「一人でも多くふる里へ」 海底炭鉱からついに人骨、刻む会の歩みは
山口県宇部市の「長生炭鉱」から見つかった骨は人骨だったことが27日、判明した。長年、海底の坑道に閉じ込められたままの遺骨を、なんとか収容できないか。政府が及び腰な姿勢をとり続けるなか、調査にあたってきた市民団体が、ついに人骨を探し出した。
炭鉱内で潜水調査をしていたダイバーが頭蓋骨(ずがいこつ)を持ち帰った26日。
海岸に喜びの余韻が残る中、「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(刻む会)の井上洋子・共同代表(75)は、穏やかな海を見ながらこう言った。「長かった。まるで夢みたいだよね」
刻む会は1991年、在日外国人の指紋押捺(おうなつ)を巡る問題を支援する市民を中心に発足した。当初は遺骨収容ではなく、犠牲者全員の名前を刻んだ追悼碑の建立などを目標に掲げて活動した。
犠牲者の本名を特定するため、残っていた名簿などをもとに、韓国に118通の手紙を送った。このうち返信があったのは17通。さらに92年には韓国の遺族会が結成されるなどし、犠牲者の本名は次々と判明した。
寄付金を募り、2013年に追悼碑は完成。「やっと成し遂げたとの達成感があった。これで遺族の皆さんも喜んでくれる」
だが、その除幕式の日、韓国人遺族からこう言われた。「日本人はこれで運動をやめようとしていないか?」
「これで満足していてはいけないと目が覚めた」と井上さん。遺骨収容を次の目標に掲げた。
遺骨が残る坑道に入るため、坑口を探した。
業者に頼んで地下の状態を調べた。空洞がある場所がわかったが、土地の所有者がはっきりしないなど、宇部市との交渉を重ねても、進展しなかった。
遺骨の収容や支援を求めて、国との交渉も始めた。国は「骨がある場所がはっきりとわかっていない」ことなどを理由に及び腰だった。
「遺族は高齢化している。これ以上は待てないから自分たちでやろう」
昨年9月、海に近い陸地で坑口を掘り出すことに成功。翌月には潜水調査を行った。
坑道内で崩落が見つかるなどして、調査は難航。だが、今回の調査でついに、人骨にたどり着いた。多額の資金はクラウドファンディングなどで集めたものだ。
会の結成から30年余り。発足メンバーで残るのは井上さんだけになった。「まだ(海底に)たくさんの遺体が眠っている。お一人でも多く、ふる里に帰してあげたい」
そのためには、今後は骨のDNA鑑定が必要になってくる。井上さんは言う。「(人骨が見つかったのに)日本政府は放っておくのか。政府もこのプロジェクトに参画してもらうことが、今からの戦いになってくる」
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