それぞれの戦果:青の場合 ③
「早速ですが東京でのご活躍について……」
「所作の振る舞いからして気品が、もしや名家の生まれでは……」
「紅茶はお口に合いますかしら、よろしければ和菓子の用意もございますが……」
「はぁ……はぁ……ホテルには何号室にお泊まりで……?」
「えっと、その……」
「ラピリスよ、我部屋番号は教えない方が良いと思う」
魔法少女として活動している以上、ファンという存在が付いて回るのは知っていた、つもりだった。
中にはアイドル同然の活動をする者もいるらしいが、私は特に公的な触れ合いの場などは設けた事はない。
それに、こうしてほぼ同年代の魔法少女から憧れの目を向けられるのは初めての経験すぎた。
「いつもはどのような鍛錬を? あのほれぼれする様な刀捌きは並の稽古では身につきませんわ」
「毎日魔法局にある訓練場で素振りと、あとはゴルドロスたちに頼んで掛かり稽古を行っていますね」
「ではそちらのシルヴァさんもラピリス様のお相手を? 羨ましい……」
「い、いや我はそのあのえっと……」
「彼女には世話になっていますよ、まだ魔法少女としては新人ですが信用できる相手です」
世辞ではない、シルヴァがあの東京で成し得た功績を考えれば並の魔法少女以上の実力はすでにある。
身体能力や体力面は劣る部分も多いが、それを持って余りあるほどの魔力量と制御能力が高い。
縁さんも時折頼るほどだ、専門分野に限ればあのロウゼキさんにすら勝てるかもしれない。
「わ、我はそれほどでは……えへへ」
「余計な謙遜は余計な誤解を生みますよ、自信を持ってください」
「ホェー、男らしいね」
私たちにやり取りに言葉を零し、砂糖を多めに溶かした紅茶を一口すするチャンピョン。
先程から提供されたケーキや紅茶に手をつけてばかりであまり会話に混ざってこないようだが、これがいつも通りなのだろうか。
「チャンピョンさん、ケーキもただではありませんわよ? いつものはお忘れではありませんわよね?」
「もっちろん、とっときのやつ持ってきたかんね!」
すると、ティーカップを置いた腕をそのままテーブル下に伸ばし、チャンピョンがパンパンに膨れた紙袋を取り出す。
彼女たちのやり取りはまるで秘密に取引だ、まさか本当に危ないものを持ち出そうとしているわけじゃ……。
「○まい棒……おやつカ○パスて……まぁ、ビッ○カツにキャベツ○郎まで? こんなにもらって本当によろしいのかしら?」
「ふふん、良いってことよ。 存分に味わうと良いぜぃ」
「いや駄菓子ですか」
「うふふ、お恥ずかしい限りで……一度チャンピョンさんに勧められてからこのジャンクな味わいに魅了されましたわ」
紙袋を抱えて幸せそうに笑うお嬢様達、抱えているのは実に庶民的なものだが微笑みひとつ取っても気品が溢れ出る。
チャンピョンが勧めたというのなら実に罪深い味を教えたものだ。
「ふふふ、これは執事たちに隠してあとでコークと一緒にいただきますわ」
「では私はこのコーンポタージュとたこ焼き味のものをいくつか……」
「私はこのキャベ○太郎を……大儀ですわよチャンピョンさん、ケーキのお代わりはいかが?」
「いただきまーす!!」
大漁とは言え値段はそこまでしないであろう駄菓子と高級洋菓子+紅茶の交換。
ぼったくりも良い所だが、本人たちが満足しているのなら良いのだろうか。
「ふぃー、食べた食べた……それじゃラピラピ、この後は海で泳ごっか!」
「……待ってください、付き合うのはこのお茶会だけでは?」
「うちが満足するまでって言ったじゃーん! 食後の運動もしないと太るぜぃ」
「くっ、確かにこの量はちょっとカロリーが気になりますがそれを言いますか……!」
「ラピリスはスタイルが良い方だと我は思うが……」
甘さ控えめ、紅茶ともよく合いその美味しさについつい手が伸びてしまったケーキの数およそ3皿。
摂取カロリーは詳しく計算したくない、消費するための運動量も考えれば眩暈がしてくる。
……仕方ない、これは決してチャンピョンの口車に乗ったわけではなく利害の一致だ、故に仕方ない。
――――――――…………
――――……
――…
≪オルカァ!! Yeah!!≫
「わはははははは!! 追いつけるものなら追いついてみろー!!」
「詩織さん、あれに構っちゃいけませんよ。 自分のペースで良いですからね」
「う、うん……」
水飛沫を上げながら水中を爆走するチャンピョンを無視し、目の前の相手に集中する。
浮き輪をビート版がわりに掴んだ詩織さんを牽引しながら、そのバタ足の成果を見守るだけだがこれがなかなか油断ならない。
運動神経は良い方ではないと言っていたが、たまに浮き輪から腕を滑らせて一人で溺れるほどだ。 中々教えがいがある。
「プールと海水は違います、いつもより体が浮きやすいはずです。 まずはバタ足を継続しながら息継ぎに慣れましょう」
「が、頑張る……! ゴボボボッボボボボッ!」
「もー、人の練習ばっかり手伝ってないでラピラピも楽しんだらどう?」
「余計なお世話ですよ、それに私にはこっちの方が性に合ってます」
いつの間にか戻って来たのか、チャンピョンが肩にかけてきた腕を振り払う。
水攻めや生き埋めは魔法少女の数少ない弱点、泳げないなら克服するに越したことはない。
詩織さん自身もやる気がある、この調子なら時間はかかるだろうがそれなりの水泳技術は身につくはずだ。
「……そうやってさー、ラピラピ自身は楽しいの?」
「楽しいとか、楽しくないとか、関係ないですよ。 巡り巡って私の利になるんです」
「あっはっは、駄目だ駄目だ。 そんなんならずっとそんなんだよラピラピ」
「要領を得ませんね、何が言いたいんですか。 それにさっきから黙って聞いていましたけどその呼び方は……」
「そんなんじゃ一生掛かっても最高速でドッギューンって出来ないね!」
チャンピョンの言葉に、思わず詩織さんの腕を引く手が止まった。
相変わらず悩みを知らないような顔を睨みつけ、つい口から出る言葉に棘が乗る。
「……使命を忘れて遊び惚ける事と、一体何の関係があるというのですか」
「んー、うち難しいのよく分からんちんだけどさ。 多分ロウゼキさんに相談しても同じ事言うと思うよ」
「だから一体何の証拠があって……」
「ぶくぶくぶくぶくぶく……」
「そんな事を言える確証が詩織さーん!?」
つい目を離している間に、詩織さんの身体は水面に沈んでいた。
……この間わずか数秒、やはりチャンピョンに気を掛けるほどの余裕なんて私にはなかったのだ。