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ナイジェリア政府はなぜ「日本の特別ビザ」偽情報を公式発表したのかー腐敗政権が仕掛けるビザ利権の闇

ビザを巡る現地情報を丹念に追っていくと、ナイジェリア権力中枢における構造的な偽情報操作と政権の腐敗体質が浮かび上がってきた。

野党が指摘する「政権の利益」

ナイジェリア野党・アフリカ民主会議(ADC)の広報官は、日本政府が「特別ビザ発給」を否定した件について、次のように強く非難している。

「日本が特別ビザ発給に合意したという声明は、与党・全進歩会議(APC)主導のティヌブ政権が、自らの政治的利益のために虚偽の情報を流布したものだ」

さらに同官は続ける。

「ティヌブ政権は国民からの好感度を上げようと必死だ。今回の偽発表は、そのためにフェイクニュースを流布しても構わないと考えている証拠だ。もはやこの政府の何を信じればいいのか分からない」

そして最後に、こう訴えた。

「日本政府が公式に否定したことは国家的な恥辱であり、政府の情報発信に対する国民の信頼を損なった。この恥ずべき状況はもう終わらせなければならない」

この発言はXで拡散され、複数の野党系・独立系メディアでも広く引用された。

“政府のいつものプロパガンダ”

しかし、ここまで露骨な“プロパガンダ”で国民の支持が得られるのだろうか。

「特別ビザ発給」のニュースに対するSNS上の反応は分かれた。肯定的意見もある一方で、否定的な声も多く、

「政府のいつものプロパガンダだ」
と、日本政府が公式に否定する以前から、偽情報だと見抜いていたナイジェリア人も少なくなかった。

同じビザ関連フェイク声明の“前科”

ナイジェリア国民にとって、政府によるビザ関連の偽情報操作はこれが初めてではないからだ。

昨年9月、ティヌブ政権は「UAE政府がナイジェリア人の渡航禁止を解除し、ドバイ便がまもなく再開する」と公式声明を発表した。

声明を主導したのは、政権の中枢にいる情報・国家指導大臣のモハメド・イドリス氏である。

しかし、この声明は発表直後にUAE政府によって公式に否定され、「ナイジェリアとUAEの間の渡航制限に変更はない」と明言された。その後も情報大臣は「解禁は近い」とする声明を繰り返したが、ビザ規制は事実上続いたままであった。

この混乱に乗じ、偽のUAEビザ申請サイトが次々と立ち上がり、違法な移民ブローカーが暗躍する事態に発展した。

とりわけ問題となったのが、モハメド・イドリス大臣自らが推奨した「DV Hub」というオンライン・ビザ申請サイトである。

しかしUAE当局は後に、このサイトがUAE政府とは一切無関係であることを公式に否定した。

スキャンダルとマッチポンプ疑惑

現地ジャーナリストの調査によれば、DV Hubを通じて徴収された高額な手数料の一部がイドリス大臣周辺の政府高官や移民ブローカーに還流していた疑惑が浮上している。

現地メディアの中には、「毎月、数億ナイラ(数千万円)規模のキックバックが同大臣や関係者に流れている」と指摘する報道もある。

こうした経緯から、ナイジェリア国内では「UAEビザ解禁フェイクは政権幹部の利権目的で仕組まれた可能性が高い」との見方が強まっている。

要するにマッチポンプだ。

この混乱の中で、他の偽ビザ申請サイトや違法ブローカーが横行し、多くの国民が被害に遭う詐欺事件に発展した。

しかし、イドリス情報大臣は責任を問われず、今も権力の座に居座っている。

日本特別ビザ偽情報は「既視感のある構図」

今回の「日本特別ビザ」偽情報は、このUAEビザ問題と構造が驚くほど似ている。

  • 外交成果の水増し

  • 事実と異なる政府発表

  • 国民への過剰な期待喚起

  • 移民ビジネスと政権幹部の利権疑惑

うがった見方をすれば、今回の偽情報も大統領の日本訪問成果を“演出”する狙いに加え、

将来的に日本向けの偽ビザ申請サイトや移民ブローカーの信用性を高め、政権幹部がキックバックを得るための布石だった可能性も否定できない。

“Kisarazu”に移住できて当然

今回の偽情報の発端となったのは、大統領府情報局長アビオドゥン・オラドゥンジョイ氏名義で出された声明だ。

声明では「日本政府がナイジェリア人への特別ビザ発給に同意した」と明記され、現地メディアでも広く報じられた。

さらに、この声明のテキストは、大統領府公式サイトだけでなく、フォロワー数の多いイドリス情報・国家指導大臣が率いる同省の公式サイトやX、Facebookを通じても拡散された。

ナイジェリアの国策広報は情報・国家指導省が中枢を担っており、大統領府情報局とも連動する形で声明やキャンペーンが設計・発信される構造にある。今回のケースもその典型であり、外国ビザ利権疑惑のあるイドリス情報大臣が深く関与している可能性もある。

声明はSNS上で爆発的に拡散し、

  • 「木更津市=ナイジェリア人の“新しい故郷”」

  • 「故郷なのだから、移住できて当然」

と信じる人が続出。

ナイジェリア系YouTuberやTikTokerが木更津移住のメリットを紹介する動画を次々公開し、急速にトレンド化した。

現地では過剰な期待が膨らみ、ナイジェリア国内では“日本移住情報バブル”とも言える状態が生まれている。

さらに問題なのは、誤報が訂正されないまま放置されていることだ。

ナイジェリア大統領府の公式サイトでは「特別ビザ発給」の記述こそ削除されたが、発表タイトルは依然として「木更津市をナイジェリアの故郷に認定」と残され、誤解を助長している。

情報統制を担う4人のキーパーソン

この一連の誤報と情報拡散を支えているのは、政府広報ネットワークの中枢にいる4人のキーパーソンだ。

  • アビオドゥン・オラドゥンジョイ:大統領府情報局長。今回の声明の署名者で外交広報を統括

  • モハメド・イドリス:通信・国家指導大臣。政府広報戦略全体を統括し、UAEビザ問題で偽サイト誘導・汚職疑惑の中心人物

  • バイオ・オナヌガ:大統領特別顧問(情報・戦略担当)。ティヌブ大統領の選挙選から情報戦略を設計し、勝利に導いた立役者。今回、10万人を超える個人Xアカウントで誤情報を積極拡散

  • 大統領公式ソーシャルメディア担当官。大統領の訪日成果のパンフレットにまとめ「特別ビザ発給」をPR。現在も訂正しないまま、拡散中。

情報・戦略担当のオナヌガ大統領特別顧問は今回のTICAD9(第9回アフリカ開発会議)に大統領に随行。横浜での会議終了後、Xでこう投稿している。

「日本がナイジェリアの“故郷”と定めた町・木更津市に探訪旅行に出かけました。動画では渡辺市長の事務所がある市中心部の様子をご覧いただけます」

この動画付き投稿は数万回以上再生され、現地SNSで「木更津=ナイジェリア人の故郷」という誤報をさらに拡大させている。

結論:外務省とJICAへの提言

今回の政府高官4人による構造的な情報操作は、ナイジェリア国内の混乱にとどまらず、日本政府や木更津市などの地方自治体が、政権主導のビザ利権や移民詐欺ビジネスに“巻き込まれる”危険性をはらんでいる。

実際、UAEビザ汚職疑惑から、今回の「日本特別ビザ」偽情報は単なる誤解ではなく、政権ぐるみの情報誘導である可能性は否定できない。

したがって、日本政府は単なる否定にとどまらず、以下の対応が求められる。

  • 情報部門4人(情報局長・情報大臣・特別顧問・SNS担当官)の投稿監視と訂正要求

しかし、いくら日本政府がナイジェリア政府と協議しても、彼らの腐敗体質を改善することはできない。

というのは、UAEや日本のビザ情報操作に限らず、ティヌブ政権は偽情報操作の常習犯だからだ。

たとえば、「政府系学校の学費を無料化した」と声明を出しながら実際には値上げしていた事例や「政府は過去1年間で300億ドルのFDI(海外直接投資)を獲得」との発表に対し、実際はわずか3.6億ドルだったケースがある。さらに、「原油生産量が1日161万バレルに増加」との政府発表も、OPEC公式データでは約127万バレルに過ぎず、大幅な誇張であることが判明している。

このような意図的な偽情報や誇張は、枚挙にいとまがない。

さらに、ティヌブ大統領自身にも深刻な汚職・スキャンダル疑惑がある。

150万ドルの賄賂事件、国家収入を私物化したとされる「Alpha Beta」疑惑、政府契約詐取をめぐる訴訟など、複数の案件が現在も調査対象となっている。

大統領がかつて米国でヘロイン密輸組織のマネーロンダリングに関与し、その収益は没収されている(確定事案)。

国際調査報道機関OCCRPによれば、ティヌブ氏は「世界で3番目に腐敗が深刻な指導者」にランクインするほどだ。

こうした情報操作の常習性と構造的腐敗を抱えるナイジェリア政権の「ホームタウン(故郷)」に木更津市役所がなることに何ら合理的なメリットは見いだせない。

市民の将来に深刻な禍根を残すだけである。

JICAや外務省による今回の誤報否定では不十分であり、木更津市が「ホームタウン」認定を自ら即刻撤回する以外に、解決策は存在しない。

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