「自分で選ぶ、自分で決める」渡邊渚さんが語る、自分に矢印を向けることの重要性|インタビュー後編
逆境を乗り越えた経験から、同じように思い悩む人たちがもう一度前を向き「自分らしく生きられるように」と発信を続ける渡邊渚さん。PTSD治療の入院中も書き続けたという日記や新たに始めたヨガが、渡邊さんにとって “自分らしさ”を取り戻す小さなきっかけになったといいます。「渡邊さんと考えるメンタルヘルスと自分らしさ」をテーマにしたインタビュー第3回は、日々のなかで感じた変化や、立ち止まることの大切さ、今後の活動について、お話をお聞きしました。 〈画像〉渡邊渚さん ■自分で選ぶ、自分らしい生き方 ――今、渡邊さんにとって“自分らしくある” とはどのような状態でしょうか。 渡邊さん:無理をしない。やりたくないものはやらない。全てを自分で選択できるという状況が自分らしくいられている状態なのかなと思います。自分の人生を振り返って見ると、“こうあるべき”という姿にハマろうとしていた自分がいるんですよね。例えば、就活のときも「あの会社が求めているのはこういう自分」とか。就職して働き始めても「この現場では、こういう私を求めている」というところにハマろうとしていて。 でも、それは自分が本当にしたい選択ではなかった。もう一回、同じ人生を生きるとしても絶対その選択はしないだろうなと今だったら思うので、自分で選ぶ、自分で決めるというのを大切にしたいなと思っています。もちろんお仕事のうえでは、それを譲らないといけないところもありますけど、自分の軸としては持っていたいですね。 今やらせていただいているお仕事だと、書き物の仕事が一番自分らしさを出せているかもしれません。書くことで、自分の想いを整理できるところがあるように思います。 ――入院中も日記を書かれていたそうですね。 渡邊さん:手が震えてペンが持てないときもあったので、そのときは手にゴムで巻きつけて書いてたんですけど、それはもうミミズみたいな文字で(笑)。これじゃ読めないなと、当時はスマホの音声入力を使っていました。 頭に浮かんできた考えとか、日常の楽しかったことを全部記録に残したいタイプなんです。ちゃんと毎日日記を書き始めたのが高校生のときだったんですけど、自分の人生がめっちゃ楽しくて。これを残しておきたい!という気持ちだったんです。そういうポジティブな気持ちで始めたものが、ネガティブな自分も助けてくれるようなものになっているのかなって。迷ったときに読み返してみたりすると、このときはこうやって乗り越えていたんだ、と過去の自分が教えてくれることもたくさんあります。 ■小さな習慣が、心と体を整えてくれる ――SNSでの発信もずっと続けていらっしゃいますよね。向き合い方に変化はありましたか。 渡邊さん:もとから顔も知らないような人に何か言われて心が動くようなタイプではないんですけど、ただ数が多いと時々はやっぱりポキっと心が折れることもあります。でも、SNSの向き合い方としては逆にポジティブに考えられるようになったのが大きかったですね。同じ病気の方とつながったり、それで勇気をもらったり。自分が1人じゃないと思えたことが何よりもうれしかったです。 ――これSNSに書いて大丈夫かな?と思うこともあったりしますか。 渡邊さん:それが意外となくて。もういいや、全部出しちゃおう!みたいな感じです。特定の誰かを傷つけるようなものは止めよう、とは思っていますけど、基本的にはその時々での自分の気持ちを素直に出すようにしています。 ――不安な気持ちもそのまま飾らずに? 渡邊さん:そうですね。つらい気持ちを吐露したとしても、同じように考えている人がいると思うと、それだけで救われますから。あと、不安を感じたときはSNSではなく日記や紙に、その不安を列挙して書き出すようにしています。それが、社会や周りがどうにかしなければいけないものにだとしたら仕方ないと割り切れるし、そうすることで自分が向き合わなければならない課題だけに集中できるようになりますから。 どうしても寝る前とかぐるぐる考えちゃうんですけどね。そういうときは、ストレッチしたり、ヨガをやってみたり、いい香りのお香をたいてみたり。昔は、そういうものに全然敏感じゃなかったんですよ。「香り嗅いで元気になるってどういうこと!?」って(笑)。ヨガよりも筋トレの方が、体が動くようになるよね、みたいに思っていました。 ――同じように、ヨガを始める前は「筋トレの方が……」と思っていたとおっしゃる方、多いんですよ。 渡邊さん:そうなんですね。私は病気になって体が動かなくなったときに、ベッドの上でできるヨガをYouTubeで見つけて。やってみたら、ちょっとだけ体調がよくなったんですよね。あと、退院後にPTSDの精神的な症状がひどくなって、もう無理かもと思ったときにスリランカに行く機会があったんです。そこで毎朝、日の光や風を感じながらヨガをやって初めて「こういうことなんだな」と、ヨガの本当のよさを知りました。ヨガやマインドフルネスを取り入れるようになってから、自律神経を整えることに自然と意識が向くようにもなりました。 病気になってよかったことの1つは、そうやって自分に矢印を向けるようになったこと。朝起きたときの体調の変化に気づくようになったし、ちゃんと立ち止まって考えられるようになりました。昔は、ちょっと体調が悪くても仕事すれば忘れちゃう、仕事に行けば治るって思いこんでいたようなところがあって、それが蓄積されていたのかなと。今は、香りにも敏感になったし(笑)。自分をより大切にできているように感じています。 ■焦らなくていい、自分のペースで ――PTSDを公表し、情報発信も積極的に行っている渡邊さん。今生きづらさを感じている人に、どんなことを伝えたいと思っていらっしゃいますか。 渡邊さん:生きているだけで十分すごいから急がなくていいよ、と伝えたいです。社会から離れるほど「戻れないのではないか」「働けないのではないか」「お金はどうなるのか」など不安はたくさんあると思いますが、それよりも今の自分が元気でいられることを優先してほしいです。PTSDじゃなくても、他の精神疾患とか、何かしらこう将来への不安をみんな抱えながら生きていると思うんですけど、絶対によくならないということはないのかなと。時間がかかるかもしれませんが、のんびり自分のペースで、自分の好きなように生きていいから、一喜一憂せず、一緒にのんびりやっていきましょうと伝えたいですね。 ――精神疾患を抱える方やご家族を支援するシルバーリボンジャパンの活動にも関わっていらっしゃると伺いました。今後、どのようなことに取り組んでいきたいと考えていらっしゃいますか。 渡邊さん:精神疾患に関する偏見をなくす活動をしていきたいと思っています。精神科は実際には優しい場所で、丁寧に対応してくれる先生も多くいますから、マイナスのイメージがちょっとでも変わるといいなと。PTSDに関しては日本では症例数があまり多くないということもあり、先生方に「ここまで元気になる人は珍しいから、どんどん発信していってほしい。それが希望の光になるよ」と言われることも少なくないんですね。そういった活動の過程で、ファッションの仕事や写真集など、自分が楽しいと思えることもお仕事としてやっていけたらと思っています。 ■■渡邊渚さんプロフィール 4月13日生まれ、新潟県出身。慶應義塾大学を卒業後、株式会社フジテレビジョンに2020年に入社。2024年8月末に同社を退社。現在はフリーで活動中。instagram:watanabenagisa_ インタビュー・文/吉田光枝 撮影/長谷川梓 スタイリング/河野素子 ヘア&メイク/毛利仁美(Tierra)
ヨガジャーナルオンライン編集部