップと同様、英国の高等教育機関に出願する多くの米国人がUCASを利用している。だが、UCASを通さない出願もあるため、今回の統計では、米国からの出願者数が実際より少なく集計されている可能性がある。また、UCASは学部入学のみを対象としているため、米国からの大学院生の流出も今回の数字には反映されていない。

UCASを通じて英国の大学の学部課程に出願した外国人留学生の数は、全体で前年比2.2%増加した。中国からの出願者が前年比10%増で過去最高を記録したことに加え、ナイジェリア(同23%増)、アイルランド(同15%増)、米国(同14%増)からの出願者も全体の増加を支えた。出願者数だけでなく、英国の大学が外国人留学生に出した入学許可の数も前年比9%以上と大幅に増加した。

一方、米国の大学は、今年の外国人留学生の入学者数が減少するとみている。例として、

●教育関連の情報サイト、インサイド・ハイヤーエデュケーションの報告によると、米国の学生ビザ(査証)の発給件数が激減している
●同サイトは、米国際教育者協会(NAFSA)が今夏、全米約150の大学を対象に実施した調査で、78%の教育機関が、学部と大学院の双方で外国人留学生の減少を予測していると伝えた
●米国際教育研究所(IIE)の報告書によれば、米国の大学の40%が外国人留学生の学部生の入学者数の減少を、49%が大学院生の入学の減少を予測している

IIEによると、2023年度には110万人を超える外国人留学生が米国の大学に入学していた。この数字は過去最高で、全米の大学生の約6%を占めた。新型コロナウイルスの世界的な流行で、2020年度に外国人留学生数が前年比15%減を記録したが、以降の3年間で留学生数は計20万人増加した。

しかし、トランプ政権下で、米国が人気留学先としての地位を失いつつある状況が浮き彫りになっており、欧州、オーストラリア、アジアの大学に人気が移っている。こうした変化に伴い、外国の大学への留学を選択する米国人学生も急増しており、英国が大きな受け皿となっている。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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