南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラング「江油写真館」が中国で流行る訳
<この夏、南京事件を描いた映画『南京照祥館(写真館)』が中国で大ヒットしたが、同時に「江油照祥館(写真館)」というネットスラングが流行した。何を意味するのか>
この夏、中国でヒットした映画の1つは『南京照相館(写真館)』。南京事件(南京大虐殺)を描いた愛国映画だ。戦時中の南京にある「吉祥照相館」で、中国人の郵便配達人たちが日本兵の中国人殺害を撮影したフィルムを命懸けで歴史の証言として残したという物語である。日本軍の残虐シーンも多く描かれ、その結果、中国人の反日感情が高まった。 【カラー動画】1947年に上海で処刑される日本人将校 この『南京照相館』の興行収入が今年公開の中国映画で3位に躍り出た時、四川省の江油市という街で起きた、校内の集団いじめ事件が世論の注目を集めた。家庭が貧しく両親が障害者の14歳の少女がいじめっ子たちの標的となり、罵詈雑言、脅迫、暴力にさらされた。彼女は服を脱がされ、ひざまずかされもした。その様子を撮影した動画がネットで拡散し、少女の両親は何度も警察に土下座して助けを懇願したが、冷淡な警察はほとんど何も対応しなかった。 警察の対応に不満な江油市民が市政府庁舎前で抗議を行い、いじめっ子を厳しく処罰しようと呼びかけたが、警察はこれを暴力的に鎮圧した。このことが国外の中国語SNSで拡散し、激怒したネットユーザーはこの事件を『南京照相館』にちなんで「江油照相館」と呼んだ。「身近な弱者のためには声を上げる勇気もないのに、映画館では義憤が胸いっぱいにあふれた」映画の観客に対する皮肉だ。 ■現実の国辱に対する感覚は麻痺 そもそも『南京照相館』にはフィクション的な要素が少なくない。主人公のモデルは南京に実在した「華東照相館」の助手で、2005年まで生存した人物だが、映画で彼は「われわれは友達だ」と、親善の意思を示した架空の日本人従軍写真家に、最後は殺される。このように虚実ない交ぜの誇張された手法によって日本人の偽善と残虐さ、そして中国人の純朴さと勇敢さを際立たせ、結果、観客の愛国感情と反日感情は高揚した。 『南京照相館』と「江油照相館」。前者は映画作品で、戦争時代の国難を芸術的に再現することで観客の怒りと共感を呼び起こす。一方、後者は生々しい現実で、平和時代の国辱を暴き出した。中国の人々は過去の国難に憤激しているが、現実の国辱に対する感覚は麻痺している。想像上の敵を非難することには熱心だが、身近な不正には無関心なのだ。 ■ポイント <『南京照相館』> 7月25日公開。申奥(シェン・アオ)監督。英題は『Dead To Rights』。抗日戦争勝利80年を記念して製作された。映画を見て感情を揺さぶられ、日本人への憎しみをあらわにする子供の動画が拡散し議論に。風刺画は米SF映画『エイリアン』の寄生生物がモチーフで、国家が定義する物語を観客が強制的に「注入」されることを暗示している。
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)