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クソッタレな神様へ

――――今まで生きていた10年の記憶が脳内を駆け巡る。

今のが走馬灯って奴か、初めて見た。 だがこの程度で死ぬならとっくの昔にくたばっている。

左目があった眼孔が痛む、心の中にある接続がプツリと途切れた感覚がある。

ペスマスがやられたか、文字通り眼が潰されるのは正直かなり痛い。

だがもはやアタシに退路はないんだ、前に進むしかない、この命が尽きるその瞬間まで。


「……わかってるよなぁ、黒騎士」


『…………御意』


満身創痍なアタシの肩を掴む騎士の腕を振り払い、愛銃をしっかりと握り直す。

バレルチェンジャー、まがい物のアタシに魔法少女の力を与える変身器具。

込める弾丸はアタシの血肉、まさしく鉄砲玉というのはローレルなりの皮肉だったのだろうか。


「まあ、いいかぁ……お前はあっちのブルームを仕留めろ、あっちももう限界に近いだろ」


『はっ、すぐに』


「ちっ――――!」


ブルームスターの舌打ちより早く、飛び掛かった黒騎士がその図体でブルームスターを押し込んでラピリスと引き剥がす。

ボロボロなのはお互い様、突いて痛い点は全力で突かせてもらおう。 脚を痛めたラピリスじゃあの2人には割って入れない。

何だってやると決めたんだ、魔法少女を殺すぐらいなんだっていうんだ。 今更迷うなよ、アタシ。


「キヒッ……それじゃこっちはこっちで遊ぼうかぁ!!」


「スピネ! あなたは――――っ!」


ラピリスがまたうざったい言葉を紡ぐ前に、乱射する弾の雨で黙らせる。

刀を一つ失った彼女は先程の様な大剣に身を隠すことはできない、痛む足を引きずって無理矢理に射線を掻い潜る。

片手に残っているのは風を吹かせる方の刀か、失った機動力を風の力で補ってはいるがそれも十分な速度は得られない。

やがて避けきれないと見てか、切り裂いたコンクリを叩いた反動で持ち上げて、即席の盾として身を隠す。

だがそれがどうした、止まらぬ弾幕は薄っぺらい石材の壁をみるみるうちに削り飛ばす。 丸裸になるのも時間の問題だ。


「どうした魔法少女、隠れてるだけじゃ話にならないなぁ!?」


「ええ、隠れるばかりじゃありません……よッ!!」


それは唐突に、隠れるばかりだと思っていたコンクリの壁がアタシへ向けて射出される。

風を全力で吹かして吹き飛ばしたのか、予想していなかった反撃に思わず横に跳んでコンクリを躱す。


――――その刹那、アタシの首筋に青い刃が迫っていた。


「っ――――!?」


「くっ、浅い……!」


苦し紛れに上体を捻って辛うじて迫る剣撃をかわす、コンクリの死角に隠れて同時に接近していたのか。

相手の脚が万全だったら危なかった、もう半歩踏み込まれていたら首が切り飛ばされていたことだろう。

だが今のは……


「どう言うつもりだよ、この期に及んで峰打ちか!?」


「…………」


ラピリスが握る刀は前後が逆、峰を敵に向けた形で握られている。

あれは切れるものも切れない、これだけの殺意をぶつけてもなお目の前の魔法少女はアタシを止める気でいるのか。


「何を斬るかは私が決める事、命を奪うほどの相手ではないと判断したまでです」


「ふざけんなよ……すぐに後悔させてやる!!」


大人しく刃を表にしていたなら今ので私の首筋に傷をつけられたものを、下らない矜持で絶好の機会を逃したものだ。

今にも崩れそうな意識を沸き立つ怒りだけで支え、もはや感覚のない指先で引き金を引き続ける。

もはや刀の間合いには一歩も踏み込ませない、怪我を引きずる脚でどこまでも逃げ切れるものか。


次はどうする、またコンクリを盾に突っ込むか? 二度と同じ手は喰わない、遮蔽物に身を隠した瞬間にとっておきの弾をくれてやる。

飛んでも逃げても隠れても追い詰めて見せる、さあどうする?


次の瞬間、ラピリスは刀を()()()()()()()()

それは剣士が見せる上段の構えなどではない、まるで野球小僧がグローブ目掛けてボールを投げ込むかのような……そう、「投擲」だ。 ラピリスは迷いもなく手元に残った刀を投げつけて来た。


「――――ハァ!?」


思わず素っ頓狂な声が出てしまう。 だってそうだろう、自分の杖を投げ捨てるような魔法少女がどこにいる。

あまりにも予想外過ぎる行動に、つい飛んでくる刀を叩き落とそうとしたのが間違いだった。

風を巻き起こす、ラピリスが握る刀の特性を失念していたアタシは痛いしっぺ返しを見ることになる。


銃底で叩いた刀から放たれる暴風がアタシの銃を腕ごと弾き、一瞬身体が浮き上がる。

時間にして一秒にも満たないだろう、しかしその隙にラピリスは顔が触れあいそうなほどに肉薄していた。


「ちょっと痛いですよ、歯を食いしばりなさい」


慈悲無き宣告と同時に、刀も持たずに握られた拳がアタシの腹へとめり込んだ。

込み上がる鈍い痛み、みっともないうめき声と共に地面を転がる身体。 かたやラピリスは空を舞う刀をしっかりと掴み取り、鞘へと納める。


……あれは本当にただの魔法少女なのか。

武器である刀を投げつけ、徒手空拳で詰め寄るまでの行動に躊躇がなさ過ぎる。 歴戦の猛者でもないならただの狂人だ。

魔法少女としての経験値ならアタシの方がはるかに上のはずだ、なのに……


「っ……ゲホッ、まだ……終わってない……!」


「まだ立ちますか、これ以上は本当に死んでしまいますよ」


「構うもんか! アタシは、アタシの願いのために死ねるねッ!!」


「……そうですか」


殴りつけられた痛みが熱をもって腹の中を暴れ回る、どこか内臓でも痛めたか。

いや、痛める中身などもう殆どない。 ならばこの痛みは純粋に魔法少女としての彼女の実力なのだろう。

認めよう、ラピリスは強い。 だが付け入る隙はある。

お前がアタシを殺さないって言うなら、アタシは何度でも立ち上がってお前の喉笛に噛みついてやるだけだ――――




――――――――…………

――――……

――…



“死”がマフラーを掠め、豪快に地面を砕く。

直線状に奔った余波だけで背後の建物が崩れ去る、あいかわらず悍ましい威力だ。 いや、間違いでなければむしろ威力は上がっている。

恐ろしい事にこいつはまだ底が見えない、それに比べて俺はとっくの昔に満身創痍。 真正面からやりあった所で勝機は万に一つもないだろう。


《どうするんですかマスター、逃げます!?》


「できる相手かよ! この距離じゃ黒衣も使えねえ……!」


背後で金属音を鳴り散らして戦うラピリスがいる、タイマーが切れたあれを使えば周囲は火傷じゃ済まない高温に包まれる。

第一リミッターがない状態でもこいつには勝てなかった、競り合うだけじゃ時間切れで俺の負けだ。

だがラピリスもスピネも巻き込まず、こいつを倒す方法……そんなものが本当にあるのか?


「黒騎士、お前の主の姿を見ただろ! 戦ってる場合か!?」


『笑止ッ! 創造主は知った上で命じたのだ、果たさずして退くなどそれこそ出来ぬ!!』


口で誤魔化すのも難しそうだ。 そもそも死に体の俺一人、時間も掛けずにサクッと仕留めて戻ればいいだけの事。

しかし俺だけボロボロだってのにピンピンしてやがるなこの野郎。 いや、ガタが来ているのはスピネも一緒……。


「―――――……」


頭の中に電気が走った様な感覚、横目でラピリスの方に目を向けると、バチリと視線が交錯した。

ああそうかい、こういう時だけ気が合うのはなんでだろうな。 どうにも嫌だがこの手しかなさそうだ。

頭蓋を踏み砕かんと振り下ろされた騎士の馬蹄を、大きく後ろに跳んで躱す。


「……クソ、俺が2人とも相手できれば良かったんだ」


「無茶を言わないでください、相手が2人ならこちらも2人ですよ。 ()()()()


たぶん苦々しい顔をしている俺の横を、後ろから現れたラピリスがすり抜けていく。

コンクリを踏み砕く騎士の四つ足をすり抜けながら、無数の斬撃をその脚へと刻むラピリス。

その姿を見送って俺は反転した勢いそのまま、背後のスピネへと箒を叩きつける。

ラピリスへと狙いを定めていた銃身で咄嗟に箒を防ぐスピネ、その顔は驚愕の色を見せていた。


「っ゛……! お前、なんで!?」


「怪我人は怪我人同士仲良くしようぜ、ベッド送りにしてやらァ!」


ラピリスの方が俺より余裕がある、それに刃物より箒の方が殺せない相手にはやりやすい。

戦力バランスもこれで均された、さあ第二ラウンドと行こうか魔法少女。

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