繰り返される再委託問題
新型コロナウイルスの感染拡大によって営業自粛を余儀なくされ、影響を受けた事業者のための「持続化給付金」業務の再委託問題が、大きな波紋を広げている。
各報道によれば、経済産業省から委託を受けた「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」は、電通、パソナ、ITサービスのトランスコスモスによって2016年5月に設立されている。
そのサービスデザイン推進協議会が、委託費の97%を電通に再委託して「丸投げ」していることが分かった。経済産業省からサービスデザイン推進協議会に769億円で委託され、そこから20億円が差し引かれて749億円で電通に再委託されたという。
再委託を受けた電通は「管理・運営費」として103億円を差し引き、電通の子会社5社に645億円で事業を外注。その電通子会社5社はといえば、またも417億円を外注費として使い、パソナに170億円、トランスコスモスに29.8億円、大日本印刷に102億円、テー・オー・ダブリューに115億円の委託費が流れているという。
連日の報道合戦や国会での追及もあり、6月8日、梶山弘士経済産業大臣は記者会見で、外部の専門家を交えて費用の使い方など中間的な検査を行う方針だと明らかにした。
その後も、国会議員や報道により新たな問題が次々と明らかにされている。「再々々々委託」まで広がり、よもや政府も全容が把握できない状況だ。政府が第2次補正予算案の目玉として新たに設ける「家賃支援給付金」でも942億円もの委託費がリクルートに支給されることも分かった。
しかし実は、こうした再委託「中抜き」問題は今に始まったことではない。筆者は2007年12月に、就職氷河期世代の就労支援「ジョブカフェ」事業の異常人件費計上と再委託問題を週刊AERAで執筆した(週刊AERA2007年12月3日号「スクープ ジョブカフェ事業の超高額人件費『日給12万』まかりる」、12月10日号「スクープ第2弾 ジョブカフェ事業『丸投げ』横行の実態 『時給2万』再委託の闇」)。
それから13年あまり、再委託問題は放置され、むしろ肥大化したといっても過言ではないだろう。
目玉政策のブラックボックス
このジョブカフェ問題でも登場したのが経済産業省である。ジョブカフェとは、若者の就労支援事業を行う施設で、相談やカウンセリング、職業紹介までワンストップで行う施設となる。
現在、厚生労働省が所管して46都道府県に設置され、ハローワークと併設されていることが多い。都道府県が財団法人や民間企業に委託して事業が運営されている。
同事業は厚生労働省が行うが、事業が始まった2004~06年度の3年間は、経済産業省が別途、186億円を投じてモデル地域を指定して機能強化を図っていた。当時、超就職氷河期になって若者の間に「フリーター」が急増し、ジョブカフェは目玉政策に位置付けられていた。
ジョブカフェが始まる前年、政府は2003年6月に「若者自立・挑戦プラン」を策定するなかで、経済産業省と厚生労働省が連携して民間の力を活用してきめ細かな支援をすることを目的にしていたのだ。
ちなみに、この若者自立・挑戦プランの策定にあたった担当大臣のひとりは、持続化給付金でも名前があがる現在はパソナの会長という肩書をもつ竹中平蔵・経済財政政策担当大臣(当時)であった。
若者の間で急増した非正規雇用問題を解決する事業として、筆者はジョブカフェに注目して取材していた。その過程で関係者から「再委託先の人件費が高すぎる」「再委託先に丸投げ状態。最初から再委託先が決まっていて納得いかない」という情報を得たのだった。
そこで、経済産業省のモデル事業が行われた2004年から06年度のジョブカフェ事業の収支報告書を独自入手すると、委託費がまさに再委託、再々委託を通してブラックボックスに消える実態が明らかになったのだった。
「みんなやっている」という言い訳
当時、筆者はモデル地域20道府県での再委託について調べ、事業費の5割以上を「外注費」や「謝金」で占めているケース、5割ではなくても事業費のうち必要経費以外の本業部分をすべて外注しているケースを再々委託先して「丸投げ」したとみなし、件数を独自集計した。すると、全国で92件もの「丸投げ」が見つかった。
特に目立ったのが福岡県で、3年間で再委託を受けた14法人、計38件が再々委託をして「丸投げ」状態にあった。
1次委託を受けたところが再委託した先の一つに、「福岡ソフトウェアセンター」があり、麻生太郎・財務大臣の弟である麻生泰(ゆたか)氏や、麻生渡福岡県知事(当時)が役員をしていた。再委託先には麻生両氏が関する法人が多くを占めていた。
再委託先が人件費を計上して、再々委託先が実際の中心的な業務を請け負っている「中抜き」について、事業者の多くが「みんなやっている」と言い訳をした。
ジョブカフェのモデル事業で再々委託や外注して事業を「丸投げ」した92件で計上された人件費は、合計1億6000万円に上った。最初から「再々委託先」が事業を受けていれば、無駄にならなかった税金だ。
20道府県のモデル事業のうち5県で再委託を受けていた富士通は、データベースの構築や運用事業を担っていたが、システムエンジニアの人件費の多くが、時給2万円だった。一般の労働者からすれば高額な人件費は、これだけではなかった。
“日給”12万円の衝撃
千葉県の「ジョブカフェちば」では、再委託先となったリクルート社が、「1人日」(いちにんにち)といって1人当たり1日働いた時の単位である、いわば“日給”を12万円も計上していたことが分かった。
モデル事業では、経済産業省からまず千葉県産業振興センターに11億5000万円で事業が委託された。そして同振興センターからリクルートやNTTデータ、日本マンパワーなどに再委託が行われた。リクルートは8億5000万円で再委託を受け、人件費を7億円も計上していた。
独自入手した収支報告書から、リクルートが計上した人件費を確認すると、プロジェクトマネージャーが12万円、コーディネーターが9万円、キャリアカウンセラーが7万5000円、事務スタッフが5万円――。いずれも“日給”だった。
リクルートが再委託を受けていた岐阜県でも同様の人件費が計上され、同社社員がセンター長を務め、その人件費は年間で2000万円を超えていた。他の地域のセンター長は年間で705万円、871万円で、大きな差があった。
ジョブカフェ事業に参入した企業に取材すると、いずれも「利益が出ない事業だ」と口を揃えたが、高額な人件費について説明を求めると「委託先との契約上、言えない」と口を閉ざしていた。
当時、リクルートも「人件費には法定福利費、採用コスト、教育コスト、サポート役のアルバイト代も含まれている」とし、さらに詳細を確認しようとすると「事業の原価については公開していない」と広報部が答えた。
今や委託事業は体のいい公共事業
こうした異常ともいえる人件費の計上が許されていた背景には、「再委託先の事業費や人件費は1次委託先との民民ベースの契約だから、国は関与しない」という方針があった。
再委託や再々委託について、経済産業省は当時の取材で「禁じてはいないが、委託契約の50%を超える場合は適切性に疑義を生じかねない」と答えていた。
「日給12万円」という異常な人件費計上について、筆者の記事は国会でも取り上げられ、会計検査院も調査に入ったのだが、結局は「おとがめなし」で終わった。
ただ、記事が出た約1年後、総務省は「契約の適正な執行に関する行政評価・監視 結果に基づく勧告」(2008年12月)を公表し、随意契約や再委託の見直しの適正化を求めた。
この総務省の勧告では随意契約のあり方とともに「再委託の適正化」も取り上げられている。不適切な再委託によって効率性が損なわれ、経済合理的に欠けることのないよう、適正な履行を確保することが必要だとしている。
そのために、2006年8月に財務大臣通知で、各府省は事務や事業の全部を一括して第三者に委託することを禁止し、再委託が行われる時は「再委託の承認」を行うなどの方法をとることとしている。
そして勧告のなかでは、各府省が内部部局と地方支分部局など合計226機関を対象に、2007年度の再委託の適正化を図るための措置状況を調査して紹介している。そのなかで、原子力安全・保安院の例ではあるが経済産業省は、再委託の承認審査を適切に行うために、応募条件に「再委託比率を原則50%以内とする」としていたのだ。
かつて「官から民へ」という流れは「官より民のほうが効率的だから」という意見が多かったはずだ。しかしながら、今や委託事業は体のいい公共事業と化し、そこに民間企業が群がっている状況だ。そこで中抜きされるのでは効率が良いとは言えず、税金の無駄でしかない。
公務員の人数に限りがあるなか、民間活用や民間委託は避けては通れないのだから、厳格なルールの下で委託事業が実施されるべきだろう。再委託、再々委託は最小限に留め、徹底的な情報公開と検査の強化、ある程度の使途制限をつけることが必要なのではないだろうか。