収入は月8万5000円の母の年金だけ…「会社員経験もない」20年以上を介護に費やした50歳男性が陥った貧困。自分の食費は月2000円
「父が亡くなって正直ホッとしました」
それまでコツコツ貯金した苦労を嘲笑うかのように介護はすべてをかっさらっていく。そればかりか昭和を象徴する“亭主関白”な父の言動は岩佐さんの精神をもすり減らしていったという。 「お前が生活できているのは俺の年金のおかげだなどと、毎日、罵られて介護うつになりました。見かねた介護士が嫌がる父を説得し、デイサービスに通わせてくれましたが、もし母が先に亡くなっていたら、父の介護を放棄していたでしょうね。父が亡くなって正直ホッとしました」
社会から孤立しやすい問題も…
3割以上が独身者といわれる氷河期世代は、介護によって社会から断絶されやすい。 「やっぱり介護が重しになって、結婚や恋愛に後ろ向きになりますね。僕は介護の話しかできないから、仕事や子どもなどの話題にもついていけず、同世代との会話も嚙み合わない。今では介護士くらいしか話し相手はいません」 奥村氏の元にも、孤立した氷河期世代からの悩み相談が尽きることはない。 「とくに多い介護離職の相談には、できるだけ辞めないようにとアドバイスしてます。そもそも職場自体が社会と繫がる重要な場。さらにキャリアに空白期間をつくると、年齢的なことも相まって、介護が終わった後に希望の職に就ける人は半数以下。金銭面でも介護離職は大きなリスクなのです。 すでに氷河期世代で介護者は約75万人もいて、今後10年間で約200万人に拡大するといわれています。氷河期世代の貧困介護は社会に深い影を落とすはずです」
「自分の時間を取り戻したい」
介護が終わっても、岩佐さんの人生は終わらない。 「会社員経験もないから好きな仕事に就くのは難しい。仕事は“生きるため”と割り切って、ずっと我慢してきた趣味に生きがいを見つけたい。難聴なので言葉がわからなくても没入できるサッカー観戦がいい。他人の時間を奪う、それが介護。せめて1分でも、自分の時間を取り戻したい」 介護に翻弄された時間は、今後も岩佐さんの人生に重くのしかかる。それでも彼は前を向き生きていく。 【ケアラー評論家 奥村シンゴ氏】 ケアラー支援団体「よしてよせての会」代表。主な著書に『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』(法研) 取材・文/週刊SPA!編集部 ―[[貧困介護]の現実]―
日刊SPA!