かくして少年は迷宮を駆ける/あかのまに

【とある名も無き三流記者奮闘記 新人冒険者編】



 突如とつじょとして現れた魔性を吐き出す魔窟まくつ――【迷宮】。

【迷宮大乱立】と名付けられたその災禍さいかに見舞われたイスラリアの大地の上で、人々は生きる場所を追いやられ、しかしそれでも太陽神の加護の下、懸命けんめいに生きている。


 そんな世界において、“彼”は物書きであった。


 といっても、神殿の御用達ごようたし、神と精霊の偉大いだいさを伝える伝道者ではない。


 魔術の深淵しんえんを書物にしたためる魔導書、それを生み出す魔術師でもない。


 大地にあふれた迷宮に挑み、戦い、そして死んでいく者達――【冒険者】の記者だ。


 冒険者達が遭遇そうぐうしてきた様々な怪物、【魔物】との戦いを人々に伝える。

 ……そういうと多少聞こえは良いが、冒険者同士で勃発ぼっぱつした争いや、もっとも生々しい男女間のトラブルなどなど、あらゆる小話をしたためて魔術でボロ紙に写した記事を売りさばく三流記者。

 それが“彼”だった。


 同僚達の中に、子供向けの滑稽話こっけいばなしで小銭かせぎをしているセコい男と影でわらわれたりもした。

 しかしこういう記事は実のところ、大の大人も好んでいると“彼”は知っている。


 そんなわけで、“彼”は今日も今日とて金を稼ぐために、筆を取る、

 ………のだが、今日の彼は筆が重かった。

 スランプというほど大げさではない。

 何かを書こうにもネタがなかったのだ。


 だれもが知る英雄譚えいゆうたん、冒険者の最上位、【黄金級】の冒険者の話はとっくの昔にやっている。

 そもそも、あまりにも有名すぎて、大抵の話は皆知っている。

 あまりウケはよくなかった。


 次点で【銀級】となる。

 黄金級は物語でも伝説だが、銀級は地に足のついた英雄達だ。話のネタは尽きない……と言いたいが、そっちのネタも大方、彼が知る限りは書き尽くしていた。


 では、【銅級】?

 さすがに少々、記事として売るには地味すぎる。

 記事を求める客は、自分が一生見ることもないような物語ストーリーを期待する。

 安酒のためにちびちびと迷宮に潜ってムリのない範囲の魔物退治にいそしむ冒険者の話に目をキラキラさせる読者は――――

 まあ、いるにはいるが、少々マニア向けだろう。


 さて、どうしたものか……と、そんなふうに思いながら、彼は冒険者達が集まる酒場の席を眺めていた。

 店には昼から様々な冒険者達が姿を見せる。

 老若男女ろうにゃくなんにょ、種族も只人タダビト小人コロポ鉱人ドワーフ獣人ガウル、ときどき森人エルフまでいる。


 この店、【欲深き者の隠れ家】は本当にありとあらゆる客層が顔を出すから、話をネタを探すのにうってつけだ。

 入っていく客の中に、面白そうな話をしてくれそうな相手を探すのが、ネタ切れ中の彼の日課だった。

(ロクに注文せずに客から話しばかり聞こうとして、店主ににらまれたりしたこともあったが)

 

「――――、――――」

「――、――――――」


 さて、いいカモ……もとい、めぼしい冒険者はいないかと思っていると、ふと、店から出て行こうとしている二人の冒険者が目にまった。


 一人は大槍おおやりを背中に背負った、灰色の髪の小柄な少年、

 もう一人は、魔術師の杖を持った、白銀の髪の美しい少女。


 子供の冒険者はそこまで珍しくないが、白銀の少女は異彩を放っていた。

 格好は間違いなく冒険者のソレであるが、容姿があまりにも美しい。

 仕事上、“彼”は様々なヒトとしゃべってきたが、彼女ほど美しい少女は見たことがない。

 そして、そんな少女を当然のように連れ歩いている少年の方も異様に思えた。


 ちょこちょここの店に通ってるが、二人の姿を見たのは初めてだ。

 年齢的にも……と、手元をちらりと見てみると、やはり身につけてるのは【白亜】の指輪。

 新人の冒険者に違いなかった。


 ――新人冒険者、【白亜】の冒険者……か。


 銅級の更に下の冒険者。

 それこそ本当に、小鬼ゴブリンのようなしょぼい魔物を倒すだけでも命がけになるような新人冒険者。

 だが、そういう駆け出しだからこその面白さというのもあるか?


 ――よし、あの二人の事を書いてみるか。


 彼はそう決めて、しかし焦りはしなかった。

 いきなり直接出向いて警戒けいかいされ、拒否されても馬鹿ばからしい。

 しかも、あそこまで目立つなら酒場でも知ってる者はいるはずだ。

 先に下調べをすませよう……ついでに食事も。


 そう思いながら、“彼”は【欲深き者の隠れ家】へと足を向けた。



               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「灰色と銀色のコンビ? んふふふふ、面白い子達よ? “ウル”と“シズク”は」


 店の中で、“彼”と同席しているのは、獣人ガウルの女だった。

 銅級の冒険者だが実力はある。

 そして無類の酒好きで、安酒をおごるだけでも色々と話をしてくれるため、“彼”は重宝していた。

(知人の踏み込んだ話プライベートは、どれだけ酔っていても決して口にしてはくれないが)


 ――ウルと、シズク。それが二人の名前ですか。


 話を聞くと、早速二人の名前が判明した。

“彼”は彼女のジョッキに酒をそそぎながら更に詳しい話を求めた。


 ――具体的にどんな子供達なのか、伺っても?


 すると、彼女はジッとこちらを見てくる。

 顔は酔いどれだが、こちらを見つめる目つきは鋭く、少し怖くて“彼”は少し身をすくめた。


「アンタがタチ悪い物書きじゃないって知ってるけど、迷惑掛けちゃダメよ? 今は特に」


 今は、というのは、今この国で騒がれている、“祭り”の事だろう。

 彼等がそれを狙っている、ということらしい。ますます彼等に興味が沸いた。


 ――ええ、勿論もちろん。おかしなことをする気はないですよ。


 自分とてせっかくの冒険者の知人ツテを失うような、馬鹿な真似まねはしたくない。

 “彼”は神妙しんみょううなずいた。


「まあ、わかってるならいいのよ。あの子達のじゃましないにゃらねえ?」


 すると獣人ガウルの彼女は、へにゃりと酔っ払いの顔に戻った。

 ホッと“彼”は息を吐くと、そのままもう少し二人の話に踏み込んでいく。


 ――その二人の事は、気に入ってるんですね?


「がんばってる子は応援したくなるれしょ? みんなそーよ」


 ねー? とそう言って彼女が振り返ると、こちらに聞き耳を立てていたのか、他の同業者ぼうけんしゃも応じるように声をあげた。


 冒険者、というのは仲間意識が割と高い。

 彼等の多くはこの世界における最下層、【名無し】であることが多い。

 都市滞在権の持たずのない彼等の多くは、出自故に身内同士で助け合って生きていく。


 とはいえ、こうも素直に応援されるということは、あの二人は新人冒険者は慕われやすい性格ないし、素行らしい。

 新人の冒険者はなかなかそれが難しい。

 若さ故の傲慢ごうまんぬぐいきれず、年上の冒険者相手にあなどったり逆らったりする者もいる。

 そういう所がない、と言うことなのだろうか。


「あとはそうねえ……優しいの……!」


 ――優しい、ですか……


 カップに酒を注ぎながら、獣人ガウルは続ける。

 さっきからだいぶ酒を入れているせいか、かなりの赤ら顔になっている。

 頭の重さに負けてグラグラと揺れるようになりながら、それでも口を動かす。


「なにせ、私が酔っ払ってもかいほうしてくれるんらからあ」


 ――介抱かいほう


「よっぱらってー、いろんなものをー…………ぶちまけ…………うっぷ」


 ――いかんいかんあぶないあぶないああああああああ…………!!



               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ひど い 目 に  っ た。


 具体的にどうとうは言わないが酷い目に遭った。

 と、自らに【浄化】の魔術をかけながら、“彼”は深々とため息をいた。

 冒険者への取材なんて事を続けていれば、暴力ぼうりょく沙汰ざたに巻き込まれることもしょっちゅうだが、今日はとびきりに酷い目に遭った。


 だが、それはともかく、良い話は聞けた。


 仲間達に応援された、若き少年少女の冒険者|一行●パーティ●の挑戦!

 これはなかなか、読者が喜びそうなシチュエーションではないか。


 彼等のこれからの活躍に思いを馳せる読者はいるだろう。

 あるいは二人がむなしく夢破れ、破綻はたんする未来に仄昏ほのぐらい期待を寄せる読者もあおれるかもしれない。

 どっちにしろ悪くはない。


 そうと決まれば、更に取材をしよう。


 できればあの二人に取材できればベストなのだが、さて、どこへ行った?

 とはいえ、冒険者が行く場所なんてだいたい決まっている。

 迷宮か、冒険者ギルドだ。



               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




貴方あなたね。また来たの?」


 冒険者ギルドの受付に顔を出すと、見知った女性がこちらを見つめ、あきれてため息を吐いた。


 ――どうも、受付さん


 冒険者達の互助組織、冒険者ギルド。

 その受付の女性と“彼”はやはり顔見知りだ。

 記事を書くための取材で、なんどか話を聞かせてもらったりもしている。

 とはいえ、今は業務中というのもあるのだろうが、少々冷ややかな視線が此方こちらに向けられていた。


「正直、部外者にあまりウロウロして欲しくはないのだけど」 


 ――部外者ではないでしょう? 一応は。


 そう、自分は部外者ではない。

 もともと、一度は冒険者を志したことがあるのだ。


 これっぽちも売れなくて喰い詰めたころ、血迷った結果だった。

 大儲おおもうけなんてする気はない、その日生きるための小銭を稼ぐことができればいいと思っていた――要はあなどっていたのだ。

 結果としてその侮りを、鬼畜……もとい、新人冒険者のに叩きのめされ、あっさりと心が折れて諦めたのが自分なのだが。


 なお、その時の恐怖の経験談をヤケクソで書き殴った結果そこそこ売れて、今彼は冒険者専門の記者としてなんとか細々と生きていけるようになった。

 だが、それは別の話だ。


 ――……ちなみに、あの教官は?


「新人達を迷宮に追いやって、酒を飲んでるわよ」


 よかった、と。汗をぬぐう。


 いや、まあ、別に、今の自分は冒険者でもなんでもない。

 あの鬼教官に出会ったところでどうこうされる筋合いもなにもないのだが、顔を見合わせると嫌な汗がでる体質になっている。

 これは、あの時の心傷トラウマえていないからだろうか。



「今は客がいないからいいけど、混んできたら帰りなさいよね?」


 ――分かっていますよ。


 “彼”は自分が今回ここを訪ねた理由を説明した。

 すると、「ああ」と受付嬢は思い当たったように頷いた。


「新人冒険者、ウルとシズクの取材ね。……あの子達、普通とは違うわよ?」


 ――それはなおのこと、良い。


 ごくごく一般的な新人冒険者の話、という話はそれはそれで需要はありそうではあるが、ウケはあまり良くなかろう。

 目をくような特異性があるのは望ましい


「二人の事情については、私から語るつもりはないけど……あの子達、貴方も経験した訓練所に今通ってるの」


 ――それはそれは…………可哀想かわいそうですね?


 素直に同情した。ここの訓練所は地獄だと彼は身をもって知っている。

 騎士団とかが見れば絶対に何かしらの法でしょっぴけると思う。

 “彼”が知る限り、あの訓練所にいて一週間耐えた者は英雄扱いされるような地獄である。

(なお、“彼”は三日で逃げ出した)


「で、あの二人は訓練所に来てから3週間は経過してるわ」


 ――…………凄いな!?


 “彼”は思わず素で感動してしまった。


生半可なまはんかじゃないって事よ。まあ、あの男の指導に食いつくことが正解かは怪しいけど……だから、二人にちょっかいかけて、邪魔したら怒るわよ?」


 ――重々承知して「あ? なにやってんだお前」


 その時不意に、背後から声がした。

 ビクリと勝手に身体が震え、振り返ると、無精髭ぶしょうひげの大男が、こちらをつまらなそうに見下ろしていた。


「冒険者辞めたくせに受付嬢にからむとかヒマなのか? ヒマなら訓練していくか?」


 ――失礼いたしましたぁぁぁあ!!!!!



               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 変な汗がドバドバと出てしまった……!

 心底ビックリするハプニングはあったものの、しかし、良い話は聞けた。

 自分がこんな有様になるような訓練を、あの二人は耐え抜いて、ずっと自分を鍛え上げている。

 つまり並大抵の動機ではないのだろう。

 なかなか記事にし甲斐がいのありそうな話が聞ける予感がしてきた。


 さて。そろそろ本命の、当人達への取材を行うべきか。


 冒険者ギルドに二人の姿はなかった。

 ならば彼等が向かった場所は一つ。

 この国が有する世界最大の脅威きょういにして、冒険者達の職場、【大罪迷宮グリード】に違いない。


 もちろん、自分に直接出向く力はないし、そもそも迷宮の中では話を聞けるような時間はない。

 ごく一部をのぞいて、あの場はありとあらゆるものが侵入者の命を狙う。


 だからまあ、その入り口で出待ちすることとしよう。

 どんな記事を書くか考えながら。


 そう思いながら、“彼”はそちらへと足を向けた。



               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……取材――俺達の?」

「まあ」


 ――ええ、ちょっと話を聞いてみたくて。


「あんまりヒマはないんだが……」


 ――もちろん、御礼もさせてもらいます。もしよければ食事なんてどうです? ボクのおごりですよ。


 目論見もくろみどおり、二人の冒険者とは遭遇できた。

 比較的長い間潜っていたのか、結構な待ちぼうけを食らったものの、すれ違うこともなかった。


 新人冒険者、ウルとシズク。


 改めて見ると、特にシズクの容姿の美しさには驚かされる。

 本当に、なぜ冒険者なんてやっているのだろうと疑問に思えるほどに、彼女は美しかった。


 面白い話が聞けそうだと期待しながら、“彼”は近くの店に誘う。

 新人冒険者は、その日の食事代にも自分の財布とにらめっこをしなければならないことを知っていた。


「奢ってもらえるなら助かるが……、面白いことなんてないと思うぞ。俺達の話なんて」

「ありがとうございます、記者の方」


 と、いうわけで、食事がてら早速“彼”は取材を始めた。

 まずは軽いジャブから聞いていこう。


 ――二人は最近冒険者になったんだね? それはなぜかな? やはり冒険者にあこがれて?


「いや、全然、これっぽちも。というかできることなら今すぐ冒険者なんぞ辞めたい」


 ……ジャブのつもりだったのだが、いきなり強烈きょうれつな答えが返ってきた。


「私は使命のためですね」


 ――……使命、それは?


 問うと、彼女の方はとてつもなく美しい表情でニッコリと微笑ほほえみ、そのまま何も言わなかった。

 明確かつ、絶対的な追求への拒絶であると、記者の彼にもすぐに理解できる鉄壁の態度に、“彼”は顔を引きつらせた。


 あれ? この二人、ひょっとして面倒めんどうくさいのでは?


 という事実に“彼”は気付きつつあったが、しかしここで引き下がっていては記者がすたる。

 気を取り直して、ひとまずはまだ会話が成立している彼へと矛先ほこさきをむけた。


 ――そんなに冒険者をやりたくないのに、訓練所でずっと鍛え続けるなんて並大抵ではないね。何か理由でもあるのかい?


「妹が売られて買い取るのに金がいるだけ」


 ――……騎士団に通報案件なのでは……???


 “彼”はいぶかしんだ


「騎士団に連絡しても対応してもらえるか怪しいしなあ。ヘタすると殺されるかもでなあ」


 さらに“彼”は訝しんだ


 どうやらこの話は、あまり突かない方がいいらしいということが、記者としての本能で理解できた。


 やむを得ず、今度はシズクへと視線を向ける。

 使命とやらは突かない方が良いだろう。

 ならば別の……もっと問題ないところから攻めようと決めた。


 ――えっと、シズクさん。


「はい」


 ――君は、彼の友人なのかな? あるいは恋人?


「いえ、違います」


 ――兄妹?


「いいえ、私はウル様の所有物です」


 ――……所有物?


 “彼”はまたも訝しんだ


「所有物です」

「人前でんなこと言うな……」


 ウルは顔をしかめた。

 だが、否定はしなかった。


 “彼”はますます訝しんだ。


「ウル様に何をされても私は文句もんくを言う権利がありません」

「追撃をやめろ」


 ――…………うん…………うーん…………。


「肉美味うまいなあ」

美味おいしいですねえ」


 大変悩ましそうにする“彼”を尻目に、二人は奢られた食事を容赦容赦なく美味しそうにもぐもぐしていた。

 そうしている姿は年相応の子供に見えるのだが……。


 …………よし、ここまでの話は全部聞かなかったことにしよう!


 とりあえず、この二人の込み入った事情については全部触れないでおこう。

 もともと最初から、そういう個々人の事情を細かく暴いて書き記すつもりなどないのだ。

 なんの問題もない!

 と、“彼”は自分に言い聞かせ、気を取り直した。


 ――君たちは、アレかな? 【討伐祭とうばつさい】を狙ってるのかな?


「ああ、そうだな……」

「はい」


 ――ふむふむ、今回の敵……【宝石人形クリスタルゴーレム】はなかなか手強いと聞いている。作戦とかは?


「一応は……秘密だが」

「頑張ります!」


 ――なるほど。


「なんとかなるといいんだがな……暴動とか起きないといいんだが……」

「ありとあらゆる手を尽くします!」


 ――……なるほど?


「本当に……騎士団に捕まらなきゃいいんだがなあ……!」

「上手くやりましょう!」


 ――…………………………なるほど?


 “彼”は頭を抱えた。


 ……彼等はやめておいた方がよくないか?


 記者として続けてきた本能が訴えている。

 自分の想像していた普通とは様子が違う。

 違いすぎる。

 ちょっとこれは、一度距離を置いた方がよろしいのかもしれない。

 うん、そうしよう。


 ――では、私はこれで……。


「そういえば、御礼おれいをしてくださるそうですね?」


 そう言って席を立とうとした瞬間、するりと“彼”の手に、シズクの指がからみついた。

 細く、長く、美しい指が絡みついてくる姿は、まるでへび獲物えものを捕食するかのようだった。


「そのために、協力して欲しいことがあるのですが、よろしいですか?」




               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 …………疲れた。


 夜、

 取材の“御礼”として、いろいろな所へと駆け回る羽目になった彼は、深々とため息を吐き出した。


 まあ、幸いにして、犯罪行為のような真似をさせられることはなかったのは安心だった。

(というか、この“御礼”一体どのような意味があるのかもよくわからなかったが)

 だが、それでも疲れてしまった。

 まあ、その苦労の甲斐もあって、取材そのものは完了した……の、だが、


 ……これ、売れるか?


 出来上がった記事を前に、“彼”は首を傾げた。

 ウルとシズク、二人の外回りについては問題ないのだが、肝心かんじんの当人達の情報がすっぽり穴だらけだ。

 なんというか、記者視点で読むととんでもない駄作ださく記事が完成してしまった。

 ボツにするのも考えたが……とはいえ、ここまで散々振り回された代物だ。

 ここまできて、儲けを出さなきゃ大損だ。


 ……まあ、“祭”の前後になら、勢いで売れるだろうか?


 そんなふうに思いながら、彼はもう一度ため息を吐くのだった。 



               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 さて、そんなふうに彼はあまり自分の記事に期待を寄せることはなかったのだが……

 結果としてこの記事は売れることとなった。

 そしてその結果、後に引けなくなった“彼”は、あの二人の冒険者を追いかけ続けなくてはならなくなるのだが……それはまた、別の話である。

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