AIに「作品ではなく作風が盗まれる」理不尽、どう回避?--実は守る仕組みが生まれ始めた

轟啓介(株式会社アドビ )2025年08月25日 08時12分

 突然ですが、クリエイターにとって最も大切なこととはなんでしょうか。

 答えは単純ではないと思いますが、クリエイターの個性を象徴する作風は、彼らが最も大切にしているものの一つと言えるでしょう。絵画や写真、イラストなど、どんな表現手段であれ、プロのクリエイターが持つ独自の作風は、クリエイティブビジネスでの経済的価値を決定しているだけでなく、過去の経験や人間としての視点を反映させた根本的な要素であり、彼ら自身を表現しているとも言えます。

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AIが奪う「作風」という資産

 しかし、画像生成AIが登場し、インターネット上のテキストや画像、その他のデータを作者に無断で収集して学習したAIによって、クリエイターの作風がいとも簡単に模倣されるようになりました。私の勤めるアドビではBehanceというクリエイターのコミュニティーサイトを運営しています。このコミュニティーに属するクリエイターたちは、自分の名前を「〜風のスタイルで」とプロンプトに入力するだけで、誰でも自分の独自のアプローチを模倣できることに衝撃を受けたと言います。

 プロのクリエイターにとって、自分の作風を真似されることは、単に不快なだけではありません。それはプロとしてのビジネスを脅かすものです。クリエイターは突如あらわれた自分自身と同じ作風のライバルと競争しなければならなくなります。過去の自分の作品をもとに、AIはものの数秒で彼らのスタイルの模倣品を作り出すことができます。そしてそのAIは家賃を払う必要も、家族を養う必要もないため、何年、何十年もかけてスタイルを築いてきた本物のクリエイターよりも常に安い価格でコンテンツを提供できてしまいます。

 アドビはこれまでに、こうしたAIモデルを使って商業目的で作風を模倣する悪質な行為からクリエイターを守るためのアメリカ連邦法「Fair法」の導入を提唱してきました。こうした動きはアドビだけでなく、2024年12月に米国下院にダレル・イッサ下院議員によって提出された「Preventing Abuse of Digital Replicas Act(PADRA:デジタル複製の悪用防止法)」のような法案もでてきています。

 今回はこの「AIによる作風の模倣」について少し考えてみたいと思います。

 まず、誤解のないようにしていただきたいのは筆者の勤めるアドビでもクリエイティブソフトにAIを積極的に搭載しています。クリエイティブな人々がAIツールによって支援されることで、あまり気乗りのしない単純な画像のサイズ変更や時間のかかる背景の削除などをより効率的に作業できます。また、AIを相手に壁打ちをおこなうことでこれまでの発想にはなかった新しい表現手段を手に入れたり、あまりの手間の多さにこれまで手をつけていなかった表現を生み出すことが可能になります。

模倣からクリエイターを守る試み

 一方で、AIはクリエイターの仕事を脅かすものであってはならないと考えています。そのために、アドビの生成AI「Adobe Firefly」では著作権者の使用許可を得たコンテンツのみを使って生成AIモデルを訓練することで、クリエイターにとってフレンドリーなAIの開発に取り組んでいます。

 また前回の原稿でも紹介したとおり、テクノロジー業界やマスコミ業界の主要企業が協力して「Content Authenticity Initiative(CAI:コンテンツ認証イニシアティブ)」という組織を立ち上げました。前回この仕組みをフェイクニュースを予防するための技術として紹介しましたが、元々はデジタルコンテンツの透明性を高め、クリエイターの著作情報をデジタル的にセキュアな形で付加する「Content Credentials(コンテンツ認証情報)」という仕組みです。

 実はこの仕組みはそれだけではなく、クリエイターが他のAIモデルに対して「自分の作品を学習に使わないでほしい」と意思表示することもできます。

 悪意のあるAIの利用からクリエイターを守る仕組みは徐々に前進していると言えます。

 しかし、こうしたテクノロジーだけでは作風の模倣の問題を完全には解決できません。そこで前述のようにアメリカでは法律によって保護する動きがでてきているのです。

 PADRA(Preventing Abuse of Digital Replicas Act:デジタルレプリカの悪用防止法)は、個人の声・画像・肖像が無断で商業利用された場合、それを保護するための法案であり、AIによって作風を模倣した作品を販売する行為からデジタルアーティストを守る初めての法案でもあります。

 この法案が目指すものは、あくまでAIの革新と発展を支援しつつ、AIの商業的悪用の可能性に対処し、クリエイティブコミュニティの知的財産を保護することです。

 また、作風を模倣することが必要とされる場合も想定し、例えば教育や報道、あるいは非商業目的の芸術などについては対象としないなどの例外も考慮しています。ご興味があれば英文ですが法案を一読されることをお勧めします。

 2025年7月現在、PADRAはまだ実際の法律としては成立していません。また、アメリカにおける法案であり仮に成立しても日本では効力を持たないものです。しかしこうした法案が提出されたこと自体、AI時代においてクリエイターが安心して活躍できるための重要な一歩だと言えます。

 AIによる作風の模倣という問題に対する最良の解決策は、クリエイティブコミュニティが意見を述べることから生まれるでしょう。クリエイターの皆さんには、この変革的な技術を仕事に役立てる一方で、クリエイターの仕事を守るためにどのようなルールが作られるべきかについて、意見を発信していただきたいと思います。

 クリエイターの創造性は、彼ら自身だけでなく、私たち全人類にとってかけがえのないものです。その美しさと独創性は、時に私たちに世界を見る新たな視点を与えてくれます。一方多くのクリエイターにとって、作風の確立は長く、苦労の多い、繊細なプロセスです。商業的な目的でAIによって模倣されることからクリエイターの作風を守ることは、私たち全員の利益につながると思います。

 (この記事はアドビ株式会社 轟啓介氏からの寄稿です)

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