「また来るね」と別れた3日後…死刑は執行された 座間9人殺害事件「白石死刑囚」元弁護人が問い続ける“償い”の意味
■死刑判決後の心境は「むしろ落ち着いた」 死刑確定後は、親族などごく限られた人との面会しか許されない。白石死刑囚はなぜか面会希望者のリストに大森さんの名前を加え、受理された。 「遠くない未来にこの世を去る人から『会いたい』と言われたら、理屈抜きで会いに行かなきゃという気持ちになる」と、大森さん。判決後初めての面会で、白石死刑囚は自身の心境を「判決前と何も変わらないし、むしろ落ち着いたかな」と語っていたという。 以降、大森さんは半年に一度のペースで面会に足を運ぶようになった。本を買うためのお金がほしいという求めに応じ、面会のたびに1万円を差し入れた。白石死刑囚は、小説、日本画の画集、ゲームの攻略本などさまざまなジャンルの本を読んでいるようだった。ある時は、米国の囚人が監獄内でもできるよう考案した自重トレーニング「プリズナートレーニング」の指南本を読みたいと話していた。 そして、今年6月24日。刑の執行が迫っているとはつゆも知らず、二人はいつもどおり面会室で向き合った。刑務所の職員以外の人と話せるだけでなく、書籍代も手に入る機会ということで、白石死刑囚はうれしそうに「感謝します」と口にした。 面会時間の20分は、他愛もない近況報告で過ぎていった。 「白石さんはラジオのニュースでコメの値段が5キロ5000円まで跳ね上がっていると聞いたらしく、『先生はコメを食えていますか?』と心配してくれました。あとは、筋トレの成果として腕まくりをして力こぶを見せてきました。鍛えたいというより、独房の中では他にやることがないのでしょう。ムキムキではないけど、健康そうな体でした。ただ、めまいやふらつきなど拘禁反応のような症状が出はじめたそうで、心身ともに安定していた白石さんにしては意外だなと思いました」
■死をもって償うとはどういうことか 大森さんは最後に、「また来るね」と言って面会室を後にした。その3日後、白石死刑囚は刑に処された。 死をもって償うとはどういうことなのか。大森さんは答えのない問いを考え続けている。 「誤解を恐れずに言うと、白石さんが生きていた6月27日以前と以降で、世の中は何も変わっていない気がするんです。なぜそう感じてしまうかといえば、私にはご遺族の思いが見えないからでしょう。大切な家族が二度と戻ってこない現実の中で、白石さんの死刑はわずかでも救いになるのか。それが分かれば、死刑制度の是非について自分なりに判断できるかもしれない。でも、そんな非情な問いをご遺族に強いてはいけないので、生涯のテーマとして向き合うつもりです」 もうひとつ、大森さんの心に刺さっている“棘(とげ)”がある。白石死刑囚が9人もの命を奪った真の動機については、結局分からずじまいだったことだ。 白石死刑囚は「楽をしてお金を稼いで、性欲も満たしたかったから」と語っていた。だが被害者のうち1人は大学生、3人は高校生で、とても金銭目当てで狙う相手とは思えない。本人の人格に破綻がある可能性も考えたが、精神鑑定で障害は認められず、大森さんも接していて精神的な疾患を疑う場面は皆無だった。 「ごく普通の人に見える白石さんがなぜこんな事件を起こしたのか。理解できないのは、私の常識を白石さんに当てはめているからで、おかしいと思うこと自体がおかしいのか……。心の中にずっと、大きなハテナマークがあります。白石さんがいなくなっても、私の中でこの事件が終わることはありません」 (AERA編集部・大谷百合絵)
大谷百合絵
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