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デッドヒート・アライブ ②


――――1つ、2つとケダモノどもの意識が千切れる。

死んだか。 否、奴らの生死などどうでも良い。 文字通り数は腐るほどある。

あれは薄汚い獣だ、その身に疫病を乗せてばら撒く事しか能がない。 役目を与えているだけ情が有るというもの。


しかし途端に潰える反応が増えて来た、奴らもいよいよなりふり構っていられなくなってきたか。

嗚呼、酷い奴らだ。 何の罪も無い小さな命を自分の都合で殺すとは、こいつらを殺してでも自分は生き残る価値があると思っているのだろう。


否、否、否、思い違いも甚だしい。 命とはすべて等しく公平にゴミだ。

ネズミも人も魔物も等しく、叩けば潰れるだけの塵芥。 だから今すぐとっとと死ねよ。

どうせお前たちはこの街でこのランタンを探し出すなどできやしない。



――――――――…………

――――……

――…



『まず報告を求む、何故あのネズミたちから逃げているのか』


安全な車内に引き込んだコウモリは座席の上に立ち、周囲からこちらを睨みつけるネズミの影を見渡す。

角ばったフォルムは鋼鉄製と思われる鈍い輝きを放ち、生き物じみた動きとは裏腹に冷たい印象を与えてくる。

ついマジマジと見ていたら、ふとこちらへ振り返ったコウモリと目が合ってしまった。


『ふふん、見とれるのも分かる。 渾身の自作』


「そっかー、詳しく聞きたいけど今は余裕がないカナ。 簡単に状況だけ話すヨ」


同意の言葉をかけてしまえば話が長くなりそうだ、なんとなくおにーさんについて語る時のサムライガールと似た雰囲気を感じる。

故に話題を素早く修正し、ネズミたちの危険性と自分たちの現状について情報を共有する。

1つ話せば的確な質問が返され、とんとん拍子で会話が捗る。 聞き上手というか情報の引き出しと選択が上手い魔法少女だ。


『……なるほど、理解した。 主問題は本体の()()が出来ないことにある』


「まあそんなとこだヨ、今は向こうも引き気味だけど長期戦は見ての通りこっちが不利カナ……」


給油メーターは既に1目盛りを割りそうだ、ドライブガールの顔色もよろしくない。

防戦一方だと自滅しかない、一転攻勢をかけるにはあのネズミたちを操る本体を叩かなければいけない。

このままネズミを引き連れたままでは他の魔法少女と合流する事も出来ない、私達が引き付けたまま倒すのが理想だ。


『――――了解した。 これだけの数を操るのなら本体は遠くないはず、故に対象はこの近辺に潜むと仮定』


「それは私も同意見だけど……これだけ遮蔽が多いと見つけ出すのは骨が折れるわ」


『ならば対象に絞り込みをかける。 画面出力可能なデバイスは?』


「それならここにあるわ」


『重畳、ではそちらに“これ”の挿入を求める』


ドライブガールが示したのは先ほどまでマッピングに使用していた板状デバイス。

それを見たコウモリは羽を器用に動かし、自分の背中から何かを抜き取り、私へと手渡した。


「……USB? これを刺したらどうなるのサ」


それはやけにゴツゴツとした装飾の多いUSBメモリだ、通常のものより太い持ち手部分には3×3の正方形に並んだボタンが取り付けられている。

しかしUSBを自身から引き抜いたコウモリはシンと静まり返り、死んでしまったかのように動かない。

背中をバシバシ叩いてみたり逆さまにひっくり返してみるがやはり反応はない、充電切れだろうか。


「ゴルドちゃん、そろそろ私も余裕なくなってきたからとりあえず挿してみてくれない……!?」


「おっとsorry sorry。 えーと……こうカナ?」


顔色が悪いドライブガールに急かされ、慌てて渡されたデバイスにUSBを差し込む。

すると地図が映っていた画面に一瞬ノイズが走り、いつぞやのマンタを背景に置いたホーム画面へと切り替わる。

もちろん私は余計な操作などしていない、原因は間違いなくこのUSBにある。


『――――淑女の足を引っ掴んで逆さ吊りにするのはいかがなものかと思う』


「わっ、私のデバイスにカワイ子ちゃんが!」


そのまま数秒待つと、画面の中に1人の人物が現れる。

苔生したような色合いのコートをダボつかせ、片目にはモノクルを引っ掛けた眠たげの瞳の少女。

シガレットじみた菓子をガジガジ齧りながら、その表情は不機嫌ぎみだ。


『余計な時間を喰う前に解説、これが私の魔法。 杖であるメモリに自分の意識を乗せ、あらゆる媒体に潜り込むことができる』


「ああ、それでさっきのコウモリメカも……理屈は分かったけどこっちに引っ越してどうするのカナ?」


『対象の検索を行う、この媒体に地図データがあったのは嬉しい誤算。 バット君2号が上空から得た地理情報と合わせて穴埋めを行う』


画面の中の少女が虚空から現れたパネルを目にも止まらぬ速さで操作する、すると先ほどまで表示されていたマップ画面が少女の背後に現れ、見る見ると白紙だった箇所が埋まって行く。

それだけではない、簡素な直線でのみ構成されていたマップに色どりが加わり、建物の高低、路面のコンディション、周辺に潜む魔物の情報などが次々と書き加えられていくではないか。


『――――これより潜伏に最適と思われる地点の絞り込みを行う。 検索ワードは多いほど良い、何でも良いので対象に関する情報があれば共有を』




――――――――…………

――――……

――…




――――ネズミ共が騒がしい、大方さきほどの地鳴りと爆発に恐れをなしているのだろう。

馬鹿め、何を恐れる必要がある。 地を揺する槌は奴らの手にはない、爆発など音と光だけのこけおどしに過ぎない。 愚図共め、余計に見える分腹立たしさも倍増だ。

ああ、しかしこの目は良い。 実に良い、主からの賜り物だがよく馴染む。

まだ温もりが残る瞳を啜るあの味わいは筆舌に尽くしがたい、出来るのならばもう一度――――


『―――――っ』


そこで気づく、先ほどから強く監視を続けていた魔法少女たちが急に進路を変えた事に。

車両が“杖”とは厄介な事だ、折角この広い土地を利用したアドバンテージが機動力で潰されてしまう。

だからこそ他の魔法少女と引き離し、執拗に追いかけ回しながら進路を操っていた。 それが途端に向きを変えたのだ。


ぷちゅりと主の目玉を咀嚼した甘美な夢から引き戻される、奴らが進む進行方向を辿れば自分が潜むこの場所へと通じる。 通じてしまう。

偶然か。 違う、それにしては動きに迷いがなさ過ぎる、どういう訳か奴らはこの場所に気付いてしまったようだ。


忌々しいことだ、自然とランタンを握る腕に力が籠ってしまう。

他の連中の監視に使っていたネズミたちも集め、奴らの進路へと配置。

数は力だ、質量は暴力だ、お前たちにそれを教えてやろう魔法少女共。

お前たちを決してこの場所にまで辿り着かせはしない。



――――――――…………

――――……

――…



「園ちゃん、ネズミたちが居なくなってきたわ! 感づいて逃げたのかしら?」


『この車両を上回る機動力があるならばあり得ない話ではない、しかし可能性としては低いとみる』


「ならあり得るとしたら何カナ?」


『迎撃、向こうも勝負を決めるつもりでいる。 覚悟を決めた方が良い』


周囲からネズミが居なくなり、車体の駆動音だけが虚しく響く街並みはさながら嵐の前の静けさと言った所か。

彼女の予想が正しいのなら、きっとこの先に待ち受けるネズミの数は今までの比じゃない。 


『逆に言えば予測に間違いはないということ、ネズミの多いルートを辿れば自然と目標へとたどり着く。 これは敵の悪手』


「ううぅぅぅ……ネズミの山を乗り越えることが前提でしょぉ?」


『その通り、しかし心配はしていない。 この戦力なら十分突破可能』


「それは計算結果って奴カナ?」


『違う、信用している。 この東京でここまで生き延びた2人の腕を』


画面の中の少女が表情も変えずにグッと親指を上げて見せる。

安全圏から好き勝手言ってくれる、しかもそれだけ言われてしまえば無理だなんて気軽に言えないじゃないか。


『では突入ルートをナビゲートする――――準備は良い?』


「ええい、ままよ! 頼むわよロイー!」


ドライブガールの覚悟が決まるとともに、目一杯アクセルを踏み込んだ車体が更なる加速を始める。

ネズミの山に阻まれるか、私達の牙が本丸まで届くか……いよいよ決着がつく。

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