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それぞれの戦果 ②

「あうあうあうあう……わ、わたししばらくペン持てない……」


「お疲れ様だヨ、ビブリオガール……お互い苦労してるね」


「夕食の残り、温めておきましょうか? 先にお風呂済ませます?」


ぐったりとベッドに身体を投げ出したビブリオガールの背を軽く叩く。

どこもかしこも疲弊しているのは皆同じ、ロウゼキさんが課した各々の課題は中々ハードだ。


「あー、思い出してきたらまた気が重くなってきたヨ……バンクとも仲良く出来てないってのにサ」


「そういえば当の本人は今どこに?」


「他の魔法少女に間違って討伐されないようにってロウゼキさんが預かってるヨ、バンクの能力も謎が多いしネ……」


ぼんやりといつかバンクに噛まれた指の付け根を眺めて呟く。

あの時に見えた滲んだ赤い輪のような痕はもうキレイさっぱり消えている。

縁曰く、縁を結ぶという能力らしいが……それにしたって運命だとか因果律だとか小難しい領域に干渉するデタラメなものだ。


「そうですか、触れ合えないのは残念ですね……2人とも進捗の方はどうですか?」


「ダメだネ、まだまだ先は長そうだヨー……」


「私も、ツヴァイの妹さん……園ちゃんに、質問ぜめ……葵ちゃん、は……?」


「私の相手はチャンピョンですよ、能力の精度を上げるために交代交代で鬼ごっこしていました」


「うっへ、そっちはそっちでキツそうだネ……」


確かに、サムライガールの扱う高速起動には制御に難がある。

直線状に突っ込むか、逆風で急ブレーキをかけてのフェイントが精いっぱいだ。

3人がかりでロウゼキさんと挑んだ時も、もしサムライガールの動きに柔軟性があればこちらも連携は獲れたかもしれない。


「ま、ないものねだりは仕方ないネ。 それよりサー、明日は……」


 ――――――ぎゃあああああぁぁぁぁぁ……


……不意に少女のものと思わしき断末魔が廊下から聞こえて来た。

思わず体が硬直する、だいたいその悲鳴が意味するところを理解してしまったのだから。


「…………奇襲、かな?」


「ええ、愚かな……通じる相手ではないでしょうに」


「南無南無……お墓は明日しっかり立てておくヨ……」


“自分に一撃でも与えたら合格、いつでもかかって来い”と、ロウゼキさんは皆の前でそう言った。

なら寝静まった時にでも奇襲を、と考える魔法少女は少なからず居ただろう。


まあ、それで何とかなる相手ならみんな苦労はしていない。


「……と、トランプ持って来たんだヨ? どう、やらない?」


「いえ、明日に備えて寝ましょう……この合宿、長引きますよ」


「わ、私も……もう、眠いから……シャワーだけ浴びてくる」


「うう、辛いのは分かっていたけどもう少しバカンス多めだと思っていたのにナ……」



――――――――…………

――――……

――…



「……明日の顔合わせ、気が重いなぁハク」


《私は楽しみですけどねー、見た目は女の子なんですからいっそマスターも楽しんでしまったらどうですか?》


「絶対に断る」


雲一つない月夜の下、気が重くなる明日から逃げる様にホテルの屋上でハクと駄弁っていた。

バカでかいプールを海から運ばれて来る潮風が撫で、水面が細かく波打つ。

夏だというのに少し冷えすぎる風は疲労の熱が溜まった体には心地いい。


《そんなに嫌ならいっそ逃げちゃえばどうです? ブルームスターになりさえしなければ良い訳ですし》


「それも駄目だ、後が怖い。 それにツヴァイとの組み手はためになるのも事実だしな……」


《まあ後半は明らかにマスターの動きも良くなってきましたからね》


ツヴァイとの特訓は単純な組み手だ。

15戦ほど戦って俺が取った勝ち星は4つか5つ程度、それも殆どツヴァイから指導を受けて動きが改善されてから得たものだ。


やれ強打が多い、フェイントが分かり易い、空振った後の隙が大きい、強K感覚で必殺技を撃つなと。

棍での物理的叱責も織り交ぜてだが、指摘も正しい以上は文句も言えない。

だが事あるごとに人の頭をポカポカ殴った事は覚えておくからな。


「明日もやるよ、逃げない。 俺だって強くなる必要があるんだ、ドクターを止めるにはな」


《そーですよねー、マスターはそういう人です。 分かってて茶化してました》


「俺もお前はそういう奴だって知ってるよ、まったく――――」



「――――はぁー、屋上涼しい! 夜景綺麗! いやー仕事の疲れが洗い……おや?」


その時、この屋上唯一の鉄扉を押し開けて誰かがやってきた。

いつものよれよれの白衣の代わりに、少しサイズがきつそうなビキニの上にジャージの上着だけを羽織った……


「……縁さん?」


「はぅあ!? な、七篠君……何故ここに!?」




――――――――…………

――――……

――…



「失礼しますわー、ロウゼキさん。 ……って、ひどい有様ですわね」


「死屍累々……」


「あら、ツヴァイのお二人さん。 ええ夜やなぁ」


園と共に扉をノックし、部屋に入るとそこには見覚えのある槍使いを筆頭に、何名もの魔法少女が大の字になって倒れていた。

だが部屋の中にあるものは何一つ乱れていない、正確かつ迅速に襲ってきた魔法少女達を制圧した証だ。


「ひぃふぅみぃ……5人、まあロウゼキさんなら難しい数ではありませんわね」


「お姉、さらに2人窓から逃亡した形跡あり。 計7人」


「うふふ、逃げた2人は将来有望やなぁ。 まあ撃ち落としはったけど」


ロウゼキさんはベッドに腰かけ、相変わらず意地悪そうな笑みを浮かべている。

やっぱりこの人は鬼だ、後で撃ち落とされた2人のケアも考えておこう。


「……それで、どないやった? ブルームはんとなんぼか戦ってみた感想は」


「単刀直入ですわね。 まあ、大方の予想通りですわ」


昼間、ブルームスターと立て続けに組み手を行った事を思い出す。

こちらの指摘を真剣に受け止め、そして身に着ける素直さと応用力は教えるこちらの身としても心が躍るものがあった。


だがそれ以上に、彼女を見ているとどうしても肝が冷える時がある。


「……こちらが急所を狙ってもギリギリまで回避せず、むしろ私へ向かい踏み込む素振りを見せる事が1度や2度ではなく、何度もありましたわ」


「ん、続けて」


「他の欠点、例えば腕の振りや攻めの荒さはこちらが指摘すれば改善の余地はありましたわ。 しかしどうも、回避や防御は疎かになりがちで……」


「……死にたがり」


園が呟いた言葉は罵倒にも聞こえるが、否定ができなかった。

肉を切らせて骨を断つを体現するような彼女の戦いぶりは、確かに自分の命を軽んじているように思えてしまうのだから。

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