ポピュリズムの「争点乗っ取り」はドイツでも 欧州と日本、相違点も
7月の参院選で「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進しました。参政党が急速に党勢を伸ばす現象はしばしば、欧州でこの10年間に勢力を拡大した極右政党などのポピュリズムと比較されます。欧州のポピュリズムに詳しい東京大学の板橋拓己教授(国際政治)に聞きました。
――参院選で参政党の躍進をどう見ましたか。
メディアで争点が外国人問題にハックされた(乗っ取られた)ことが、今年2月のドイツの総選挙とよく似ていると思いました。
ドイツの総選挙の当初の争点は経済でした。しかし最後の2カ月であっという間に移民・難民問題にのっとられ、規制を訴える右翼の「ドイツのための選択肢」(AfD)が第2党になりました。
日本でも、参院選の1カ月ほど前まで外国人問題はそれほど話題になっていませんでしたが、参政党の「日本人ファースト」が注目され、変わりました。
――ドイツ総選挙はどういう経過だったんですか。
ドイツでは、2015年の欧州難民危機から移民・難民問題がずっと底流にあります。でも今回の争点は間違いなく停滞が続く経済問題だったのですが、東部でクリスマスマーケットにサウジアラビア出身の男性の車が突っ込む事件などが続き、それを右翼政党やメディアがあおったこともあり、急速に移民・難民問題がクローズアップされました。
これを受けて、当時野党だったメルツ現首相の党が移民受け入れを厳格化する法案を提出してAfDと共闘する形になり、それに対する反対デモも起きて、選挙は移民・難民一色になりました。
敵を定めるポピュリスト政党
――日本の参政党と、欧州のポピュリスト政党の類似点と相違点は?
何重にも似ているところと、違うところがあると思います。
似ているのは、エリート層や既成のメディアを批判し、「普通の人たちの意見を最も分かっているのは自分たちだ」と主張する点や、SNSの使い方にたけているところ。ポピュリスト政党には敵というか、自分たちが対抗する相手が必要なんですが、参政党はそれを外国人に定めました。
異なるのは、ポピュリスト政党をとりまく環境です。たとえばドイツでは移民の背景を持つ人たちが人口の3割くらいいますが、日本ではまだ少ない。それでもこれほど外国人問題が争点になるのは興味深いことです。
――移民、外国人問題以外では?
欧州のポピュリズムや米国のトランプ現象は、リベラル化した社会に対する反動という形で出てきました。ジェンダーの自由化や環境政策、多様性重視の制度への反発です。一方、日本では、そこまで社会のリベラル化が進んでいたわけじゃない。
「ネット右翼」包み込んだ自民党、選挙制度の違いも
――にもかかわらず、参政党が伸びたのはなぜでしょう。
日本でも伝統的な排外感情は昔からありました。徐々に外国人を受け入れてきましたが、今回はオーバーツーリズムとか、カギ括弧つきの「特権」問題などカテゴリーの違う問題がくっついて「迷惑な外国人像」ができたような気がします。取り上げるメディアの責任もあると思います。
――欧州各国のポピュリスト政党が急速に勢力を伸長させ始めたのは10年以上前です。日本では、なぜ今なのでしょうか。
政策的に幅広い自民党が、「ネット右翼」と呼ばれるような極右的な主張の人々を包み込んできたんだと思います。
あと選挙制度の問題があります。欧州は多くの国が比例代表制ですが、日本には小選挙区があります。小選挙区制の英国でポピュリスト政党が伸びるのは16年の欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票の前後からです。
――参政党が巻き起こした現象は今後も続くでしょうか。
この傾向はもうなくならないんじゃないでしょうか。参政党が伸びた理由のひとつには、組織が相対的にしっかりしていることがあると思います。欧州でポピュリスト政党がここまで伸びた経緯にはすごく地道なプロセスがあって、農村地帯で唯一事務所を構えているのがポピュリスト政党だというのはよくあることです。
日本 反グローバリズムより在留外国人を意識か
――トランプ米大統領は「米国ファースト」、欧州では「オーストリア第一」といったスローガンが知られます。一方で、参政党は「日本ファースト」ではなく、「日本人ファースト」。なぜだと思いますか。
その理由は分かりませんが、米国では自分の国がグローバリズムの中で余計な負担を背負わされてきたという考えがあります。欧州でも、まずグローバリズムの権化としてのEUがあって、「EUより自分たちの国の利益が大事だ」というのが自国第一主義なんです。
日本では、EUに相当するものがありません。反グローバリズムよりむしろ、国内にいる外国人に対する意識が強いのかもしれませんね。
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