みんなでファクトチェック USAIDをめぐる偽情報 メディアもターゲットに

Nらじ

放送日:2025/03/14

#インタビュー#世界情勢#政治

アメリカの海外援助を管轄する政府機関USAID(ユーエス・エーアイディー)について、政府は事業の削減を進めていますが、このUSAIDをめぐってはさまざまな誤った情報も問題になっていることを前回お伝えしました。今回は、誤った情報のターゲットがメディアにも向かっていることについて、ジャーナリストで桜美林大学教授の平和博(たいら・かずひろ)さんと考えます。
(聞き手:杉田淳ニュースデスク、柴田祐規子アナウンサー)

【出演者】
平:平和博さん(ジャーナリスト、桜美林大学教授)

「USAIDから資金提供を受けていた」という情報が拡散

杉田:
平さん、USAIDをめぐる誤った情報の矛先がメディアにも向かっているということですけれども、これはどういうことでしょうか?

平:
そもそもはアメリカの保守派ジャーナリストが、2月5日にアメリカの国際開発庁=USAIDが政治メディアのポリティコに800万ドル以上を支払っているとXに投稿したことがきっかけです。しかし、これは過去1年間にアメリカ政府全体でポリティコに支払った総額で、USAIDが実際に支払っていたのはこのうち2万4,000ドルでした。しかもこれらの政府支出というのは助成金ではなくて、法人向けなどの有料サービスの購読料であったことが分かっています。
それでも、これをきっかけにさまざまな情報が広がっていきました。ホワイトハウスの報道官は、やはり2月5日の記者会見で「ポリティコへの800万ドル以上の税金は今後は支払われません」と表明しています。さらにアメリカの保守派のインフルエンサーたちが、政府からの支出先としてポリティコ以外にもニューヨーク・タイムズやAP通信などの名前を取り上げていきました。

柴田:
有名なメディアにもどんどん広がっていったということなんですね、

平:
そうですね。さらにトランプ大統領も、翌日2月6日に「数10億ドルがUSAIDやその他の機関から盗まれたようだ」と、「その多くは民主党に関するよい記事をでっち上げるための報酬としてフェイクニュースメディアに渡っている」と投稿して、ポリティコやニューヨークタイムズの名前を挙げました。これをイーロン・マスクさんも取り上げて、さらに拡散しています。
これに対してニューヨークタイムズは、政府からの支出は購読料だと説明しています。AP通信もニュース配信の利用料だと説明しています。ニューヨークタイムズの報道によれば、この騒動をロシア、中国の国営メディアなども取り上げていきました。
この騒動では、イギリスの公共放送BBCなどの国外メディアも標的にされています。BBCは関連する国際慈善団体がUSAIDから助成金を受けていたものの、BBCニュースとは別組織でニュース部門は資金提供を受けていないと説明しています。この騒動はNHKや朝日新聞など、日本の報道機関にも飛び火をしています。いずれも資金提供はないというふうに表明をしています。

杉田:
NHKも2月13日のニュースで、NHKがUSAIDから資金提供を受けている事実はありません、と伝えています。

平:
ポリティコやニューヨークタイムズの場合は、購読料。BBCの場合は別組織である関連慈善団体への助成という、一応のお金の支出はありました。しかし日本の場合は根拠も不明なままに関与説が急速に拡散されたという状態です。

億単位のフォロワー“2つのメガホン”

杉田:
メディアがこぞって否定しているのに、どうして拡散してしまうんでしょうか。

平:
騒動の背景には、批判的なメディアを「敵」あるいは「フェイクニュース」と呼ぶ、トランプ政権の姿勢がひとつあるかと思います。さらにソーシャルメディアと一体になったトランプ政権の情報発信力の強さというのも指摘できるかと思います。Xのオーナーで2億人を超すフォロワーを持つマスクさんと、1億人を超すフォロワーを持つトランプ大統領が、誤った、あるいは誤解を与える情報を広げているという状況です。西側メディアの批判的な報道に反発するロシア、中国も、この誤った情報の拡散を後押ししている面もあるようです。
偽情報・誤情報の特徴に、ごく一部の事実に憶測や根拠のない情報を組み合わせることで信ぴょう性を持たせるということがあります。今回も一部のデータにさまざまな尾ひれがついて、グローバルに拡散をしていったという状況のようです。

杉田:
メディアも自分のところに振りかかった誤った情報というものについて、ファクトチェックしていく必要があるんだということになりますかね。

平:
メディアはこういった情報拡散に対しては、機敏にファクトチェックを行っていく必要があると思います。また拡散の背景を掘り下げていくことで、読者や視聴者、リスナーのリテラシーの啓発にもつながります。ソーシャルメディアのユーザーは、まずはタイムラインで目にした情報に根拠があるのかどうかを確かめてみてほしいと思います。その上で情報のうちどの部分が事実で、どの部分が意見や憶測、根拠のない情報なのかを切り分けていくことも大切だろうと思っています。

柴田:
正しい情報を出し続け、そしてリテラシーも含めた啓発につなげていかなきゃいけないと思うんですけれど、次から次へと偽情報・誤情報って出されていくわけですよね?

平:
まずはその情報がどれだけ社会にとって有害なものなのかということを見極める必要があります。次から次へと誤った情報・偽情報が拡散されていく中で、全部をひとつひとつ取り上げて検証していくというのは物理的に不可能ですので、まずその影響力を見極めたうえで、もし深刻な悪影響が見られるような場合には、即座にそれに対して事実に基づいて検証結果を提示していくということ、これが可能なのはやはり組織的な調査能力・発信力を持ったマスメディア、あるいはファクトチェック団体というような団体になってくるかと思います。

拡散の「手前」で発信すること

柴田:
トランプ大統領にしてもマスクさんにしても、億の単位のフォロワーを持つ、そこにさらにロシアだったり中国だったりっていう、まさに世界の大国からメディアが攻撃されているときに、どこから手をつければいいのかなと思うんですけど…。

平:
例えば、このようなタイプの偽情報・誤情報というのがこういう状況では拡散しやすいですよとか、偽情報・誤情報の特徴というのはこういうものがありますよということを、実際の拡散の手前のところで日常的に発信し続ける、それによっていわば読者・視聴者・リスナーに、偽情報・誤情報に対する免疫をつけてもらうというような取り組みも、合わせて重要になってくるかと思います。

杉田:
メディアが標的になるような事態というのは、これからも予想されるわけですよね。

平:
そうですね。メディアを標的とすることによって、何かこれまでの社会の仕組みに対して変革を訴える、そういう印象を発信するという手法もあります。そのような文脈の中でメディアが標的にされがちになるということは、あり得ると思います。その中でもメディアが寄って立つことができる部分というのは、まずは事実、そして読者・視聴者・リスナーとの信頼関係です。これをしっかり確保をしていくことによって、偽情報・誤情報の氾濫に向き合うことができるし、向き合っていく必要があるんだろうと思います。

左:杉田淳ニュースデスク 右:平和博さん(ジャーナリスト、桜美林大学教授)

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2025/03/14 「Nらじ」

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