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No Life ④

「……なあハク、俺の恰好おかしくないか?」


《おかしくないですよ、何回同じこと聞くんですか。 マスターったら心配性ですねー》


厳しい太陽光が照り付ける空の下、今回のライブ会場となるドーム前には「キバテビ参上!」と書かれた旗が幾重にも立ち並んでいる。

一般客用の出入り口はぞろぞろと3列に人が立ち並び、軽いボディチェックと手荷物検査を受けた人から次々に入場していく。

スタッフが手馴れているのか、数の割には列はスムーズに捌けている、時おりトラブルが起きて流れが止まる事もあるが、それでも3列が全て滞る事は一切ない。


現在時刻はライブ開始1時間前、だというのにこの人の数は異常だろう。

キバってBeat、新進気鋭の実力者たちが持つ人気が知れる。


《全くこんなに早く来ちゃうとか、マスターも実は楽しみだったんじゃないですかー?》


「そうだな、誰かさんが目覚ましをかなり早めに設定してくれたおかげだよ、ありがとうな」


皮肉を吐くと当の犯人は口笛を吹いて誤魔化すばかりだ、今からでも踵を返して帰ってやろうか。

いや、ハクだけならそれでもいいが駄目だ。 今回は連れが居るのだから。

もはや今日何度目かも分からないがスマホの内カメラを使い、身だしなみを整えながら時間が来るのをただ待つ。


《もー、だから何度目ですかマスター。 大丈夫ですって、可愛いですってば!》


「可愛いは褒め言葉じゃないんだよ! あーもぉー落ち着かねえ……」


今の俺はブルームスターの姿で、その上にハクが調整した日常的な衣装を身に纏っている。

……頭には日射を防ぐベースボールキャップを被り、服装はシンプルな黒のワンピースと言う出で立ちで、だ。


《なーに言ってんですか、ブルームスターの恰好で出歩くことなんて前にも何度かあったでしょう?》


「こんなヒラッヒラの恰好じゃなかっただろ! うぅー、何でよりにもよってこんな……」


マフラーがわりの白いタオルを首にぐるぐる巻き、赤くなった顔を少しでも覆い隠す。

いつものようにローブで覆うことも無く、薄い布地1枚で守られた体はどうも心もとない。

魔物を探している時などは気にならなかったが、今回は完全なオフだ。 今更ながら女の子の恰好をしている自分と言う存在に気恥ずかしさを覚えて来た。


「……アオたちには絶対見せられないなぁ、コルトには特にだ。 あいつは絶対腹を抱えて笑い転げる」


《こんな所で会う訳ないじゃないですかー。 あっ、来ましたよマスター》


画面の中のハクがちょいちょいと指さす方を見ると、遠くの方から手を振りながら走ってくる小さな人影が見える。

電話で聞いた格好通り、缶バッジを取り付けたキャップにTシャツとデニムパンツと言うラフな格好。

ただキャップの下から覗く髪は元の彼女らしい黒色ではなく、無造作に伸びた紫色の長髪がキラキラと輝く瞳を片方覆っている。


「ッヘーイ! お待たせしたデス! 花子に代わってここからは私、タツミがお送りするデスよ!」


「おいっす、聞いてはいたけどこの変貌ぶりはやっぱり慣れねえな……」


現れたのは以前知り合った野良魔法少女……その中にいる5つの人格の1人、名前を「タツミ」と言う。

主人格である花子ちゃん曰く、音楽好きで今回のライブの一番乗り気だったらしい。

しかし5人の人格とは、魔法少女の非常識っぷりには慣れたつもりだったが、相変わらず魔法と言うのは非常識極まりない。


「いまさらだけど……その、大丈夫なのか? 5人もいて」


「ノープロブレムデスッ! みんな仲良しなので上手くやっているデスよ」


「喧嘩するほどってやつか、まあとにかく今日はよろしくな」


「あいあい、こちらこそデス。 しっかし似合うデスね、どこで売っていたんデスかそのワンピース?」


「き、企業秘密で……それよりそろそろ行こうぜ、いい席全部埋まっちまうぜ」


私服っぽいこの格好はハクが適当なカタログを覗いて作っただけのものだ、購入元など踏み入った事を聞かれるとボロが出かねない。

適当にお茶を濁して先を……いや、待てよ?


「……なあハク? この服を拵えたのがお前なら、別にワンピースでなくても良かったんじゃないか?」


《………………やっべ》


「ほ~~~~~~う? どういう事だハク?」


《いや違うんですよマスター私ねちょっとブルームスターには女子力が足りないんじゃないかと思ってですね折角の機会ですしマスターの反応も面白そうだから可愛い恰好でおめかしああ゛ァー!!! 困りますお客様それほど強く画面を押下なされては私の頭が割れてしまあだだだだだだだあ!!!》


「何してるんデスかー? 早く行くデスよ!」


運が良かったな、今はこれだけで勘弁してやる。

だが帰ったら覚えておけよこのやろう。




――――――――…………

――――……

――…



「――――キバテビが公式で初リリースしたシングルのタイトルはなにカナ?」


「ち、『超新星』……です……」


「せいかーい! 因みに投稿サイトに落とされた初曲のタイトルは分かるカナ? ビブリオガール」


「し、『少女たちよ』……だね……」


1人だけ気力が有り余っているコルトに連れられ、幽鬼のような表情の私達はふらふらとその後をついて行く。

結局昨日は徹夜でコルトに付き合わされたお蔭で、妙にキバテビについて詳しくなってしまった。


「大丈夫ですかシルヴァ……いえ、詩織さん……会場に入ったら少し仮眠を取りましょう……」


「ううん、大丈夫……一周回って、すごく眼が冴えてるから……」


グッとサムズアップを見せる彼女の眼は据わっていた。 

この根性は見習わなければ。 そうだ徹夜がなんだ、寝ずの任務だってこれまで何度かあっただろう。


『あーあー、マイクテスマイクテス。 皆聞こえてる?』


「聞こえてます縁さん、無線の調子は良好です」


「同じくだヨ、このまま入場しちゃっていいのカナ?」


耳元の小型無線からはクリアな音声で縁さんの声が届けられる。

なんでも東京から持ち帰った情報によって改良された試作品らしい、以前より音質が向上したほか多少の魔力妨害なら問題なく通信が続けられる。


『ええ、あなた達はそのまま観客に紛れて不審人物が現れないか警戒して頂戴。 対象の2人はほかの魔法局員が護衛しているわ』


「ちぇー、せっかくのサイン色紙が無駄になっちゃったヨ」


「公私混同……だめ、だよ……」


ぬいぐるみの腹から色紙の束を取り出すコルトを詩織さんが窘める。

その姿を横目に入場のための列へと並ぶと、前には不思議な組み合わせの少女が2人並んでいた。

まあ私たちが紛れ込めるほどなので、小中学生が並んでいること自体に違和感はない。 元から若い層に人気のあるユニットだ。


だが私にはどうしても黒いワンピースドレスに映える、灰を被ったような白い髪が気になった。


「…………んん?」


「ん?」


「む? どうしたデス?」



訝しむ私の声に気付いたのか、前に並んでいた少女たちが振り返って目と目が合う。

……その顔を忘れるはずもない、自ら「ほうき星」を名乗る魔法少女のその顔を。


「げっ、ラピ……! おま、なんでここに!?」


「それはこっちの台詞ですが? もしや貴方も脅迫状の件で? しかしそちらは……」


「あっ、どうもどうも、タツミというデス。 2人はお知合いデスか?」


ブルームスターの隣に立つ、紫色の髪の毛で片目を隠す少女は誰だろう?

随分と仲が良いようで、こんな暑苦しい日差しの下で腕なんか組んでまあなんともなんとも。

任務中に気の抜けた姿を見せられたせいだろうか、何故かその姿を見た途端胸がムカムカして堪らない。


「……ブルーム? 誰ですか、その女?」


「え゛っ? あの、その……友達?」


「ふーーーーーん? そーーーーですかーーーーふーーーーーん?」


『あ、葵ちゃん? どうしたの? 聞こえてる? あのー……?』


通信機から恐る恐る語り掛けてくる縁さんの声も聞こえない。

さて、この野良娘は今からどうしてやろうか……

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