オレたち参上 ④
『現場はこちらで地図を転送するわ、急いで!』
「お兄さんはここで待っていてください! 行きますよ2人とも!」
「アイアイサー! ほら、ビブリオガールもHurryHurry!」
「ま、ままま待ってぇ!」
慌しくドアベルを鳴らしながら、3人と1人が店を後にする。
あとに残るのは俺1人、優子さんは午前中の激務が堪えて2階で休憩中だ。
《ありゃりゃ、おいて行かれましたね どうしますマスター?》
「まあブルームスターとして無視は出来ねえよ、場所は……」
スマホを開き、キーワードを打ち込んでSNS上に流れる情報をざっと流し読む。
魔物と戦闘を起こして倒したとあれば、それは結構な騒ぎになっているはずだ。
だからこうしてネット上の呟きを見て回れば……
《うーん……あっ、キバテビこっちで公演やるんだ。 今度見に行きましょうよマスター!》
「すまん、誰だそれ。 と言うか真面目に探せ」
《えー、マスター遅れてるー……っと、これとかそうじゃないですか?》
画面上のハクがタイムラインに表示された投稿をいくつか引っぺがし、これではないかと画面いっぱいに押し付けてくる。
それはどれも「謎の魔法少女が現れた」というもの、いくつか動画や写真が撮影されたものも混ざっており、写された背景には見覚えがある。
「この近くだな、箒で飛べば一瞬だ。 行くぞハク」
《はいはーい、それじゃ久々に行っちゃいましょう!》
≪――――Are You Lady!?≫
――――――――…………
――――……
――…
「わっはー! これが魔石でごじゃるか、拙者と同じ紫色でござるな!」
「キレイ……壊しちゃ、駄目?」
「なぜいいと思うのか、その理由を述べよ。 それよりほらほら、オーディエンス集まってるじゃん! あたしら有名人じゃん!」
……端末に表示された目的地に到着すると、それらはすぐに見つかった。
派手な破壊跡と現場を取り囲む人だかり、その中心には三人の魔法少女の姿もある。
「あー! あのニンジャガール!!」
「コルト、あれが先ほど話していた魔法少女ですか?」
「ソダヨ、けどチャイナガールの姿はないね」
人だかりの中心で手に取った小粒の魔石を太陽に透かして覗き込んでいるのはビルの屋上で出会ったニンジャガールだ。
その脇にはレトロ調な色合いの少女がもう1人。
さび色の短髪に歯車マークのピン止めを付け、コルセットを巻いたスチールパンク・ロリータファッション。
目深にかぶったテンガロンハットの下から覗く瞳は、ニンジャガールが摘まむ魔石を一心に見つめている。
「……ん? わわわ、2人ともあれ! 本物、本物の魔法少女来たよ!」
「ほわっ、先ほどの金ぴかブッダもおるでござる!」
「だーれが金ぴかブッダだヨ! と言うかさっきはよくも逃げてくれたね!」
そして最後の一人がいち早く私達の到着に気付き、手に持ったメガホンで離れた2人に呼び掛ける。
赤と青、真ん中から2色に分かれた男性物の派手な英国スーツ、キッチリと首元を結ぶネクタイには赤と青のハテナマークがデザインされている。
この3人が件のインスタント魔法少女なのだろうか。
「ロウゼキさん、どうしますか……ってあれ?」
ラピリスが指示を仰ごうと隣を見るが、共に来たはずのロウゼキはそこには居ない。
周囲を探すといつの間にか人ごみに紛れ、スケッチブックを片手にこちらへ手を振る彼女の姿があった。
そしてスケッチブックには「管轄外で派手に動いたら怒られる」という旨が記されている、よく見れば彼女の笑顔も困り顔でどこかひきつったものだ。
「わ、我々で何とかしろということか?」
「そうみたいだネ……Hey、まず名前を聞かせてもらおうカナ、バッドガールたち」
「はい! あたしはえーと……ま、魔法少女アンサー! こっちの2人はシノバスとレトロ! はじめまして!」
「そうですか、魔物を倒したと聞いたのですがあなた達が?」
「そうでござる! あっ、これ魔石でござるよ、どうぞ」
「すごくキレイだから……あげる……」
レトロと呼ばれた魔法少女から渡された魔石は今だ魔物の温もりが残っていた。
まさに採れたてほやほや、倒してからそれほど時間は掛かっていないはずだ。 それにしても……
「……我思うけど、壊し過ぎではないか?」
「ソダネー、ドクターが居たら怒り散らしていたとこだヨ」
幸い人的被害は抑えられたのだろうが、周囲の建物や地面に出来上がったクレーターなどの被害は甚大だ。
魔石の質を見るに手こずるほどの相手とは思えない、不慣れゆえに被害が広まってしまったか。
「へっ? いやそれはそのー、ちょっと相手が強かったというかなんか……」
「手強かった……とても苦戦……」
「私達の到着を待っていただければ被害も抑えられましたけどね、魔物の討伐協力は感謝しますがそれとこれとは話が別です。 失礼ですが魔法局までご同行願えますか?」
「えーと、それは……“問題! もしついて行ったとしたら私達はどうなる?”」
「A.魔法局の登録がない場合、野良の魔法少女として個人情報の登録と公的な手続きのため保護者と連絡を取らせてもらいます。 ……!?」
アンサーが発したメガホン越しの質問に対し、ラピリスが懇切丁寧に答える。
けど今のやり取り、何か違和感が……
「だってさ、シノバス! 作戦B!」
「合点承知でござる、とりゃーっ!!」
シノバスが懐から取り出した星型の手裏剣を真下に叩きつけると、着弾地点を中心に白い煙が吹きあがる。
私たちが煙にむせ、怯む最中にただ一人ラピリスだけが刀を抜いて煙中へと突っ込む。
しかし振るった刀は空を切る。 すでに3人の姿はそこになく、2人を抱えたレトロが脱兎の速さで逃げており、背中が見る見る遠ざかって行くではないか。
「ワーオ、怪力だネあの子! どうする!?」
「追います、私の速度なら追いつける!」
「待ってくれ、先に壊れたとこを直さねば危険が危ない!」
確かにこのクレーターは放置するのは危ない、建物も放置して崩落したら大惨事だ。
シルヴァが手元の本に文字を綴っていくと、ひび割れた地面がジワジワと修復されていく。
「うぬぬ、直すのは苦手なのだ……! 先に、行ってくれ……!」
「分かりました、こちらはお願いします!」
「そっちも頼むヨ! はいはい、危ないから皆下がってネー!」
戦闘跡の修復に取り掛かるシルヴァを置き、ラピリスが逃げた3人を追って先行する。
後から追っても私の機動力ではラピリスには追い付けない、ならば現場の片づけを手伝うのが優先だ。
ちらりと人ごみを確認すると、既にロウゼキの姿は失せていた。 ……ラピリスと共にあの3人を追ったか、あの2人ならば心配することはない。
さて、私達は現場の修繕と野次馬への対応を頑張らなければ。
――――――――…………
――――……
――…
《マスター、遅いですよ! 急いだ急いだ!》
「急かすな、これでも結構飛ばしてんだよ!」
スマホ上でハクが指し示す地点へ向かい、全力で箒を飛ばす。
障害物のない空中を一直線で進んだとしてもあと5分は掛かる、現場は今はどうなっているんだろうか。
《……あっ、マスター追加情報です。 3人組の魔法少女は逃走、ラピリスちゃんが追いかけています》
「マジか、黒衣じゃないとラピリスには追い付けねえぞ」
《タイマーは使えますけど3分じゃ追いつくのは難しいですね、どうしま……マスター、右に避けて!》
「へっ……? うおぁっ!?」
ハクが叫ぶとほぼ同時に、真下から“何か”が飛んでくる。
バチバチと発光しながら飛来するそれは、寸でのところで避けた箒の穂を切り裂き、その浮力を奪い去る。
形状を保てず羽へと戻る箒、次いで俺の身体が地面へと落ちていく。
「っと、あっぶねー! ハク、今のは!?」
《分かりません、ですが気を付けてください!》
「――――ああ、今のはオレだよ」
中空で身を捻り、不格好ながら着地したのは初めてゴルドロスと戦った河原だ。
そしてそこには着地した俺たちを待ち受ける人影が1つ。
黒いメッシュが一房混じった赤い髪を後ろで結び、燃えるような赤い特攻服とはだけた胸元に巻かれたサラシ。
肩に担いでいるのは先ほど俺たちを襲った武器だろうか、バチバチと電気を放つ刀のようにも見えるが……
「テメーも魔法少女か? 空を飛ぶ奴は初めて見たが……まあいい、オレたちなら関係ねえな!」
「……誰だお前? その柄の悪さは魔法局の人間とは思えないが」
「名乗る必要はねえな、覚悟しろ暑苦しいマフラー女! ここがお前のクライマックスだ!」
困った、どうにも話し合いでどうにかなりそうな空気じゃない。
考えるよりも先に身体が動くチャンピョンのようなタイプらしい、ならこの場の最適解は一つだろう。
《事情は分かりませんが殴って分かり合うしかなさそうですよマスター!》
「――――ああ、どうやらそうらしい!」