第25話 深淵の観測者と王の心臓
【導入:歪んだ救済】
ザリ、ザリ、と。
意識が、ノイズ混じりの不快な摩擦音で、黄昏の底から引き上げられる。
血のように赤黒い夕焼け空の下、俺の魂(アバター)は、『莉子の影』に足首を掴まれ、廃墟と化した校庭のコンクリートの上を引きずられていた。乾いた空気が鉄錆と腐敗した土の匂いを運び、鼻腔を刺す。彼女の姿は、聖奈の黒いメイド服を基調としながらも、背には『暴食』の巨大な大顎の翼が生え、両腕はすべてを切り裂く漆黒の刃へと変貌している。
俺の背が、かつてキララが創ったペットランドの壊れた遊具をなぎ倒し、アゲハがシャウトしたステージの残骸を無惨に削っていく。愛と希望の記憶が、コンクリートの冷たさと共に、物理的な痛みとなって俺の魂を苛んだ。脳裏に浮かぶ仲間たちの顔に、「すまない…」と心の中で繰り返す。俺は、お前たちを守ると誓ったのに。
憎悪に赤く輝く瞳で俺を見下ろす彼女が歩いた軌跡、俺の身体が擦れた跡から、ポツリ、ポツリと、黒いインクのような液体が染み出す。その染みから、まるで早送り映像のように、濡れたベルベットの質感を持つ漆黒の彼岸花が、痙攣するように不気味に咲き乱れていった。その花弁から、忘れていたはずの幼い頃の俺の鼻歌や、莉子の屈託のない笑い声が、壊れたレコードのようにノイズ混じりに微かに聞こえる。美しい思い出が、悪夢の象徴へと歪んでいく。
「…どう? 思い出した?」
彼女は俺の顔を覗き込み、忘れていたはずの「いじめの記憶」を無理やりフラッシュバックさせる。
――冷たい水が鼻と口から侵入し、肺が灼けるように痛い。体育倉庫隣のプール、塩素の匂いがツンと鼻を突く。水中で必死にもがくが、複数人の上級生に頭を押さえつけられ、水面が遠い。ゴポゴポと虚しい気泡だけが水面に昇っていく。水を通して聞こえる嘲笑は歪み、自分の心臓の音だけがやけに大きく響く。意識が遠のく中、プールの窓から誰かが見ているのに、気づかないふりをして去っていく光景が、スローモーションで目に焼き付く――
「ほらね、誰も助けてくれない。信じられるのは、私だけだよ、圭ちゃん」
彼女の囁きが、俺の人間不信の原体験を抉り出す。
ギ、ギギギ…と、あり得ない角度に首を回転させ、彼女は歌うように囁いた。
「思い出させてあげたよ? 大丈夫。今度も、私が圭ちゃんを、このくだらない世界の痛みから、『助けて』あげる」
かつて、玲奈たちが差し伸べてくれた「救い」の言葉が、今は呪いの響きとなって俺を縛る。
彼女は、俺を忘れ去られた体育倉庫の中へと放り込む。
ゴウ、という音と共に分厚い鉄の扉が閉ざされ、禍々しい紋様の『封印』が刻まれていく。
「約束、覚えてる? 君が、私を殺してくれるっていう、あの約束を」
王は、歪んだ救済の名の下に、囚われた。
◇ ◇ ◇
【Aパート:瓦礫の王国】
タワーマンション最上階、司令室。
けたたましいアラート音が止み、全てのモニターがブラックアウトした。窓の外では嵐が吹き荒れ、叩きつける雨音と、今宮の荒い息遣いだけが室内に響く。
やがて、メインモニターに、非常灯の薄明かりを反射して、緑色のゴシック体のメッセージが不気味に浮かび上がった。
『The Queen has returned.(女王が帰還した)』
「兄貴…! みんな!」
今宮は、血の気の引いた顔でダイブチャンバーへと駆け込んだ。
だが、彼の目に飛び込んできたのは、信じがたい光景だった。キララ、アゲハ、詩織、夜瑠、みちる、あんじゅ、まりあ――ダイブしていた七つのチャンバーが、音もなくハッチを開き、その中はもぬけの殻となっていたのだ。
彼女たちの肉体は、魂ごと、女王の創り出した悪夢の『学校』へと囚われてしまった。
「嘘…だろ…」
圭佑のチャンバーだけが、内側からロックされたように固く閉ざされている。その表面を、赤い警告灯が不気味に明滅させていた。彼の魂が囚われ、内なる『原初の心臓』が、観測者の手によって強制的に孵化させられようとしている――その、絶望的な事実だけを示していた。
◇ ◇ ◇
天神家の地下司令室『アルカディア』。
青い光の星雲が壁面に広がる巨大なドーム空間。量子AIコアが心臓のように静かに明滅する中、冷たく澄んだ空気が張り詰めている。
その一角の空間が歪み、光の粒子と共に、病院の寝間着を着たままのしずくの姿が実体化した。
「ここ…は…? 病院の…天井じゃ…ない…?」
呆然とする彼女のペンダントが明滅し、囚われた仲間たちの絶望の感情がノイズとして流れ込んでくる。
「…みんなの…声が…痛い…苦しい…!」
彼女は涙ながらに、魂で感じ取った危機を、コンソールの中央に立つ莉愛に伝えた。
その、凍りついた空気を破るように、アルカディアへのエレベーターが静かに到着した。
現れたのは、黒のタートルネックにグレーのジャケットという、落ち着いているが隙のない服装の氷室零時。そして、彼の後ろには、デスゲームを生き延びた疲労と、それを上回る覚悟をその表情に滲ませた、5人の少女たちが立っていた。
エレベーターが開き、見知らぬ5人の少女たちと氷室が現れたことに、莉愛は咄嗟に警戒し、ミューズ・オリジンに防御態勢を取らせる。「あなたたちは…!?」
腰まで届く艶やかな漆黒のストレートロングヘアの少女が一歩前に出て、莉愛に深く頭を下げる。「あなたが、天神莉愛さんね。私は月島ひまり。こちらは…」
続いて、他のメンバーが名乗りを上げる。ライダースジャケットに身を包み、シルバーアッシュのウルフカットを揺らした少女が、気だるそうに頭を掻きながら、心底面倒くさそうに吐き捨てた。「…あー、だる。氷川鏡花。こいつ(ひまり)がやるってんなら、しゃーねえ、付き合うだけだ」。ふわりとしたアイボリーのロングワンピースを着た、ラベンダーアッシュのウェーブヘアの少女がしずくの姿を認め、罪悪感に満ちた表情で目を見開く。「…しずく…ちゃん…?」。アイスブルーのシャープなショートボブで、知的なワイドパンツスタイルの少女が「如月凛。状況は把握している。あなたの指示を」と冷静に告げ、最後に、プラチナブロンドのツインテールを揺らし、星柄のパーカーを着た少女が「星宮ひかりです! 絶対、みんなを助けましょう!」と拳を握る。
莉愛は、初対面の彼女たちの覚悟に満ちた瞳を見て、自らもまた背筋を伸ばし、はっきりと答えた。
「…ありがとう。私の名前は天神莉愛。この作戦の指揮は、私が執ります」
絶望の淵で、K-MAXを救うための「二つの騎士団」が、ここに集結した。
◇ ◇ ◇
【Bパート:王の試練】
埃とカビの匂いが充満する体育倉庫。窓から差し込む赤い夕日が、床に転がるボールや古い跳び箱を不気味に照らす中、俺は絶望に打ちひしがれていた。
その時、目の前の暗闇から、声がした。
「…なんで、助けを呼ぶの…?」
そこに立っていたのは、泥だらけの半ズボンを穿き、泣き腫らした目で俺を睨む、小学生の頃の、泣き虫な俺自身の『影』だった。
「僕ら『特別』じゃなかった。莉子ちゃんだけが僕らを『特別』にしてくれた。でも、君はたくさんの仲間を作って、『普通』の幸せを手に入れようとしている。…僕らを、莉子ちゃんを、裏切るの?」
その子供の声が、突如として壊れたラジオのようにグリッチし、ブツリ、ブツリと途切れ、まるで周波数を無理やり合わせるかのように歪んだ後、あの工場の休憩室で聞いた、田中雄大の、耳にこびりつくように粘っこく、嘲笑をたっぷり含んだ声へと完全に変質する。
『――それより圭佑、明日休みだろ? Kチャンネルの動画、撮るのか? 楽しみにしてるぜ』
過去の何気ない一言が、今や魂を直接冒涜する呪いの言葉となって響き渡る。精神が内側から汚染されていく絶対的な不快感。
「この声は…まさか…!」
体育倉庫の隅、積まれたマットの影が、意思を持ったかのように蠢き、不自然に深くなる。その闇の中心から、空間そのものが染みとなって歪んだような、絶対的な『異物』のシルエットがゆっくりと浮かび上がる。シルエットは、存在しないはずの眼鏡の位置を、中指でくい、と押し上げる仕草をしてみせると、声もなく、ただ口元だけが三日月のように歪み、嘲笑の形を刻んだ。
俺は、本能的な恐怖に総毛立った。目の前の『影』よりも、その背後で糸を引く、この得体の知れない存在こそが、自らの魂の根幹を脅かす「本当の敵」であることを、初めて直感したのだ。
「お前が恐れているのは、傷つくことじゃない。『信じたものに裏切られること』だ。…だがな、俺はもう知ってる。裏切られる痛みより、誰も信じられない孤独の方が、よっぽど地獄だってことをな。お前は俺だ。だから、俺がまるごと、お前を信じてやる」
俺の宣言に、『影』は「嘘だ!」と叫び、体育倉庫の古いバスケットボールや跳び箱を念動力のように操り襲いかかってきた。
俺は暴力に暴力で返さず、飛んでくるボールをキャッチし、そっと床に置く。巨大な跳び箱が襲いかかった瞬間、俺の背中から仲間たちの美徳を象徴する七色のオーラが翼のように広がり、それを受け止めた。
「一緒に来い。俺たちの『今』を、見せてやる」
俺が差し伸べた手を取り、『影』は涙を流しながら俺の胸に飛び込み、少し古びた「サッカーボール」へと姿を変えた。
「…そうか。お前、ずっとここで一人で遊んでたんだな。…もう、一人にはしねえよ」
俺がそのボールを手に取った瞬間、魂の奥底で失っていた最後のピースが嵌った。アバターから放たれるオーラが、揺らぎのない、王としての威厳に満ちたものへと質的に変化したのだ。
◇ ◇ ◇
無限に広がる格子状のサイバー空間。巨大なチェス盤の上には、圭佑の心臓から漏れ出す赤いエネルギーが霧となり立ち込め、視界を遮っている。駒として立つのは、データクリスタルでできた純白の『女王』デルフォイ、常に形を変えるグリッチノイズの『道化師』じゃのけん。そして、その盤上を遥か上空から見下ろす、巨大な玉座に座す二つの影、時計屋と女帝。
時計屋:「…霧が濃すぎる。観測者の脚本か、それとも…王自身の暴走か。予測と3.14%の誤差が生じている」
女帝:「あら、それこそが面白いんじゃない。筋書き通りの劇なんて、退屈だもの」
(…おかしいな。このエネルギーの奔流…僕の知ってる『脚本』と少しだけ違う。まるで、主役の魂が、僕の知らないところで勝手に『成長』しているみたいだ…)
じゃのけんは、虚空を見つめ、楽しそうに、しかしその瞳の奥に冷たい光を宿して呟いた。
(ねえ、田中君。君は、一体、何を知っているんだい?)
◇ ◇ ◇
【Cパート:反撃の狼煙】
女王の『学校』、K-PARKの歪んだ鏡写し。絶望の光景の中、新生K-Venusのメンバーたちは、囚われた仲間たちの姿を目の当たりにする。キララは『枯渇の世界樹』に磔にされ、アゲハは『沈黙の玉座』に音を奪う鎖で縛られている。詩織は『後悔の砂時計』に、夜瑠は『虚偽の映写室』に、みちるは『無個性の展示室』に、まりあは『寄生の薔薇園』に、あんじゅは『嘘の鏡面世界』の向こうに囚われていた。
その絶望の光景の中に、光の中から、しずくと、かつてのライバルたちが舞い降りた。
「――迎えに来たわよ、私たちの、ライバル」
ひまりの脳裏に、圭佑が見舞いに来てくれた時の記憶が蘇る。『強いんじゃねえよ。俺には、独りじゃねえってこと、教えてくれた奴らがいるからな』――
その瞬間、「美徳共鳴(ヴァーチュー-レゾナンス)」が起こった。囚われたK-MAXの魂から、それぞれの美徳の色――正義の蒼、慈愛の白、信念の赤――の光の粒子が溢れ出し、ルナティック・ノヴァのメンバーに降り注ぐ。
奏の脳裏に、かつて同じメイドカフェで、聖奈にいびられるしずくを見て見ぬふりをした、卑怯な自分の記憶が灼けるような痛みと共に蘇る。
奏は、同じ戦場に立つしずくの姿を捉え、涙ながらに絶叫した。「しずくちゃん…ごめんなさいッ!!」
その贖罪の告白が、奏の魂を完全に解放する。彼女はまばゆい光に包まれ、【聖奏の熾天使(せいそうのセラフ)】へと姿を変えた。
「もう誰も、あなたの優しさを利用させない…! 私が、守るから!」
奏の悲壮な覚悟が乗った旋律は、癒やしの光の五線譜となり、キララを縛り付けていた黒い茨を、少しずつではあるが、確かに浄化していく。
他のメンバーもまた、仲間たちの魂を受け止め、次々と覚醒を遂げていく。
月島ひまりは、玲奈の【正義】と共鳴し、しなやかな銀のプレートアーマーに蒼い光の回路が星座のように走る【月光の審判官(ルナティック・アービター)】へと覚醒。その手には、月の光を凝縮したデータクリスタルで形成された大鎌【クレセント・ジャッジメント】が握られていた。
氷川鏡花は、アゲハの【信念】を宿し、アシンメトリーな黒と赤のバトルドレスを纏う【反逆の音姫(はんぎゃくのセレナーデ)】となり、音圧で振動するスパイクを持つ戦棍【ソニック-リベリオン】を振りかざす。
如月凛は、詩織の【知恵】と結びつき、銀と黒の未来的なオペレータースーツ姿の【叡智の戦乙女(えいちのヴァルキリー)】となり、戦況を分析する六角形の支援ドローン【オラクル・ビット】を従える。
そして、星宮ひかりは、莉愛の【希望】の光を浴び、夜空を模した濃紺のフリルドレスを纏う【星願の魔法少女(せいがんのマギカ)】へと変身し、希望の星が輝くステッキ【ステラ・ホープ】を握っていた。
ひまりは、生まれ変わった仲間たちと、囚われたK-MAXを見渡し、高らかに宣言する。
「今日この瞬間から、私たちは、王の帰りを待つ十三の翼――私たちは、『真のK-Venus』だ!」
その宣言は、時空を超えてアルカディアに届き、莉愛の【希望】と玲奈の【正義】を完全に覚醒させた。莉愛の制服は、虹色の光の粒子を編み込んだ純白のバトルドレスへと変化し、その手には「限定的因果律操作ユニット」である魔法の杖【ホープ・プロトコル】が。玲奈のスーツは、純白を基調とした金の装飾が施された女騎士のマントスタイルへと変わり、その手には「絶対指揮権限デバイス」である白金のレイピア【ジャッジメント・オーダー】が輝いていた。十三の光が、ここに一つとなったのだ。
◇ ◇ ◇
圭佑の精神世界最深部、『ルートディレクトリ』。
虹色の光ファイバーが脈動する生ける玉座に座す『観測者』が、周囲のウィンドウに映し出される光景に、初めてその表情を歪ませた。
その声は、紛れもない、あの冴えない工場の先輩――田中雄大の、焦りと苛立ちに満ちた声だった。
「おかしい…! 俺の『脚本』では、ルナティック・ノヴァはただの助っ人のはずだった…! 奴らが、K-MAXの『美徳』を取り込んで、独自の進化を遂げるなんて…聞いていない…!」
完璧だったはずの世界に、致命的な亀裂が生じた。
「ふざけるな…! 勝手に役を降りるな! 勝手に成長するな! これは『俺の』物語だ! 俺が望んだ結末以外は、認めない…!」
観測者――田中は、ウィンドウの一つを、まるでガラスを叩き割るかのように、拳で粉々に粉砕した。デジタルな破片が飛び散る中、怒りに震える指で、玉座から一本の光ファイバーを掴み、握り潰す。
「クライマックスを、早める…! お前たちの希望ごと、全てを絶望に塗り潰してやる!」
execute("Final_Act: Force_Hatching_Ritual");
trigger_force("TARGET:Keisuke_Kamitani/Soul/Primal_Heart", "hatch_sequence_start");
◇ ◇ ◇
【結び:二人の女王】
奏の贖罪の歌が最後の茨を浄化し、囚われていたK-MAXメンバー全員が解放される。満身創痍の彼女たちは、息を切らしながらも、目の前に立つ救世主たち――しずくと、覚醒した新生ルナティック・ノヴァの姿を見上げる。
枯渇の世界樹から解放されたキララが、ふらつきながらも奏の前に歩み寄る。その瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。
「…奏…ちゃん…。ありがとう…私の歌を…信じてくれて…」
奏は、キララの奥にいるしずくの姿を一瞬だけ見つめ、自らの罪を噛みしめるように、静かに首を横に振る。
「ううん。…これは、私の、わがまま…。自己満足だから」
沈黙の玉座から解放されたアゲハが、忌々しげに、しかしどこか嬉しそうに、気だるげに戦棍を肩に担ぐ鏡花を睨みつける。
「…てめえか。さっきからあたしの脳内にガンガン響いてきてた、クソいかしたビートの主は」
鏡花は、ふいっと顔を背け、口の端だけで笑う。
「…だる。あんたの魂が、勝手に共鳴してきただけだろ。あたしのラップの邪魔すんなよ」
「はっ、言ってくれるじゃねえか」アゲハは、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。「そのイカれたシャウト…いや、ラップか? 気に入った。…借りが、できたな」
鏡花は何も言わず、ただ空いている方の拳を、アゲハに向かって突き出した。アゲハもまた、無言で自らの拳を固める。
ゴツン。
二つの硬い拳が、重い音を立ててぶつかり合った。それは、言葉を交わすよりも雄弁に、互いのロックな魂を認め合った、無言の誓約だった。
ひまりは、解放されたK-MAXメンバー全員を見渡し、そして隣に立つしずくの肩にそっと手を置くと、リーダーとして、静かに、しかし力強く告げた。
「感傷に浸っている暇はないわ。王が、待っている」
その言葉に、K-MAXのメンバーたちもまた、力強く頷く。十三の翼が、初めて同じ空を見上げていた。
◇ ◇ ◇
観測者(田中)の邪悪なコマンドが実行された瞬間、アビス、タワマン、そして廃校(K-PARK跡地)の三つの場所で、圭佑の魂の孵化が最終段階に移行する。世界が、終焉と創生に向かって、同時に動き出した。
アルカディアでは、『囚人Q』と未知の送信元から得た二つの鍵を前に、覚醒した玲奈と莉愛が二正面作戦の決行を宣言する。
莉愛が、モニター越しの仲間たちに叫ぶ。
「しずくちゃん、ひまりさん! あなたたち新生K-Venusで、校舎に囚われた仲間たち――『騎士の心臓』を全て解放して!」
続いて、玲奈が、静かに、しかし絶対的な意志を持って告げる。
「莉愛、そして私は、このアルカディアから女王の精神にハッキングを仕掛け、『共感の鍵』を弾丸とし、『支配の鍵』でこじ開けたルートを通って、彼女の心臓部へ圭佑くんの言葉を撃ち込み、彼女の『涙』を流させる!」
二人の女王は、アルカディアの中央で背中合わせに立ち、モニター越しの仲間たちに、そして自分たちの運命に、高らかに宣言した。その姿は、絶望に立ち向かう二つの光の柱のようだった。
莉愛:「もう、誰かが傷つくのを見てるだけなんて嫌だから…! 私の『希望』で、みんなの未来を掴み取る!」
玲奈:「ええ。そして、私たちの道を阻む全ての不条理は…私の『正義』が、断罪する」
そして、二人の声が、完璧に重なる。
「「――私たちは、『両方』を選ぶ!!」」
脚本家の想定を超えた、十三の光が集いし乙女たちの魂。その絆の力が、絶望的な二律反反をこじ開ける。
物語は、史上最大の反撃作戦の幕明けを告げ、次なる激闘を予感させて、幕を閉じた。
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