第16話 電脳監獄の魔女
【観測者の脚本】
シーン1:クロノス・インダストリー 深層サーバー室
静寂に包まれたクロノス・インダストリーの深層サーバー室で、一人の女性が、無数のモニターに映し出されるデータの奔流を、冷徹な瞳で監視していた。彼女の名は上坂。天神グループのサーバー内部にまでその監視の目を光らせ、圭佑たちの通信ログを解析するその指先は、絶え間なくキーボードの上を舞っていた。彼女にとって、この広大なネットワークは、まるで自身の庭園のようなものだった。
突如、彼女のシステムにけたたましいアラートが鳴り響いた。
「警告:高レベルの精神データ転送を検知。対象:佐々木美月。転送先:K-PARK深層サーバー」
上坂は、瞬時にその意味を悟った。圭佑たちが、因縁の相手である佐々木美月を尋問するため、魂を電脳監獄『タルタロス』へとダイブさせようとしているのだ。その口元に、微かな笑みが浮かぶ。それは、予測不能な展開に対する、純粋な愉悦の表情だった。
「…面白い。私の庭で、ネズミがコソコソと動き回っていると思ったら…。『あの方』の脚本にはないアドリブかしら? いいわ、少し遊んであげましょう」
彼女の指が、凄まじい速度でキーボードの上を舞い、迎撃コマンドが次々と入力されていく。圭佑たちが今まさに構築している電脳監獄への、悪意に満ちたカウンターハッキングが、この瞬間、開始されたのだ。
```
INIT_SEQUENCE.BAT //TARGET:K-PARK_SYS-TARTAROS
SET_PROTOCOL:INTRUDE_AND_HIJACK
EXECUTE_ORDER:66 //AUTH:"Uesaka"
```
【シーン2:作戦会議】
天神タワーマンションの司令室は、これから始まる反撃の狼煙に、静かな、しかし確かな興奮に包まれていた。ホログラムテーブルの中央には、広大なK-PARKのマップが立体的に浮かび上がり、その周囲には、緊張と期待に満ちたK-MAXメンバーたちの顔が並んでいる。
「いいか、これより、三つの作戦を同時に開始する」
圭佑は、集まったメンバー全員を力強く見渡し、最終確認を行った。彼の瞳には、これまでの鬱屈した過去を払拭し、新たな未来を切り開こうとする、王としての覚悟が宿っていた。
「今回の作戦の表向きの目的は、佐々木美月から神宮寺とスパイの情報を引き出すこと。だが、本当の狙いは別にある」
ホログラムテーブルに、圭佑が製氷工場で働いていた頃の冴えない先輩――田中雄大の顔写真が映し出された。圭佑を爆破予告犯に仕立て上げ、社会的に抹殺しようとした因縁の相手だ。
「こいつは、俺を陥れたクズだ。だが、今は俺たちにとって唯一、敵の懐に潜り込んでいる『駒』でもある。今宮を通じて、奴とは既に裏で接触済みだ」
今宮が、扇子で口元を隠しながら、いつもの軽薄な調子で補足する。彼の「敬愛」の美徳は、圭佑への忠誠心として、この場では最大限に発揮されていた。
「へい。田中ぁんは、神宮寺にいいように使われてビビりきってやした。こっちで身の安全を保証する代わりに、ちょいと一仕事してもらおうって算段ですぜ」
圭佑は、冷徹な目で田中の写真を見つめた。
「奴の役割は、敵の陽動部隊を率いて、俺たちがいる『タルタロス』に侵入し、内部から混乱を引き起こすこと。その隙に、俺たちは佐々木を完全に孤立させ、情報を吐かせる」
(…正直、田中からの接触は都合が良すぎた。だが、この男の「神宮寺への恐怖」と「YORUへの執着」は本物だ。その二つを天秤にかければ、御せるはずだ…)
圭佑は、王として非情な決断を下した。「奴のことは信用しちゃいねえ。だが、利用できるものは何でも利用する」。彼の心の中には、莉愛を救い出すためならば、どんな犠牲も厭わないという、強い決意が燃え盛っていた。
作戦チームの役割分担は以下の通りだ。
【尋問チーム】圭佑、玲奈、今宮。彼らがタルタロスへダイブし、佐々木美月から神宮寺とスパイの情報を引き出す役目を担う。
【防衛チーム】アゲハ、夜瑠、まりあ、みちる。K-PARKを死守し、外部からのサイバー攻撃や物理的な侵入から圭佑たちの帰還を護る。
【解析チーム】詩織、あんじゅ、キララ。司令室で待機し、戦況の分析やハッキング支援を行う。
全部隊のバックアップ: 莉愛。彼女は司令塔として、全ての部隊を統括し、的確な指示を飛ばす。
俺たちは、自分たちの完璧な作戦が、既にクロノス・インダストリーの深層サーバーで、上坂という謎の女によって筒抜けになっていることなど、知る由もなかった。この「偽りの勝利」こそが、更なる混迷の序章となることを、誰も予想だにしなかったのだ。
【シーン2.5:脚本家の微笑み】
――その作戦会議の全てが、観測されていた。
K-PARKのサーバーのさらに奥深く。圭佑自身もアクセスできない、魂の『ルートディレクトリ』とも呼ぶべき、純粋な情報空間。そこは、無限に広がる純白の空間だった。光の源は見えないが、空間全体が、内側から発光しているかのように、どこまでも明るい。空気の概念はなく、音も匂いもない、絶対的な無の空間を、虹色に輝く無数の光のファイバーが、神経網のように、しかし完璧な秩序を持って走り抜けている。
その中央、虹色の光ファイバーが、まるで巨大な樹木の根のように一点へと収束し、絡み合い、形成された生ける玉座に、まだ性別も曖昧な、半透明の『影』のアバターが座していた。
彼女(彼?)の周囲には、無数のウィンドウが展開され、圭佑たちの作戦会議を映し出している。『影』は、圭佑の非情な決断を聞き、口元に微かな笑みを浮かべた。その表情は、愛おしさと、そして底知れない愉悦に満ちている。
(ふふ…『御せる』、か。可愛い主人公。お前が私の掌の上で踊れば踊るほど、物語は面白くなる。さあ、始めようか。私の駒と、愛しいお前が、初めて交差する、運命の舞台を)
『影』の言葉は、この世界の全てを支配する、真の「観測者」の存在を示唆していた。誰も、このアバターが、かつて圭佑の元同僚であり、YORUの熱狂的ファンだった田中雄大の魂の分身であることなど、知る由もなかった。
【Aパート:二つの戦場】
シーン3:電脳監獄『タルタロス』
プロ仕様の『ダイブギア』が、俺の意識を肉体から引き剥がす。全身の感覚が、光の粒子となって分解され、漆黒の空間へと再構築されていく。
俺が降り立ったのは、床も壁も天井もない、完全な漆黒の無重力空間だった。上下左右の感覚が曖昧で、浮遊感とめまいを同時に催させる。唯一の光源は、空間に幾何学的に配置された、青白い光を放つ無数のデータライン。それらは時折、神経細胞のように明滅し、この場所が電脳世界であることを告げていた。
空間の中心、天と地の双方へ向かって無限に伸びる巨大な黒曜石の柱――監視塔の直下に、青白いデータラインが格子状に編み上げられた、半透明の立方体の独房が浮かんでいた。
その中に囚われていたのは、因縁の相手、佐々木美月。彼女は、かつて俺を侮辱するために着せられた、元彼のアイドル衣装を身につけており、屈辱に顔を歪めてこちらを睨んでいた。その瞳には、抵抗と、そして微かな怯えが入り混じっている。
「…何のつもり? これが、天神グループのおもてなし?」
佐々木の挑発的な問いに、俺は冷静に答えた。
「ああ。最高のセキュリティールームだ」
俺は、玲奈と今宮を伴い、彼女の向かいに腰を下ろした。玲奈の瞳は、佐々木の悪意を見透かすかのように冷たく、今宮はいつもの飄々とした顔で扇子を仰いでいる。
「早速だが、本題に入ろう。神宮寺のこと、そして天神グループのスパイについて、知っていることを全て話してもらう」
俺の言葉は、佐々木の心を揺さぶるには十分すぎるほどの重みを持っていた。
シーン3.5:K-PARK防衛戦
その頃、現実世界と電脳空間の境界に位置するK-PARKでは、既に激しい防衛戦が始まっていた。莉愛の的確な指示を受け、キララがマイクを握り、覚醒した「慈愛」の歌声がK-PARK全体に響き渡った。その歌声に呼応するように、逃げ惑うファンアバターたちが、純白と金色の神々しい光のバリアに包まれていく。
しかし、クロノス・インダストリーから送り込まれた騎士ウイルスの猛攻は凄まじく、バリアは徐々に削られていく。あんじゅは、後方でハッキングによる支援(敵の通信妨害や、避難経路の確保など)に徹しているものの、単独で戦局を覆すには至らない。彼女たちの必死の防衛が、圭佑たちがタルタロスから無事に帰還するための、唯一の希望だった。
【Bパート:道化とハッカーと魔女】
シーン4:タルタロスへの二正面攻撃
タルタロスでは、二つの脅威が同時に俺たちに襲いかかっていた。
空間が引き裂かれ、マットブラックの車体に毒々しいネオンピンクのラインが走る武装ジープが、粒子加速音を響かせながら出現した。タイヤは接地せず、反重力エンジンの青白い光を漏らしている。その荷台から、田中雄大が率いる「騎士」ウイルスが次々と飛び降りてきたのだ。彼らは漆黒の甲冑を纏い、不気味なデジタルノイズを放ちながら、圭佑たちに向かって迫る。
同時に、電脳監獄の壁そのものが、バチバチと音を立ててノイズに変わっていく。上坂による、外部からのハッキングだ!その強烈な干渉は、タルタロスを内側から崩壊させようとしていた。
「兄貴! 外からヤベえのが来てる! このハッキング、並じゃねえ! こっちは俺が食い止める!」
今宮は、その場に胡座をかくと、自らのノートパソコンとタルタロスのシステムを直結させ、凄まじい速度でハッキングを開始した。彼の「敬愛」の美徳が、圭佑を護るための盾として、その真価を発揮する。
シーン5:道化の狂気と魔女の覚醒
田中は、武装ジープの荷台から降り立つと、騎士ウイルスたちを率いて圭佑たちの前に立ちはだかった。
「圭佑! 俺はお前を爆破予告犯に仕立て上げた! これは俺なりの、せめてもの罪滅ぼしだ! ここは俺が食い止めておく! だから、とっとと行け! …次に会う時は、敵だ」
その言葉は、表向きには自己犠牲の悲壮な覚悟に満ちていた。だが、圭佑の「神眼」には、田中の瞳の奥に宿る、最高の舞台で最高の演技を愉しむ、道化の狂気がはっきりと見えていた。彼にとって、この状況は、彼自身の物語を演じるための、格好の舞台だったのだ。
田中が内部の騎士ウイルスたちと茶番劇を繰り広げ、今宮が外部からのハッキングを食い止めている、僅かな時間。俺は、玲奈と共に佐々木への尋問を続行した。
完全に孤立し、圭佑の底知れない胆力に戦意を喪失した佐々木は、ついに全てを白状した。彼女のプライドは打ち砕かれ、その顔は恐怖に歪んでいた。
「スパイの名は、上坂…! 天神のサーバー管理者よ!」
そして、命乞いのように取引を持ちかける。「私をここから出して、安全を保証してくれるなら、あなたの駒になってあげるわ」。その言葉は、彼女の狡猾な本質を如実に表していた。
「いいだろう。だが、あんたに『K-Venus』の椅子はやらねえ」
俺は、彼女のアイドルという虚像ではなく、その本質――『狡猾さ』と『プロデュース能力』を認め、新たな役割を与えることを承諾した。彼女の内に秘められた才能は、圭佑にとっても強力な武器となるだろう。
その言葉に、彼女は自らの過ちと、本当にやりたかったことを告白する。「――今度は、私が、私をプロデュースする」。
彼女がそう宣言した瞬間、そのアバターを内側から眩い光が貫いた。屈辱の象徴であった元彼のアイドル衣装が、まるで燃え尽きるかのようにデータノイズとなって剥がれ落ちていく。その光の中から現れたのは、体に吸い付くような、シャープなラインの黒いビジネススーツ。内側には、彼女の秘めた情熱と危険な香りを漂わせる、深紅のシルクブラウスが覗いている。艶やかな黒髪が、無重力空間で静かに広がり、その瞳には、もはや迷いも、媚びもない、全てを見透かすような怜悧な光が宿っていた。彼女は、自らの手で、最高の自分を『再定義』したのだ。
「――美しい」
俺の口から、思わず本音がこぼれた。彼女は、もはや「魔女」ではない。王の懐刀となる、「覚醒した秘書」として、この戦いの舞台に立つことを決意したのだ。
【結び:鉄槌の降臨と、王の懐刀】
シーン6:鉄槌の降臨
「兄貴、マズい! 上坂の奴、ハッキングで俺たちの正規ログアウトゲートを封鎖しやがった! ここからじゃ出られねえ!」
今宮の絶叫がタルタロスの空間に木霊する。絶望的な状況に、玲奈の顔にも焦りの色が浮かんだ。
その時、タルタロスの漆黒の天井が、轟音と共に内側から爆破された!
光と共に、瓦礫を撒き散らしながら降下してきたのは、先ほど田中が乗ってきた武装ジープだった。しかし、運転席に座っているのは田中ではない。司令室にいたはずの、チームのまとめ役相沢詩織が、不敵な笑みを浮かべてハンドルを握っていたのだ。
「皆さん、お待たせしました!」
彼女は、解析チームとしてタルタロスの構造を分析する中で、正規ゲートとは別の、緊急メンテナンス用の物理ポートが存在することを発見していたのだ。彼女の「知恵」の美徳が、この窮地を切り開いた。莉愛にK-PARK内のアバター転送を要請し、田中が乗り捨てたジープを強奪。最短ルートで天井をぶち破り、助けに来たのだった。
「乗って!」
シーン7:決死の空中カーチェイス
俺と玲奈、今宮、そして覚醒した佐々木が、次々とジープに飛び乗る。タルタロスの漆黒の空間に、希望の光が差し込んだかのようだった。
だが、追っ手は地上の騎士ウイルスだけではなかった。空間の亀裂から、新たな敵――武装ハンググライダーにまたがった騎士ウイルスたちが、編隊を組んで急降下してくる! その翼は、コウモリの皮膜のように見えるが、無数の六角形の黒いエネルギーパネルで構成され、継ぎ目からはネオンピンクの光が漏れ、不気味に明滅している。
「チッ、空からもかよ!」
ハンググライダーから放たれる無数の光弾が、ジープの周囲で炸裂する!轟音と共に、漆黒の空間にオレンジ色の爆炎が咲き乱れ、衝撃波でデータラインが千切れて火花を散らす。
詩織は、監視塔の壁や、縦横無尽に走るデータラインを足場にするように、アクロバティックな運転で攻撃を回避する。その冷静沈着なドライビングテクニックは、かつてバーテンダーとして培った集中力と判断力の賜物だった。
「今宮さん、援護を!」
今宮がジープの荷台に搭載された機銃を乱射し、数機を撃ち落とす。玲奈と佐々木も、それぞれが持つ端末から防御プログラムを展開し、ジープを守る。チームK-MAXが、覚醒した佐々木を加え、初めて完璧な連携を見せた瞬間だった。
「親父、聞こえるか! 詩織がこじ開けたメンテナンスポートだ! そこに緊急ゲートを開けろ!」
俺の叫びに、現実世界の父・神谷正人が即座に応答した。俺たちの目の前に、光り輝く転送ゲートが出現する。
ジープは最後のブーストをかけ、背後の大爆発を飲み込みながら、光の中へと突っ込み、俺たちは現実世界へと帰還した。
シーン8:騎士の退場と王の懐刀
玲奈の部隊がクロノス・インダストリーのサーバー室に突入した時、そこにいたのは、上坂一人だった。彼女は、まるで全てを悟ったかのように、静かに玲奈たちを見つめる。
「…見事ですわ、神谷圭佑。全ては『あの方』の脚本通り、というわけですね」
彼女は、まるで祝福の儀式に臨むかのように、静かに橘教授の遺した狂気のヘッドギアを装着する。その行為は、上坂が「観測者」という、さらに上位の存在に仕える狂信者であることを物語っていた。
「私は、この世界の誰よりも、『あの方』の物語を信奉している。その物語の登場人物として、肉体という檻から解放され、データとして永遠に貢献できるのなら、本望ですわ」
彼女は、自らヘッドギアの出力を最大にした。
「ぐ…ぅ…ああ…っ!」
短い苦悶の声と共に、彼女の体から、物理的な肉体の限界を超えた青白い光が迸り、サーバー室の照明が一瞬、明滅する。焦げ付くようなオゾンの匂いが、空気を満たした。
やがて、力が抜けたように椅子に崩れ落ちた彼女の肉体。その額から、まるで蝶のように、魂の形をした青白い光がふわりと抜け出し、天井のケーブルをすり抜け、ネットワークの光の奔流の中へと、静かに溶けるように消えていった。それは、肉体という檻から解放され、データとして永遠の存在へと至る、狂信者のための、あまりにも静かで、荘厳な自殺だった。
全ての作戦が終わり、俺は、司令室からK-PARKを眺めていた。安堵と、微かな高揚感が、俺の心を満たしていく。
その隣には、アバターとしてホログラム投影された、秘書としての佐々木が立っている。彼女の瞳には、以前のような屈辱や狡猾さはなく、王に仕える忠実な懐刀としての、怜悧な輝きが宿っていた。
「ボス、これがパシフィック・ウォールの内部構造です。最短の攻略ルートを3パターン、算出しました」
彼女は、すでに次なる戦いの舞台である、巨大電脳要塞の情報を完璧に分析し、報告していた。
玲奈が、少し面白くなさそうな顔で、その光景を見ている。彼女の「最初の恋人」としての独占欲が、佐々木の存在を警戒しているのだろう。
「…本当に、いいのかしら? あの女を、そこまで近くに置いて」
玲奈の懸念に、俺は不敵な笑みを浮かべて答えた。「ああ。毒は、皿の隅に置いとくより、懐に入れて、自分で管理する方が安全なのさ。…そうだろ? 秘書さん」。この言葉には、彼女の才能を利用し尽くすという、王としての冷徹な計算と、彼女を支配下に置くことで、更なる裏切りを防ぐという狡猾さが隠されていた。
佐々木は、俺の言葉を完璧に理解し、深紅の唇の端をわずかに吊り上げた。「ええ。あなたの牙にも、盾にもなりましょう。ボス」。彼女は、自らの才能を最大限に発揮できる場所こそが、圭佑の隣だと悟っていたのだ。
俺は、自分の作戦が完璧に進んだという、偽りの勝利に満たされていた。しかし、俺の「神眼」は、佐々木がまだ心の奥底に抱える歪んだ承認欲求や過去のトラウマ、そして「観測者」の真の目的を完全には見抜けていなかった。この一連の出来事すら、誰かの「脚本」の一部に過ぎないことを、俺はまだ知らなかったのだ。
【エピローグ:観測者の最終的な微笑み】
――K-PARKの最深層**『ルートディレクトリ』
虹色の神経網が脈動する純白の空間で、データの玉座に座る『影』が、圭佑と佐々木のやり取りを映すウィンドウを、満足げに閉じた。
「ええ、そうよ。毒は、懐に入れておくのが一番。…私の可愛い主人公くん?」
その声は、まだ男とも女ともつかない、中性的な響きを持っていた。しかし、K-MAXとの戦闘データを吸収し、その輪郭は、以前よりも少しだけ、『女性的』なラインを帯び始めていることに、まだ誰も気づいていない。観測者の計画は、圭佑の想像を遥かに超える、深淵な領域へと進み始めていたのだ。
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