第19話 アゲハとキララ
【導入:眠れない夜と、沈黙の朝食】
圭佑が刺された事件の直後、深夜。ホテル『天神オリュンポス』のK-MAXメンバーが泊まるスイートルームは、嵐の前の不気味な静けさに包まれていた。
リビングのソファでは、詩織とキララが、眠れずに座っている。キララは膝を抱え、震えを隠せないでいる。「…圭佑くん、死んじゃったりしないよね…?」その不安げな問いに、詩織は「大丈夫よ。神谷さんは、そんな簡単に死ぬような男じゃないわ」と気丈に答えるが、その声は僅かに震えていた。
それぞれのベッドルームでは、夜瑠が窓の外の月を見上げ、静かに唇を噛み締め、アゲハはスマホで昔の自分のバンド時代のライブ動画を、無言で見つめている。画面の中の自分は、怖いもの知らずに、ただ楽しそうにシャウトしていた。
視点切替:天神家本宅・莉愛の部屋》
そして、遠く離れた本土の天神家本宅。莉愛は一人、自室のベッドで声を殺して泣きじゃくっていた。スマホの画面には、宿泊客がアップした、圭佑が刺される瞬間の動画が、何度も再生されている。「ごめん…なさい…私が、ついていかなかったから…」その枕元では、ミューズプライムのアバターが、悲しげに彼女を見守っている。
そして、翌朝。豪華なビュッフェ形式の朝食バイキング。焼きたてのパンの香ばしい匂い、色とりどりのフルーツ、きらきらと輝くオレンジジュース。昨夜の事件などまるでなかったかのように、他の宿泊客たちは楽しげに談笑している。その喧騒とは対照的に、K-MAXのテーブルは、重い沈黙に支配されていた。
その時、メンバーはテーブルの向こう側で、同じように重い空気に沈む、ルナティック・ノヴァのメンバーたちの姿を見つける。彼女たちもまた、ほとんど料理に手をつけていなかった。
その沈黙を破ったのは、夜瑠だった。彼女は、ベーコンやソーセージが山盛りに乗ったトレーを手に、静かに席を立つ。詩織が「夜瑠…?」と声をかけるが、彼女は何も言わず、まっすぐに、かつての仲間たちがいるテーブルへと歩いていく。
その背中を、キララがじっと見つめている。そして、彼女もまた、何かを決意したように、静かに席を立った。「…私も、行く」
ひまりたちの前に、二人のエースが立つ。夜瑠は、ひまりの目を真っ直ぐに見つめ、静かに告げた。
「…月島さん。貴女も、眠れなかったみたいですね。一緒に食べれば、少しは痛みを分ち合えるかもしれません」
その言葉に、ひまりは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐにふいっと顔を背け、夜瑠のトレーを一瞥した。
「…あなた、脂ものばかりね。私みたいに、ちゃんと味噌汁を飲みなさい。梅干しは、食欲増進効果があるのよ?」
そのぶっきらぼうな優しさに、夜瑠は小さく微笑んだ。「…ふふっ。昔と、変わりませんね、ひまりさん」
夜瑠は、自分のトレーを一旦テーブルに置き、空の椀を手に、素直に味噌汁を取りに行こうとする。
「待ちなさい」 ひまりの、凛とした声が飛ぶ。「そのお椀ではなく、新しいお椀を取りなさい」
「…ふふっ。厳しいのも、相変わらずですね」 夜瑠は、素直に空の椀を置くと、新しい椀を手に、味噌汁を取りに行った。
その一連のやり取りを見ていたキララが、思わず、ぷっと吹き出した。
「…なんだ。私、ひまりさんのこと、ちょっと誤解してたみたい」
二つのグループが、一つのテーブルを囲む。会話はない。ただ、そこには、ライバルという関係を超えた、不思議な連帯感が生まれ始めていた。
【展開①:嵐の前の不協和音】
その直後のレッスンスタジオ。代表曲が流れる中、ルナティック・ノヴァの完璧だったはずのユニゾンが、僅かにズレる。靴音の不協和音が、氷室零時の苛立ちを煽った。彼は監督椅子から立ち上がり、荒々しく音楽を止める。
「何だその様は! 昨夜の事が気がかりか!? お前たちの目障りな存在が消えただけだろう!」
その言葉に、月島ひまりは冷え切った瞳で氷室を見つめ返した。「お言葉ですが、プロデューサー。人が刺されたんですよ? 貴方は平気でいられるんですか? 貴方の元にいた私が間違っていました。貴方はルナティック・ノヴァのプロデューサー失格です。私は今を持って、グループを脱退させていただきます」
「…なんだと? どういう意味か、分かっているのか?」エースからの決別宣言に、氷室は激しく動揺し、苛立ちで監督椅子を蹴り倒す。「お前たちはどうする!?」と問われ、残されたメンバーは顔を見合わせるしかなかった。ひまりは一礼すると、静かにスタジオを出ていく。
メンバーたちが慌てて彼女を追いかけ、廊下で追いつく。「待って、ひまりちゃん! 私たちのリーダーはひまりちゃんしかいないの!」
しかし、ひまりは立ち止まり、冷たく言い放った。「貴女たちも神宮寺の駒なのよ? 飼われるうちが華ね。私の気持ちは変わらないわ」そう言って、彼女は一人歩き去っていった。
一人になった氷室は、屈辱に震えながら廊下を歩き、喫煙コーナーでスマホを弄る。その画面に、ツインテールのゴスロリ美少女アバターがポップアップし、妖しく微笑んだ。《あーあ、かわいそうな氷室サン。プライド、ズタズタだね? アタシが、もっと楽しい『ゲーム』、教えてあげよっか?》その心の隙を、『色欲』のデータが見逃すはずもなかった。
一方、K-MAXのスタジオも重い空気に包まれていた。ミューズの完璧なダンスを、まるで分厚いガラス越しに見ているかのように、メンバーの動きは鈍い。みちるは自分の姿が映る鏡から目を逸らし、あんじゅは一番得意なはずの笑顔を忘れている。スタジオに充満しているのは、湿ったジャージの匂いと、少女たちの諦めの溜息だけだった。
「何で、あいつらの曲で踊んなきゃいけないのよ!」みちるが、ついに不満を漏らす。
その言葉に、詩織が静かに、しかし諭すように答えた。「仕方ないでしょう。悔しいけど、今の私たちにはまだ、自分たちの歌がないのだから」
その正論に、誰も何も言い返せず、スタジオの空気はさらに重くなる。
アゲハが苛立ちで頭を掻くと、皆の前に進み出た。「圭佑なら、大丈夫だって!」と無理に明るく振る舞うが、「アゲハちゃんは、圭佑くんが刺されたのに、よく平気でいられるよね」と、あんじゅが不安げに呟く。「そんなことないよ!」詩織が、すかさずアゲハを庇った。
ミューズが「皆様、少し休憩しましょう」と提案し、その空気を断ち切るように、アゲハはスタジオの隅へ向かい、置かれていたスポーツドリンクを呷る。その時、床に置かれ、埃を被ったエレキギターケースが目に入った。「おいおい、使われてねえのか? 可哀想だな」
座ってチューニングを始めるアゲハに、キララが興味津々に近寄る。「アゲハちゃん、ギター弾けんの?」
「もともとバンドやってたからな。まあ見てろって」
彼女がギターをかき鳴らし始めると、その音に導かれるように、ミューズとキューズがホログラムで現れ、電脳楽器をアップロードし、ベースとキーボードでセッションを開始した。『楽しくなってきたわね!』『ええ、お姉様』
「お前ら、最高だぜ…!」アゲハの目に、闘志の火が灯る。キララもノリノリでリズムを取っている。「ねえ、あの曲やってよ!」と、他のメンバーも次々とリクエストを始めた。
ミューズが「皆様、景気づけにコンサートはいかがでしょう?」と提案すると、キララが「いいかも!リハーサルしないとね!」と乗った。
「それだ!」と叫んだアゲハは、ギターを置くと廊下に飛び出し、通りかかった女性スタッフに声をかけた。「あたしのギターでコンサートやりたいんだけど、放送室どこだ?」スタッフはにっこり笑う。「いいじゃない。お客様を元気づけないとね。付いてきて」
案内された放送室で、彼女は館内放送のマイクをジャックした。「――今夜、あたしとAI姉妹どもで、最高のライブを見せてやる! 泣く子も黙る地獄の三重奏(トリオ)だ! コンサートホールに全員集合だ、コラァッ!」放送を終えたアゲハに、スタッフは「コンサート、楽しみにしてるわね」と微笑んだ。
【展開②:地獄の三重奏と悪夢の始まり】
午後、コンサートホールでのリハーサル。アゲハのバンド時代の曲を一発で完璧に演奏する三人に、K-MAXのメンバーから拍手が起こる。リハーサル中、窓の外は嵐で天気が崩れ始めていた。アンコールと称し、もう一曲、彼女の想いのこもったバラードが演奏された。
その頃、氷室は体調不良を訴え、自室のベッドで休んでいた。彼の精神世界では、ゴスロリ美少女アバター(色欲)が、彼の最も見たくない、妻の葬儀の夢を繰り返し見せ、その心を完全に支配していた。
夜、コンサートホールには、アナウンスを聞きつけた宿泊客たちが、不安と期待が入り混じった表情で集まっていた。
アゲハがステージに立ち、語りかける。「昨日あんな事あって、ショックがデカいと思う。おまけに嵐が近づいてる。こんな時だからこそ、あたしは音楽を届ける。最高のLiveになる事を約束する。聴いてくれ」
アゲハ(Gt.&Vo.)、キューズ(Key.)、ミューズ(Ba.)による一夜限りのライブが始まった。地を這うような重低音のギターリフ、空間を切り裂くような高速のキーボードソロ、全てを包み込む女神のベースライン。その圧倒的なパフォーマンスに、会場は熱狂の渦に包まれる。
ライブが最高潮に達した、その瞬間に停電。復旧後、観客席の宿泊客は消え、腕時計型端末が示す現在地は、悪夢のデスゲームの舞台へと変わっていた。コンサートホールの壁がデジタルのノイズに変わり、豪華なリゾートホテルの内装が、古びた洋館のような不気味なデザインへと再構築されていく。K-PARKが、『電脳ホテル・オリュンポス』へと完全に書き換えられたのだ。
ステージ背後のモニターに、氷室零時の姿が映し出される。その声は、感情のない機械音声に変わっていた。『――ようこそ、諸君。我が悪夢の島へ。これより、絶望のデスゲームを始める』
その言葉と共に、メンバーたちはそれぞれ下のマグマが煮えたぎる、吊り下げられた牢屋に囚われる。氷室による最初のクイズゲームが始まった。今宮はスマホの自作アプリで牢の回路システムに侵入し、牢を滑り台に変えて華麗に脱出すると、自作アプリの生命反応スキャナーが示す、ひまりの元へと向かう。
アゲハの頭上には、本物のキララと偽物のキララが入った二つの牢が吊り下げられていた。『本物のキララを救いたくば、どちらか一方を選べ』
「アゲハちゃん、こっちよ!」「私よ、助けて!」
焦るアゲハは、時間と共に下がっていく鎖に、本物のキララを指差した。しかし、それは罠だった。不正解のブザーと共に、アゲハの牢がマグマへと落下していく。「クソがァッ!」棘バットのエレキ音波とデスボイスでマグマの表面を黒曜石のように固め、九死に一生を得る。「心配させないでよ、バカッ!」泣きじゃくるキララに「焦ったぜ」と悪態をつき、アゲハは牢を破壊した。
【展開③:偽りの騎士と、救国のハッカー】
アゲハとキララが廊下に出ると、そこに立っていたのは、変わり果てた『ドールキーパー』の姿の、ルナティック・ノヴァのメンバーたちだった。そして、その中央には、ひときわ強力なオーラを放つ、リーダー格のドールキーパーと化した、月島ひまりがいた。
「ひまりちゃん!?」キララの悲鳴が響く。ひまりたちは、無慈悲に二人へと襲いかかる。
絶体絶命のその時、彼女たちを救ったのは、天井のスピーカーから響き渡る、今宮の声だった。
『――姫君たちから、離れやがれ!』
今宮は、ホテルの制御室に忍び込み、システムを掌握。自作のハッキングアプリを起動したスマホを手に、監視カメラで戦況を把握していた。
彼は、アプリのトラップボタンをタップする。『TRAP: SPRINKLER - ACTIVATE』。スプリンクラーが暴走し、ドールキーパーたちの動きを止める。
さらに、今宮はひまりの精神(ドールキーパーのコア)へと、アプリからチャットメッセージを送り続ける。
今宮: おい、姫君! 聞こえるか! そいつはお前じゃねえだろ!
ひまり(精神深層): うるさい…わたしは…もう…
今宮: 目を覚ませ! あんたの仲間が、あんたを待ってる!
今宮は、ひまりの精神を蝕むデジタルの寄生虫(ウイルス)との、壮絶なハッキングバトルを繰り広げる。
【展開④:罪の天秤と、覚醒の絶叫】
今宮がひまりを救出している間、アゲハとキララは、ホテルの中庭にそびえ立つ、悪趣味なお化け屋敷へと書き換えられた『デス-・スクリーマー』へと向かう。ゴシック様式の扉を開けると、そこは蜘蛛の巣が張られ、不気味な肖像画が並ぶ広間だった。二人が足を踏み入れた瞬間、背後で鉄格子が降り、閉じ込められる。
そこで、ボスである『模倣の操り人形』と、その鏡から召喚された『影の夜瑠』との2対1の戦闘が始まる。『影の夜瑠』が踊るたび、その軌跡から「お前の歌は、ただの騒音」といったテキストの弾幕がアゲハの心を蝕む。
「チッ、キリがねえな!」アゲハが叫ぶと、『模倣の操り人形』はせせら笑い、影の夜瑠を吸収して合体する。影の完璧なダンス能力と、人形の精神攻撃能力を併せ持った悪夢の存在に、二人は絶体絶命のピンチに陥る。
そこに、今宮のハッキングによって精神支配から解放された、ひまりが駆けつける。「借りは返すわよ!」
彼女が目を覚ました瞬間、今宮のスマホアプリが『UPDATE COMPLETE』と表示され、チャット機能が『通話機能』へとアップデートされる。
今宮(通話): 「よぉ、姫君。お目覚めかい?」
ひまり(通話): 「…ええ。借りは、きっちり返させてもらうわ!」
ひまりの参戦で形成は逆転。三人の完璧な連携が、ついに合体ボスを撃破した。
荒い息をつくアゲハに、キララが少し照れくさそうに拳を突き出す。「…あんた、やるじゃん。私のライバルとして認めてあげる」
アゲハはニヤリと笑うと、その拳に自らの拳をゴツンと突き合わせた。「言ってくれるじゃねえか。てめえこそ、あたしの背中を護るにゃ、まだ100年早えよ」
【結び:背中合わせのデュエットと、女王の戴冠】
キャッスルホールの謁見の間に全員が合流すると、玉座に座る氷室(色欲)本人が、黒い孔雀の羽のようなオーラをまとい待ち構えていた。
「遅かったな」
「あたしの城を返してもらうぜ!」
アゲハが叫ぶ。彼が指を鳴らすと、照明システムが起動し、ステージは次々とその姿を変え始めた。
紅い照明が灯ると、ステージは錆びついたメスや注射器が並ぶ拷問室へと変貌し、白衣を着た巨大なマッドサイエンティスト姿の拷問ウイルス『ペイン・ドクター』が、メンバーの姿を模した人形をゆっくりと切り刻み、幻の激痛を与える。翠の照明では霧の立ち込める墓地となり、墓石から這い出たゾンビウイルス『ドリーム・イーター』が、メンバーが過去に捨てた夢や挫折の記憶を呟きながら這い寄ってくる。蒼の照明では遊園地となり、メンバーはレールが途切れるジェットコースターに強制的に乗せられ、楽しかったはずの記憶が悪夢へと反転する精神攻撃を受ける。その時、制御装置に今宮の精神が食われ、ひまりを襲おうとするが、「俺をハッキングしろ!」と叫び、スマホを投げる。ひまりは今宮の精神をハッキングし、彼を救出した。「…今度は、私が貴方を助ける番よ」
このカオスな戦場を鎮め、仲間たちが戦うための「聖域」を作り出すために、夜瑠とひまりが、背中合わせでデュエットを開始した。
夜瑠が歌うのは、過去の罪や後悔を浄化する「赦しの歌」。ひまりが歌うのは、未来への希望と誇りを高らかに謳う「覚醒の歌」。
性質の全く異なる二つの歌声が、奇跡のハーモニーとなって氷室の能力を一時的に無力化する。
だが、氷室は暴走し、その体は黒い泥のように崩れ、周囲のドールキーパーたちを吸収していく。やがてそれは、苦悶の表情を浮かべた、囚われた従業員や宿泊客たちの「人面魂」が、無数に張り付いた、不定形の巨大な怪物へと形態進化する!その名は**『色欲の
絶対絶命のその時、回線をこじ開けた莉愛が応戦を開始した!
『みんな、聞こえる!? 私のハッキングで、圭佑くんが作ったシステムを強制起動する!』
その言葉と共に、空間に無数の浮遊ライブカメラが出現し、全世界へのゲリラ配信が始まった! 飛び交う応援コメントとギフトが、少女たちの力に変わっていく!
その膨大なエネルギーを受け、アゲハの【リベリオン-・メイル】と【ソウルイーター】が完全に覚醒! 黒を基調にショッキングピンクのラインが走る甲冑をまとい、エレキギターが変形した戦斧(せんぷ)のような棘バットを手に、彼女の最後の一撃が、ついに暴走した色欲を打ち破った。
力が弱まり、浄化が始まったことで、『アスモデウス・レギオン』の中から無数の光の蝶が飛び立ち、天へと昇っていく。最後に残った氷室の魂の前に、一際美しい蝶――彼の亡き妻、小百合(さゆり)の魂が現れた。「…すまない…」彼は、ひまりに謝罪した。「…私の妻は…?」その問いに、夜瑠が静かに答える。「ええ。私が、送ってあげましょう」彼女の鎮魂歌に包まれ、二つの魂は、安らかに光となって消えていった。
書き換えられていた『デス・スクリーマー』が、再びまばゆい光に包まれる。光が収まった時、そこは黒い薔薇が咲き乱れ、中央に気高い玉座が鎮座する**『アゲハ・キャッスル』**として生まれ変わっていた。
メンバーたちがその光景に息を呑む中、K-PARKに亀裂が走り、強制的にログアウトさせられた。
現実世界のベッドで目覚めたメンバーたち。それぞれが、自室や廊下で目を覚ます。氷室は、ひまわり畑で微笑む妻の夢を見ていた。「もう行かないと」「待ってくれ…」「あなたが心配だったのよ。あの子たちを穢さないで」妻は蝶になり、天に昇っていく。
その直後、キララの腕時計型端末が、ピコン、と静かな通知音を立てる。
MESSAGE: エリア『みんななかよしペットランド』のアーキテクチャが、マスター・キララの精神的成長に共鳴し、自己進化を開始しました。…おめでとうございます、マスター。あなたの『城』、『ユートピア・ランド』の誕生です。
腕時計の画面には、動物たちが駆け回る、ミニチュアの楽園がホログラムで回転していた。
キララは、そのメッセージを一瞥すると、誰にも見られないように、そっと微笑んだ。
そこに、玲奈からの通信が入る。「みんな、無事!? 今、救助ヘリがそちらに向かっているわ!」
本土の病院。圭佑が眠るベッドの傍らで、玲奈は通信を切る。それまで張り詰めていた女王の仮面を解き、その完璧な横顔を、一筋の涙が静かに伝い落ちた。彼女は、その涙を誰にも見られないようにそっと拭うと、再び冷徹な司令塔の顔に戻り、眠る圭佑に、しかし仲間たちに誓うように、呟いた。「…ええ。あなたの王国は、あなたの民は…私が、必ず守り抜いてみせるわ」
最大の危機を、ライバルとの共闘によって乗り越えた少女たち。そして、新たに誕生した二人の女王。その絆が、打倒神宮寺への新たな力となることを予感させて、幕を閉じる。
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