誤情報で自治体「仕事にならない」 アフリカに「特別なビザ」と拡散
国際協力機構(JICA)が千葉県木更津市など4市をアフリカ各国の「ホームタウン」に認定したことをめぐり、「移民が押し寄せる」といった投稿がSNSで広がった。各市には問い合わせが殺到し、市長が否定コメントを出すまでに。きっかけは一部の国で発信された誤情報。外務省が訂正を求める事態に発展した。
22日まで横浜市で開かれていた第9回アフリカ開発会議(TICAD)で、JICAが公表した。JICAのウェブサイトによると、これまでに各市が築いてきたアフリカ諸国との関係を強め、アフリカの課題解決と日本の地域活性化に役立てることを目指している。
木更津市とナイジェリア、山形県長井市とタンザニア、新潟県三条市とガーナ、愛媛県今治市とモザンビークがペアになり、人材交流や連携イベントをJICAが支援し、国際交流を後押しするとしている。
「誰が責任とるんですか」
この発表の後、SNSなどでは「移民が押し寄せてきたら誰が責任とるんですか」といった投稿が急速に拡散。アフリカの現地報道などで、この事業によって日本政府が移民の受け入れを促進したり、特別な査証(ビザ)を発給したりする、といった誤情報が伝えられたからだった。
4市には苦情を含めた問い合わせが相次いだ。長井市には「移民を受け入れるのか」などの問い合わせがあり、担当課の4回線では足りず、別の回線を使って対応した。担当者は「仕事にならない状況だった」と振り返る。
タンザニアとは、2021年の東京五輪・パラリンピックで同国選手団のホストタウンになったり、市内のマラソン大会に選手を招待したりするなど交流が続いている。市の担当者はホームタウン認定の申し入れを「光栄なことなので受けた」と説明し、「今回の騒ぎは予想外だ」と話す。
鳴りやまない電話 メールは3500件に
三条市では、25日朝から電話が鳴りやまず、26日午前10時の時点で、問い合わせの電話が約350件、メールが約3500件に上った。ホームタウンの認定はJICAからの提案で、市としては今後どういった交流ができるか考えていたところだったという。担当者は「現地の誤情報でここまでひどい状況になるのか」とため息をつく。
こうした事態を受け、各市長は「移住や移民の受け入れにつながるような取り組みではありません」「事実に基づかない情報の発信や拡散は、混乱を招く」などと情報を否定するコメントを次々に発表した。
外務省も動いた。
ナイジェリアの大統領府は今回の事業について、「日本政府は、高度の技術を持ち革新的で、才能にあふれた若いナイジェリア人が木更津市で生活し、働くための特別ビザの枠組みをつくる」との声明を公表。日本側の説明と食い違っていた。そこには、ホームタウンの認定によって人口の増加と地域の再活性に4市が期待している、とも記されていた。
JICA「ビザの話はしていないのに……」
日本の外務省が現地の日本大使館を通じて発信内容の訂正を求めたところ、ナイジェリアは26日夜までにこの声明を削除。在日本ナイジェリア大使館は26日午後時点の取材に「担当者がいない」と回答していた。
JICAによると、TICAD開催にあたってアフリカ各国の事務担当者と「ホームタウン」認定について話はしたが、ビザなどの話題には言及しなかったという。広報担当者は「どういった誤解があって現地政府の発表や報道になったかはよくわかっていないが、事実と異なるので、訂正を求めていく」とコメント。日本のSNS上で誤情報が広がっていることについては、「国際交流を推進するための事業が、本来の趣旨と違う形で広がってしまい残念。今後、誤解が起こらないように発信の方法も工夫していきたい」と話した。
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