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「公用語」は日本語だけ? 外国人1割超の時代に

1億人の未来図

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山崎俊彦さん他4名の投稿山崎俊彦福井健策吉田徹
【この記事のポイント】
・2067年に日本の人口の10.2%が外国人に
・外国人の多い企業では公用語を英語にする動きも
・社会の分断回避へ日本語の学習機会提供も重要

日本で暮らす外国人は40年余りで人口の1割を超す。今の4倍に高まり欧米並みとなる。現役世代に限れば25年後にはそうした状況となる。もはや外ではなく内の人。学校や職場で様々な言語が交わされ、日本語だけが「公用語」ではいられない。日本生まれ前提の社会は転換を迫られる。備えは間に合いますか。

アラビア語版「はらぺこあおむし」、ウルドゥー語版「おおきなかぶ」――。東京都新宿区立大久保図書館の絵本コーナーでは多様な言語が目に飛び込む。所蔵する児童書約2万冊の8%、約1600冊が日本語以外。韓国語や中国語、ネパール語など37カ国語もの本がある。

約35万人が住む新宿区はすでに1割強が外国籍だ。学校や幼稚園に通う子どもも多い。「図書館を訪れても読める絵本がなく、寂しい思いをしないように」。米田雅朗館長は2011年の着任以来、少しずつそろえてきた。中国や韓国出身の職員もいて親子連れの相談に乗る。

意見もくみ取らないと区の将来は描けない。子の教育や生活の困りごとなどの改善を目指す区の「多文化共生まちづくり会議」は委員の約半数が外国籍だ。区施設には日本語教室や多言語相談窓口を備える。多文化共生推進課の桜本まり子課長は「国籍がどこでも住民であることに変わりはない」と強調する。

数十年後、新宿の光景は全国で日常となるかもしれない。国立社会保障・人口問題研究所が4月に公表した将来推計人口によると、67年には人口の1割超が外国人に。15〜64歳の生産年齢人口でみると48年に早まる。足元では推計の前提を上回る水準で入国が続いており、前倒しになる可能性もある。

日本国籍に帰化した人や、父母のどちらかが外国籍である人らも含めるとさらに加速する。

海外ルーツが3割に

同研究所の是川夕国際関係部長が15年の国勢調査を基に推計した。当時の外国籍住民は約178万人で、「移民的背景を持つ人」にまで広げると倍程度の約333万人に増えた。2100年には外国人が15%まで増えると推計されるが、単純計算では外国ルーツを合わせると人口の約3割を占める存在となる。

日本で生まれ育った人を前提とした社会が変わる。職場はさしずめ、その縮図だろう。

クラウドセキュリティーのHENNGE(東京・渋谷)は従業員の約2割を外国籍が占める。国内のエンジニア不足に悩み、12年ごろに優秀な人材を世界から集める戦略に転換した。

日本語力は求めない。16年に英語を「公用語」と定め、打ち合わせでは外国籍の人が1人でもいれば英語を使う。そのため英語力が一定水準に達すれば年に十数万〜百数十万円を給料に上乗せする仕組みをつくった。検定「TOEIC L&R」(聞く・読む)の平均スコアは14年の495点から22年には800点に高まった。

日本人の方が変わらなければと取り組んだ。小椋一宏社長は「多国籍が前提の会社にするには10年単位の時間がかかる。一歩ずつ進めるべきだ」と話す。

一足先に少子化と移民の流入増が続いた欧米各国も、社会のあり方が揺れ動いてきた。

欧米ではあつれきも

ドイツでは00年ごろに移民の割合が10%を超え、04年に成立した「移民法」で積極的な受け入れに踏み出した。600時間ものドイツ語を学べる授業を安く提供し、文化や社会を理解するためのオリエンテーションも設けている。

仕事を奪われるとの懸念などから、あつれきも生じた。00年代後半に移民が10%を突破した英国では、反移民感情の高まりが欧州連合(EU)離脱の一因となった。米国ではトランプ前政権が反移民政策をとった。

人手不足が深刻化する日本は受け入れ拡大にかじを切っている。製造業などの現場で働くための在留資格「特定技能」では、期間に上限がなく家族帯同も可能な「2号」の対象を大幅に拡大、全分野で長期就労を可能にした。定住・永住する外国人は今後も増える。

欧米では移民が独自にコミュニティーを形成し、受け入れ側との断絶が社会問題化した。漫然と受け入れを進めるだけでは、外国出身者の孤立や社会の分断を招くかもしれない。

誰もが一定水準の日本語を身につけられるよう、学習機会を全国で提供する。高度な日本語は求めず、相手の言語も交え意思疎通を図る。学校や行政で携帯翻訳機などももっと備えるべきだろう。多国籍・多言語社会で先行く国々から学び、融和への知恵を絞る必要がある。

(外国人共生エディター 覧具雄人)

低賃金の外国人依存脱却を デービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長


人手不足というが、今の労働集約型のビジネスモデルが前提になっている。生産性が著しく低いまま低賃金の外国人を受け入れて生き残りを図るなら、ほとんど経済成長しなかった過去30年間と同じ状況が続く。
イノベーションを起こすために人材交流はあった方がいい。ただ、今の日本は能力が高い外国人から選ばれにくい。生涯収入を考えれば、経済成長が見込まれる国で働くほうが合理的だ。機械化やデジタル化を進め、低賃金依存から脱却しなければ「選ばれる国」になれない。
日本で働きたい人は一定数いるが障害も多い。言葉の壁が最も大きい。英語を習得すれば欧米やアジアの多くの国では働ける。日本語を学んでも使えるのは日本だけだ。
変化をためらう企業文化も働きにくさにつながる。能力がある外国人でも発揮できなければやりがいを感じず、ふさわしい収入も得られない。
国籍も問題となる。大半の国が二重国籍を認めているにもかかわらず、日本国籍を取るなら出身国の国籍を捨てなければならない。
私が英国籍を手放せば、先祖とのつながりを捨てることになるので絶対にできない。一方で何十年も生活し、日本人と同様に海外の収入まで課税されているのに、日本国籍がないために在留資格の更新手続きなどでいろいろと面倒だ。
受け入れを拡大しながら、外国出身者の暮らしを巡る環境整備が遅れている。政治のリーダーシップで進めてほしい。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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  • 山崎俊彦のアバター
    山崎俊彦東京大学 大学院情報理工学系研究科  教授
    貴重な体験談

    支援には多大なる労力と時間と費用がかかるので、ただ闇雲に「対策すべき」というつもりはありません。ただ、あくまでも自分の経験談をいくつか。 職場で働く本人はいいものの、配偶者のケアや子供を日本語で教育することの是非に悩んで結局海外に出て行ってしまった方々。 役所や所属組織の事務や金融機関の手続きで、日本語しか通じなかったり書類が日本語しかなかったりして、経験者か日本人が同行しないとどうにもならない現状。私も保証人や緊急連絡先に使われること多数。 緊急の怪我で病院にいったものの「病院ですら英語が全く通じない・・・」と嘆く方々。 考えられること、考えなくてはいけないことはあると感じます。

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  • 福井健策のアバター
    福井健策骨董通り法律事務所 代表/弁護士・ニューヨーク州弁護士
    分析・考察

    英語を公用語にしたシンガポールで暮らした経験があります。たしかに、そのメリットは大きい。シンガポールが今の地位を築けたのにも、英語化はかなり寄与したでしょう。もともと多民族国家でしたし。 ただ、日本も乗り遅れないよう英語を公用語に、という単純な議論が良いかは別問題です。 記事にもある通り、非日本語ネイティブの方が不便をしないような多言語サポートを格段に充実させると共に、日本語を学びやすい環境を整える。そして非ネイティブでも不便なく暮らせるが、日本語を学べばもっと深くて楽しい文化体験が得られる。そんな共生社会を目指すことが、混乱も少なく、むしろ欧州などの方向性とも一致するようにも思いました。

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  • 吉田徹のアバター
    吉田徹同志社大学政策学部 教授
    ひとこと解説

    移民増加は不可避だが、受け入れのスピードが速すぎると、ホスト社会の拒否反応が大きく出るとの研究もある。であれば、いらぬ軋轢を避けるためには、受け入れスピードに合わせた共生策の強化が必要になる。 重要なのは、やはり語学だ。移民の子女に対する教育はまだ十分ではなく、高校・大学進学率も低いままだ。これでは階層移動もままならず、せっかくの移民受け入れによる社会発展も望めない。現状は民間NPOが担っているが、こうした組織への支援や寄付の拡充が望まれる。

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  • 白井さゆりのアバター
    白井さゆり慶應義塾大学総合政策学部 教授
    ひとこと解説

    英語も公用語にすべきという意見は以前からあります。世界では母国と英語以外にいろんな言語を話せるひとが多いです。ただ欧州では英語が話せるひとが大半ですしフランス語の普及を図っていたフランスでもかなり前から英語の普及を図るようになっています。アジアでは華僑も多く中国語が話せる人が多いですが、中国語もいろんな方言があり会話ができるわけではありませんが、中国政府が中国語の世界での普及をはかっているだけに増えていくと思います。ただ中国の方も若いひとは英語が話せる人がかなり増えているように見えます。公用語はともかく日本語と少なくとも英語ができる人が増えると、世界でも仕事はしやすくなる面があると思います

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  • 鈴木亘のアバター
    鈴木亘学習院大学経済学部 教授
    分析・考察

    縮みゆくガラパゴス日本を変える起爆剤の一つは、英語の公用語化である。単なる人口減対策だけではなく、海外で通用する人材育成、ビジネスチャンスの拡大、雇用慣行や役所文化をはじめとする日本の様々な「詰んだ」制度を創造的破壊するメリットがある。英語の公用語化という議論は昔からあるが、いきなり日本全体でという議論にしてしまうから、なかなか現実的な政策にならない。まずは、基礎自治体レベルで、「英語公用語化特区」を作り、社会実験してみてはどうか。東京の湾岸エリア辺りから初めてうまく行けば、手上げ方式で地方にも広げてゆく。今は、インバウンドの消費にもメリットがあるから、意外な地方が手上げしてくるに違いない。

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