収入は月8万5000円の母の年金だけ…「会社員経験もない」20年以上を介護に費やした50歳男性が陥った貧困。自分の食費は月2000円
介護サービスの負担額は年々上昇傾向に
氷河期世代の介護支援を行っている「よしてよせての会」代表・奥村シンゴ氏によれば、賃金上昇や保険料増加などを背景に介護サービスの負担額は年々上昇傾向にあるという。 「例えば、’23年の一人当たりの訪問介護費は’22年と比べて3.8%、入浴介護費は1.5%ほど増えており、この傾向は今後も続く見通し。今や貧困層に限らず、十分なサービスが受けにくくなってます」 厚生労働省のデータによれば、厚生年金の平均受給額は月14万3973円だが、介護に必要な資金の実情と照らし合わせると十分とは言えない。奥村氏は続ける。 「在宅介護でも月5万~15万円、施設なら月10万~20万円。ここに生活費が加わるため、月30万円前後の出費への備えが必要です。ただ、氷河期世代の3割以上が貯蓄ゼロといわれており、親の介護によって“静かなる転落”へ追い込まれるリスクは高い。介護は、貧困に陥る引き金の一つでもあるのです」
祖母と父の介護で2000万円が消える
なぜ、岩佐さんは困窮状態の介護を余儀なくされたのか。 「僕は一人っ子だったこともあり、母の介護以前に祖母と父の介護もしてたんです。始まりが25歳の時ですから、もう四半世紀が過ぎたことになる。一浪して大学に進学しましたが、当時は就活時の有効求人倍率が0.5前後の時代。150社ほど受けて内定は一つも出なかった。 卒業後は時給700円ほどのコンビニバイトを続けながら正社員を目指したのですが、もともと弱っていた祖母に加え、父が倒れたことで、母とともに2人を同時に介護しなければならなくなりました」 その後、祖母が亡くなり、介護の負担が軽くなるかと思いきや、岩佐さん(当時35歳)をさらなる不幸が襲った。
介護に縛られた日々が始まる
父が再び倒れ、右半身不随になったことで以前に増して介助が必要な状態になり、介護疲れで心身ともに限界に達した母が、認知症を発症。徘徊も始まり、ほかに頼れる親戚もなかった岩佐さんが親2人を一人で抱えるという、介護に縛られた日々が始まった。 「借金こそなかったものの、祖母にも父にも貯蓄はなく、年金だけではとても足りません。父の入院中にスポットバイトをしていましたが、安定には程遠かった。母は堅実な性格で貯蓄が1200万円ほどあったのですが、それも介護負担を軽減するために祖母を3年ほど施設に預けたことですべて消えました。 一昨年に他界した父は施設を拒んだので自宅介護を貫きましたが、それでも計800万円はかかっています。将来が不安で25歳から貯めた僕の貯金も、底を突きました。介護は終わりの見えない闘い。長生きは喜ばしいけど、元気でなければ出費ばかりが増えます」