初対面の女性に「臭い」と言い、その後「醜い」と補足し、最終的に「妖怪みたいだ」と結論づけた事故が起きた。その女性は「妖怪みたいって何ですか？！猫娘みたいなことですか？！」と言った。私は「そんなに可愛いもんじゃない。もっとグロテスクな本物の妖怪だ」と訂正した。私にも社会性はあるので、女性に妖怪と言うことはダメなことだとはわかっていた。だが、抑えることができなかった。妖怪みたいだと言いながら「俺は酷いな」と、笑いを抑えることができなかった。

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このエピソードが意外と好評で、はるばる福岡から「坂爪さんに会うために来ました」と言う２４歳の男性Ｃ様と食事をした。Ｃ様は自営業だが、最近やる気が出なくて困っていた。母親から「坂爪圭吾って男がいるから見てみなよ」と紹介されたのが一週間前。そして、私に会うと決めたのが三日前。素晴らしいテンポである。私の何に興味を持ったのか聞いたら「僕の言葉で言うと、ぶっちぎっているからです」と言った。Ｃ様は、ぶっちぎりたがっていた。だが、Ｃ様にも社会性があるから「こんなことを言ったらダメだよな」とか「こんなことを言ったら生きていけないよな」と自制心が働いて、踏ん切りがつかないと言った。実に、人間らしい悩みである。私たちのほとんどが「自由に生きたい」と「それだと家賃が払えない」の狭間で揺れている。真っ当な悩みである。

私は「これを言ったらウケるだろう」と思って妖怪と言った訳ではない。こんなことを言ったら終わると思いながら「よし、終わろう」と思って妖怪と言った。生きようと思って言っていないし、うまくやろうと思って言っていない。死んでもいいと思って言った言葉が妙に受けて、死ななかったばかりか好きだとまで言われるようになった。現状を打破したいなら道は一つ。死ぬ。首を吊ると言うことではなく、これを言ったら生きていけなくなるだろうなと思うことを言う。死ぬ。計算づくの人生を離れて、危険に自分の身を投じる。人には人の考え方があるのだから尊重するとか、もっともらしい言葉に逃げるのではなく「最近のお前つまんないよ」と、相手の領域を侵す。踏み込む。ゴングを鳴らす。血が踊る戦闘を始める。

人間関係に悩むのは、君が「軽く扱われている」と思っているからだ。なんとなく無礼な連中に、君は腹を立てているのだ。だが、本当は「言いたいことを言わなかった自分自身」に、一番怒りを感じている。だから、言おう。言って、死のう。怒りや悲しみを溜め込みがちな人は、言語化が遅い。あとになってから「あ、自分はあれにムカついていたのだ」と気付く。この速度を早めよう。なんとなく違和感を覚えたら「なんとなく違和感を覚えた」と言う。スルーをしない。まず言う。説明できるようになってから言おうとすると、言葉が止まる。説明しなくていい。まず「違和感を覚えた」と、自分の気持ちを真っ直ぐに伝える。違和感を覚えたことを表明すると、表明したことにより「お前の服装がムカつく」とか「お前の態度がムカつく」とか、あとから言葉が出てくる。表明をしないから、言葉が出てこないのである。何にモヤモヤしているかわからない時は「何にモヤモヤしているかわからない。だけど、モヤモヤする」と言う。それで、やっと相手にも伝わる。

自分の自尊心は自分で守る。簡単に自分を明け渡してしまってはいけない。最近のお前つまんないよと言うことは悪口ではない。愛だ。そんな言葉を言われたら「うわー！言われた！」とショックを受けるが、ショックによって自分も変われる。言いたいことを言えと言いたい訳ではない。それによって君が生き生きできてるならいいんだよ。問題は、今、君が生き生きと生きられているかどうかだ。そうじゃないなら、変えちまおう。妖怪と言おう。妖怪と言うと「妖怪と言わせてくれてありがとう」と、心から相手に感謝をすることができる。人生に夢も目標も要らない。今日の目標は明日のマンネリ。昨日と同じ熱量を今日も維持するなんて無理。毎日死んで、毎日生まれ変わろう。私に目標はない。私の人生が目標を語るだろう。説明できないものを説明したり説明させようとするのは野暮。共にぶっちぎろうではないか。