われわれの知らない米大統領選の舞台裏で、興味深いディベートがあったらしい。「アメリカは懐の深い国」などと評する人がいないでもないが、噂にも聞かない“マイク・グラベル”という政治家には無条件で敬意を表すべきだろう。どこか小泉純一郎ばりに「改革」一本やりで大統領に上りつめた“バラク・オバマ”も、“マイク・グラベル”にかかったら「小僧っ子」扱いである。今回の大統領選立候補を最後に政治の世界から引退するという貴重なこの「政治遺産」について、ここに畏敬の念をこめて『暗いニュースリンク』から記録させていただく。
【異色のド根性大統領候補:マイク・グラベル】
<実際に合衆国大統領になれる可能性がほとんどないとしても、マイク・グラベルほど愉快な大統領候補はいないだろう。彼ほどアメリカの懐の深さを体現した人物は、最近では珍しいのではないか。
ところで、マイク・グラベルって誰だ?
2008年度大統領選に民主党で一番早く名乗りを挙げたマイク・グラベルは、マサチューセッツ州スプリングフィールド生れの76歳。21歳で米陸軍に入隊、5年ほど陸軍防諜部に勤務。後にコロンビア大学で経済学を学び、1969年から1981年までアラスカ州選出上院議員を務めている。
フランス系カナダ人移民の家庭に生まれたグラベルはフランス語に堪能で、カナダのメディア取材にはフランス語で対応している。一方、米国内メディアはこの風変わりな合衆国大統領候補を1年間全く無視してきた。しかも、選挙資金が全くないグラベルは、出馬表明後もニューハンプシャー州以外ではほとんど遊説していなかった。
2007年4月26日、サウスカロライナ州立大で最初の民主党大統領立候補者討論会が開催された。舞台に現れた8人の民主党大統領候補者の中に、見知らぬ白髪の老人の姿があった。「あの爺さん、誰?」と皆が首を傾げたのも無理はない。支持者たちの関心の的は、ヒラリー・クリントン、バラク・オバマら“エリート先頭集団”が何を言うかということだった。
ところが討論が開始されると、ヒラリーやオバマは共和党議員よりもはるかに退屈な保守派であることが露呈してしまったのである。一方でこの日もっとも会場を沸かせたのは、知名度ゼロのために討論会に招かれるかどうかも定かでなかったマイク・グラベルだったのだ。
(NBC放送が主催し、司会進行役は人気ニュースキャスターのブライアン・ウィルソン)
(注:ヒラリー・クリントンほか6人への当初質問は省略し、以下主にマイク・グラベルへの質問から収録した。ー引用者)
司会者=「グラベル元議員、あなたをよく知らない人たちのために説明しますが、アラスカ州上院議員として2期務めましたね。ベトナム戦争時には、戦争資金停止のために活躍しましたね。(中略)この舞台上の議員達に、あなたならどのようなアドバイスをしますか?」
マイク・グラベル=「まあ、まず第一に理解しなきゃならんのは、ジョージ・ブッシュが詐欺的な基準に基づいてイラクに侵攻した時点でこの戦争は敗北していたということですな。それを理解しないといけません。議会で進行中の件については、実に嘆かわしい事態ですな。評決は下され、メディアは半狂乱だ。どんな表決だ?ジョージ・ブッシュは1年以上前から、大統領任期中はイラクから撤退させないと言い続けている。信じられんだろう?
別の方策が必要だ。ぺロシやリードと同じ席について、他の議員にも集中して話し合うよう望むが、どうやって撤退するつもりかね?決議案じゃなくて、法律を制定すべきだよ。撤退しなきゃ重罪になるという法律を作るんだ。その条文は私が用意する。
フィリバスター(発言による議事妨害)が心配なら、戦術をさずけよう。下院は通過できるだろうな。すでに多数派だから。上院では、フィリバスターをやらせればいいさ。それで、リード院内総務は毎日12時に討論終結動議を出すんだ。そしてアメリカ国民に、誰が戦争を長引かせているのかハッキリ見せてやれ!(会場:拍手)」
【この怒れる白髪の老人の話し方はまさしく率直で、正直で、おまけに過激だ。イラクから撤退しなきゃ重罪にされる法律?ユニークで効果的なアイデアじゃないか。おまけに、ブッシュ政権批判に加えて、いきなり民主党の議会政策を批判している。―マイク、あんたは無党派か?】
司会者=「グラベル議員、今年初旬にある会議で…これは確認したいのですが、あなたは大統領に選出されてもされなくても関係ないと発言していますが、ではなぜ、今夜この舞台に登場したのですか?討論会は大統領選に勝つために出馬した候補者のためにあるべきでは?」
グラベル=「その通りだな。確かに私はそう発言した。しかしそりゃ、ここの人たちと同席する機会に恵まれる以前の話だ。上院議員になるのも同じようなもんだ。初当選の時は、興奮して“どうやって当選できたんだろう?”と言うさ。ところが6ヶ月もすると、“他の連中は一体どうして当選できたんだろう?”と言い出すんだ(会場:笑い)。実を言うと、彼ら議員さんと同席してみると、心底恐ろしくなるんだ。恐ろしいよ。主流派の候補者諸君は、イランに関してはあらゆる可能性を検討するなんて言っている。そりゃつまり、核攻撃もありうるということじゃないか。核兵器だ。言っとくが、私が大統領になったら、核兵器による先制攻撃など絶対にやらないぞ。わしが思うに、そりゃ不道徳だよ。もっとも、過去50年間のアメリカ外交はずっと不道徳だったがね。」
司会者=「ちょっと自由討議しましょうか。グラベル(元)議員、それは重大な問責ですね。このステージ上の誰がそんなに恐ろしいのですか?」
グラベル=「先頭陣営の方々だよ。彼らが発言しているんだ。(ジョー・バイデン議員に向かって)ああっ、ジョー、あんたもその一人だぞ。あんたは本当に傲慢な人だな。あんた、イラク国民に国の運営について講義するつもりか?言っとくぞ!我が国はさっさと撤退すべきなんだ。何もせず撤退するんだ。彼らの国なんだぞ。彼らは我々に出て行けと言ってるんだ。それなのに我が国は駐留継続を主張している。なぜ出て行かない?どんな害があるというんだね?まあ、“それじゃ兵隊たちの死が無駄になるじゃないか”という声もあるが、ベトナム戦争だって全部無駄死にだったじゃないか。今この瞬間にも、どんどん無駄に死んでいくんだぞ。一人の兵士が無駄に死ぬ以上に酷いことは何だと思うかね?もっとたくさんの兵士が無駄に死ぬことさ!それこそもっと悲惨だ。」
【この討論会の後で、30年来の知り合いであるジョー・バイデン議員は妻にグラベルを紹介して言った。「このグラベル爺さんは、今回の大統領選挙に手榴弾を投げ込もうとしてる人だよ。」
民主党の重鎮でありながら軽率で知られるジョー・バイデンも、この日は言葉を選んで慎重に振舞った。】
司会者=「バイデン議員、上院外交委員所属のあなたにお尋ねしますが、イラク以外に合衆国にとって脅威となる国は?」
バイデン=「合衆国にとって最大の脅威は、現在のところ、北朝鮮です。イランはそれほど脅威ではありませんが、長期的には脅威です。さらに率直に言うと、全体主義に傾倒しつつあるプーチン政権は、ヨーロッパ全体の混乱要因になるでしょう。(以下略)」
【一方でグラベル議員は、まるで暴発したマシンガンのように喋りまくり、合衆国の政策全体を穴だらけにしてみせる。】
司会者=「グラベル議員、同じ質問です。イラク以外に合衆国にとって脅威となる国は?」
グラベル=「重大な敵などいない。我が国に必要なのは、世界の国々に対し公平に対応することだ。それをやっていない。我が国は全ての国を合わせたよりも多くの金を防衛に費やしているんだ。一体何を恐れる必要がある?ブライアン、一体誰が怖いというのかね?わしゃ何も怖くないぞ。イラクだって脅威ではなかった。それなのに侵攻した。まったく信じがたい。軍産複合体は政府、株、石油を支配するだけでなく、我が国の文化まで支配している。」
【この討論会の主催はMSNBC、親会社はGE、つまり米防衛企業最大手のひとつだ。グラベルの言葉は正直で、あまりにも危険すぎる。】
司会者=「グラベル議員、あなたはアラスカ州選出上院議員として2期務めましたが、アラスカといえば石油資源が豊富ですね。フランスの制度をモデルとすれば、合衆国はお粗末なくらい原子力エネルギーの利用が遅れていませんか?」
グラベル=「全くそう思いませんね。この国で核開発批判を始めたのは私だよ。さらに言うと、徴兵を終わらせるために私は議事妨害をしたから、ジョージ・ブッシュを地上軍入隊から救ったのは私ということになる。アラスカにパイプラインを敷設したのも私だ。ところで、エネルギー問題や他の問題について聞かれるくらいなら、戦争や現在の状況について話させてほしいんだがね。我が国はテロリズムを誤解している。テロリズムとは文明の始まりから存在したし、文明の終わりまでつきまとうんだ。テロ戦争における成功はドラッグ戦争と同じ程度だ。効果ないんだよ。我が国に必要なのは、外交政策全体を見直すことだ。共和党側は民主党が祖国を防衛するつもりがないと責め立てるが、軍事侵攻はテロリストを増やしただけじゃないか。我々がイラクに侵攻したおかげで、オサマ・ビン・ラディンは今頃毛布の中で転げまわって喜んでるに違いないぞ。」
【司会者の質問を適当に捌いて、勝手に話題を変えるグラベルに司会者も困惑気味だ。(中略)
さて、ここからが今回の討論会のハイライトである。“テロに弱腰”という批判をずっと恐れているバラク・オバマは、どうしても“オバマ・ドクトリン”について説明したかったらしい。】
オバマ=「このテロリズムという問題にもういちど立ち返ってみましょう。打ち倒すべき正真正銘の敵、解体すべきネットワークが存在することは確かです。理知的に我が国の軍事力を行使するにあたっては我々の誰も対立しませんし、あるいはテロリストを排除する際に致命的な武力を行使する場合もありますが、同時に、同盟を組織し世界中に信頼を拡大する努力がこの6年間非常に欠けていました。思うに、次期大統領にとって最重要課題となるのは、我が国の直面するそうした困難への取り組みでしょう。」
クシニッチ=「オバマ議員、今の発言は非常に挑発的ですね。以前からあなたは、イランに関してあらゆる選択肢を考慮するといってますね。国民にとってその本当の意味を思案することは非常に大切だと思うのですが、あなたは別の戦争に向けて準備を整えつつあるようです。私が思うに、地球温暖化と地球戦争化は避けることが重要です。全ての中心は石油です。我々は石油のためにイラクに侵攻しました。今、我が国は石油のためにイラン攻撃を目論んでいます。外交政策を変えない限り、つまり戦争を政策手段としている限りは…」
司会者=「時間です」
クシニッチ=「…そしてエネルギー政策を変えないと…」
司会者=「時間です}
クシニッチ=「我が国は過ちを繰り返すことになるのです。」
司会者=「クシニッチ議員、ありがとうございます。時間です。オバマ議員、30秒で反論をどうぞ。」
オバマ=「もう少し時間をもらって反論します。イランと戦争を始めるのは深刻な過ちになると思いますよ。しかし、イランが核兵器を保有し、合衆国と周辺国にとって脅威であることは疑いようのない事実で…」
クシニッチ=「…(音声を拾っていない)」
オバマ=「核兵器開発途上にあるのは明らかでしょう。専門家も否定しませんよ。イランはテロの最大支援国であり…」
クシニッチ=「それはまだ論争中で…」
オバマ=「ヒズボラやハマスも支援を受けてます。」
クシニッチ=「それはまだ論争中です。」
オバマ=「デニス、(党内に)反論はないはずだ…」
クシニッチ=「まだ論争中ですよ。」
オバマ=「終わりまで聞いてくれ。世界各国に同盟を拡大することについては我々に対立はないはずだ。だが、核拡散国家が存在すればテロリストの手に核兵器が渡ることになり、アメリカにとって深刻な脅威になるのだから、この問題を真剣に受け止めるべきだ。」
司会者=「時間オーバーです。グラベル議員、30秒でどうぞ。」
グラベル=「とんでもない。イランなら、我が国はもう26年間も経済制裁してるじゃないか。合衆国大統領は彼らを“悪魔”と呼んで、連中をひどく脅してるんだ。それでどうなる?そんなことに効果などない。意味ないんだよ。彼らを認めるべみだ。わかるか?核不拡散条約の最大の違反国は誰だ?アメリカ合衆国だよ!我が国は軍備縮小を始めると約束しておいて、なんにもやっちゃいないんだ。我が国は核兵器をさらに増やしているじゃないか。あんたら、どこを核攻撃するつもりだ?教えてくれ、バラク!バラク!あんたはどこを核攻撃したいんだね?」
オバマ=「(苦笑して)どこも核攻撃する計画はないよ、今のところはね。マイク。約束しよう。」
(会場、笑い)
グラベル=「そうか、良かった。それじゃもうしばらくは安全だな。」
【バラク・オバマはリーダーシップを示したつもりかもしれないが、醜態をさらしたのは彼だ。クシニッチの指摘は見事だった。グラベルの突っ込みはジョン・スチュアートを超えそうなほど過激だ。】
(中略)
なんと、76歳のマイク・グラベル合衆国大統領候補は、移動手段に格安の長距離バスを使っているというのだ。専用ジェット機3機で全米を遊説するヒラリーとはえらい違いである。
こんなにお金のない人間が大統領選に名乗り出るとは非常に奇妙で無謀だ。ワシントンポスト紙の候補者紹介ページには、マイク・グラベルの職歴として「タクシードライバー」とある。退役直後の1950年代に、ニューヨークでタクシードライバーをしていたらしいのだ。この老人は何を考え、何をしてきたのだろう。何が彼をあんなにも怒りへと駆り立てるのだろうか?なぜ彼は他の民主党候補者とあんなにも違うのか?
【サロン誌はマイク・グラベルの経歴と人間像を以下のように説明している。】
一文無しで、無職の彼は幸福だと言う。本人の言葉を借りれば“資産ゼロ”の男だ。上院時代の年金は全て前妻に支払い、彼自身は最近何年も光熱費すら稼いでいない。上院議員の席を奪われて以来、二度の破産を経験した。ひとつは自分の会社、もう一つは3年前の自己破産だ。それでも彼は気にしていない。彼は“至福を追及せよ”という神話学者ジョセフ・キャンベルの言葉を引用する。グラベル夫妻は経済的には“困窮している”が、本人によれば充分満たされているという。
マイク・グラベルは単に自身の至福を追及しているだけで、その至福とは彼にとって常に政治なのだ。マサチューセッツ州スプリングフィールドで、労働者階級のフランス系カナダ人移民夫婦の下に生まれた時から、その至福は始まった。26歳の時、軍務を終えてコロンビア大学を卒業した頃、政治家人生をスタートするべく模索を開始したという。「一文無しで、有名でもないし知り合いもいなかった。だから、どこかに行ってゼロから始めなければならなかった。」彼は選択肢をアラスカとニューメキシコに絞ったが、暖かい気候が嫌いなのでアラスカに行くことにした。
「アラスカに着いた時、私は文無しだった。たぶん午後3時くらいだったと思うが、ガソリンスタンドで店員に聞いたんだ。“どこに行けば仕事を見つけられるか知ってる?”なんでもいいから仕事が欲しかった。一文無しだからね。すると店員はこう言ってくれた。“友人に不動産会社の社長がいるよ。電話をしとくから、月曜の朝にでも行って見たらどうだい?”
マイク・グラベルはこうしてアラスカに活動拠点を見出したという。1956年の出来事である。当時のアラスカにはまだ州としての自治権がなかったらしい。それから3年後、アラスカ最初の州議員に立候補し、落選。次の年にはアンカレッジ市議会に出馬して落選。3度目の挑戦で市議会議員の座に当選したのは1962年のことだった。1968年、38歳のグラベルはアラスカ州から上院議員選挙に出馬し、当選を果たした。
上院議員時代のグラベルには失敗も悪評もあるが、二つの輝かしい功績を残している。ペンタゴンペーパー事件と、徴兵制度更新への反対活動である。
当時はベトナム戦争が泥沼化していた時代。1971年、米国防総省の悪名高き機密文書“ペンタゴン・ペーパー”を元国務省職員ダニエル・エルスバーグがNYタイムズ紙とワシントンポスト紙にリークし、ニクソン政権の司法省は両紙に対し記事差し止め命令を出し、法廷闘争に発展させた。
そこでアラスカ州上院議員マイク・グラベルの登場である。ペンタゴン・ペーパーの存在を知り、政府の隠し事に怒った彼は、同じ時期に議会で討議されていた徴兵制度の更新法案に反対し、たった一人でフィリバスター(議事妨害)を開始していた。そのフィリバスターのためにグラベルが議会で読み上げようとしたのが、極秘で入手した4,100ページ分のペンタゴン・ペーパーだったのだ。
上院議会での機密文書読み上げが禁止されると、グラベルは自分で委員を務める上院小委員会(国防と全く関係のない委員会)の聴聞会を、たった一人でこっそり真夜中に議会地下室で開催し、勝手にペンタゴン・ペーパーを読み始め、参照としてその機密文書4,100ページを小委員会議事録に収録するというユニークなやり方で、司法省の攻撃を逃れ、公開議事録を通じてペンタゴン・ペーパーに一般国民がアクセスできるようにした。本人曰く「この機密文書をただちに公開すれば、ベトナム戦争政策はひっくり返るはずだ」という信念に基づいた危険な挑戦であった。
さらにグラベルは、議会議事録に収録したペンタゴン・ペーパーの内容を、ニクソン政権の差し止め命令を無視して一般書籍として出版する行動に出た。ペンタゴン・ペーパーの出版を複数の出版社に持ちかけたが、訴訟とニクソン政権の攻撃を恐れた業界側は依頼を拒んだ。しかし一社だけ、ボストンの小出版社ビーコンプレスがグラベル議員の申し出を受け、ノーム・チョムスキーとハワード・ジンの協力を得て『ペンタゴン・ペーパー:マイク・グラベル版』として出版にこぎつけた。ピーコンプレス社側は、訴訟覚悟、破産覚悟でニクソン政権に挑戦したという。グラベルは司法省に訴えられ、最高裁で敗北したが、すでに弱体化したニクソン政権側は湧き上がる世論の批判に逆らえず、機密文書出版の件でグラベルを罰することが出来なかった。
同時進行していた徴兵制度更新案についても、徴兵制度廃止を求めるグラベルは民主党上院議員団の反対を無視し、たった一人で5ヶ月間フィリバスターを続け、結局ニクソン政権側と上院共和党議員団から譲歩を引き出すことに成功。1973年に合衆国の徴兵制度は事実上廃止されたが、それにはマイク・グラベルの活躍も大いに貢献したのである。
イラク戦争がベトナム戦争の軌跡をなぞっているとしたら、マイク・グラベルはまさしく歴史に再び呼び出された人物といえる。
【どん底状態で大統領選出馬を宣言】
1980年に選挙に敗北し上院議員の座を失ってから、マイク・グラベル絶望の日々が始まった。企業家を目指し不動産業に乗り出したが、設立した会社は倒産。妻とは離婚した。興味深いのは、この時期に悪名高きカーライルグループとビジネスで対立し法廷闘争を行っているらしい(詳細は不明)。
1989年に国民投票制度導入を訴えて再び政治活動を開始するが、困難は続いた。政治団体を三つ立ち上げ、政界復帰を目指すが、2003年に受けた外科手術の費用が元で2004年に自己破産に陥った。破産時の負債はカードローン8万5,000ドル。自家用車以外に資産はなくなった。
そんなわけで、マイク・グラベルは常に他の政治家がやりそうもないことをやってきた。財布が空っぽのままで大統領選に出馬を表明することで、またしてもその本領を発揮したわけだ。
実際に、マイク・グラベルと“先頭集団”には、資金面でどれくらいの差があるのか?以下に2007年3月31日時点のデータで比較すると:
・ヒラリー候補
集めた献金額は2,604万1,109ドル(約31億2,068万449円)
手持ちの現金は3,097万4,780ドル(約37億1,327万7,311円)
・バラク・オバマ候補
集めた献金額は2,566万5,688ドル(約30億7,692万6,558円)
手持ちの現金は1,919万2,521ドル(約23億89万4,714円)
・エドワーズ候補
集めた献金額は1,402万1,504ドル(約16億8,068万8,521円)
手持ちの現金は1,073万1,881ドル(約12億8,646万2,153円)
一方でマイク・グラベル候補はというと、献金額はわずか1万1,118ドル(約133万2,922円)、手持ちの資金は498ドル(約5万9,703円)しかない。これじゃあ、選挙用のノートパソコンも買えない。
経済学者クルーグマンは米政界に庶民派時代の到来を予告した。マイク・グラベルがいわば究極の庶民派だが、議員としての実績はヒラリーやオバマら民主党議員を上回る。
だがアメリカでは、レーガン登場以来、最大の政治資金を稼いだ人物が合衆国大統領になるという暗黙のルールがある。したがってグラベルが大統領に当選する可能性はほとんどないだろう。
グラベルは掲げる政策も個性的だ。彼は、直接民主制実現に向けた国民投票制度の導入を主張し、法人税・所得税を全面撤廃して代りに消費税を一律23%にすると言っている。過激すぎて実現の可能性はどれも低い。
だが、マイク・グラベルのド根性人生は、アメリカが世界に対して誇るべき数少ない側面を反映しているように感じる。爆撃外交を重ねる脅迫盗聴大統領ばかり目立つアメリカよりも、マイク・グラベルが評価されるようなアメリカのほうが、本当は誰だって好きなはずだ。
米世論調査専門家ゾグビーは言う:「国民はマイク・グラベルについて話題にしています。彼にバスの切符を買う金が続く限り、国民はもう数ヶ月は彼の言葉を聞くでしょうね。」>
“マイク・グラベル”、バンザイ! 私が米国民なら、必ずあなたに一票を投じます!(さらに詳しくは次をご参照下さい)
「伝説のド根性政治家マイク・グラベル」:http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/cat8150098/index.html
08/11/11 08:09