甲子園に厳格な人権対策を メディア企業が果たすべき責任

あすを探る 松谷創一郎さん

 今年も夏の甲子園が終わった。しかし、暴力問題に端を発する広陵高校の出場辞退は暗い影を落としている。現状、被害者と学校側の認識は食い違っており、調査報道や第三者性のある調査結果が待たれる段階にある。

6人の論壇委員が交代で執筆するコラム「あすを探る」。今月の筆者はカルチャー・メディア担当の松谷創一郎さんです。

 そもそも高校野球には〝異常性〟を支える構造的問題がある。夏の甲子園は朝日新聞社、春は毎日新聞社が高野連とともに主催し、NHKが全試合を放送する。助成金を出す朝日放送もテレ朝系列の「熱闘甲子園」を製作する。このようにメディア企業が高校野球ビジネスに深く関与する結果、問題の追及を免れてきた側面がある。

 猛暑下での開催、アメリカで標準的なスポーツ医学を軽視した虐待的な投手の球数、不確定性の高い種目に不向きなトーナメント制、生徒に強いストレスをかける一発勝負――。それはスポーツとしては時代遅れで、教育としてもデタラメだ。

 今夏は「暑さ対策」として、大会5日目までは午前と夕・夜の2部制とされたが、それ以降は平然と午後の猛暑下で行われた。その中途半端な姿勢は「暑さ対策しぐさ」でしかなく、「伝統」なる旧弊を護持しようとしているだけに見える。

 高校野球は「教育の一環」を旗印とした利権構造が強固に組み上がっている。生徒は進学や就職で有利となり、学校も野球部が宣伝となる。この高野連・学校・保護者・生徒による運命共同体も問題の追及を阻んできた要因だ。今回、告発がSNSや週刊誌を中心とするのも、その利権に大手メディアが深く関与しているからでもある。

 この構造は、ジャニーズ事務所の問題とも酷似する。未成年者が独特の閉鎖環境に置かれ、彼らによる大きな利益を生み出すイベントにメディア企業が深く関与し、それゆえ報道機関として適切な批判を加えられなくなり問題のある状況が温存され続ける――。

 ジャニーズ問題では、同社の圧力とテレビ局による忖度(そんたく)が長年にわたり音楽やドラマなどのポピュラー文化を停滞させ、そのメディア支配が性加害を黙殺させる要因になった。そこでは「たかが芸能」といった文化への蔑(さげす)みも、ジャニーズを野放しにさせた。高校野球の異常性を等閑視する背景にも「たかが野球」との蔑みがあるのではないか。

 こうした状況でなにが必要か。答えは明快だ。ジャニーズ事務所やフジテレビ問題の際に見られたように、朝日新聞社と毎日新聞社は高野連に対して厳格な人権対策を求めなければならない。つまり人権デューデリジェンスを実行すべきだ。酷暑下の開催だけでなく、医学的知見も導入して過密日程も廃止すべきだ。もし高野連が拒むなら大会の主催から撤退すればいい。

 未成年者のやりがいを搾取する欺瞞(ぎまん)はもはや終わらせるべきだ。来年の夏も私たちは再び「虐待甲子園」で一喜一憂するのか、大会が終わったいまから議論を始めなければならない。

(まつたに・そういちろう 1974年広島生まれ。専門は文化とメディア。著書に「ギャルと不思議ちゃん論」など)

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