王の不在と闇の騎士団
一つの勝利は、一つの悲劇の始まりだった。
姫は、毒リンゴを食らい、永遠の眠りについた。
仲間たちの絆には亀裂が走り、王国は、いまだかつてない危機に瀕していた。
絶望の淵で、王は、自らの過去と対峙することを決意する。
閉ざされた姫の心を救うため、彼は、禁断の領域――精神世界へと、その身を投じる。
だが、それは、孤独な戦いではなかった。
王が「光」の道を往く、まさにその裏側で。
仲間を想うが故に、「裏切り者」の汚名を被った者たちがいた。
自ら闇に堕ち、王の聖域を守ることを誓った、二人の騎士がいた。
これは、絶望に立ち向かう、二つの戦いの物語。
光の王の帰還を信じる者たちと、その帰る場所を守る、闇の騎士団の物語だ。
【喧騒と慟哭、そして悪魔の微笑み】
俺たちがカラオケボックスを飛び出した直後、東京の夜空はけたたましいサイレンの音と、無数の閃光弾の眩い光に引き裂かれていた。湾岸エリアに聳え立つ超高級ホテルのスイートルームのドアが、轟音と共に内側から爆破される。硝煙の匂いが廊下に立ち込め、重装備の警官たちが一斉に閃光弾の残光に包まれながら、室内に突入していった。その突入は、まるで映画のワンシーンのように統率が取れていた。
だが、部屋の主である佐々木美月は、一切抵抗する素振りを見せることなく、優雅にソファに座っていた。まるで、この展開を最初から予見していたかのように、いや、この舞台の開幕を心待ちにしていたかのように。彼女は、突入してきた警官たちを一瞥すると、まるで観客に向かって語りかける舞台女優のように、ゆっくりと拍手をした。その完璧に整えられた笑顔には、僅かな嘲笑と、底知れない愉悦の色が浮かんでいた。
「…私の想像以上に、あなたの『騎士』は、優秀だったようね、神谷圭佑」
そう呟いた彼女の視線は、虚空を通り越し、今この瞬間、街の喧騒の中をタクシーで駆け抜けているであろう俺の姿を捉えているかのようだった。彼女は、あっさりと両手を差し出し、その身柄を拘束される。手首に冷たい手錠がかけられても、その余裕の表情は微塵も揺らがなかった。
入れ替わるように、混乱する警官たちの間を縫って部屋に飛び込んできたのは、玲奈だった。彼女の瞳は、すでに潤み、感情が剥き出しになっていた。
「莉愛ッ!!」
玲奈の悲痛な叫びが、ホテルの豪華なスイートルームに虚しく響き渡る。ベッドでぐったりと眠る妹の姿を見つけると、彼女は一瞬、世界から色が失われたかのように立ち尽くした。そして、その傍らに崩れ落ち、亡骸のようなその華奢な体を、きつく、きつく抱きしめた。その抱擁は、まるで、壊れかけた宝物を守ろうとするかのようだった。
「…いや…いやよ…! 目を開けて、莉愛…! 死んだら許さないから…!」
これまで決して人前では見せなかった、完璧な仮面の下に隠されていた、ただの姉としての、剥き出しの慟哭が、部屋に虚しく響いた。その声は、玲奈が背負ってきた天神財閥の令嬢としての重責や、圭佑に対する理性的な愛情を、全て打ち破るほどの、純粋な悲しみに満ちていた。
その玲奈の腕の中で、莉愛のスマホが淡く光り、AI【Muse】の三女、ミューズ・オリジンの半透明なアバターが一瞬だけ現れた。彼女は悲しげに顔を歪めながらも、消え入るような声で状況を告げた。『…救出方法は、現在、0.0012%の確率で、再計算中…』と呟いて、ミューズのアバターは、まるで魂が霧散するかのように消えていった。その言葉は、玲奈の心に一縷の希望と、限りない絶望を同時に与えた。
――時間は、少しだけ遡る。
警察が突入する、まさにその直前の、密室でのことである。
佐々木は、眠る莉愛のブラウスのボタンに、ゆっくりと指をかけた。その指先は、莉愛という獲物を手中に収めた獲物を見つめる、冷酷な捕食者のそれだった。
だが、その瞬間、莉愛のスマホが自動的に起動し、AI【Muse】の次女、キューズが警告を発する。その声は、玲奈の冷静さに通じる、無機質ながらも強い意志を感じさせるものだった。
――警告。マスター・莉愛への、不必要な身体的接触を検知。性的暴行の危険性アリと判断》
――最終警告。5秒後に、位置情報を再送信します。5…4…3…》
「…チッ。あのAI…!」
佐々木は忌々しげに舌打ちすると、それ以上の手出しを諦めた。彼女の計画に、まさかこんな誤算があったとは。その時、彼女のスマホが震える。画面に表示された名は『神宮寺』。
『…お前は用済みだ。せいぜい、彼の成長のための、良い肥やしになることだな』
冷たい声と共に、一方的に通話が切れる。佐々木は、自分もまた、神宮寺の掌の上で踊らされた、捨て駒であったことを悟り、絶望と、そして激しい怒りに顔を歪ませた。その怒りは、彼女のプライドを粉々に砕き、憎悪へと変貌していく。
彼女は、ベッドで眠る莉愛の、完璧に整った制服の襟を、ほんの少しだけ、わざと、乱れさせた。それは、彼女なりの、最後に残された僅かな抵抗、あるいは、圭佑への歪んだメッセージだった。
そして、満足げに微笑むと、駆けつけてくるであろう警官たちを、静かに待ち受けたのだった。
連行される佐々木が、玲奈のすぐ側をすれ違いざま、その耳元で、嘲笑うように囁いた。その声は、玲奈の心に深い不信の種を植え付ける、悪魔の言葉だった。
「…せいぜい気をつけることね。本当の悪魔は、あなたのすぐ側にいるかもしれないわよ?」
「ッ…!」玲奈は、その言葉の真意を測りかね、憎しみを込めて、去っていく佐々木の背中を睨みつけた。佐々木の言葉は、玲奈の心に深く刺さり、彼女の心に、圭佑、そして仲間たちを襲う見えない脅威への警戒心を、強く刻み込んだ。
――そして、時間は、再び現在に戻る。
病院の緊急搬送室。手術室のランプが、絶望的な赤色を不灯滅に灯す。俺と今宮、そして駆けつけたメンバーたちは、何時間も、ただその光を見つめ続けた。手術室の前には、甘く焦げ付くような消毒液の匂いが充満し、それが俺たちの不安をさらに煽った。
やがて、手術室から出てきた医師が告げた言葉は、俺たちをさらなる絶望の底へと叩き落とした。
「…薬物の過剰摂取による、深刻な昏睡状態です。意識が戻るかどうかは…正直、五分五分です」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で、何かが、ぷつり、と音もなく切れた。世界から音が消え、ただ莉愛への、そして俺自身の無力さへの、激しい怒りが心臓を焼き尽くす。
「…ふざけるなッ!!」
俺は、医師の白衣の胸ぐらを掴み上げた。その手は、怒りで震えていた。「五分五分だと!? あんた、それでも医者か! 金ならいくらでも払う! だから、絶対に、莉愛を助けてくれ…!」
「兄貴、やめてください!」
今宮が、後ろから俺の体を羽交い締めにして、必死に引きはがす。彼の声にも、いつもの軽薄な調子はなかった。「しっかりしてください! あんたが今、壊れたら、姫さんはどうなるんすか!」
俺は、ただ、自らの無力さに、コンクリートの冷たい壁に額を打ち付けることしかできなかった。俺の頭の中は、莉愛の無垢な笑顔と、あの夜、俺の腹を満たしてくれた温かい手料理の光景が、走馬灯のように駆け巡っていた。
【砕けた絆とそれぞれの悲嘆】
それから、数時間後。
タワーマンションの最上階、俺たちの新たな『城』は、重苦しい沈黙と、冷え切った空気、そして張り詰めた緊張感に支配されていた。引越しを終えたばかりのガランとしたリビングの中央。俺たちは、引越し用の段ボールを椅子代わりに、力なく座り込んでいた。床に置かれたピザの箱は、誰も手をつけないまま、ゆっくりと冷えていく。誰もが、目の前の現実に打ちひしがれ、言葉を失っていた。
「…ふざけるなよ」
沈黙を破ったのは、アゲハだった。彼女の瞳には、怒りと悲しみが入り混じった、昏い炎が揺らめいていた。
彼女は、持っていたエナジードリンクの缶を床に叩きつけ、ガシャン、と耳障りな音を立てた。その音は、張り詰めていたリビングの空気を、さらに張り裂けんばかりに震わせる。「あいつは、あたしたちの仲間だろ!? それを、こんな…! あの佐々木って女…あたしが、絶対に見つけ出して、ぶっ殺してやる…!」
アゲハの激情に呼応するように、あんじゅやみちるも「そうだそうだ!」「許せない!」と声を荒げ、主戦論に傾いた。事務所は、一気に「莉愛のために、今すぐ物理的に報復すべし」という、熱狂的な声に包まれた。憎悪の連鎖が、俺たちの絆を試すかのように、渦巻いていた。
だが、その熱狂を、たった一言で制したのは、キララだった。彼女のその言葉は、張り詰めた空気に、一筋の冷たい風を吹き込むかのようだった。
「…ダメだよ」
彼女は、静かに、しかしきっぱりと言い放った。その声には、悲しみの色が滲んでいたが、確固たる意志が宿っていた。「私たちが行くべきじゃない。これは、圭佑くんの戦いだよ」
「キララ! 何言ってんだよ…!」
詰め寄るアゲハに対し、キララは、涙を堪えながらも、まっすぐにアゲハを見つめ返した。その瞳には、嘘偽りのない純粋な心が宿っていた。
「だって、莉愛ちゃんは、きっと待ってるから。白馬に乗った、王子様が、助けに来てくれるのを。…違うかな?」
その、あまりにも純粋で、しかし物語の本質を突いた言葉に、誰もが息をのんだ。莉愛が誰を「王子様」と信じているのか、それは圭佑であることは、全員が理解していたからだ。
だが、アゲハだけは、納得していなかった。彼女の怒りは、莉愛への愛情から来るものだった。
彼女は、わなわなと拳を震わせると、信じられない言葉を、吐き捨てた。その言葉は、俺たちの心を深く抉った。「…ふざけんじゃねえ。圭佑に全部押し付けやがって。お前ら、それでもファミリーかよ!?」
あんじゅが「アゲハちゃん、そんな言い方…」と止めに入るが、アゲハはそれを振り払う。「あたしは、降りる。こんな、仲間を見捨てるようなチームには、もういられねえ」
「待て、アゲハ!」
事務所を飛び出していこうとする彼女の腕を、俺が、掴んだ。俺の声は、彼女の激情に負けないほどの、強い感情を孕んでいた。「行くな。お前の気持ちは、痛いほど分かる。だが、今は…」
「――離せッ!」
アゲハは、その俺の腕を、荒々しく振り払った。彼女の瞳は、俺を、そしてこの状況を憎むかのように、激しく燃えていた。「…てめえが、一番分かってんだろ、圭佑。あたしは、『待つ』なんて、ガラじゃねえんだよ」
そう言い放つと、彼女は今度こそ、制止するメンバーの声を振り切り、一人で、事務所のドアから出ていってしまった。その背中には、彼女なりの「信念」と、莉愛への深い思いが、痛いほどに滲んでいた。アゲハの退場は、俺たちのチームに深い亀裂を走らせ、残されたメンバーの心に、深い無力感を刻み込んだ。
【父と子の再会。そして王の覚悟】
その時、俺のスマホが、けたたましいバイブ音で震えた。画面には、玲奈からの着信。その震えは、俺の心臓の鼓動とシンクロするかのように、激しさを増していた。
『…圭佑くん。すぐに、病院に来てちょうだい。博士が、あなたを待っているわ』
玲奈の声は、感情を押し殺しているかのようだったが、その声の奥に潜む切迫感が、俺に全てを察させた。
「…博士? 親父のことか…?」
俺は、残ったメンバーたちにそれだけを告げると、事務所を飛び出した。エレベーターのボタンを連打し、一階に着くと、エントランスを飛び出し、大通りで強引にタクシーを止める。俺の心は、莉愛への焦燥と、親父との再会への不安で、激しく揺れ動いていた。
「〇〇総合病院まで! 急いでくれ! 人が、人が死ぬかもしれないんだ!」
運転手の怪訝な顔も、気にならなかった。窓の外を流れていく東京の夜景が、やけにゆっくりと、俺の焦りを煽っていく。時間の流れが、まるで粘液のように遅く感じられた。
病院に到着し、総合受付で莉愛の病室を聞き、息を切らしながら廊下を走る。消毒液の匂いが鼻腔を突き刺し、白い壁が俺の焦燥を募らせた。案内されたのは、莉愛が眠る病室の隣にある、特別に用意された一室だった。
そこには、玲奈と、そして、俺の父、神谷正人がいた。父は、俺の製氷工場での退職届を投げつけたあの日から、ほとんど顔を合わせていなかった。部屋の中央には、見たこともないような、物々しい医療機器と、電脳空間へのダイブ用と思しき機材がセットされている。
「…親父、何しに来たんだよ…」
俺の声は、再会への戸惑いと、莉愛を救うことへの焦りで、掠れていた。父は、アタッシュケースを開くと、中からヘッドセット型の端末を取り出した。その手つきは、どこか慣れたものだった。彼の顔には、苦渋と、そして深い決意が刻まれていた。
「玲奈様に頼まれてな」
父は、重い口を開いた。彼の言葉は短いが、その重みは、彼の過去、そして俺の知らない因縁の深さを匂わせた。彼は、俺にヘッドセット型の端末を手渡し、その操作方法を、無駄なく、しかし丁寧に説明する。
「これは、莉愛様の精神世界へダイブするためのものだ。だが、彼女の精神は深い昏睡状態にある。侵入するのは困難を極めるだろう。そして、お前の精神と完全に同期させる必要もある。負荷は想像を絶する」
父の言葉に、玲奈が圭佑の耳元で、震える声でこう囁いた。その声は、恐怖と、そして圭佑への深い愛情と信頼に満ちていた。
「…必ず、二人で、生きて帰ってきてちょうだい。私の愛した男と、私の愛する妹を…同時に失う地獄だけは、私に見せないで…」
その言葉と共に、玲奈は、俺の背中に、そっと、しかし力強く抱きついた。彼女の華奢な体から伝わる震えが、俺の心臓に直接響いてくる。その悲痛な祈りに、俺は、目を閉じたまま、静かに、しかしはっきりと答えた。
「…ああ。約束する」
俺の心の中で、決意が固まった。莉愛を救う。そして、玲奈のこの悲しみと恐怖を、必ず終わらせる。
「――王の帰還を、待ってろ」
俺の心臓の鼓動が、部屋に響き渡るカウントダウンの音とシンクロする。『――システム、シンクロ開始。精神世界へのダイブまで、5、4、3、2、1…』
無機質なカウントダウンと共に、俺の意識は、光の粒子となって、急速に崩壊していく。俺の魂は、莉愛を救うため、絶望が渦巻く、彼女の閉ざされた精神の深海へと、ダイブした。
――だが、その時、俺の知らないところで、もう一つの戦いが始まろうとしていた。
【闇の騎士団、静かなる誓約】
シーンカット
【場所】病院の、サーバー管理室
けたたましいブレーキ音と共に、一台のタクシーが、病院の夜間通用口に乗り付けた。闇夜に染まったタクシーのドアから飛び出してきたのは、先ほど事務所を飛び出したアゲハだった。彼女の顔には、怒りと焦燥、そして諦めが入り混じっていた。
彼女が、目的のサーバー管理室のドアの前に立つと、中から、そっとドアが開いた。
部屋の中から顔を覗かせたのは、今宮だった。彼の顔からは、いつもの軽薄な笑みは消え、そこには、昏い怒りと、研ぎ澄まされた集中力が宿っていた。彼は、すでに部屋の中央で胡座をかき、自らのノートパソコンを、無数のケーブルでサーバーラックに直結させて、モニターと睨めっこしていた。無数の緑色のコードが滝のように流れ落ちるモニターの光が、彼の顔を青白く照らしている。
「…兄貴は精神世界に行った。長い戦いになるぞ」
今宮は、画面から一切目を離さずに、ぶっきらぼうに、しかし確かな口調でそう告げた。彼の言葉は、アゲハの心に、重く、そして静かに響いた。
アゲハは、悔しそうに、唇を噛み締めた。「…本当に、これで良かったのかよ。あたしは、圭佑やみんなを裏切ったんだぞ…?」彼女の言葉には、チームを離脱したことへの罪悪感と、圭佑を一人で戦いに行かせたことへの後悔が滲んでいた。
今宮は、静かに、しかし力強く続けた。「ああ。だが、それでいいんだ。兄貴は『王子』として、光の世界で、姫を救う。だがな、アゲハ。どんな物語にも、『光』の届かねえ、汚ねえ場所がある」彼の視線は、モニターの奥、圭佑が今戦っているであろう電脳世界の闇を見つめていた。
「俺と、お前は、このサーバー室を死守する。黒幕が次に狙うとしたら、間違いなくここだからな。」
今宮は、その言葉と共に、自らの手でサーバーラックのメインフレームに、何重もの物理的なロックをかけていく。
「俺は中で端末繋いで侵入者を見張る。…門番は、任せたぜ?」
「任せとけ!」
その言葉に、アゲハの瞳に、再び強い光が宿った。彼女の心の中で、退屈な日常に反骨精神を燃やし、ステージで魂の叫びを上げていた頃の、あの獰猛な炎が、再び燃え上がった。アゲハは、自分なりの「正義」を、今宮と共に、この場所で果たすことを決意したのだ。
彼女は、廊下の奥、エレベーターホールの方を睨みつけ、獰猛な笑みを浮かべた。そこからは、複数の足音が、明らかにこちらに向かってきている。その足音は、静かな夜の病院に不気味な響きを立て、非日常的な戦いの始まりを告げていた。
アゲハは、フッと息を吐くと、まるでコンビニにでも行くような、気軽な口調で言った。その言葉には、迫り来る敵への緊張と、覚悟が込められていた。
「…長くなりそうだな。自販機、行ってくる。何飲む?」
今宮は、再びモニターに視線を戻し、キーボードを叩きながら、ぶっきらぼうに答えた。彼の声は、集中力を途切らせることなく、淡々と。「…缶コーヒー。ブラックで頼む」
「了解」
アゲハは、そう短く答えると、迫り来る敵に向かって、指の関節をポキポキと鳴らしながら、ゆっくりと歩き出した。彼女の背中からは、かつてのビジュアル系バンドのボーカルとしてのオーラと、そして今は「闇の騎士」として仲間を守る覚悟が、静かに、しかし強く放たれていた。
「…はっ、言ってくれるじゃねえか。…上等だ。門番は、派手にやろうぜ」
物語は、圭佑が「光」の戦いへと向かう、その裏側で、アゲハと今宮という、二人の「闇の騎士」による、もう一つの戦いが、静かに、しかし確かな熱量を伴って始まろうとしていることを示唆して、幕を閉じる。
第八話『王の不在と、闇の騎士団』、お楽しみいただけましたでしょうか。
おそらく、これまでのエピソードの中で、最も苦しく、そして最も熱い回になったのではないかと思います。
莉愛の昏睡という、最悪の事態。
Kの、医師に掴みかかるほどの、剥き出しの感情。
そして、チームの分裂…。
物語は、一度、どん底まで落ちました。
しかし、絶望の中だからこそ、見える光があります。
息子のために、過去の罪と向き合う父、正人。
愛する男と妹を同時に失う恐怖に震えながらも、Kを信じ、送り出す玲奈。
そして、何よりも、アゲハと今宮。
彼らが選んだ、「裏切り者」となって、闇の中から仲間を守るという、あまりにも不器用で、あまりにも気高い生き様。
「缶コーヒー、ブラックで頼む」
あのセリフに、彼らの全ての覚悟が詰まっている気がして、私自身、胸が熱くなりました。
ついに、Kは、莉愛の精神世界へとダイブしました。
そこは、一体、どのような世界なのか。
そして、Kの知らないところで始まった、アゲハと今宮の「もう一つの戦い」。
彼らの前に現れる「敵」とは、一体何者なのか。
次話、物語は、二つの戦場を舞台に、ノンストップで加速していきます。
光の戦いと、闇の戦い。
それぞれの運命が交錯する瞬間を、ぜひ、あなたの目で見届けてください。
それでは、また次話でお会いしましょう。