(時時刻刻)右派の怒号、欧州揺らす 既存政党に不満、自国ファースト「自然なこと」

 (1面から続く)

 移民や性的少数者に厳しいまなざしを向け、根拠の乏しい情報をもとに激しい言葉で危機感をあおる。テレビや新聞を敵視し、SNSを「拡声機」として巧みに使う――。それが、英国の極右政党ブリテン・ファーストの手法だ。

 デモが行われたマンチェスターは、18世紀後半に始まった産業革命の中心地。参加者たちは「それなのに、この街では白人の英国人がマイノリティーになっている」と訴える。

 背景には、この20年間で進んだ人種の多様化がある。2021年の国勢調査によると、マンチェスターの人口は57%が白人、21%がアジア系、12%が黒人だ。2001年は白人81%、アジア系7%、黒人系5%。白人でも東欧からの移民も多いため、21年の国勢調査では、「白人の英国人」は5割を下回った。

 ブリテン・ファーストは11年に創設。フェイスブック(FB)やユーチューブを通じて支持を伸ばした。17年には、当時の副党首の反イスラム的投稿3件をトランプ米大統領が転載。問題視されながら、知名度をあげた。

 FBは18年、「少数派に対する敵意と憎悪を扇動することを目的としたコンテンツがくり返し投稿された」として、団体の関連ページを強制的に閉鎖した。21年には選挙管理委員会から「政党」として登録されたが、昨年の総選挙も今年の地方選も、「準備が整っていない」として候補者は擁立しなかった。

 代わりに、ブリテン・ファーストの支持者が一様に「選挙で投票した」というのが、厳しい移民対策を訴えるなど主張が近い右派ポピュリスト政党「改革党」だ。

 英国を欧州連合(EU)離脱に導き、トランプ氏とも近いファラージ氏が党首を務め、次期総選挙で政権奪取をめざす。世論調査では政党別の支持率で30%とトップを走る。

 労働党と保守党による「二大政党制」のイメージが強い英国でなぜ、過激に見える政党が支持を得ているのか。

 改革党を支持し、駐車場ビジネスを営むトム・ヒュームさん(63)は「労働党と保守党の間には、紙一重の違いしかない」と話す。「国は変わった。考えも変わった。時代遅れになってはいけない。改革が必要だ。『自国民を第一に』というのは、ごく自然なことだ」

 英国でブリテン・ファーストのような極端な排外的な主張を支持する人は少数派だが、社会に暗い分断の影を落としている。

 8月15~25日はLGBTQなど性的少数者の権利や尊厳の重要性を強調する「プライド期間」。性的少数者のシンボルであるレインボーフラッグが街中に見られた。旗には「誰でもウェルカム」とも書かれている。

 ブリテン・ファーストの立場は異なる。キリスト教的な価値観を重んじ、同性愛のほか、トランスジェンダーの権利擁護にも反対してきた。

 ブリテン・ファーストのデモに対して、抗議するカウンターデモも行われ、罵声が飛び交った。参加者のジェイソン・イオアニスさん(60)は語気を強めた。「確かにこの国には多くの問題がある。ただ、彼ら(ブリテン・ファースト)はその原因を少数派に押しつけ、自分たちを魅力的に見せている。そんなことを許してはならない」(英マンチェスター=藤原学思)

 ■解けぬ警戒心、政権には届かず EUと敵対、仏独などで躍進

 欧州では、1990年代から急速に欧州統合が進み、単一通貨の発行など加盟国の主権の一部を譲り受ける形でEUが拡大した。

 しかし、2009年に始まったユーロ危機で、各国は緊縮財政を迫られ、医療や福祉など国民の暮らしに直結する予算を削減。その結果、「犠牲を強いられた」という国民の不満の受け皿として支持を拡大してきたのが、各国の右派ポピュリスト政党だ。

 フランスでは昨夏の下院選で右翼「国民連合(RN)」が政党単位で第1党に躍進した。

 RNは前身の「国民戦線(FN)」時代の1980年代から比例代表制の欧州議会選挙では一定の議席を保った老舗政党だ。だが、移民・難民問題が注目された2010年代に極右色を薄め、急速に支持を広げた。

 ドイツでは2月の総選挙で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて第2党に。13年に反ユーロを掲げて設立された新興政党だが、15年からの欧州難民危機を機に反移民にカジを切った。

 欧州の多くの国で、右派ポピュリスト政党は、すでに多くの支持を集める大衆政党だ。その躍進は政権与党の政策に影響を及ぼしている。

 ただ、AfDは影響力を増しているとはいえ、ナチス・ドイツの歴史から極端な排外主義的な主張などに対する世論の警戒心は強い。主要政党はAfDとの協力を拒否。AfDの政権入りは現実味を帯びていない。

 オーストリアでも昨年9月の総選挙で第1党になった右翼政党「自由党」が連立協議を進めたが、決裂。今年3月に同党を排除する形で連立政権が発足した。いずれの国でも、ポピュリズムが第2次世界大戦を引き起こした歴史と、その後欧州が共通の価値とした民主主義や人権の規範が崩れることへの懸念は強い。

 欧州の右派ポピュリスト政党は国際協調よりも自国民の生活向上に尽くすことを誓い、欧州統合を進めるEUと敵対。自らをエリートに虐げられる「真の国民」の代表と位置づけるのが特徴だ。

 15年間にわたり政権の座を維持するハンガリーのオルバン首相の右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」がその典型といえる。加盟国の共通政策を進めるEUに対し、国家主権を守ると主張。オルバン氏は5月、欧州各国の右翼・右派政党の代表者らが集まった会合で「(EUへの)従属や服従ではなく、我々は自らの考えに従う」と述べた。

 政権が敵視する対象は移民・難民から、キリスト教の伝統的な家族観を壊すとしてLGBTQなどの性的少数者らへと広がっており、強権化への懸念が強まっている。

 一方で、右翼「イタリアの同胞(FDI)」を率いて22年9月の総選挙に勝利したイタリアのメローニ首相はEUへの懐疑姿勢を封印。ウクライナ支援など外交面でEUと協調する現実路線を進めている。(ベルリン=寺西和男、パリ=宋光祐)

 ■<考論>メディア批判・SNS、参政党と類似点 東大教授(国際政治)・板橋拓己氏

 参政党が躍進した7月の参院選では、投開票の1カ月ほど前まで外国人問題はあまり話題になっていなかった。しかし、参政党の「日本人ファースト」が注目されて変わった。

 選挙戦のさなかに、メディアで争点がのっとられた点では、右翼の「ドイツのための選択肢」(AfD)が第2党になった今年2月のドイツの総選挙とよく似ていたと思う。

 ドイツでは当初の争点は停滞が続く経済問題だったが、東部のクリスマスマーケットにサウジアラビア出身の男性の車が突っ込むなど事件が続き、最後の2カ月は移民・難民問題一色に変わってしまった。

 参政党と欧州のポピュリスト政党には、何重にも類似点と相違点がある。似ているのは、エリート層や既成のメディアを批判し、「普通の人たちの意見を最も分かっているのは自分たちだ」と主張することや、SNSの使い方にたけているところだ。

 異なるのは、たとえばドイツでは移民の背景を持つ人たちが人口の3割くらいいる一方、日本ではまだ相対的に移民が少ないのに外国人問題が争点になったことだ。

 また、欧州や米国のポピュリズムは、ジェンダーの自由化や環境政策、多様性重視の制度など、リベラル化した社会に対する反動という形で出てきた。日本はまだ、そこまでリベラル化が進んでいるわけではない。

 日本でも伝統的な排外感情は昔からあった。しかし、「ネット右翼」と呼ばれる人々も含め、政策的に幅広い自民党がそうした人々を支持者として包み込んできたのだろう。

 欧州でポピュリスト政党が伸びた経緯にはもうひとつ、彼らが地方から組織を広げてきた地道なプロセスがある。参政党も今回伸びた理由に相対的に組織がしっかりしていたことがあげられている。日本でも今後、このような傾向はなくならないのではないか。(聞き手・喜田尚)

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