子どもの精神科訪問看護10年間で約40倍――不登校や発達障害の支えに #今つらいあなたへ #こどもをまもる
ひろきくんの母親・花森はなさん(筆名)も、もともと明るい子だったんですと喜ぶ。 「不登校になってからは、部屋から出てこないこともありました。でも、今は出てきて話してくれることもだいぶ増えました」
外出に伴う不安を減らし、自信が持てるように
花森はなさんはもともとイラストレーターとして活動していたが、ひろきくんが不登校になったことで一度はその道を断念。その後、状況を逆手にとって、ひろきくんとの付き添い登校の日々をコミックエッセーに描き、単行本として刊行した。現在は会社勤めのかたわら、シングルマザーとしてひろきくんと4歳下の妹を育てつつ、複数のウェブ媒体に連載を持っている。 そんなはなさんにとって、今や訪問看護は欠かせない存在だという。 「夜、ひろきが発作を起こしても、看護師さんは電話で対応してくれます。心因性の発作なので、薬が飲める状態になるまで心を落ちつかせなければいけないんです。スピーカーホンで私と一緒に世間話をしたりして、30分以上付き合ってくれたりします」 ひろきくんの現在の目標は、けいれん発作のきっかけを理解し、対処法を身につけ、生活に大きな影響を与えないようコントロールできるようになることだ。 大橋さんは「発作を克服すれば、外出に伴う不安が少なくなり、自信が持てるようになる」と言う。その目標に向け、発作について気軽に話せる関係を保ち、外出行動に対してポジティブになれるよう、本人の得意なことを認めて励ましている。 はなさんは、精神科訪問看護には不登校の子にとってありがたい特徴があると言う。それは病院を変えても、新しい担当医から指示書を受けて同じ訪問看護事業者を利用できることだ。 「学校って4月で担任の先生もクラスも変わりますよね。不登校傾向の子どもはそれもしんどくなるんです。でも、訪問看護では同じ看護師さんがずっと来てくれるので、環境を変えないで済むのが本当に助かります」
再登校させようとするわけではない
2024年10月の文部科学省の発表によると、小中学校を年30日以上欠席した、いわゆる「不登校」の子どもは2023年度に過去最多の34万6482人に達した。同調査では、不登校児童生徒について学校が把握した事実として「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった。」(32.2%)が最も多く挙げられ、続いて「不安・抑うつの相談があった。」(23.1%)、「生活リズムの不調に関する相談があった。」(23.0%)など、メンタル不調が不登校に関わっていることがうかがえる。 ただ、児童精神科医の岡琢哉さんは、不登校と精神疾患について、はっきりした因果関係は示せないと言う。2021年、日本初の児童精神科に特化した訪問看護ステーション「ナンナル」を立ち上げた医師だ。 「ナンナル」の利用者の内訳を見ると、人数がもっとも多い年齢層は13~15歳で、75%が18歳未満だ。疾患の内訳は自閉スペクトラム症(ASD)が37.9%、うつ・不安症が29.6%、注意欠陥多動症(ADHD)・情緒障害が17.5%となっている。利用者のうち半数程度がほぼ登校できていない。 「ナンナル」の利用者とその家族の主な困りごと(主訴)は、子どもの暴言・暴力、不登校、ゲーム依存、子どもとコミュニケーションが取りにくい、など。これらの困りごとに、子どもたちの精神疾患が直接関わっている場合も、そうでない場合もある。 岡さんは、不登校かどうかによって訪問看護の対応を変えることはあまりないと言う。 「再登校させようとするわけでもないし、学習の補助ももちろんしません。子どもと家庭の困りごとに注目して、その解決を目指します。精神疾患の知識を持って子どもたちの状態を見ることができ、回復過程を知っている専門職として関わる。そこが精神科訪問看護の強みですね」